※この作品はR-18です。

【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話   作:ふりかけ@木三中

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12 選択肢B 学校を回ってからゆっくり帰る。



魔女の慈悲 BADEND

 

 ……やはり、今朝のニュースが気がかりだ。

 

 もう、心配はしなくていいと思うが学校に何か異変が起こってないか確認してから帰るとするか……

 

 召喚をするのはどうせ夜中だ、多少帰るのが遅くなったところで問題はないだろう。

 

 キャスターからは早く帰ってこいと言われているが事情を話せば分かってくれるはずだ。

 

「さて、じゃあ軽く学校を見て回るか」

 

 そんなわけでぐるりと学校の中を一周するように歩く。

 

「しっかし、こうして回るとうちの学校って結構広いな……」

 

 当たり前に使ってたから弓道場があるような学校は珍しいと後から知って驚いたものだが、結構色んな設備だの部室だのがこの学校にはある。

 普段はあまり使われてないような部屋なんかに何か仕込まれてるような可能性もあるし、全部見て回るとなるとそれなりの苦労だ。

 

「構造把握……解明」

 

 中には理科準備室だとか鍵が閉まってるような部屋もある。そういった部屋は魔術で構造を解析して針金で開けてから様子を伺う。

 幸いにもそれほど複雑な機構の鍵は取り付けられてはおらず、簡単に開けることができた。

 

「とは言っても……特にこれといった異変もなさそうか……」

 

 人の寄り付かないところなども含めて丁寧に学校中を見て回ったがこれといって変わったことはなかった。

 

 やはり心配は杞憂だったか……

 

『最終下校時刻になりました、まだ校舎に残っている生徒は速やかに帰宅してください。繰り返します。最終下校時刻になりました……』

 

 スピーカーから放送部員が行う下校の呼びかけが聞こえてくる。

 

 もうそんな時間か……軽く見て回るだけのつもりだったが思ったより時間がかかってしまったな。見れば既に日も沈み始めている、キャスターも心配しているかもしれない。

 そろそろ俺も帰るとするか……そう考えた時に俺の視界の端にチラリと黒い髪が映った。

 

 あれは……遠坂か?

 

 確認する前に遠坂は廊下を曲がって俺の視界から消えてしまった。遠坂は確か部活には入っていないはずだからこんな時間まで学校に残ってるはずはないんだが……

 

「遠坂は確か魔術師なんだよな……」

 

 キャスターの話ではいまだマスターにはなっていないようだが、いずれサーヴァントを召喚する可能性も十二分にあると言う。

 こちらも戦力が揃うまでは遠坂にはあまり深入りしないようにしようとキャスターと話をしていたのだが……この時間まで学校に残っていたのは気になるな。

 

 遠坂がこの学園に危害を加えるような真似をするとは思えないが何をしているのかは把握しておきたい。上手いこと遠目で遠坂の様子を観察できたらいいのだが……

 そう思考しながら遠坂が歩いて行った曲がり角を追ったのだが、そこにすでに遠坂の姿はなかった。

 

 おかしいな……ここを曲がったはずなのだが……

 

 しばらく辺りをうろうろしていたが、結局遠坂の姿を見つけることはできなかった。さっきのは後ろ姿をチラリと見かけただけだし誰かと見間違えただけだったのか?

 

 ふぅ……と息を吐いて辺りを改めて見回す。

 

 既に部活動も終わり、生徒達も帰宅したのだろう。

 数刻前までは喧騒としていた学園はシーンと静まり返っている。

 

 今度こそ俺も、大人しく帰ろう。

 

 鞄を持って、下駄箱で靴を履き替える。

 外に出るとビュウと寒い冬風が吹きつけてきた。

 

「…………ん?」

 

 その風の音に紛れて一瞬、何か妙な音が聞こえてきた気がする。

 

 キンキン、と何か金属がぶつかり合うような音。

 

「…………」

 

 改めて耳を澄ませてみる。

 

 これは……グラウンドの方からか?

