【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
やはり、今日は大人しく帰るとしよう。
もし仮に何か学校で異常があったとしても俺1人の力では解決できないだろう。それに、真っ直ぐ帰ってきてくれというキャスターの言葉を反故にするのも気が引ける。
今は大人しく帰ってサーヴァントの召喚を優先するべきだろう。
そう考えながら俺は学校を後にするのだった。
◇
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ!シロウ様!」
特にトラブルも無く真っ直ぐ家へと帰宅すると満面の笑みのキャスターに出迎えられた。
犬を飼ってるクラスメイトに、帰宅すると犬が待ち構えているのが嬉しいという話を聞いたことがあるがきっと俺の今の心境も似たようなものなのだろう。
「サーヴァントの召喚の準備は終わってるのか?」
「はい、魔力の補充も完了してバッチリです。少し早いですがお夕食を食べて、落ち着いてから召喚に取り掛かるとしましょう」
「分かったよ、ひょっとしたら召喚してそのまま戦闘になるかもしれないんだし、気合い入れないとな」
あまり敵意を剥き出しにしても召喚したサーヴァントにいらぬ警戒を与えてしまう。ほどほどの緊張感を持って召喚に挑むとしよう。
「さて、それじゃあ、お夕飯にしましょう!」
朝飯と同じようにキャスターの作った豪勢な料理をいただく。
並んでいるのはグラタンや揚げ物など中々作るのに時間のかかる料理ばかりだ。
「結構、凝った料理作ったんだな。作るの時間かかったんだろう?」
「え?あ……まぁ、そうですね」
労うつもりで言ったのだが返ってきたのはイマイチ気の抜けた返事だった。まぁグラタンなんかは時間がかかると言っても焼いてる時間がほとんどだしな。
「そういや、キャスターは昼間何してたんだ?暇じゃなかったか?」
召喚の用意なんかは元々あらかた終わっていたようだし、料理も聞いてる感じではさほど大変ではなかったようだ。もし暇をしているようなら何か時間を潰せるものでも用意した方がいいのだろうか。
「いえ……昼間は蟲の駆除をしておりましたので特に手持ち無沙汰ということはありませんでした」
「虫?冬なのになんか出たのか、キャスターは平気だったか?」
「はい。中々しぶとかったですがもう巣ごと潰してしまったので問題ありません」
「巣まで作ってたのか?ちゃんと綺麗にしてるつもりだったんだがな……ありがとな掃除までしてくれて」
なにせ切嗣から受け継いだこの家は無駄に広いからな、1人で住む分には普段使ってない部屋なんかもある。掃除をしているつもりでも手が回っていないところがあったのかもしれない。
「ふー、ご馳走様!美味しかったよ、キャスター」
そんな話をしているうちに夕食を食べ終わった、キャスターは食器を下げようと手を伸ばしたがそれを制する。
「キャスターには夕食を作ってもらったんだし、皿洗いくらいは俺がやるよ。この後の召喚はキャスターに頑張ってもらわないとなんだし休んでてくれ」
そう言って率先して皿洗いを引き受ける。
キャスターは俺のために色々とやってくれて、それはありがたいのだが。俺としては女の子だけ働かせて自分は休んでるだなんて方が落ち着かない。
「よし……っと」
そうして皿洗いを終えて、リビングに戻る。
キャスターは大人しく正座をして座っていたが、その様子が何か妙だ。
片目を閉じて夢現のように頭をフラフラさせている。
「キャスター……?」
「あっ、はい?なんでしょう?」
俺の呼びかけに弾かれたように、キャスターがパッと顔を上げる。
「いや、なんかボーっとしてたから……もしかして眠いのか?」
