日も暮れつつあるころ、レイズワード伯邸の前に二頭建ての馬車が止まった。
「まぁ! おかえりなさい貴方!」
ちょうど湯浴みを終えて夜の支度に取り掛かろうとしていたクローディアが、突然の夫の帰宅の報せに髪を乾かすのもそこそこに迎え出る。
満面の喜色浮かべた笑みに、ランドリューはゆるゆると心がほぐれていくような気がしてつい口元も綻んだ。
「あぁ、湯浴みの途中であったかな。……クローディア。まだ髪が濡れて……」
つい伸びた手が、クローディアの艶めく長い黒髪に触れる。滑らかな絹のような手触りのそれは、いつまででも触れていたくなるような心地良さをランドリューにもたらした。
「いいえ、ちょうど上がったところで……あ、あの、私ったらはしたない。旦那様がお戻りになったと聞いて、つい居ても立っても居られなくて……」
薄手の夜着にガウンを羽織り、乾かしも梳かしもしていないおろした髪のまま夫とはいえ人前に出るなど、伯爵夫人としてはあってはならない失態である。
頬を染め、不興を買わぬか叱責を受けやしないかとかすかに怯えたようにも見える眼差しをクローディアはランドリューに向けた。
「そのようなこと……。良いのだ、クローディア。良いのだ……」
ランドリューは、己の態度が快活なクローディアを萎縮させていることに気付かされた。気位の高い遥かに歳上の男の妻におさまれば、それなりの気苦労もあったろう。そうした妻の大変さに、ランドリューは今の今まで気付いていなかった己を恥じる思いがした。
(グイードの言う通りだったな……)
――
本来なら、ランドリューはまだ屋敷に戻る予定ではなかった。
「心配事は尽きんのはわかるがな、ランディ。しるしひとつ見つけた程度じゃ証拠としては弱い。フィーリス教団そのものが黒幕なのか、一部の信徒の独断なのかもわからん。糾弾するにしてももう少し外堀から埋めた方がいいだろう」
「……あぁ、おまえの言う通りだ、グイード」
「あぁ、だからなランディ。あんたはとりあえず一旦家に戻り、奥方ときっちりやることやってこい」
ランドリューの肩に腕を回しながら、グイードはニヤリとした笑いを浮かべる。ランドリューの表情は対照的だ。
「何を言っている。まだここでやらねばならぬことが……」
「村の再建のための細々したことやあぶれ魔獣の討伐、だろ? そのくらい、俺がしばらくの間やっといてやるさ。なぁ、領民の安寧も大事だが、そのためにはご領主様夫婦の安泰も重要。体と心は密接に繋がっているんだ、大事なのはふれあいだよふれあい。その点、友愛の教えには一理はあるというものだ。ハッハ!」
渋面のランドリューの肩をバシバシと叩きながらグイードはにこやかだ。
(この男……)
グイードもまた、フィーリス教の処遇会議のおり、王の言葉に賛同し物議を混ぜっ返した男である。
しかし、とランドリューは手のひらに視線を落として思いもする。
(グイードのいうこと、一理はあるのかもしれん。……クローディアに手を取られ揉み解されていたあの間、身も心も満ち足りていくような心地がした)
異性との付き合いにおいては、独身といえどグイードの方がランドリューよりずっと経験豊富だ。夫婦の仲といえど男女である、そこは変わらないのかもしれない。
それになにより。ランドリューもまた、心の底からクローディアを求めているのだ。
「……そうだな、今後の策を練るにも、一度心身を休める必要がありそうだ」
ランドリューはグイードの勧めに素直に従うことにして、報せを出す暇も惜しみ早馬を飛ばしたのだった。
――
そうして帰宅早々、髪を乾かす間も惜しんで迎えに出てきた妻の姿に、ランドリューは慎みだの伯爵夫人としてのあるべき姿だのはどうでもよくなった。
こんなにも全身全霊で自分を受け入れてくれるクローディアを前に、グズグズと淫靡な妄想に耽っていたのがどれほど愚かしいことだったか。
(そうだ、なんの心配があろう。クローディアは私を……愛してくれているのだ!)
そう思うと、身の内から活力が漲ってくるように思えた。
「貴方、お疲れでしょう。お腹が空いておりません? なにか軽食を用意してもらいますから、今のうちに湯浴みに……きゃっ!?」
ランドリューを気遣うクローディアの体を抱き寄せ、すっぽりと腕の中に隠してしまいながら腰を屈める。
「いまは、なにより……君が良い、クローディア……」
「ぁ、貴方……」
囁くようなランドリューの言葉に、クローディアの頬が薔薇色に染まる。頬のみならず耳まで赤く色付いていく。
その腕の中でかすかに身じろぎ、クローディアは潤むような黒い瞳でランドリューを見上げた。
「……私、も」
消え入るようにか細く震える声だった。
――
そうは言ったものの、途中馬車に乗り換えたとはいえずっと移動してきた体は汗と埃とに塗れ汚れ切っていた。
「せっかく湯上がりだったのに、君まで汚してしまったな」
勢い任せに抱きしめてから、そのことに気付いてつい冷静になってしまった。
「え、い、いいえ!? そんなこと……」
奇妙に気恥ずかしい雰囲気が落ちるなか、広間の扉がノックされる。
「旦那様、湯の用意ができましたので……」
執事のルーグであった。
そそ、と二人は抱き合う体勢から離れ、落ち着かない様子をそのままにして。
「と、とにかく、身を清めてこよう。く、クローディア……!」
「は、はいっ!」
「……。湯を、浴びたら、必ず寝室に行く。待っていてくれ……」
「は、はい……」
それは、まるで初夜を迎えるときのような緊張感を孕んでいた。
NTR本番なし妄想のみというスタイルは、NTR好きには刺さらないですか?
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それはそれであり
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これはNTRとは言えない
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妄想は単なる変態だろ
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NTRは好きだが辛い妄想がちょうどいい
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その他