3. 冷たい部品
CEU兵舎のドアが閉まると、あの澱んだ熱気と酸っぱい匂いが遮断され、再び基地の無機質な通路の空気が肺を満たした。
一行は、パルスマシン用のオルガコア保管庫へと向かう。
「……ご案内いたします、監査官閣下」
マイルズ司令官の額に、脂汗が滲む。
数分後、一行は基地のさらに深部、厳重なセキュリティゲートの前に立っていた。
CEU兵舎とは異なり、ここは徹底した温度管理と無菌化処置が施され、冷たい消毒液の匂いだけが漂っている。
ゲートが開き、冷気が霧のように溢れ出した。
そこは、巨大な倉庫だった。
しかし、棚に並んでいるのは弾薬や食料ではない。
「……!」
護衛の伍長が、再び息を呑んだ。
壁一面に、金属製の巨大なラックがそびえ立ち、そこには無数の「密閉カプセル」が、まるで巨大なサーバーラックのように整然と並べられていた。
カプセルは直立型だ。
強化ガラスの向こうには、生命維持液の微かな気泡の中で、一体ずつ、全裸の女性が浮かんでいる。
彼女たちは皆、虚ろに目を開き、金属のフレームで手足と腰を固定されている。
その肌は青白く、人間的な生気は感じられない。
その股間(オマンコ)にはパルスマシンの動力源となる「極太のエネルギー抽出チューブ」が、そして臀部(アナル)には栄養液の供給と排泄管理を同時に行う「生命維持ポート」が、無慈悲に接続されていた。
「当基地のオルガコアは、現在、稼働待機中が32体。メンテナンス中が8体。合計40体を常備しております」
マイルズ司令官が、まるで工業製品の在庫を報告するように説明する。
セレスティーナは、その光景に一切の感情を見せず、カプセルが並ぶ通路をカツ、カツ、と歩き始めた。
彼女の視線は、カプセルのガラスの向こう側にある「人間」には向けられていない。
彼女が見ているのは、カプセルの下部に表示される識別コードと、手元のデータパッドに映る「稼働ログ」だけだ。
「……ID: C-204。稼働率低下。前回の戦闘から復帰後、エネルギー効率が7%低下しています。原因は?」
「そ、それは……旧式のフィルターでは除去しきれない、微弱な精神的ノイズ(スクリーム)の蓄積かと」
ピシッ。
セレスティーナが歩みを止めた。
彼女が視線を向けたカプセルの中で、裸の女性の身体が、まるで感電したかのように小さく痙攣した。
「……んぅ……」
自我を破壊されたはずの唇から、意味をなさない吐息が漏れる。
「……メンテナンス・パルスです」
司令官が慌てて付け加える。
「コア機能の維持のため、AIが定期的に最小限の刺激を……」
「規格外の“揺らぎ”ですわね」
セレスティーナは、データパッドを静かにタップした。
その動作一つで、カプセルの中の女性は「要交換(廃棄推奨)」というタグを付けられた。
「……この個体は廃棄なさい。戦場でノイズを撒き散らすだけの不良品を、これ以上維持するコストが無駄です」
「は、はい……!」
レベッカが、カプセルの一つに指先を這わせ、ふっと息を吐いた。
「……生身の連中(CEU)よりは、よっぽど清潔に“管理”されてるみたいね」
ガラスの向こう側で、自分とそう変わらない年頃の女が、モノとして浮かんでいる。
元エースパイロットである彼女にとって、それは「あり得たかもしれない未来」の姿でもあった。
伍長は、CEU兵舎の生々しい地獄とは異なる、この冷たく、清潔で、完璧に管理された地獄に、ただ立ち尽くすしかなかった。
「……監査は終了です。司令官、ブリッジへ案内なさい」
セレスティーナは、まるでワインセラーの視察を終えたかのように踵を返し、冷たい保管庫を後にした。