【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
寒さから白い息を吐きながら、夜の道路をキャスターとセイバーの2人を連れて走る。目指すは遠坂とそのサーヴァントがいると思われる場所だ。
あちらも既にかなり近くまで来ていたようで、家から出て数分ほどの場所に彼女はいた。
薄暗い夜の空の下、街灯の灯りに照らされた赤いコートがひらめく。
遠坂凛……学校でも見知った相手である彼女は、いつもの教室での様子と変わらぬようにそこに立っていた。
「こんばんわ、衛宮くん。今日は寒いわね」
まるで夜の散歩をしていたらばったり出会ったかのような気軽な挨拶だった。
だが、俺の後ろには鎧を纏った少女と怪しげな杖を持った少女がいるのだ、何も知らなければこんな自然体の挨拶は出てこない。彼女も俺たちの接近に気づいて待ち構えていたのだろう。
チラリと遠坂の後ろに立つ赤い外套を纏った男に視線を移す。褐色の肌に白い髪をした男……出で立ちからは何処の英雄なのかは分からないが、サーヴァントで間違い無いだろう。
奴は俺のことを警戒しているのかそれとも何か俺のことが気に入らないのかジッとこちらを睨んでくる。
「こんばんわ、遠坂。驚いたよお前もマスターだっただなんて」
挨拶を返して率直な感想を口にする。
キャスターからあらかじめ話は聞いたとはいえ、やはり見知った相手がこんな戦争に参加しているというのはどこか場違いに感じる。
「私もよ、学校じゃ衛宮くんのほほんとした顔してるのにまさかサーヴァントを2騎も従えているだなんて、なかなかやり手なのね」
そう言って遠坂はさりげなくセイバーとキャスターに視線を向ける、こちらの戦力を分析しているのだろう。
浮かべられた穏やかな笑みと裏腹な冷たい瞳が警戒の色を感じさせる。
「学校でランサーと戦っていたら、アイツがいきなり逃げ出したから追ってきたんだけど……まさか、こんなことになるなんてね……」
世間話のように気楽な口調で喋りつつ遠坂が懐から宝石を取り出す。
炎のように輝くルビーや氷のように煌めくサファイア……まさかあの宝石をお近づきのしるしにどうぞ、なんてつもりはないだろう。
あれは魔術を行使するためのもので、遠坂は今から戦闘を始めるつもりだ。
「ちょっと待ってくれ。サーヴァントを2体も連れていきなり来たもんだから警戒してるのかもしれないが俺たちは別に戦いに来たわけではないんだ」
手を広げて何も武器を持っていないことを示しつつ、できるだけ穏やかな口調で話しかける。
だが、そんな俺の言葉を聞いてもなお遠坂はジッとこちらを睨んでくる。
「そっちが戦う気はなくてもこっちにはあるの。そもそもこれは戦争よ、マスター同士が出会えばやることは一つ……殺し合いでしょ」
遠坂の突き放すような言葉に応えるように彼女の傍らに立つサーヴァントが殺気を発する。
くそっ、話くらいは聞いてくれるかと思っていたが、俺の思っていたよりも遠坂はこの殺し合いに乗り気らしい。
「シロウ、残念ですがここは……」
セイバーが俺を下がらせて、チャキリと不可視の剣を遠坂に向ける。
ダメだ……このままでは戦闘になる……。
空気のちりつく感覚、次の瞬間には血飛沫が舞ってもおかしくは無い状況。
それでも俺は遠坂に何か声をかけようとしてーー
「はーい!みなさん、ダメですよー!みんな仲良く、笑顔笑顔です!」
緊迫した空間に、そんな明るい声が響いた。
キャスターだ。
キャスターがクルクルと踊るように飛び出して、俺と遠坂の間に立つ。
呆気に取られたような表情の遠坂に、キャスターは聞き分けのない子供を諭すかのような優しい口調で言葉を続ける。
「宝石魔術ですか……ダメですよ、そんな物騒なものを持ってちゃ……シロウ様が仲良くしたいって言ってるんですから、ちゃんと聞かないと」
キャスターはペタリと遠坂の頬に手を添えて、口付けでもするんじゃないかと言うぐらいまでグッと顔を近づけてその瞳を覗き込む。
「さぁ……その宝石を渡してください」
「え、えぇ……」
キャスターの有無を言わせぬ圧力に負けたのか、遠坂は呆然とした表情のまま手に持っていた宝石をキャスターに差し出す。
セイバーもその光景に毒気を抜かれたのか構えていた剣を下ろす。
「さ、シロウさま。お話の準備ができましたよ」
「あぁ……ありがとうキャスター」
「……………キャスターだと?」
俺の言葉に、今まで無言を貫いていた遠坂のサーヴァントがピクリと眉根を寄せて反応する。
うん?俺が二重契約をしていることに驚くなら分かるが、なんでキャスターであることに対して反応したんだ?
