多少の勢いを削がれたものの、ランドリューには確かな決意があった。
身を清め、深呼吸と共に精神を統一する。
魔導に携わる者として、精神の均衡を保つことは重要であり、ランドリューは元来それを大変得意としてきたのである。
「……よし、よし。なんら、問題はない。クローディアは私を求めてくれている。あの煌めく星空のごとき瞳に、嘘などあろうはずもない」
それはどことなく己に言い聞かせるような、鼓舞するような響きではあったが。
寝巻きにガウンを羽織り、おもむろにクローディアの待つ寝室へと向かった。
(くっ、心臓が苦しい……! 痛い……! 気がする……)
寝室が近づくごとに鼓動が早まり、高鳴り、ドクドクと激しく音を立てる。壁に手をつき、一旦深呼吸で落ち着きを取り戻す必要があった。
(恐れるなランドリュー! なにを恐れる必要がある!? もう何度も褥を共にした仲なのだぞ……!)
なにせ夫婦である。しかし、あまりにも久しぶりでもあり、ギクシャクしていたこれまでのこともあり、どうにも浮ついてしまうのは否めないようだった。
何度かこうしたことを繰り返し、随分と時間を掛けてようやく、ランドリューは寝室の扉をノックするに至った。
――
「良かった、本当にいらしてくださいましたのね、旦那様! あんまり遅いから、気が変わられてしまったかと」
クローディアは白い頬を上気させ、不安が解消され約束が守られたことを素直に喜んでいた。
「う……うむ、少々、……ふ、風呂で一瞬うたた寝を、な……」
悶々として遅くなったとは言いかねて、ランドリューはついささやかな嘘をつく。その言葉にクローディアの眉がさがり、心配そうにランドリューの顔を覗き込んだ。
「まぁ……お風呂でなんて。危のうございますわ。……でも、やっぱりお疲れなのですね」
クローディアの表情が曇っていく。
「い、いや! どうという、ことはない。なんの心配もいらぬ、まことだ」
ランドリューは慌てたようにクローディアの肩に手を置いて強い語調で言った。この程度で疲労を見せれば、やはり年寄りか、と失望させてしまうかもしれないという不安にかられたのだ。
「……。いいえ、ランドリュー様はきっとお疲れのはず! だから私、今度貴方がお帰りになられたらして差し上げたいと思っていたことがあるのです」
クローディアはランドリューの手を取り、すり、と手のひらに頬を寄せながら微笑む。ランドリューの心拍数がまた激しくなった。
「さぁ、ベッドに横になって……」
夫の心臓の具合も知らず、クローディアがその手を引いてランドリューをベッドに促す。なにがなにやらわからないまま、ランドリューは言われた通りに寝そべった。体勢はうつ伏せだ。
「クローディア……? いったいなにを?」
「魔獣のことであちこちと飛び回って、身も心もお疲れでしょう。私、妻として貴方になにをしてあげられるか、ずっと考えていたのです……」
クローディアはそう言いながらランドリューのガウンを脱がせ、寝巻きの腰帯を解いてそれも脱がせていく。
「く、クローディア……!?」
妻の手で脱がされるのも、下履きは残っているとはいえそうして自分だけが裸身を晒すのも初めてのことで、ランドリューは戸惑い上擦った声を出す。慌てて身を起こそうと半身捻ったところで、ぐ、と背中にクローディアの重みが掛かった。
「心配なさらないで、この間の続き……。手だけでなく、もっと体の隅々まで、凝りをほぐすことが大事なのですから」
ピチャ! とランドリューの背中にオイルが垂らされた。
「うっ……!」
「あ、ご、ごめんなさい。ちょっとこぼれて……冷たかったですか? 気をつけますから!」
背中からふわりと立ち昇る甘い香りに、ランドリューは覚えがあった。
(こ、これは、フィーリス教、の……)
クローディアの手のひらが、優しくランドリューの背中を撫でていく。手で温められたオイルがじわりじわりと体に染み込み、ほかほかと熱を持っていくような心地がする。