 

 多分、陸上部あたりの備品の片付けの音とかだと思うが……

 

 せっかくこんな時間まで残ったのだ、最後に一応確認しておくか。

 

 そう無警戒に俺はグラウンドに歩を進め……そして後悔することになる。

 

 なぜなら、そこでは本当にサーヴァント同士のバトルが繰り広げられていたのだから。

 

「っーーーー」

 

 そこでは2人の男が火花を散らし、砂煙を立てながら武器を交えていた。

 

 思わずサッと物陰に隠れて様子を伺う。

 

 1人は青い髪に青いタイツを纏った男。

 1人は赤い外套を纏い、白と黒の双剣を構えた男。

 

 明らかに普通の人間の出で立ちではない、サーヴァントと見て間違いないだろう。

 

「…………」

 

 よく見れば赤い外套の男……その後ろには遠坂が立っている。

 クラスは分からないがアイツが遠坂のサーヴァントなのだろう。

 いつのまにか遠坂はサーヴァントを召喚していたのか……

 

 青いタイツのような奇妙な出で立ちに朱色の槍を構えた男……あいつは多分キャスターの元マスターを殺したと言うランサーだろう。

 

 険しい目つきで互いを睨み合い、遠くで見ているだけの俺にも伝わるほどの殺気を放っている。

 

 ガキン、ガキンと剣と槍が交わり、その空ぶった余波でグラウンドの砂が大きく舞い上がる。

 

 俺はすぐにでもここから逃げるべきだったのだろう。

 だが俺はそれをしなかった、恐怖に足がすくんだわけではない。

 

 ただ単純に見惚れてしまったのだ。

 

 2人のサーヴァントの戦いに。

 

 獣じみた雰囲気を思わせる荒々しい槍捌きのランサーとそれを必要最低限の洗練された動作で捌くもう1人のサーヴァント、そしてその槍と双剣がぶつかり産み出す火花を思わずジッと見つめてしまった。

 

 俺もライダーと戦ったが、それがままごとに見えるほどの超人的な速さと荒々しいまでの力だ。

 

「…………」

 

 ゴクリと生唾を飲み込んで喉を鳴らす。

 

 サーヴァントの存在など知らなければ明らかな常識の埒外の存在だと感じてもっと早く逃げ出したのかもしれないが、なまじキャスターやライダーを見ていたせいで逃げるのが遅れてしまった。

 

 ランサーが赤い外套の男に嵐のような攻撃を浴びせながらも、その鋭い眼差しがこちらをギロリと睨みつけてきた。

 

 まずい……目が合った!

 

 反射的にその場から駆け出す。

 

 令呪があればサーヴァントを瞬間移動させることもできるらしいが、キャスターと正式に契約していない現状ではそれもできない。

 

 昨日はなんとかライダーを倒せたとはいえ、流石に今の1人の状況で戦うのはマズイだろう。

 

「はぁはぁ……ここまでくれば流石に……」

 

 学校の校舎に逃げ込み、廊下を駆け抜けて人の来ない奥の奥へと逃げ込む。

 

 ほとぼりが冷めるまでここに隠れてから……

 

「ガッーー!」

 

 思考は、衝撃によって停止させられた。

 

 視界が真っ暗になったのが、頭を踏みつけられて地面を見ているせいだと理解するのに数秒の時間がかかった。

 

「チッ……まさか見てる奴がいたとはな、一応気にはかけてたつもりだったんだが……」

 

 気だるげな声が頭の上から響く。

 頭を踏みつけられているせいで身動きが取れないが、それでも僅かに動かした視界の端に朱色の槍の穂先が見えた。

 

「悪いな、目撃者を生かしとくわけにはいかねぇんだ。ま、恨むんなら自分の運の無さを恨むんだな」

 

 吐き捨てるような言葉と共にチャキっと槍を構える音が聞こえる。

 

 何とか逃れようともがくが、ランサーに踏まれている頭はほとんど動かすことができずただ醜く手足をばたつかせることしかできない。

 

 俺は、こんなところで死ぬのか……

 

 そう考えた時によぎった感情は恐怖ではなく罪悪感だった。

 

