【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「……殺さない」
一般人を殺す覚悟があるかどうか、そんな問いにキッパリとそう宣言する。俺の言葉に遠坂が眉をひそめ、何か言おうとするがそれを遮るように言葉を重ねる。
「というか、そもそもそんな選択を選ばなければいけないような状況にならなきゃいいんだ、絶対に魔術の存在は一般人にはバレないようにする。それでいいんだろ?」
「はぁ?あのね、私はいま仮定の話をしてるの、もしバレたらって……」
「だから、絶対バレないようにする。それが俺の答えだ」
遠坂の目を見つめて、強い口調でそう言い返す。
そうしてしばし睨み合っていたが、やがて根負けしたように遠坂がハァとため息をついた。
「……もういいわ、なんか毒気抜かれちゃった。しばらくは休戦ってことにしてあげるわよ。けど、いいのかしら?衛宮君は聖杯が悪いやつの手に渡るのを防ぎたいんでしょ。私がもし聖杯を手にしたら悪用するかもしれないわよ」
「ん?遠坂ならしないだろ、そんなこと」
遠坂が聖杯に何を願うつもりかは知らないが、悪用するやつじゃないことくらいは学校で見ていて知っているつもりだ。そもそも悪用するつもりなら、一々こんな風に聞いてきたりはしない。
だから、当然のようにそう返したのだが……
「…………」
遠坂は虚をつかれたように閉口し、くるくると指で髪先をいじる。
「……ま!せっかくこうして話し合いしてるんだし、お互いの知ってる情報を共有しましょうか」
そうして少し顔を赤くして、話を逸らすようにそう提案してくる。
「とは言っても私もアーチャーを召喚してそう日は経ってないし、出会ったサーヴァントはランサーと衛宮君達だけだから特に提供できる情報はないけどね」
「俺たちの方はそれなりに色々あったな…… 」
何から話すかを考えて、順当に時系列順に話すことにする。
「キャスターを柳洞寺の近くで拾ったって話はさっきもしたけど、本来はもっと大人の姿で召喚されてたらしいんだ。けど、俺が助けた時には何故か幼い姿になってたらしくて……うっすらと金髪の男に何か飲まされた記憶があるらしいから、そいつも聖杯戦争の関係者じゃないかと思ってるんだけど」
「随分と幼いサーヴァントだと思ってたけど全盛期の姿じゃなかったのね。しかし金髪の男か……マスターにせよ、サーヴァントにせよ今のところは心当たりはないわね」
あまり期待はしていなかったが、やはり遠坂も心当たりはないらしい。
サーヴァントだとすれば残りのクラスはアサシンかバーサーカーだが……聖杯戦争を続けていれば、いずれ出会えるのだろうか。
「記憶は……その姿でも生前の記憶はあるのだろう?」
それまで口を出さずにジッと話を聞いていたアーチャーがここで初めて口を挟んだ。
「はい、私がどういう『終わり』を迎えたのかは知っています。といっても他人事という感じで、あくまで知識としてですけど」
「記憶はあるが感性は少女のままというところか……自らの末路を知った上で未熟な自身を追体験させられるなぞ、私なら早々に自害を選ぶよ。全く哀れな話だ」
「そうですか?わたしは大人の『私』よりは今の『わたし』の方がマシだと思っていますけど……」
なぜか訳知り顔で同情するような視線をアーチャーがキャスターに送る。なんだこいつ……失礼なやつだな。
「ま、小さくなったのは不思議だけれど別に害がないならそんなに気にしなくていいんじゃない。それで他にはサーヴァントと会ったりしたのかしら?」
遠坂もそんなアーチャーを呆れたように見つつ、話の続きを促してくる。
「あとは……ライダーは既にキャスターと一緒に倒した。慎二がマスターでな、学校に変な結界を張ろうとしてたりでまぁまぁ大変だったんだぞ」
「慎二が……?それホント?」
「あぁ、負けた後はしおらしくなったしもう聖杯戦争に関わってくることはないと思うけどな」
何か引っ掛かることでもあったのか、遠坂はふむと手を口に当てて考え込む。
「……ライダーはホントに倒したのよね?」
「それは間違いない。だよな、キャスター?」
「はい、完全に霊核を砕きました。間違いありません」
「そう……間桐の家はもう聖杯戦争には関係なくなった……か、今は余計なこと考えてる暇もないしね……」
遠坂は何か悩むように俯いていたが、割り切ったようにスッと顔を上げる。
「さて、話としてはそんなものかしら?」
「あぁ、後はランサーに襲われてセイバーを召喚して……今に至るって感じだからな」
「他に誰か話しておきたいことや聞いておきたいことがある人いる?」
遠坂がそう周りに話を振るが、キャスターはキョロキョロと周りを見回しセイバーは口を閉じて沈黙を貫いている。
「一つ……キャスターに確認したいことがあるのだが……」
重苦しい口調でそう切り出したのはアーチャーだった。
射抜くようにキャスターを見つめ、その視線にキャスターも居住まいを正す。
何か重要なことでも聞くつもりなのか俺もどこか緊張した面持ちで言葉の続きを待つ。
「君の好みの男性はどんなタイプだね?」
……えっ?なに?好みのタイプ?