体温に溶けて香りは一層濃厚に、蜜のような甘さを放っていた。
(う……体が、いや、目蓋が重く……)
クローディアの細くしなやかな指がランドリューの素肌をなぞり、ゴリゴリと腰を揉み解し、肩甲骨の出っ張りを指圧していく。
馬と馬車を乗り継いで急ぎ舞い戻ったランドリューの体は、確かに硬く凝り固まっていた。それが少しずつ血行を促され、ジワジワと全身に血が巡る。
「痛くありませんか……? 気持ちいいですか? 貴方……」
「うっ、ぁ、あぁ……」
気遣うようなクローディアの声。ランドリューは内心の複雑さをどうにか押し殺す努力をして頷いた。
「良かった……」
そういうクローディアの手が、やがてランドリューの下履きにかかり、引き下ろそうとする。
「な、ま、待て!? なにをするのだ、はしたない!」
ハッとして身を起こし、クローディアの細い手首を掴む。
「きゃっ。な、なにって、太ももと足の付け根には太い血管があるから、ここをよく揉むと良いって……」
「フィーリスの坊主にそう言われたというのか!?」
「い、痛い、痛いです貴方」
ランドリューの剣幕に、クローディアは怯えたように瞳を揺らす。つい掴む手に篭った力を緩め、ランドリューは深呼吸をした。
「クローディア……あ、あの男に、まさか、君は、そのような……」
「? 貴方……? なにをおっしゃっているの……。マッサージの方法は、法師様に教わりましたけれど……」
――
ピチャ、ピチャ、と薄暗い部屋に水音が響く。
「どうです、奥方様……。ここを揉み解すと、とても気持ちが良いでしょう」
青年法師の指が、むちりとしたクローディアの白い太ももに食い込み、オイルを染み込ませるように撫で上げていく。
「あっ……んっ……!」
太ももから足の付け根に至る指が、ぎゅむと柔らかい尻を掴み広げると、蝋燭の灯りに照らし出されてクローディアの秘部も穴もすっかり曝け出される。
「奥方様、オイルがこぼれてしまいましたね……いま、お拭きしましょう」
法師の指が、トロトロと透明な蜜に濡れる秘部を撫でる。クチュ、と淫靡な音とともに、クローディアの腰がびくりと跳ねた。
「ぁっ……ん! ぁ、だめ、そこは……お、オイルでは……」
「ふふ、もうこんなに蕩けて……そんなに気持ちよかったですか」
からかうような笑い含みの声と共に、法師の指がぐちゅりと蜜壺の中に入り込む。ぐちゅ、ぐちゅ、と浅い入り口を掻き回すその指に、クローディアのうつ伏せの背中がひくりと仰け反り、腰が浮き上がってゆらゆらともどかしげに揺れた。
「あっ、アッ……! ダメ、法師様、そこは、そこ、はっ……ぅ、ぁん!」
「そんなこと言って。すっかり腰を揺らして欲しがっているじゃありませんか。キュウキュウ縋り付くようですよ、奥方様のナカ。……それに、こちらもヒクヒクと物欲しそうだ……」
挑発めいた法師の言葉に、クローディアの腰はますます揺れる。ひくりひくりと震える後ろの穴にも、法師の指が伸びていった。
「あぁっ……!」
筋をなぞり、縁をオイルに濡れた指が辿る。クローディアの喉から震える声が漏れて、ビクビクと腰が痙攣するように細かく戦慄いた。
――
「貴方……貴方!」
「!? あ、あぁ、なんだ、クローディア?」
「なんだって……急に怖い顔で黙りこくっておしまいになるから……」
ランドリューの脳裏には、淫靡なフィーリスの法師とクローディアの妖しげなマッサージ風景が繰り広げられていた。
すっかり紙のように顔色を失くし、ランドリューは頭痛を堪えるような表情で首を振る。
「クローディア。やはり、疲れているようだ……失礼しよう」
「え……そ、そんな。ならもっとマッサージいたします。せめて一緒に眠るだけでも……!」
「だめだ。ひとりで寝たいんだ……では、な……」
ランドリューは手早く寝巻きを纏いガウンを羽織り直すと、クローディアの必死な制止も聞かずに寝室を出て行った。
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