7. 冷たい観察者
医務室に駆けつけた一行の目の前には、地獄があった。
ベッドの上で、少女がシーツにくるまり、全身をガタガタと痙攣させている。
「どきなさい」
レベッカが医療兵を押しのけ、シーツを荒々しく剥ぎ取った。
「……!」
伍長が息を呑む。
少女の股間は赤く腫れ上がり、太ももには鋭利な鉤爪の痕が食い込んでいた。
そして何より異様だったのは、彼女の下腹部が、まるで臨月のように不自然に膨らみ、内側から何かが蠢いていることだった。
「……遅かったわね」
レベッカが吐き捨てる。
セレスティーナは、データパッドの生体スキャナーを少女の腹部に向け、その結果を冷徹に読み上げた。
「ゼノブルード、カースト3、シスト・インジェクターによる植え付け(Implantation)を確定。……この“資源”は汚染されましたわ」
「そ、そんな……! 助けられるはずだ! まだ生きている!」
伍長が叫ぶ。
昼間、あんなに勇敢に戦った少女が、こんな無様な姿で終わるなど信じたくなかった。
セレスティーナは、その兵士を理解不能なものを見る目で一瞥した。
「助ける? 非合理的ですわね。この個体はもはや『人間』ではなく、貴重な『培養検体(インキュベーター)』にカテゴリー変更されました」
彼女はデータパッドを操作しながら、淡々と次の手順を検討する。
本来ならば、即座に専門の研究施設へ移送するのが手順だ。
「……ただちにこの個体を、軌道上の『回収艦(ラボ)』へ緊急搬送すべきですが」
彼女は窓の外を一瞥した。赤錆色の砂嵐が、基地の防壁を叩き続けている。
今日一日は、蟻一匹外には出られない。
「……そうですわね、この天候では」
セレスティーナは小さく、しかし深く嘆息した。
自分の管理下で、予定が狂うこと。
美しいサンプルが、最適な環境で管理されないこと。
それが彼女の美学に反するのだ。
だが、ここで手をこまねいてサンプルを腐らせるわけにはいかない。
「……仕方ありません。搬送が可能になるまで、当基地で『隔離・観察』を行います。……そこの、あなた」
彼女は顎で医療フレームをしゃくった。
「彼女を透明な隔離カプセルに移しなさい。……直ちに」
少女は全裸にされ、ガラス張りの隔離室で、医療用フレームに四肢を固定された。
特に股間は、観察と排出(出産)のために、強制的にM字開脚の状態に固定され、膨らんだ腹部と赤く腫れた性器が、ガラス越しに丸見えになっていた。
「あ……あぁ……お腹、熱い……動いてる……!」
少女の悲鳴が響く。
本来なら48時間かかるはずの孵化プロセスが、ライダーのフェロモンや過度のストレスにより、爆発的に加速していた。
「……素晴らしいデータですこと」
セレスティーナは、ガラスの向こうの地獄を、眉一つ動かさずに観察していた。
「……防音壁の出力を上げてください。悲鳴はデータ分析のノイズになります」
レベッカもまた、ガラスに手を当て、少し寂しげな目をしていた。
「……キツそうね。あの子、昼間の戦闘ではすごくいい動きをしてたのに。……ま、これもこの星の“現実”ってわけか」
彼女は記録係の兵士に、努めて明るい事務的な声で指示を出した。
「記録係、カメラの角度がズレてるわよ。しっかりと、最後まで見届けてあげなさい。それが、彼女へのせめてもの手向けよ」