「ふぅ……なんだか、戦う雰囲気じゃなくなったわね。とりあえずは衛宮君の話を聞くことにしましょうか」
「あぁ、色々と……現状の把握も必要なようだ」
気の抜けたような遠坂の言葉に、アーチャーと呼ばれた男がコクリと頷く。弓矢を持っているようには見えないが……やはりランサーの言っていたように弓兵のクラスなのか。
「さて!それではシロウ様の家でお話するとしましょう。こんな寒空の下では凍えてしまいますからね!」
ひらりとポニーテールをひるがえして、キャスターが俺の家へと向かっていく。
「…………」
そんな幼い少女の姿を、アーチャーはどこか険しい顔つきで見つめていた。
◇
「それでは!第1回シロウ様陣営とトオサカさん陣営による会議を始めましょう」
司会進行をするようにキャスターがそう宣言する。
俺の家の食卓をぐるりと囲むようにして座る面々、メンバーは5人
自宅に遠坂やセイバーのような女の子をあげることになって、緊張している俺。
そんな俺にピタリと寄り添うように座るキャスター
背筋を伸ばしキリッとした姿勢で正座するセイバー
家主の俺よりもリラックスした態度で座る遠坂
どこか落ち着かない様子で家の四隅を見回しているアーチャー
話すべき議題はこの戦争の目的でもある聖杯についてだ。
「まず、最初に言っておきたいんだが……俺とキャスターは別に聖杯が欲しいわけじゃないんだ」
いきなりの俺の言葉に、遠坂とセイバーは怪訝な顔をする。
「そもそも、俺がこの聖杯戦争に参加したのも偶然だったんだ」
俺はそれからキャスターと初めて出会った時のことを話した。
雨の中で倒れていた少女を拾い、聖杯戦争について聞かされて参加を決めたこと……その後のキャスターとの魔力供給をした件については濁したが……
「俺としてはこの戦争で一般人の被害者が出たり、聖杯を変な奴が手にして悪用されなければそれでいいと思ってる。キャスターもそんな俺の考えに賛同して協力してくれているんだ」
「……キャスターが衛宮君にメロメロなのはべったりくっついてる様子からも察せるけど、それで聖杯がいらないってことはないんじゃないの?元々願いがあって参加したんでしょ?」
「いえ!もう、そんなものはどうでもいいんです!シロウ様の理想が叶うのならば聖杯などいりません。もし勝ち抜けたとしてもセイバーさんに差し上げるつもりです」
遠坂の疑問にキャスターはきっぱりと答える。
キャスターの気持ちは嬉しいし、聖杯をいらないというのはセイバーと協力する上で都合よくはあるのだが……故郷に帰りたいと言う願いをそんなもの扱いしているのはなんだか言いようのないモヤモヤ感がつのる。
「……聖杯はキャスターにはあげれないと思うけど、他のことなら極力叶えるつもりだ。キャスターも何か欲しいものややりたいことがあったら言ってくれよ」
「はい、わたしはシロウ様のおそばにいて、その素晴らしい理想へ手を伸ばす姿を見ていることができるのならば満足です」
ニコニコと満面の笑みを浮かべたキャスターの言葉に少し噛み合わなさを感じつつもセイバーの方へと視線を移す。
「えっと、それでセイバーも叶えたい願いがあって聖杯が欲しいんだろ?さっきも言ったように俺は一般人に被害が出たり聖杯が悪いやつの手に渡るのが嫌なんだ。だから、あんまり派手な被害が出るような作戦は取れないし、倒すにしても相手がまず悪いやつなのか確かめてから倒したい。だから不意打ちなんかの作戦を取ることもないだろう」
例え他の参加者が良いやつだったとしてもそれで戦わないというわけではないが……もし本当に聖杯を悪用しようとしてる奴がいた時に俺たちだけでは敵わない可能性もある。
まずは悪い奴を優先的に倒して、他のやつとの決着はそれからにしたい……というのが俺の方針だ。
「効率的な勝利を目指すなら周囲の被害を顧みない作戦やいきなりの不意打ちなんかの方がいいんだろうけどそういうのは……駄目だ。セイバーはそれでもいいか?」
セイバーがどんな願いを持っているのか、どの程度の熱量で聖杯を求めているのか俺は知らない。
だが……もし、ここでどれほど血が流れることになっても聖杯を彼女が求めるというのならば、或いは……彼女から倒さねばならないかもしれない。
そんなことを考えながら、セイバーの返答を待つ。
「……キャスターは私に聖杯を譲ると言ったが、聖杯を手にできるのは最後に残ったマスターとサーヴァントのみ……つまり他の6騎のサーヴァントが消滅している必要がある。もし私と貴女が最後に残ったとして……その時は殺される覚悟があると?」
冷たさを含んだセイバーの言葉にゴクリと生唾を飲み込む。
