レトロメインです。
ご理解の上お読みください。
『レトロ……』
離れられない距離のまま、私は息を殺していた。
内側の熱が、私の呼吸とは別の拍を持っている。私が息を吸う前に脈が走り、遅れて胸がそれに合わせてしまう。二人分の温度が重なって、ひとつのリズムに整えられていく。
私は指の重みを感じた。同時に熱が立ち上がり、背中へ流れる。触れられたところから広がったそれは、体の深いところへ、じんわりと沁みていく。
触れているのは一点だけだと分かる。そこへ戻ってくる。離れて、また戻る。短い往復が途切れず続くたび、内側の脈がその合図に揃ってしまう。
息が深く入る。
深く入った息が、内側の熱を濃くする。濃くなった熱が、心地よさになって返ってくる。心地よさが返るから、また息が入る。息が入るほど、罰のように固めていた自分が一枚ずつ剥がれていく。
……ひたすらに苦しかった。赦しみたいに胸がほどけるほど、腹の底が痛んだ。
私は拒みたいのに、体が先に肯定する。圧が戻るたび、脈が跳ねる。跳ねた脈が背骨の内側へ帯みたいに走って、逃げ場のないところへ沈む。沈んだ先で、細い震えが立つ。止まらない。筋肉の隙間をほどきながら、震えが連鎖する。
喉の奥が鳴る。鳴った音を飲み込もうと力を入れると、別の力が抜ける。抜けた落差が、また心地よさに変わる。心地よさが澄むほど、内側の熱が重なり合い、そこに“いる”ことだけが明確になる。
その圧が、また戻ってくる。
戻るたび、私の体がわずかに動く。逃げる動きではない。縋ってしまう。縋った瞬間、心地よさが跳ねる。跳ねたものが胸の奥まで届いて、息が一拍止まる。止まったところへ、また戻ってくる。
その繰り返しが、ここにいることの許可のように、ゆっくり積み重なる。
「やめてくれ……」
抵抗したいのに、胸の内側は開いていく。呼吸が戻される。戻された呼吸が、罰の輪郭を薄くする。薄くなるほど、私の存在が許される形に整えられていく。
私はそれを望んでいなかった。
その触れの往復が少しだけ短くなる。
それが合図になって、内側の脈が張り詰める。張り詰めたまま、ほどける場所を探して上へ上へと積み上がっていく。浅い呼吸が勝手に続き、言葉が入る隙が消えていく。頭の中の痛みが薄れて、代わりに互いの存在だけが強く残る。
その触れが戻ってきた一回で、内側が限界まで引き絞られる。
耐える形を保てなくなる。私は歯を食いしばったのに、肩が落ちる。腹の底の力が抜ける。抜けた瞬間、熱が一気に上へ持ち上がる。
その一拍が長い。
耐え難く苦しい。心地よすぎる。恐ろしさが体を固めるのに、固まったまま内側の波だけが突き上げてくる。突き上げが胸の奥まで届いて、呼吸が完全に止まる。止まったところで――ふっと、音が消えた。
次の瞬間。
熱がほどけた。
結び目が解けた。内側で張っていたものが一気に解けて、快い震えが細かく連鎖していく。背骨の内側を洗って、肩から指先まで抜ける。声が漏れる。漏れた声に合わせて息が戻る。戻った息が熱い。
熱い息を吐くたび、余韻の波が遅れて砕ける。砕けるたび、体が軽くなる。軽くなるほど、許可が落ちてくるように胸がほどける。
赦されたような心地よさの余韻が、胸の中を擦りまわる。
ざらついた胸の中に、心地よさが先に残る。罰を薄めてしまう感覚が、呼吸の中に混ざって消えない。
指の圧が、また戻ってくる。私の熱を確かめるように、同じ揺れ方で。
その一回が、余韻をもう一度だけ揺らす。揺らされた瞬間、内側の熱が二人分の温度として落ち着き直して、そこに“いる”ことが再び感じられる。それは、救いの手触りに最も近く、同時に最も遠かった。