夕暮れ時の橙色の日が差し込んで、真鍮の女神のレリーフを黄金に照らし出す。
揺らめく蝋燭の火から立ち昇る花の蜜のような甘い香りが、締め切った室内に染み渡る。それは陶酔めいた心地をそこに佇む者にもたらした。
は、と短く、詰めた息を吐き出す。
繊細な銀細工のチェーンと濃い緑の宝石に彩られた胸元が、大きく上下した。
「緊張されているのですか、奥方様」
蜂蜜色の髪が夕日に映え、赤く色付く楓並木を思い出させる。
「……法師様、私」
当世はやりの貴婦人風に美しい黒髪をまとめ上げたクローディアの、艶やかな唇がかすかに震えている。そこから絞り出された声音も。
「大丈夫ですよ、奥方様。これから行うことは罪深い悪徳ではありません。神に許され、神が認めた功徳です」
優しげな面差しの青年が、穏やかな、それでいて自信に満ち溢れた声でクローディアを励ましながら手を取った。
伏せられた長い睫毛の影で、なおも黒い瞳を未だ揺れさせて、クローディアは取られた手に視線を落とす。その左手の薬指には、シンプルながらも上質さを窺わせる婚姻の証がキラリと光る。
「奥方様の友愛の献身が、神の加護を強め、ひいては伯爵閣下の御為にもなるのです。さぁ、ドレスを脱いで、奥の部屋へ……」
青年法師の声は、まるでクローディアの心そのものを優しく撫でるように染み込んでいく。
躊躇いがちに、しかし確かに、クローディアがこくりと頷いた。
大きく開いた白い二本の脚の間で、男が頭を埋める。一心不乱に花蜜を集める働き蜂のような熱心さで、男の舌が花芽を舐めて吸い付き、その指が蜜壺の口を行き来する。
クチュリ、クチュ、と、淫靡な音が蝋燭の灯りのみの薄暗い部屋に響いた。
「んっ、んぅっ! ぁっ……」
途切れ途切れにこぼれる切なく甘い声と、波打つように揺れる白い脚。
「あぁ、いけません。快楽にのみ流されては。与えられ、そして与えること、それが対等な友愛の関係なのですから」
「あっ、ん……でも、そんな、ぁんっ……こんな、こんなの、初めてでっ」
クローディアは、快楽に喘ぎながら、途切れ途切れにそう言葉を絞り出す。
いま、クローディアの股座には男がひとり吸い付いてこの上もない快楽を与えていた。
そうしながら、クローディアの口は法師のモノを咥えさせられ、慣れない舌と口、更に手を使ってそれを舐め、しゃぶり、扱いていた。
蕩けきった敏感なところを吸われ、指が中をグチュグチュと掻き回すたび、クローディアはビクリと体を戦慄かせ、奉仕すべき口からは堪らず声がこぼれるのだった。
「伯爵は、奥方様に何もしてはくださらなかったのですか。そして、なにもさせはしなかった? ……いいですよ、存分に気持ちよくおなりなさい」
法師の声音には、尊大な伯爵への侮蔑と嘲弄の気配があった。
「あっ、そん、な……こと、ンッや、ぁっ!」
クローディアが何かを反論しようとしたところで、股座に顔を埋める男が、敏感に尖って芯を持つ花芽に柔く歯を立てる。
ビリッと走り抜ける感じたこともないその痺れに、クローディアの体がしなり、そりかえって大きく跳ねた。
「奥方様、ここでは……誰もが奉仕し、され、共に対等に尽くし合うのです。さぁ、あなたも、頑張って」
いままでずっとクローディアの秘所を舐めて弄んでいたもう一人の男が顔を上げ、身を起こした。信徒らしきその男は、昂った己の怒張をクローディアのまだ快感引き切らぬ入り口に押し当てる。
「あ、ぁっ……!」
クローディアの口が大きく開かれた。そこに法師の昂りが再び押し入る。
「んっ、ぅう!」
信徒の男の怒張を身の内に飲み込みながら、クローディアは快楽に喘ぐことも許されず大きな塊に口を塞がれた。
ズチュッ、ズチュッ、パンッ、パンッ!
汗と蜜とが混ざり合い濃厚な匂いを甘い香りに交わらせながら、肌の打ち合う音が暗い部屋にこだまする。
それは部屋のあちこちから。
友愛の教えの下に、淫らにまぐわう男女の影が揺らめく蝋燭の火に浮かされて踊っていた。
ーー
「おのれ、フィーリス教! やはり、看過できぬっ」
ランドリューは旧街道に探査の網を広げたところで一時的に街に戻り、宿を取って休むことにした。
魔獣が出れば張り巡らせた魔力の糸のどれかには触れ、すぐさま術者であるランドリューが感知できるようになっている。
そうして休憩のために取った宿の一室で、ランドリューは憎々しげにグシャリと紙を握りしめ、危うく気に入りのペンまでへし折りそうになった。
「なにが、なにが、伯爵はなにもしてくれなかったのか、だ。乱れ切った風紀の敵め!」
ランドリューの眼は血走っていた。
しかし、そのような法師の物言いも、淫らな集まりも、あくまで妄想でしかない。
友愛の教えの下に、過去には確かに若者や一部の貴族が性に奔放になりすぎて乱行まがいの集まりもあったのは確かだ。
しかし、それもあくまで昔の話である。
「……。……クローディア、あの貞淑で気立の良い妻が、おぞましい誘惑になど負けるはずがない。嗚呼、だが、彼女はまだ若い。私は……私は……」
クローディアと仲直りをした昨夜に、なぜ口付けだけで終わりにしてしまったのか。
ランドリューは頭を抱えおおいに悔いた。
しかし、クローディアの肩を抱き寄せその瞳を覗き込んだとき、ふいに恐怖したのだ。
「もし、また……駄目だったら……」
その恐怖が、いまなおランドリューの胸の奥深くに突き刺さり、穿たれている。
若く魅力的な愛しい者を前にして、己が役立たずのままだったら……。
ランドリューはその思いから抜け出すことができず、またもや逃げるようにクローディアに背を向けたのだ。
「うぅ、私は……レイズワード伯ランドリュー・ローデン。先王の右腕として誰からも尊敬され、時に畏怖され……なのに……」
ランドリューの魂に深く刻まれた誇りが、それこそが、ランドリュー自身をどうしようもなく雁字搦めに締め付けていくようだった。
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