【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
アーチャーの音速の剣戟が空気を切り裂くようにして俺の身に迫る。
繰り出される一撃は明らかに致死のそれ。
手にした剣で受け止めたところで防ぎきれずに俺の体は真っ二つになるだろうし、避けることもまず不可能だ。
そんな中で俺が取った行動は……ただ、見ることだった。
「…………」
軽く息を吐き体から力を抜いて視点を一点に見据える。ひたすらに神経を集中させて、奴の一挙一動を、刀の微細な構造を、何か逆転の一手がないかと凝視する。
「…………」
極限まで精神が研ぎ澄まされた状況で、脳内から余分な情報が掻き消える。
視界はアーチャーとその刀だけを残して暗闇に包まれて、音は自らの心臓の鼓動すらも聞こえなくなり静寂へと変わっていく。
高速で駆け巡る思考。
寸前に迫る刀との距離は無限に感じられ、刹那の時が永遠へと引きのばされる感覚。
そうして、そんな圧縮された世界で俺は……もしもの世界を夢想していた。
もし、俺があの始まりの日……降りしきる雨の中でキャスターを助けていなければどうなっていたのかを。
キャスターと出会わず、しかしマスターとしては選ばれて聖杯戦争に参加していたのだろうか。
そうしてその時に俺の隣にいるのはキャスターでは無い誰かだったはずだ。
セイバーを召喚して彼女と絆を深めていれば剣の稽古の一つでもつけてくれたことだろう。
遠坂ならば正式な同盟関係でも結んで未熟な俺に魔術の指導でもしてくれそうだ。
桜との日常を守るために全てを投げ出す覚悟で戦いに赴くような世界もあったのかも知れない。
だが、それらは全て別の世界の可能性。
あり得たかもしれないもしもの話だ。
今、この世界で俺の隣にいるのはキャスターだ。
キャスターと共にここまで歩いてきた。
『衛宮士郎……お前は弱い』
アーチャーに投げつけられた言葉が頭をよぎる。
そうだ、俺は弱い。
キャスターと共にこれまで戦ってきたがはっきり言って散々なことばかりだった。キャスターは俺に黙ってさまざまな悪事を働き、おかげで討伐令なんてものまで出されて逃げるだけで精一杯だった。魔術や剣の鍛錬なんてしている暇はない、その弱さも当然のことなのだろう。
けれども同時にアーチャーはこうも言った。
『お前の強さを証明して見せろ』
俺の強さ……キャスターと共に歩んできた中で得た何かが、俺にもきっとあるはずだ。
だが、俺はこの聖杯戦争の中で鍛錬も戦いもほとんどしてこなかった。
直接的に戦闘を行ったのはライダーくらいのものだし、それだってキャスターにお膳立てされただけだったのだから得られるようなものは何もなかった。
サーヴァントと刃を交えることもなく、自らを鍛えることもない。
思えば……俺がこの聖杯戦争でしてきたことはただ見ていることだけだった。
サーヴァント達の人智を超えた戦いを
宝具と呼ばれる尊き幻想に秘められた神秘を
ただ、焦がれるように見上げていた。
バーサーカーやギルガメッシュの攻撃を避けた時も
ランサーの俊敏な動きを必死に追っていた時も
ただ、恐怖を押し殺して静かに見つめてるだけだった。
そうして……
いつも俺の隣にいてくれた少女の横顔を
魔女と呼ばれた少女の凶行とその哀しげな青い瞳を
ただーー見ているだけだった。
「っーーーー!!」
だったら……だったらそれが、俺の強さだ。
今更、剣の腕が達人のようになるわけでも魔術の才能が開花するわけもない。
ただ、キャスターと歩んできたこの道を信じるだけだ。
「ーーーー構造把握、解明」
見ろ、見ろ、見ろ、見ろ。
アーチャーの攻撃、必ずどこかに突破口はあるはずだ。
冷静に奴の剣の構造を目で分析しながらも、脳裏にキャスターとの思い出が走馬灯のように駆け巡る。
魔女と呼ばれた彼女のことを一時は俺も恐れはした。
だが、自らの目で向き合うことで彼女が人を信じることを恐れているだけの臆病な少女なのだと知ることができた。
奴の攻撃を見るのも同じこと、ただ目に映るモノだけを見るのではない、その奥底にある本質を読み取るのだ。
「っーーそこだ!!」
そうして俺は手にした剣をアーチャーの剣に重ねるようにして振るう。
ガギィンと火花が飛び散り、一拍置いて剣が破片となって飛び散る。