 キャスターの言っていた通りに真っ直ぐ帰っていればこんなことにはならなかった。不用意に学校に残ったばかりに戦闘に巻き込まれて、結局キャスターに最後の言葉も残せぬまま死ぬことになる、そんな申し訳なさで頭がいっぱいになる。

 

 すまない……キャスター

 

 キャスターは俺の夢を応援してくれたのに、俺は結局キャスターに何もしてやることができなかった。

 

 悔しさから奥歯をギリッと噛んだ時だった。

 

「…………!」

 

 槍を振りかぶろうとしていたランサーの動きがピタリと止まる。

 

「…………蝶?」

 

 ポツリとランサーの口から言葉が漏れ出た。

 

 こんな真冬、それも校舎の中で蝶が偶然飛んでるなんてことは考えづらい。

 

「ぐっ…………」

 

 なんとか顔を動かして視界を上に向ける。

 

 そこにはランサーの言う通りヒラヒラと優雅に宙を飛ぶ、蝶の姿があった。美しい紫の羽が羽ばたくたびにキラキラと光る。

 

 この蝶は……

 

「こいつは……ふん、キャスターの使い魔……なるほど運の悪い一般人かと思ったがお前、マスターってわけか、だったら話は別だ」

 

 ランサーが俺を踏みつけていた足にさらに体重をかけて、槍の穂先を俺の額に突きつける。

 その冷たい切先が僅かにこめかみに触れ、ツーと赤い血が流れるがこの状態では声を上げることもできない。

 

「キャスター、牝狐らしいお前のことだどうせ魔力を溜め込んでるんだろ?空間転移をしてここに来い。でなければ……こいつを殺す」

 

 ランサーの冷たい声が誰もいない廊下に響き渡る。

 くそ……こいつ、俺を餌にキャスターを誘き寄せるつもりか。

 

「来ちゃダメだ!キャス、あぐっ!!」

 

 キャスターの使い魔だという蝶に向かって叫んだ言葉はランサーがギリリと俺の頭を踏みつけることで黙らされてしまう。

 

「…………」

 

 しばし流れる沈黙、ランサーは険しい顔つきで虚空を見つめている。

 

 そして……

 

「……キャスター」

 

 フッ、と薄暗い廊下に紫の光が瞬き、それと共にキャスターの姿が現れる。

 

 あぁ、来てしまったのかキャスター……

 

「あん?キャスターか?随分とちんちくりんになったな……」

「……シロウ様を解放してください」

 

 訝しげな視線を向けるランサーに対して、キャスターが冷たい声を放つ。

 

「ハッ、小さくなって性格まで変わったか?マスターの心配をするようなタチじゃねぇだろ」

「…………」

 

 ランサーの言葉にキャスターは応じず、ただジッと睨みつけているだけだ。

 

「それとも今は従順なフリをしているが、機を見て裏切るつもりか?前の主人のように……な」 

 

 前の主人を裏切った?

 キャスターからは元マスターはランサーにやられてしまったとしか聞いていないが……

 

「シロウ様を解放してください」

 

 キャスターは先ほどの言葉を改めて繰り返し、そんなキャスターにランサーははぁと軽いため息をつく。

 

「……一般人の口封じと敵サーヴァントの情報収集は命令されてるが、敵マスターの扱いについては何にも言われてねぇからな……まぁいいだろう」

 

 ランサーの足の力が緩み、踏みつけられていた拘束が緩む。

 未だ痛みが残る頭を抱えながらも俺はランサーから離れる。

 

「その坊主は見逃してやるが……キャスター、お前は別だ。今ここで死んでもらうぜ」

 

 ランサーが冷たい声と共に槍を構える。

 意外に話の分かるやつかとも思ったが、やはり戦いは避けられないらしい。

 

「ご無事ですか、シロウ様?」

 

 ランサーに対してキャスターも杖を構えながらも俺の心配をしてくれる。

 

「あぁ……ありがとう。来てくれて助かったよ」

「……わたしの願いはシロウ様と共にいることですから……」

 

