【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「ん?なんか、いい匂いがするな……」
ライダーを倒した次の日の朝、いつも通りの時間に起床し廊下を歩いていると、肉の焼ける匂いや野菜を炒めた匂いが漂ってきた。
桜が朝食を作りにきてくれたのかな?しばらくは家に来れないと言っていたはずだが……
首を傾げながら居間に入ると、その食卓の上には豪勢な料理の数々が並べられていた。
ステーキにサラダにシチュー……あくまでもレシピそのものは一般的なものだが……
それなりに料理には自信のある俺はジッと食卓の上を見つめる。
柔らかそうな肉汁をつけたステーキ、青々とした葉物に香ばしいドレッシングが振り掛けられたサラダ、シチューもトロリと具材がいい感じにとろけている
この料理たち……かなり面倒な下処理や複雑な調理がなされているな。
少なくとも朝の片手間に作りましたというレベルではない。
一体誰がこれを……
「あっ、お目覚めですかシロウ様!勝手ながら朝食を作らせていただきました」
キャスターが台所からひょっこりと顔を出す。この料理はキャスターが作ってくれたのか。
「ありがとうキャスター、作るの時間かからなかったか?このステーキとかサッと焼いたって感じじゃないだろ。いつのまに下処理してたんだ?」
「えへへ……シロウ様に喜んで頂きたくて張り切ってしまいました。お口に合わないかもしれませんが……」
「いや、匂いだけでも美味そうって分かるよ。キャスターはこんなに料理上手だったんだな」
話しながら食卓に着く。
小鉢なんかも含めるとかなりの数の食材が並べられており、確かに朝飯にしてはかなりのボリュームだが先ほどから鼻腔をくすぐる美味そうな匂いにもう腹ペコだ。
「それじゃ、いただきます」
早速、ご相伴にあずかる。
まずはステーキを一口……
「これは……美味い!」
思わず口に出して叫んでしまった。
それほどまでにこのステーキは美味い。
トロリと舌の上でとろける感覚、それと共に溢れる肉汁はまるでプロの料理人が作ったかのようだ。味付け、焼き加減、舌触り……全てが完成されつくした味をしている。
俺もそれなりに料理には自信があったんだが、これは完全敗北だな。
その後もパクパクと料理を食べ進める。
「このサラダにかかってるドレッシングは市販のやつじゃないよな?どうやって作ったんだ?」
「えっ……さぁ、あはは、出来合いのもので作っただけなのでよく覚えてないんです」
俺の質問にキャスターは曖昧に答える。
一流の調理人はその日の環境に合わせて調味料の配分を変えると聞くが、キャスターくらい料理が上手くなるとドレッシングの調合なんかは片手間でやってしまうのだろう。
そんな話をしていると、かなりの量があった朝食をペロリと平らげてしまった。
まさか家でこんな高級料理店みたいな味をたべられるとはな。
「シロウ様、食後のデザートですよ」
「デザートまであるのか……至れり尽くせりだな」
キャスターが皿に乗ったケーキを運んでくる。赤いイチゴが乗った可愛らしいショートケーキだ。
あれ……?ケーキを作る材料なんてうちにあったかな?知らないうちに買ってたのか?
「さっシロウ様、あ〜〜んしてください」
キャスターがスプーンに乗せたケーキを俺に差し出してくる。ケーキの材料については気になったが、まるで恋人のようなキャスターの振る舞いにそんな疑問は吹き飛んでしまった。
「あ、あ〜〜ん……」
気恥ずかしさを感じながらも言われるがまま口を開けると甘いケーキが舌の上に乗せられる。一瞬で溶ける生クリームやふわふわのスポンジは一流店のケーキにも負けていないだろう。
甘いものはどちらかというと苦手なのだが、このケーキは病みつきになりそうだ。
「すごい……美味いよキャスター」
「あはっ、良かったです!」
俺が絶賛するとキャスターは照れたように笑う。しかし、こんなに料理が上手いなら、今後はキャスターに任せちゃってもいいかもしれないな……そんなことを考えている時だった。
「次のニュースです、冬木市の老人ホームにて80歳以上の男性5名が病院に運ばれるという事件があり、市はなんらかの事故あるいは病気の可能性を視野に入れて調査を進めています。また他の場所でも体力のない老人や子供が昏睡し病院に運ばれると言った症例が確認されており。関連性の調査を……」
テレビのニュースから流れてきた不穏な内容に、パッとテレビに視線を向ける。
なんでも街の至る所で体力のない老人や子供が昏睡する事件が多発しているのだとか。
しかも、調べても周辺に異常はないし、倒れた人の体を調べても体力が消耗しているだけでウイルスなどは見つけられなかったそうだ。
これは……もしかしてサーヴァントの仕業だろうか。
学校に仕掛けられていた結界は、作動すれば中にいるものの生気を吸い取るものだったらしい。
同じようなものをこの街全体に仕掛けている者がいる……?