同等の強度の剣をぶつければ打ち負けるのは必然的にこちら
だが……
「……勝ったぜ」
ニッと笑って剣先をアーチャーの首筋に突きつける。
砕けたのは俺ではなく奴の剣の方だった。
「幻想は綻びが生じればただの虚構に成り下がる……投影の僅かな欠けに攻撃を当てて剣を打ち砕いたのだな」
アーチャーが突きつけられた剣先を見据えながら冷静にそう呟く。
そう、単に剣を打ち合っただけではこちらが負ける。だから弱点を見抜きそこを突くことで奴の剣を砕いたのだ。
「ですがアーチャーさんの投影は完璧でした、世界すら欺くほどの完璧な偽造品……オリジナルとの差異は無いに等しく、欠けと呼べるほどのものはなかったはずです」
キャスターが不思議そうに口を挟んでくる。
確かに、先ほどの一瞬で奴の剣の本来の構造と投影品の造りは全て解析したが肉眼で見えるレベルはもちろんナノレベルの差異も存在していなかった。ただ……それ以上に細かいレベルでは差があったというだけの話だ。もはや物質レベルの話というより概念上の話になるような本当に細かく小さな違いだが、なんとかその差異を見抜くことができた。
「目に見えるガワに捉われず、モノの本質を見抜く瞳……それがこの世界の衛宮士郎の強さなのだな……」
アーチャーはフッと僅かに笑みを浮かべるとその体がサラサラと光の粒となって崩れるように消えていく。
「ギルガメッシュにやられた体では流石にここらが限界か……できればもう少し残りたかったのだがね」
「いや十分だ、ありがとうアーチャー、おかげで俺は俺の強さを理解できた。セイバーは必ず取り戻すしギルガメッシュの野郎にも一発喰らわせてやるよ」
力強くそう宣言する俺をアーチャーはしげしげと見つめる。
俺と、その横に立つキャスターの姿を。
「衛宮士郎はキャスターを選び、キャスターは衛宮士郎を選んだ。これもまた……運命か。お前のその眼が立ちはだかる暗雲を貫いて、その先にある光を見通すことができるかどうか……せいぜい楽しみにしておくとしよう」
それだけ語ると、奴の体は完全に消滅してしまった。後には何も無い空間だけが残る。
「ありがとう、アーチャー……」
虚空に向かってもう一度、そう呟く。
戦力として当てにしていたバーサーカーとアーチャーは消えてしまったが、それでもここに来たことで得るものは確かにあった。
「……ここにいても仕方がありませんし家に帰りましょうか」
キャスターがそうポツリと呟く。
「あぁ、そうだな……」
そんな彼女の青い瞳をなんとなく覗き込むと、赤毛の少年がその中に反射して映り込んでいた。
俺はキャスターを見て、キャスターは俺を見ている。
その光景に俺の隣にキャスターがいてくれるのだなと、そんな今更な感想を抱いた。
「ありがとう、キャスター」
「えっ……?なんの話ですか?」
唐突な俺の言葉に不思議そうにキャスターが首を傾げる。
「アーチャーの攻撃を防げたのはキャスターのおかげだと思ってさ」
「そんな、わたしは何もしていませんよ。シロウ様のお力のおかげです」
「けど、今の俺がいるのはキャスターのおかげだ。だから、ありがとう」
アーチャーの投影の僅かな欠けを見抜くことができたがそれは何も俺の構造把握の技能がこの数日で跳ね上がったわけでは無い。辛抱強く、真摯にモノの本質を見抜こうとする心構えがそうさせたのだろう。
キャスターと共に暮らす中で彼女は何か直接的な力を授けてくれたり、魔術の指導をしてくれたわけではない。それでも、きっとキャスターと過ごしたこの数日間は確実に俺の心に変化をもたらしている。
だからやっぱり、アーチャーの攻撃を防げたのはキャスターのおかげなのだろうと思った。
「……帰ろうか」
ポツリと呟き、歩みを進める。
日に照らされた影が二つ重なって、そうして俺達は家への帰路に着くのだった。
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原作三ルートでそれぞれアヴァロン、UBW、アーチャーの腕を使ったり
美遊兄の固有結界が雪原になってるみたいに道のりによって至る『強さ』の形が変わるところが士郎の好きなところです。
メディアリリィと歩いてきたこの作品なりの士郎の『強さ』を書いていけたらいいなと思います。