「そういうわけではないのですが……」
キャスターは何やらう〜〜ん、と考え込んでから再び俺を見る。
「少し早いですが、予定を繰り上げて召喚してしまうことにしましょう」
「えっ?もうやるのか?」
夕飯は食べ終えたが、もう一息ついてから召喚するのかと思っていたのだが……とはいえ、別に断る理由があるわけでもない。
「分かった、それで召喚って具体的にどうやるんだ?」
「召喚のためには魔法陣が必要です、こちらをシロウ様に描いていただきます」
「魔法陣か……なんか本格的だな、けど俺は魔術の知識ほとんどないし魔法陣なんか描けないぞ?」
「描き方はわたしが指導しますから、心配ありません」
そんな話をしながら土蔵に移動するために外に出る。
一応はあの物置きが俺の魔術工房だし、魔法陣はそれなりに大きなものを描かないとダメらしいからな。
「うぅっ……さぶ……」
家から土蔵までの短い距離なので羽織りものを着なかったが、冬の夜ということもあって吹き付ける冷たい風に体を震わせる。
「ん…………」
そんな中、ふと上を見上げた時だった。
暗い夜空に煌々と浮かぶ月が目に映る。
「…………綺麗だな」
優しく光る月明かりに、誰にともなくポツリと呟いたその瞬間だった。
「っーーーーこれは!?」
シャンシャンとけたたましい音が屋敷中に鳴り響く。
これは家の結界内に敵が侵入したことを知らせる音だ。
だが、一体なぜこのタイミングで敵が……
「シロウ様!危ない!」
キャスターの叫び声に反射的に跳ねるように後ろへ飛びすさる。
「なっ…………」
瞬間、先ほどまで俺がいた地面に朱色の槍が突き刺さった。
深々と地面に突き刺されたそれは、避けていなければ確実に死んでいただろう。
「おっ、避けたか、勘がいいのか運がいいのか……やるねぇ」
どこからか聞こえる男の声。
辺りを見回すと、屋敷の塀の上に何者かが立っていた。
青い髪を一つに束ね、獣じみた鋭い眼光でこちらを睨む男
こいつはーー
「っ……ランサー!」
キャスターの険しい声が響く。
ランサー……その名の通り槍を扱う槍兵のサーヴァントであり、キャスターの話ではこいつに前のマスターを殺されたらしい。
「まさかと思って来てみたが……どうやら大当たりだったらしいな」
ザッと音を立ててランサーが塀から飛び降りる。
その軽い所作には殺意が読み取れないが、先ほどこちらに槍を投擲してきたのだという事実を忘れてはならない。
「学校で戦ってたらオマエの使い魔の蝶を見かけたからな、大元を辿って来てみたが盗み見なんて趣味が悪いと思わねえか」
ランサーがキャスターに向けてぼやくように呟く。
学校?学校で何かあったのか?
それに使い魔とは……キャスターはそんなものを放っていたのか。
「先にこっちをきっちり始末するために、アーチャーとの戦いもほどほどに切り上げてきたんだぜ。いいところだったのによ」
「なるほど……使い魔の残り香からわたしの居場所を突き止めたのですね?流石はクランの猛犬、随分と鼻がきく……」
「はっ、素直に魔術の腕を褒めてくれや」
そんなやり取りをしつつも、ランサーがジリジリとこちらに向かって歩いてくる。キャスターはそんなランサーに気圧されるかのように僅かに後ろに下がる。
「随分と見てくれが変わってちんちくりんになったなぁキャスター、魔力の節約のつもりか?霊基の再変換なぞ、キャスタークラスでもそう簡単なことではないはずなんだがな」
世間話でもするかのようにキャスターに言葉を投げかけながらも、ランサーは何かを観察するかのようにジッと地面を見つめる。
そうして何が気に入らないのか煩わしげにキャスターに睨むような視線を送る。
「ふん、この短期間で随分とまぁ魔力を溜め込んだもんだ。いったいどんな方法を使ったのやら……」