だが、ライダーは既に俺とキャスターが倒した。
他のサーヴァントやマスターの詳細は未だ分からないが、街全体に結界を張るなんて芸当ができるのは……
チラリとキャスターを見る。
「……怖いですねぇ、こんなことをする輩がいるだなんて」
バレないように盗み見たつもりだったが、キャスターも俺の方をじっと見ていてバチリと目があってしまった。
なんとなく気まずくてサッと目をそらす。
「……やっぱり、サーヴァントの仕業なのか?」
「えぇ、恐らく魂喰いをしているのでしょう。個人的見解としましては街の人々から生気を得るというのは効率としては悪くないと思っていますが……シロウ様は一般人が戦争に巻き込まれるのはお嫌なのですよね?」
いつかされたような質問を繰り返してキャスターが聞いてくる、その瞳は真剣だ。
もちろん俺の答えは変わっていない。
「あぁ、この街や一般人を襲おうって奴がいるならそれを許すわけにはいかない」
「そうですか……そうですよね……面倒ですね、やはり……」
俺の言葉にキャスターはじっと顔を伏せて考え込む。
きっと魂喰いにどう対処するか考えてくれているのだろう。
……俺もダメだな、この街で魂喰いをしている者がいるかもしれないとなった時に一瞬だがキャスターを疑ってしまった。
そもそもキャスターとは話し合ってそういうことはしないと方針を決めてあるのに。
『あの魔女には気をつけなさい……』
ライダーの最期の言葉が脳裏をよぎる、あの言葉に惑わされているのだろうか。
こんな可憐な少女がそんなことするわけないじゃないか、ケーキをフォークで切り分けて俺に差し出してくるキャスターを見つめながら自分の中に浮かんだ疑念を振り払う。
「……そういえば、今日あたりにサーヴァントを召喚するんだよな?」
「はい、今夜にでも新しいサーヴァントを召喚するつもりです。急かすわけではありませんが、寄り道はほどほどにして帰ってきてくださいね」
「いよいよ今夜か、強いやつを呼べたら良いんだけどな」
キャスターは魔術師のクラスで後衛寄りの性能をしている。それを補える前衛向きのサーヴァントが呼べたらいいのだが……まぁこればかりは運だから考えても仕方ないか。
街に結界を張ってるやつも聖杯戦争を勝ち抜いていけばいずれ、正体は分かるだろう。
何にせよまずは今夜のサーヴァント召喚を行なってからだ。
◇
キャスターから早めに帰ってきてくださいねと念を押されながら、家を出て学校へとやってきた。
相変わらず慎二は今日も休みだ、昨日ライダーが消滅したばかりだししばらく学校に来ることはないだろう。
「ん?今日は一成まで休みなのか……」
珍しく一成の席まで空いていた。
慎二は元からサボって休んだりすることはあったが真面目な性格の一成が休んでるのは珍しいな……ここんとこめっきり冷え込んだし風邪でもひいたのかもしれない。見舞いに行ってやりたいが一成の住んでる柳洞寺までは結構距離があるし、今日は無理そうか。
そんなことをつらつらと考えながら授業を受ける。
2人が後でノートを写せるように綺麗に書いておこうなんて思っているとあっという間に時間は過ぎて放課後となった。
「さて、それじゃさっさと帰るとするかな……」
終礼のチャイムが鳴り、荷物をカバンに放り込む。
キャスターからは真っ直ぐ帰宅するように言われているし、そもそも特に用事があるわけでもない。
大人しく帰路に着こうと席を立ったその時だった。
「ん…………?」
なんとなく胸騒ぎを覚えて周囲を見渡す。
ザワザワと心がどこか逸る感覚。
だが、周りは帰宅する生徒や部活に行く生徒がぞろぞろと教室を出ていくだけで他に変わった様子はない。
「気のせい……か、けど……」
うちの学校はかなり部活動に力を入れていてほとんどの生徒が部活に所属している。多分、俺が下校した後も多くの生徒達が部活動に勤しむのだろう。
「…………」
朝のニュースの内容が脳裏をよぎる。
街中で昏睡事件が発生してるというそのニュースは恐らく敵サーヴァントの仕業だ。そして、そのサーヴァントが人の多いこの学校を狙う可能性というのはゼロではないのではないだろうか?
以前、学校に張られていた結界は恐らくライダーによるものだというのがキャスターの見立てだった。ライダーが消滅した以上、もう心配する必要はないだろう。
だが……念には念をという言葉もある。
学校というのは人が多く、それでいて異変があっても外部から分かりづらい閉鎖空間だ。この場所を狙う輩が他にもいるかもしれない。
一応、学校の様子を軽く見てから帰るか?
だが、キャスターからは早めに帰ってこいと言われている。
ここは……