 キャスターがそう言って柔らかく微笑む。

 元はと言えば俺の間抜けではじまったことなのにやはりキャスターは優しい。

 

「よし、一緒に戦おう!」

 

 キャスターと共にこの苦境を乗り越えようと覚悟を決める。

 

 陣形はライダーと戦った時のように俺が前に立ち、キャスターは援護するように後ろに立っている。

 

 後はランサーに対抗するための武器がいる……周りには使えそうなものはない。

 ならば投影で産み出そうと、スッと息を吐き神経を集中させた時だった。

 

「あえ?」

 

 ズブリと脇腹に何かが突き刺さる感触。

 

 それと同時に何かヌルヌルとした液体が伝うのを感じる。

 

「え………?」

 

 何が起こったのか理解ができずに視線をあちこちに彷徨わせる。

 

 僅かに目を見開き驚いたようなランサーの顔。

 

 流れ出た血に赤く染まっていく廊下の床。

 

 窓から覗く、日も沈み真っ暗になった空。

 

 そうして最期に見たのは無表情に俺を見つめるキャスターの瞳だった。

 

「な、んで……」

 

 途切れ途切れに放たれた疑問の言葉は掠れるように虚空に消えてしまい、俺は力なく地面に倒れ込む。

 

 ひんやりとした廊下の冷たい床と脇腹を濡らす生温かな血の感覚に今が暑いのか寒いのか分からなくなってくる。

 

 ランサーもキャスターも何も言葉を発さない。ポタリポタリとキャスターの手に持った短剣から俺を刺した血が垂れる音が微かに耳に響く。

 

 俺は……キャスターに刺されたのか?

 でも、なんで……

 

「ついに本性を表したってわけか?まぁその坊主はズブの素人みたいだしな。裏切るのも選択としてはアリだろうよ」

「裏切る?いいえ、これは慈悲ですよ」

 

 ランサーの吐き捨てるような言葉にキャスターは冷たく返す。

 

「強化魔術もまともに使えないような矮小な魔術師がサーヴァントに勝てるわけないじゃないですか……無様を晒して殺されるくらいならこうして一思いに殺してあげたほうが優しさでしょう?」

 

 そう言ってキャスターは倒れる俺の顔をそっと撫でる。

 

「すみません……せめて正義の味方気分を味わって欲しかったのですけど、準備が整う前にランサーに見つかるとは予想外でした」

 

 困ったようなキャスターの笑み、そこに俺に対するマイナスの感情は見当たらない。

 ただ、本当に仕方なくこうなってしまったというように俺に謝罪の言葉をかけてくる。

 

 分からない‥…キャスターが何を考えているのか、キャスターが何を言っているのか……

 

 ただ、分かるのはキャスターに刺された傷から流れ出る夥しい血が、致死量のものだということだけだ。

 

「ふん、狂ってるな……ま、俺としてはそいつの生き死にはどっちでもいいがよ……オマエはここで死んでもらうぜ?」

 

 ランサーが槍の穂先をキャスターに向ける。

 だが、キャスターはその様を見ても動じることはない。

 

「ランサー……あなたの手を煩わせるつもりはありませんよ」

 

 呟くように静かにそう語ると先ほど俺を刺した、歪な形の短剣をキャスターはギュッと握りしめる。

 

「安心してください……シロウ様をお一人にはさせませんからね……」

 

 青い瞳が俺を見つめ、優しく揺れる。

 

 そして……

 

「…………っ!」

 

 キャスターの白い喉元から赤い鮮血が吹き出る。

 

 手にしたその短剣で自らの喉元を掻っ切ったのだ。

 

「…………」

 

 その様子を見ても、もはや俺には何かをするだけの余力は残されていなかった。

 

 視界がぼやけ闇に堕ちていき、体が氷の中にでも埋められたように急速に冷えていくような感覚を味わう。

 

「…………」

 

 最期に誰かが俺の手を握ってくれた気がしたが、その温かさも忍び寄る死の冷たさに呑まれてしまった。

 

BAD END

 

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