「っ……黙りなさい!」
ランサーの言葉が何か逆鱗に触れたのか、キャスターが焦るように魔術を放つ。
火炎放射器を幾つも束ねたかのような炎、人間が浴びれば飴細工のように一瞬で溶けるような熱量がキャスターの杖から発せられる。
「…………無駄だ、お前じゃ俺に勝てない。それは前回の戦いで分かってるだろ」
だが、そんな業火に焼かれながらランサーは悠々と立っていた。
いや……正確に言えば炎がランサーの体に触れる前に何か薄い膜に遮られるかのようにその勢いを大幅に弱めている。
「……くっ、やはり対魔力のスキルを突破できませんか」
キャスターが苦々しげに呟く。
サーヴァントの中には対魔力という魔術を弾くスキルを所持している者もいるらしい、目の前の槍兵もそれなりに高位の対魔力のスキルを持っているようだ。
これではキャスターの魔術じゃランサーの相手は厳しいだろう……
「俺がやらないと……」
土蔵の中にあった鉄パイプをギュッと握りしめ、大地を踏み締める。
「はあぁぁぁぁ!」
成功するかもわからない強化魔術を使っている暇はない、ただガムシャラに叫びながらランサーに向けて駆け出して、手にした鉄パイプを力任せに振り下ろす。
「あん?何だテメェは?邪魔だ」
だが、そんな俺の決死の攻撃はいとも簡単に躱されてしまい、カウンターとして放たれた蹴りが俺の脇腹に突き刺さる。
「ぐがっ……」
ランサーからしたら、寄って来た小蝿を振り払った程度の気軽さだったのだろう。それでも俺の体は紙切れのように吹き飛び、庭の木に体をぶち当ててようやく止まった。
「がはっ……ぐっ……」
「シロウさま!」
体を走る激痛に思わず咳き込む。キャスターはそんな俺の姿を見て、俺以上に取り乱した声をあげる。
「…………」
ランサーは俺とキャスターの様子をその赤い瞳で冷ややかに見つめている。
「見てくれは随分と可愛らしくなったが……なるほど、中身はそう変わっていないらしい」
語りながら、先ほど投擲して地面に刺さった槍を再びランサーは手に取る。
「策を弄し、魔術を操り、人を欺く、そんな魔女でーー」
ゆっくりとその槍がキャスターに向かって振りかぶられる。
キャスターは目を見開き、硬直したように槍の穂先を見つめている。
「戦うことにはまるで向いていない温室育ちのお姫様だ」
ダメだ……このままではキャスターが死ぬ……
そう考えた瞬間、脳裏にキャスターと初めて会った時の姿が思い浮かんだ。
雨に濡れて、蒼白とした顔で倒れ込む小さな少女
嫌だ……もうあんな光景は見たくないーー
「っ…………」
やぶれかぶれに駆け出して、キャスターとランサーの間に自らの身を踊らせる。
キャスターの息を呑むような表情を横目に、少しでもキャスターを庇うために手を突き出すようにしてランサーの前に立ち塞がる。
何か策があるわけじゃない、おそらくランサーの筋力なら俺の体ごとキャスターを串刺しにするだろう。
それでも……ほんの僅かでも、キャスターを守れる可能性があるのなら!!
スローモーションのように流れる視界
ランサーの赤い槍が突き出した俺の左手に触れるその直前、灼けるような痛みが手の甲に走った。
「!!」
今までずっと余裕の表情を崩すことのなかったランサーが、何かを察知したかのように大きく飛びずさる。
「これは……」
驚愕の声は果たして誰のものだったか。
土蔵の開かれた扉の中……その中で金色の光が漏れ出ている。
「召喚……?魔法陣はまだ描いていないはずなのに……」
キャスターの呆然とした声
召喚……これは誰かが召喚されたのか……
その場にいるもの全員の視線が納屋の奥に集まる。
そうして光が収まった時ーー
「問おう、貴方が私のマスターか?」
ーー蒼銀の騎士がそこに立っていた。