3.
【 孵化(ふか)まで、残り 71時間 】
時間は、地獄のような遅さで過ぎていく。
ライダーは、私を胸部に固定し、自らも休眠状態のような静けさに入った。
私は、この怪物の「付属品」にされたのだ。
(寒い…)
シェルターの空調は生きているのに、体の芯が凍えるように寒い。
違う。
寒いんじゃない。「吸い取られている」んだ。
私のオマンコ…その奥の子宮で。
あの「卵」が、私の体温と、血液と、そして生命力の源であるオルガエネルギーを、まるでスポイトで吸い上げるように、ゆっくりと、だが確実に「培養」の糧にしている。
私が生きていることが、あの怪物の「次」を育てている。
その実感が、私を狂わせそうだった。
(…タカシ…)
こんな暗くて冷たい場所で、絶望に飲み込まれそうになると、いつも思い出す。
…兄さんの、無骨だけど優しい、機械じゃない方の「手」を。
私が、初めてオルガマシンの適性診断で「A判定」をもらった日。
コロニーで唯一のオルガマシン訓練生になれると決まって、私は有頂天だった。
でも、タカシは、嬉しそうじゃなかった。
『…リナ。お前は、戦わなくていい』
夜の居住区のバルコニーで、彼はそう言った。
『俺みたいなサイボーグ兵が、泥とオイルに塗れて死ぬのが仕事だ。お前は…お前みたいな女の子は、笑って、花でも育ててりゃいいんだ』
『何よ! 私だって、みんなを守れるかもしれないのに!』
『守る? …馬鹿を言うな』
彼は、機械じゃない方の手で、私の頭を乱暴に撫でた。
『お前が守るんじゃねえ。俺たちが、お前を「守る」んだ。…だから、絶対に、無茶だけはするなよ』
あの時の、タカシの手のひらの温かさ。
それが、今、こんなにも遠い。
(ごめん、なさい…タカシ…)
(私、あなたの忠告、守れなかった…)
(私、もう…「守られる」側じゃなくて、「苗床」に、なっちゃった…)
熱い涙が、麻痺した顔(からだ)とは無関係に、頬を伝っていく。
その涙すら、子宮の中の「何か」の、栄養になってしまうような気がした。
4.
【 孵化まで、残り 48時間 】
二日が経過した。
麻痺した体でも、生理的な限界は訪れる。
(…おしっこがしたい…)
そう思った瞬間だった。
「―――――ッ!?」
アナル(脊髄)の「杭」を通じて、強烈な電流のようなパルスが走った。
私の意思とは関係なく、膀胱の筋肉が強制的に弛緩(しかん)させられる。
生暖かい液体が、抵抗する間もなく、拘束された戦闘服の隙間から流れ出て、私と、私を抱えるライダーの外骨格を濡らした。
「あ…ぁ…」
声にならない嗚咽(おえつ)が漏れる。
排泄すら、管理されている。
私は、もう人間ですらない。
ただの、生かされている「生命維持装置」。
ライダーは、苗床(わたし)の体内環境を「最適化」するために、不要な老廃物を強制的に排出させたのだ。
その冷徹な「合理性」が、私の最後の尊厳を粉々に打ち砕いた。
子宮が、痛い。
いや、痛いというより、「重い」。
まるで、オマンコの奥に、熱を持った鉛の塊を押し込まれているかのようだ。
あの「卵」が、急速に成長しているのが分かる。
時折、ドクン、と。子宮の中で「それ」が脈打つ感覚が、下腹部から全身に伝わる。
(もうすぐ…もうすぐ、これが生まれる…)
恐怖が、一周して「諦観」に変わる。
誰も助けになんて来ない。
タカシも、整備士のおじさん達も、みんな「これ」に殺された。
そして、私のお腹(子宮)から、彼らを殺した「これ」と、同じものが生まれようとしている。
皮肉だわ。
私は、オルガマシンのパイロットになりたかった。
でも、オルガ適性があったからこそ、私は「苗床」に選ばれた。