「はぁ!?アンタ、いきなりなにナンパしてんのよ!?」
ビュン!っと遠坂の右フックがアーチャーの脇腹に突き刺さる。
サーヴァント相手に生身で殴ってもダメージはないだろうがアーチャーは慌てたように遠坂の方を振り向く。
「ナンパ!?いや、俺はそんなつもりは……ただ……」
ふざけた質問をしたはずのアーチャーが逆に狼狽えている。
いや、この状況でそんな質問を真面目にする意味が分からねぇよ……まだ場をなごますつもりだったとか言われた方が納得できるぞ。
「それで、どうなんだ?」
ゴニョゴニョと遠坂に言い訳をしていたアーチャーだが、咳払いを一つして改めてそう問い直してくる。
好きな異性のタイプだなんてこんなふざけた質問に答えなくてもいいんだぞ、と言うよりも早くキャスターが口を開いた。
「私の好きな人……それはもちろんシロウ様です!」
なんの恥ずかしげもなく、そんな言葉が堂々と宣言される。
キャスターが俺のことを好意的に見てくれているのは分かっていたが、こうも正面から言われると流石に俺も顔が赤くなってしまう。今まで硬い顔で話を聞いていたセイバーやアーチャーを睨んでいた遠坂もあっけにとられたような表情をしている。
そして、こんな意図の分からない質問をしたアーチャー本人は何故か俺のことを警戒するようにギロリと睨みつけてくる。
なんだよ……俺がキャスターに好かれるのがそんなに不満なのか。
「ふん……なるほど、よく分かった……十分だ」
アーチャーは一方的に何か納得をして話を打ち切る。
何が聞きたかったんだよこいつは……
「ふぅ、アーチャーのふざけた質問はともかく、他にもう話すことはないわね」
遠坂たちと休戦協定を結び、最低限の情報共有はした。
それなりに実のある話し合いになったと言っていいだろう。
「それじゃ、私たちは今夜はお暇するとしようかしら……っと、あぁそうそう衛宮君、アナタ教会に行ってないでしょう?」
席を立ちながら、遠坂が最後に思い出したようにそう聞いてくる。
「教会?」
「そ、聖杯戦争に参加するマスターはそこで参加表明する決まりになってるの。あそこの神父が監督役やってるからね」
戦争だと言うからルール無用の殺し合いかと思っていたが監督役なんているのか、それは確かに顔を出しておいた方がいいだろう。
「この時間でもあのエセ神父は起きてるだろうから今からでもすぐに行きなさい。衛宮君はマスターとしての覚悟も常識も足りてなさそうだし早めに参加表明しておいた方がいいわ」
「あぁ、分かった、今夜中にいくよ……」
二重契約したりと複雑な身の上だ、変に話が拗れると面倒だし手続きがあるなら早めに済ませてしまおう。
「それじゃ、また何か新しい情報が分かったら連絡する。手に負えないサーヴァントがいたら手を借りることになるかも」
玄関まで遠坂とアーチャーを見送り、そう告げたのだが何故か遠坂はムッと目つきを釣り上げる。
「休戦するとは言ったけど別に仲良しこよししようと言ったわけじゃないのよ。協力するかはその時の状況によるわね」
「あぁ……それもそうだな、まぁ無理ならその時はその時だ。こっちでなんとかするよ」
拒絶の色を含んだその言葉にもっともだと思ってそう返したのが、遠坂はますます目つきを鋭くさせる。
