【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「……………」
一般人を殺す覚悟があるかどうか、そんな問いにチラリとキャスターに視線を向ける。もちろん殺しなんかやるつもりはないが、キャスターはこれまでも色々と俺をサポートしてくれたし意見を聞いておきたい。
「……そうですね、仕方ないんじゃないでしょうか」
俺の視線に気づいたキャスターはポツリと呟くようにそう言った。
「えっ、仕方ないって……」
「この時代では魔術は秘匿しなくてはならないのでしょう?なら魔術の使用を見られたのならば殺すのも選択肢の一つとしてはありだと思いますよ」
キャスターがそんなことを言うとは思わなくて、思わず言葉を失う。
「仮に私達が見逃したとしてもその時は他の魔術師が消すだけですよ。そうでしょう?」
「………ま、神秘の秘匿は魔術師全体の問題でもあるし、ヘマした奴ごと目撃者も消すことになるでしょうね」
キャスターの言葉を渋々と言った感じで遠坂が肯定する。
「けど、何の罪もない一般人を、そんな、殺すだなんて……」
仮定の話とは言えあまりに理不尽な話に思わず言葉が途切れ途切れになる。
理不尽な運命に全てを奪われること。
それは俺にとって、衛宮士郎にとって許せないことだ。
キャスターに、そんなことを肯定してほしくなかった。
「…………」
思わず睨むような目つきでキャスターを見てしまう。
だが、キャスターはそんな俺に対してフッと笑みを浮かべる。
「…………めんどくさいですねぇ」
「えっ?」
「あぁ、いえいえ、もし一般人に魔術の存在がバレるとやはりめんどくさいことになりますよね」
「だからって殺すのは……」
「もちろん、もしもの話ですよ。私の魔術なら記憶の操作なんかもできるんですから実際はそんなことになりません。あくまで心構えの話です……最悪の場合はそれは仕方のないことなんですよ」
そう言ってキャスターの青い瞳が怪しく揺れる。
その瞳を見ているとフツフツと沸いていた怒りが消え去って、頭の中がクリアになっていくようだ。
俺は……何をそんなに……熱くなっていたのだったか。
「……そうだな、キャスターの言う通りだ。どうせ他の奴が殺すって言うなら。もしもの時はキッチリと自分達で処理するのが責任ってものだろう」
もちろんこれは本当に最後の最後の手段だ。
キャスターに頼めば魔術でもっと平和的に解決する手段はいくらでもあるのだから、実際に殺しなんてすることはない。
遠坂の協力を取り付けるための方便のようなものだ。
「ふぅん、そう、衛宮君はそういう選択をするわけね」
俺の答えに遠坂は何故か不満げな視線を向けてくる。
なんだよ、もしもの時に殺す覚悟があるのかって聞いてきたのはそっちだろ……
「…………」
アーチャーは何か言ってくることはなかったが、その無言がどこか俺を批判しているように感じた。
「ま、それならそれでいいわ。ひとまず休戦ってことで情報共有でもしましょうか」
その後、俺たちは今まで出会ったサーヴァントのことなどについて話しあった。特に目新しい情報はなかったが、それよりもどこか重苦しい雰囲気がずっと場にのしかかっていたことが気になった。
◇
一通りの話し合いを終えて、とりあえず遠坂とアーチャーは帰宅することとなった。
「じゃ、今日はこの辺りで帰るとするわ」
「あぁ、それじゃあな」
玄関にて遠坂たちを見送る。
「ふぅ……色々あったせいかなんか随分と疲れたな……」
ぐるりと首を回してストレッチする。
ランサーの襲撃や遠坂との話し合いとか予想外のことがあったからか、随分と身体が重い。思考もなんだかふわふわとしていて脳が疲れているようだ。
「……衛宮士郎」
と、セイバーやキャスターの待つ部屋に戻ろうとしたところで名前を呼ばれる。振り返れば、帰ったはずのアーチャーが仏頂面で立っていた。
「な、何だよ……忘れ物か?」
遠坂の姿は見えない、何か用があってアーチャーだけ引き返してきたのだろう。
「忘れ物……まぁある意味ではそうだな……」
ジャリっと音を立ててアーチャーが一歩踏み出る。
「っ…………!」
背筋に走るゾクリとした悪寒。
本能に従いその場から飛び退くが、それよりも早く奴の手が振り下ろされた。
「くぁっ……!!」
飛び散る赤い鮮血。
いつの間にかアーチャーの手に握られていた白い曲刀が、俺の体をパックリと切り裂いた。
「がっ……っ……なんっ……」
いきなりの事態に困惑して頭が回らない。
アーチャーが俺を斬った?何故?
遠坂とは休戦協定を結んだはず、これは奴の独断か?
だが奴に何の得があってこんなことを……?
「借り物の理想なぞ吐き気がするが……自らの意思すらない人形などそれ以下だ。キャスターなんぞに唆されおって」
倒れ伏す俺の前髪を掴み、アーチャーはグッと俺の顔を持ち上げる。
朦朧とした意識の中でアーチャーの蔑んだような瞳が、俺の瞳を覗きこむのが分かる。
「ふむ、キャスターによる洗脳の痕跡があるな……視線を合わせるたびに理性を少しづつ溶かしていたというところか。もっとも力も信念も持ち合わせず、キャスターに付け入る隙を与えたのはキサマだ、同情には値しないがな」
アーチャーが意味のわからないことをのたまう。
キャスターの洗脳だと?
確かにキャスターと目が合うとふわふわとした感覚に包まれて判断力が鈍ることがあった。
けど……キャスターが俺にそんなことをするわけがない。
「まったく厄介な女に目をつけられたものだ……キャスターも何故、葛木先生ではなく衛宮士郎を選んだのやら」
アーチャーはまるで愚痴でも吐くかのように少し砕けた口調でそんな言葉を呟く。
葛木先生……?なんでここでいきなり葛木先生の名前が出てくるんだ?
「凛は不意打ちじみた真似は許さないだろうし、マスターをやられたセイバーも敵討ちをしにくるだろうが……まぁ構わん。英雄気取りの道化に裏切りの魔女……放っておけば近いうちに厄災と化していただろう。それを止められただけでも良しとするか」
未練はあるが、やることはやったとでも言いたげなアーチャーの言葉。
ふざけるな……人のことをいきなり斬りつけておいて、と恨み言を口にしようとしたが俺の喉からはただゴボゴボと赤黒い血が吐き出されるだけだった。
「キャスターもできれば仕留めたいが……マスターのいない今ならあるいは可能か……?」
アーチャーはどうやら、キャスターのことも殺すつもりらしい。
あいつを一発ぶん殴って止めてやりたいがもはや体に力が入らない。
「…………」
地面に倒れ伏し、血だらけとなった俺をアーチャーは無感動に眺める。
「理想という名の呪いに縛られることも魔女に精神を縛られることもある意味では違いはないか……衛宮士郎、偽りだらけの空虚な人生だったな」
訳のわからないアーチャーの言葉
だが、それを理解するよりも前にヒュンッと手に持った刀が俺に向かって振り落とされた。
「…………」
そうしてゴンっと鈍い音が響く。
それは衛宮士郎の首が落ちる音。
俺が人生で最後に聞くこととなった音だった。
BAD END