聖杯は譲るつもりだとキャスターが元々言っていたからあまり深く考えなかったが……確かにセイバーが聖杯を手にするにはキャスターが消滅している必要がある。
聖杯をいらないというのはともかく、それは……
「私の見立てでは聖杯は5騎分のサーヴァントを倒せば、その魔力で顕現するでしょう。その聖杯をキャスタークラスである私が適切に扱えば大抵の願いは叶うはずです」
「……それでも聖杯が完成へと至るに魔力が足りなければ?」
キャスターとセイバー、両方が生きていても聖杯を得られる可能性があると言うのは嬉しい情報だがセイバーの懸念ももっともだろう。
「えぇ、もちろん……その時は喜んで自害するつもりですよ」
ニコリと微笑み、なんの憂いも無くそう断言するキャスター。
セイバーはその真意を探るようにジッと目を細めてキャスターを見つめる。
「わたしは死にかけていたところをシロウ様に救っていただきました。ですからもう未練はないんです。あぁ……とは言っても流石に自害する前に少しシロウ様とお話する程度の時間は欲しいですけどね。それにまぁ、今のは仮定の話ですよ。他陣営に負けてしまうかもしれませんし、途中でわたしかセイバーさんが脱落してしまうかもしれません。あるいはあっさり勝ち抜いて5騎分のサーヴァントで聖杯を起動できるかも。その時のことはその時になってから考えるとしましょう」
キャスターがニコリと微笑んで俺を見つめる。
そうだな……その時のことは、その時に考えればいい。みんなが幸せになれる道を、それが正義の味方というものだろう。
そんな風に気合いを入れ直す俺をじっと見つめていたセイバーが口を開く。
「シロウの方針に従うかと言う話ですが……一般人への無用な犠牲は私も望むところではありませんし、他の陣営に敗北する可能性があるのは当然のこと。シロウが勝利を目指し、そして勝ち残った際に私の手元に聖杯があるというのなら別に異論はありません」
静かな口調でそう語るセイバーにほっと一息つく。
キャスターとセイバーの二重契約というのも揉めないか心配だったが、とりあえずは問題なさそうだ。
「…………ふぅん」
遠坂はなにやらニヤニヤとした顔でセイバーにジロジロと不躾な視線を送る。
「アナタ、見たところかなり強力な英霊ね……けど衛宮君がマスターじゃその力も十分に発揮できてないでしょ。どう?わたしのサーヴァントになればもっとマシになると思うけど」
遠坂のやつ……まさかセイバーを引き抜くつもりか!
だが、確かに俺は魔術師としてはほとんど独学の知識しかない。聖杯を求めるセイバーとしてはもっとしっかりとした魔術師の方がマスターとして相応しいのかもしれない。
不安になって思わずセイバーを見る、彼女もチラリと俺の方を見てからゆっくりと口を開く。
「その申し出は断らせていただく。私はシロウによって召喚されたサーヴァントだ。彼が道を誤らぬ限り、我が剣は彼と共にある」
静かな口調でセイバーがそう断言する。
嬉しい言葉ではあるが……俺はセイバーを召喚したばかりで何か信頼関係を築くようなことをしたわけではない。このセイバーの言葉は俺への信頼の表れというよりもセイバーのサーヴァントとしてのスタンスなのだろう。
道を誤らぬ限りか……セイバーに捨てられないように俺もマスターとして頑張らないとな。
「そう……残念、気が変わったらいつでも歓迎するわよ」
遠坂も別に本気で勧誘していたわけではないのだろう。
あっさりと引き下がり話題は次へと進む。
「それでだな、遠坂たちとはできれば協力関係を……それは無理でも他の陣営を倒すまでは休戦したいと思っている」
俺の言葉に遠坂が盗み見るようにキャスターとセイバーに視線を向け、それからチラリと自らの傍らに座るアーチャーを見る。おそらく、いまここで2騎のサーヴァントを敵に回すメリットとデメリットを量っているのだろう。
しばしの沈黙のあと、遠坂が口を開く。
「いくつか聞きたいことがあるけど……まずは1番大事なことから。さっき衛宮君は一般人に被害は出したくないと言った。私も基本的な方針は同じだけど、それは善性から来るものではなく魔術師にとって神秘の秘匿が第一原則だから。もし魔術の使用が一般人にバレればその時は殺すことだってあり得るわ」
遠坂はそこで言葉を区切り、ジッとこちらに試すような視線を投げかける。
「衛宮くんはそれができるかしら、最悪の場合に……人を殺すことが」
最悪の場合に人を……それも、戦争と関係のない一般人を殺す。
キャスターの魔術を使えば記憶を消したり、他言しないように強制したりと言ったことも可能だろう。だが遠坂が言ってるのはもっと根本的な覚悟の問題だ。俺に魔術師として、マスターとして振る舞う覚悟はあるのかという。
俺は……