4. 赤錆色の交戦
一行がブリッジの重いドアを抜け、管制室の中央へと進んだ、その瞬間だった。
WARNING! WARNING! GATE 7 BREACH! BREACH!
LEVEL SSS THREAT DETECTED! XENO-BROOD "RIDER"!!
基地全体が、鼓膜を破るような警報と、赤い非常灯の明滅に包まれた。
「馬鹿な! ゲートが破られただと!?」
マイルズ司令官が怒鳴る。
ブリッジのメインスクリーンに、監視カメラの映像が切り替わる。
防爆ゲートの分厚い装甲が、内側からのように歪み、引き裂かれている。
「うわあああ!」
「クソっ、速すぎ――ギャアア!」
スクリーンには、ゲート付近を警備していた一般兵たちが、人間の反射神経を超えた速度で躍り出た「ライダー」の群れに、一瞬で「狩られる」様子が映し出された。
彼らは「肉の壁」にすらならず、時間を稼ぐこともできずに屠られていく。
「護衛兵! 監査官閣下をお守りしろ!」
司令官の怒号が飛ぶ。
「パルスマシン部隊、迎撃準備! CEU(オルガダイバー)は前衛に展開! 今すぐ“撒き餌(ベイト)”として機能させろ!」
「チッ……!」
護衛の伍長が、ライフルを構えながら監査官二人の前に立ちふさがる。
だが、セレスティーナは彼を制するように、静かに手袋をはめた手を上げた。
彼女の視線は、マイルズ司令官の横顔に突き刺さっている。
「司令官。わたくしたちのシャトルには、監査官専用の『センチュリオン・スキン』が常時スタンバイしておりますわ。……もちろん、ご理解いただいていますね? わたくしたちがアレを“起動(アクティベート)”させるということは、この基地が“対処不能(Failed)”であったと、AIに認定(ジャッジ)することを意味します」
「――ッ! そ、それは……!」
マイルズ司令官の顔が、恐怖に引きつった。
「ご武運を、司令官」
セレスティーナは、データパッドを起動し、ブリッジの隅で「観戦」を始めた。
「ええ。せいぜい、私たちに“お着替え”をさせないことね、司令官」
レベッカも、元エースの鋭い眼光でスクリーンを睨みつけた。
スクリーン上では、警報を受けて駆けつけたCEUの少女たちが、迎撃態勢を整えていた。
彼女たちは、さきほど兵舎で虐げられていた時の「死んだ目」とは違う。
オルガスーツを着込み、コイルライフルを構える姿は、紛れもない「エリート兵士」のものだった。
「総員、散開! フェロモン濃度最大! 奴らを引きつけるのよ!」
小隊長の少女が叫ぶ。
彼女たちのオルガスーツが、恐怖と興奮を変換し、強烈な「匂い」を撒き散らす。
壁や天井を立体的に移動するライダーたちが、一般兵の死体を捨て、一斉にCEUへと向き直る。
「来るわよ! ……こっちよ、化け物!」
一体のライダーが、CEUの少女の背後に回り込み、そのアナルめがけて「挿入器官(ニューラル・プローブ)」を突き立てようとする――!
「――ミキッ!!」
アンナと呼ばれたCEUの隊員が、仲間を庇って体当たりする。
その一瞬の隙を、後方の開けたドックで待ち構えていたパルスマシン部隊の徹甲弾が捉え、ライダーの外骨格を蜂の巣にした。
「……ハァ、ハァ……! 全脅威、沈黙確認……!」
数分後。
数名のCEU隊員が犠牲になったものの、基地の総力を挙げた迎撃戦は、辛うじてライダーの群れを「撃退」した。
兵士たちは、安堵よりも深い疲労に膝を折る。
ブリッジで、セレスティーナが冷ややかに呟いた。
「……生体資源(CEU)3名損失。パルスマシン1機中破。迎撃効率、マイナス12%。……司令官、あなたの管理責任がまた増えましたわね」
彼女たちの「監査」は、まだ終わっていなかった。