「だから!そういうところ!アンタ、裏表がなさすぎるのよ!私は完全に味方ってわけじゃないのよ!時には情報を伏せたり、交渉材料を用意したりして私を利用しないとダメでしょ!」
ギャースと言った感じで遠坂が怒鳴ってくる。
えぇ……なんで怒られてるのかよく分からない……
「もっと腹芸をしろってことか?そりゃ俺だって何も考えてないってわけじゃないけどさ……そういうのは苦手だ」
「まったく……衛宮君に下心が無いってのはさっきまでのやり取りでもなんとなく分かったけどね……そもそも策を弄したり人の腹の内を読んだりできそうにないしね」
呆れたようなジトっとした目で遠坂が俺を見る。
だが、ふと何かを思い出したように真面目な顔つきへと戻る。
「けど……あの2人はどうか分からないわよ?特にキャスターの方は……」
2人というのはセイバーとキャスターのことだろう。
けどセイバーは堅物な雰囲気があるしキャスターもぽわぽわした空気を発していて、俺よりもそういう人の弱味を握っての交渉だとか情報を伏せての謀略だとか向いてなさそうだけどな。
「キャスタークラスはその性質上、召喚した魔術師とソリが合わずにぶつかることが多いと聞くわ」
確かに……完全な白兵戦向きなサーヴァントならマスターと役割分担をできるんだろうが、魔術師であるマスターと魔術師のサーヴァントってのは役割が被っている。
キャスターの魔術を見ても俺なんかは魔術師としては半人前なので単にすごいなーとしか思わなかったが、正規の魔術師ならプライドを逆撫でされてもおかしくはない。
「元々のマスターはランサーに殺されたと言っていたけど、それだって本当かしらね」
「キャスターが前のマスターを裏切ったとでも言いたいのか?それはないと思うけどな……」
初めて出会った時のぐったりとしたキャスターの様子と縋りつくような涙に潤んだ青い瞳を思い返す。
まさかあれが演技ってことはないだろう。
「何にせよ衛宮君も気をつけなさい。マスターがサーヴァントを御しきれず命令を無視して独断行動……なんてのは珍しい話じゃない。何せあっちは私たちよりも強大な存在である英霊様なんだもの。けど、その手綱を握ってこその一流のマスターよ」
従者を意味するサーヴァントなんて言葉で呼ばれているが、力も知恵も過去の英雄に俺たちが敵うわけはない。
令呪があるとはいえその縛りも3度まで、普段からしっかりと信頼関係を築いていなければサーヴァントはいずれマスターに見切りをつけるかもしれない。キャスターやセイバーはそうなっても俺を殺しに来たりはしないだろうが、俺の言うことを聞かずに独自の判断で動き始める可能性はある。
「もし、私が衛宮君をマスターとして相応しく無いと感じたらその瞬間に休戦は終わりよ。せいぜい気をつけることね……行くわよ、アーチャー」
遠坂がアーチャーを伴って俺の屋敷から出ていく。
マスターとして相応しい……か
ぼんやりと玄関から月を眺めながら今夜の出来事を思い返す。
ランサーとセイバーの戦いで俺は結局、何のアシストもできなかった。
その後の遠坂との話し合いも、最初にキャスターが取りなしてくれなければそのまま戦闘に突入していただろう。
「マスターとしても、魔術師としても、俺はまだまだ未熟だな……」
……そして正義の味方としても
俺はどうすれば、理想に手が届くのだろう。
そんなことを考えてため息をひとつ吐くのだった。