ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドドンッ!
手を繋ぎ輪になって踊る民衆の熱気が上がっていくにつれ、奇妙な地鳴りのような音があちこちで生じつつあった。
街の各所に施された法師による仕掛けが起動していき、強いエネルギーが生み出され街を縦横無尽に貫いていく。
肉眼では見ることのできないその力の流れを、ランドリューは魔力を流した看破術によって見通す。
エネルギーは禍々しい色を帯びた迸るオーラとなって街を取り囲むように張り巡らされると、踊る人々の足元に渦を巻きながら収斂していった。
「フィーリス! フィーリス! フィーリス!」
熱狂する民衆の声は天を貫き地を揺らす。
「さぁ、皆さま。捧げるのです、あなた方の友愛の心を……!」
舞台の上でローリス法師が、フィーリスのレリーフをあしらった杖を掲げた。
それがカッと強く眩い光を放つ。
「うわぁ!」
「きゃぁあ!」
「うぇ~ん!!」
その瞬間、民衆からは戸惑いや恐れの声が上がった。
「痛いっ痛いよぉ!」
小さな子供たちが先ず最初だった。
頭や腹、手や足など部位は様々だったが、皆一様に痛みを訴え出す。
「な、なんだか頭がガンガンして……」
「息苦しいわ、目が回る……」
次は老人。やがて病弱な者、健康な者問わずあちこちから不調を訴える声がする。
「さぁ、もっとだ……!」
ローリスは更に杖を振り、レリーフをゆらりと回した。
ズンッ! と地鳴りがして、民衆はますます苦しげに呻き出し、ある者は立っていられず地面に膝を突く。
その石畳の地面が、どぷり、とおぞましく不快な泥濘のような暗黒に覆われつつあった。
「う、うわぁ~!? な、なんだこれ……!?」
「きゃぁああ! し、沈んでいくわっいやぁ!」
まるで底無し沼のように広がる真っ暗な地面に、人々は恐怖した。
パリ、パリパリ、パリッ。
そんな彼らの頭上、掲げられた杖のレリーフの先で、何もない中空にヒビが走り出していた。
爽やかな青空が、奇妙な暗黒に侵食されていく。
「さぁ、儀は成った! この人々の命を以て、門を開こう! ∮∮∬¢⌘〻⊿§∮∮∮!」
ローリスの口から、常人には聞き取ることのできない音が発せられた。
魔導師のみが扱うことのできる特殊な音声言語。魔導の術を起動するための合図であった。
ぞ、ぉ、ぉ、ぉ、ぉ、と辺りの空気が重くなる。
にわかに空が掻き曇り、昼でありながら夜のように暗くなっていった。
「あ、ぁあ……!」
「お、おわりだ、この街は……!」
パリ、パリパリ、バキン!
空に亀裂が走り、そこからおぞましい獣たちの爛々とした眼が、鋭い牙や爪が覗いていた。
解き放たれるのを今か今かと待ち侘びて、大挙して亀裂へと押し寄せる魔界の獰猛な獣の群れ。
ただの街の民衆に、それらをどうこうする力などあろうはずもなかった。
「解き放たれよ、魔界の門……!」
ローリスが杖を振りかざし、言った。
その瞬間。
「ℵ℥ℜℋℛℛℌ℟ℭ℟℟ℶℷℸℷ」
鐘撞き堂の高みから、その音は響き渡った。
街を縦横無尽に貫いていた禍々しいエネルギーを、全く同じルートで上から塗り潰すように清浄なエネルギーが迸っていく。
パシュンッ……!
いままさに開かれんとしたその亀裂へと、光より疾く走る浄化の力が渦を巻き、収斂し、鋭い槍となって貫いていった。
それは、一瞬にも満たないうちの出来事。
「……!? な、なにがっ」
ローリスの掲げていた杖が、パァンと弾け飛ぶ。
「魔界と通じ、門を開かんと企むは重罪。大人しく縛に着くことだ、ローリス!」
倒れ伏す人々の中に紛れ機をうかがっていたグイードが、剣を抜きざまにローリスの杖を叩き落としたのだった。
「な、き、貴様は……これは……な、なぜ……私の計画が……!」
ローリスは大いに狼狽えていた。
しかしすぐにハッとして、取り落とした杖を掴み術を紡ごうと口を動かす。
「おとなしくしろと言ったろうが!」
グイードはそれを許すはずもなく、瞬時に杖を切り捨てると切先を喉に突き付けた。
「現行犯だからな、このまま首を刎ねても構わんのだぞ」
ローリスはなおも抵抗を試みようとしたが、ジリ、と切先が喉に埋まる感触に呻き、諦めたように両手を下ろして項垂れた。
「な、なにが起こってるんだ?」
「みて! あの方は、グイード様じゃない!?」
「本当!? 噂に違わぬ素敵な方!!」
重く垂れ込めていたおぞましい空気が打ち砕かれ、青空と石畳の地面が戻ってくると、人々はただ困惑していたが。
「あの法師、なんて恐ろしい真似を!」
「なにが友愛だ、悪魔の使いめ!」
「縛り首にしろ……!」
状況が次第にわかってくると、落ち着くどころか民衆は怒りを爆発させて舞台の上のローリスにその辺にあるものを投げつけ出した。
玉ねぎ、トマト、的当て用のボール。ありとあらゆるものが飛ぶ。
「おいおい落ち着け! 俺にも当たる! おおいそこのアンタ、ロープだ! コイツは王都で正当な裁きを受けるんだからな。的当ては屋台でやれ!」
グイードがテキパキと指示を出し、怒りに震える民衆を宥めながらローリスを縛り上げていった。
――
「……」
「万事、つつがなくお済みですか」
鐘撞き堂から、グイードらの様子を見守っていたランドリューは、落ちる影から生じる声に驚くでもなく頷いた。
「あぁ、深刻な被害も避けられたようだ。ご苦労だった」
「お役に立てたならば、光栄ですわ、伯爵」
ふいに浮かび上がる姿は、婦人会で傷心旅行中の未亡人を名乗っていた女であった。
艶やかな紅の唇が弧を描く様は、妖艶そのものだ。
「……まだその姿を?」
「綺麗な未亡人には、皆様親切にしてくださいますもの」
にこやかに語られる打算めいた言葉に、ランドリューは眉根を寄せた。
「まぁ好きにするが良い。此度の私からの仕事はこれで終わりだ」
女は優雅に一礼して了解を示すと、再び影の中に紛れていく。
「あ、そうそう。伯爵、老婆心ながらご忠告いたしますわね。奥様とは、もっとお話しされた方がいいわ。うふふ!」
トプン。
影が水面のように揺れたかと思うと、女の姿はもうそこにはなかった。
残された言葉にランドリューの眉根はますます寄っていく。
「……なんだ、この、胸騒ぎは」
万事つつがなくことは終わったはずだというのに、ランドリューの胸中には終わらぬ不安が生じてきていた。
NTR本番なし妄想のみというスタイルは、NTR好きには刺さらないですか?
-
それはそれであり
-
これはNTRとは言えない
-
妄想は単なる変態だろ
-
NTRは好きだが辛い妄想がちょうどいい
-
その他