【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「はぁはぁ……やっと……着いた……」
肩で息を切らしながら、目の前にそびえ立つ西洋造りの城を睨む。
ギルガメッシュ達とアーチャーの戦いを見て慌てて駆けつけたが、ここに来るまでに既にそれなりの時間が経過してしまっていた。
アーチャーはまだやられていないだろうか……仮に耐えていたとしてどう加勢すればいいのか……。
思考を巡らせながらも城の奥へと進んでいく。
「……戦闘音がしませんね」
後ろを歩くキャスターが小さな声で呟く。
やはり、アーチャーはもうやられてしまったのか?
だとすればセイバーを取り戻すには誰の助力も借りずに俺とキャスターの力だけで挑む必要がある。
だが、そんなことが果たして可能なのだろうか?
ギルガメッシュは未来を見通す千里眼を有しているのだ、アーチャーの不意打ちさえ見破られたのだから生半可な策は簡単に潰されるだろう。
そんな状況で、セイバーに『破壊すべき全ての符』を当てるなんてのはハッキリ言って絶望的だ。
「…………とりあえずアーチャーを探そう、イリヤだってまだいるかもしれない」
不安になる心を振り払うようにそう言って探索を続ける。
城の廊下を見てみれば所々に切り傷があり、どうやらセイバーの攻撃を逃げるように躱しながらアーチャーは戦っていたらしかった。
俺たちもその戦いの痕跡を追うようにして歩みを進める。
「っ……アーチャー!良かった、生きていたのか!」
そうして城の奥まで進んだところで、赤い外套を着た男を見つける。
生存を確認してホッと息を吐いてアーチャーに近づくが……
「おまえ……その傷……」
そうして気がつく。
アーチャーの体に深々と切り刻まれた傷跡があることを。
肩から腰にかけてザックリと見える深い傷、ダクダクと流れる血がやつの赤い服をドス黒く染めていく。
サーヴァントはある程度の肉体の損傷は魔力で治癒できるとはいえ明らかな致命傷だ。
「衛宮士郎か……ふっ、情けないところを見られたな」
こんな状況でもアーチャーはニヒルに笑って見せるがその表情にはやはり覇気がない。
「遅かれ早かれギルガメッシュはイリヤを狙うだろうと潜伏して機を窺っていたのだがね、失敗してこの有様だ」
アーチャーはそう力なく笑うが、実際あの時の奇襲に悟られるようなミスはなかった。ただギルガメッシュの千里眼が規格外すぎただけだ。
「霊核まで深く斬られてしまったからな、現界していられるのはせいぜいあと数分だろう。即死となる一撃を加えなかったのはセイバーなりの抵抗なのかギルガメッシュのお遊びなのか……」
残り数分……やはりアーチャーはもう助からないのか……
「……ギルガメッシュは聖杯の鍵となるイリヤを攫って行った。残りサーヴァントも少ないからな、そろそろコトを起こすつもりなのだろう」
アーチャーは俺というよりもキャスターに向けて現状の説明をする。聖杯の鍵というのがよく分からないがイリヤまでギルガメッシュの手に落ちたのか……
「ハッキリ言って現状は絶望的だ」
アーチャーはスッと声のトーンを下げると真面目な調子でそう宣言する。
「相手はあらゆる宝具の原点を持つ最古の英雄、そしてそこに聖剣の使い手であるセイバーまで加わったのだ。手数、火力ともに最高峰……キャスターではまず勝ち目がないだろう」
ギルガメッシュとセイバー。
あの2人のコンビを倒すのはどれほど高名な英雄であっても難行となるだろう。
こちらの頭数を揃えればあるいは勝機もあったかもしれないが……それもバーサーカーとアーチャーが討たれたことで不可能となった。
「当然、貴様が1人突っ込んだところで結果は変わらない。片手間にやられるのがオチだろう」
その言葉にギュッと手を握りしめる。
分かっている、今の俺の力などギルガメッシュ達の前では戦力としてすらカウントされない。挑んだところで何の意味もなく無駄に命を散らすことになるだろう。
「だが……キャスターとお前が組めば可能性はゼロでは無いと思ってる」
その言葉にハッと息を呑む。
「意外だな……俺のことなんて足手纏いだとでも言うかと思ったが」
「無論、そうなる可能性もある。お前とキャスターの息が合っていなければな……いいか?ギルガメッシュとセイバー、あの2人に弱点があるとすればコンビネーションの欠如だ。セイバーは無理やり服従させられているだけでギルガメッシュをマスターと認めているわけではないからな、いくら宝具の力でセイバーを操ろうとそんな状況では必ず隙ができる」
確かに……バーサーカーとの戦闘を見る限りセイバーはギルガメッシュの指示によって操り人形のように動かされているだけでとてもコンビネーションと呼べるようなものは存在していなかった。
「とはいえ、その隙はできて一瞬だろう。その一瞬をつけるかはお前たち次第だ」
アーチャーはそう語るとゆらりと両の手を少し上げて見せる。
「ーーーー投影開始」
そうして奴の手の中に黒と白、二振りの曲剣が現れる。
「そら、剣を取れ……衛宮士郎」
カランと音を立てて奴が持つ剣の片方……黒い刀身の剣が俺の目前に投げ捨てられる。
「……いったい、何をしようってんだ?」
アーチャーの意図が分からず困惑した視線を向ける。
奴は前々から俺のことを気に食わないような態度をしていたが、この局面でまさか俺を殺すために決闘でもしようというわけでないだろう。
「衛宮士郎……お前は弱い」
いきなりの奴の罵倒にグッと押し黙る。
そんなこと俺が一番よく分かっている、マスターとしての経験も魔術師としての技術も俺には到底足りていない。
強化や投影の魔術もいまだにまともに扱えず、とても戦う力なんて持っちゃいない。
「私がお前くらいの年頃でももう少しマシだったのだがな、今までのお前はキャスターに振り回されてまともに魔術の修練すらできていないようだったからな」
確かに、この聖杯戦争中はキャスターの行動によって討伐令を出されたりと慌ただしく鍛錬などしている暇はなかった。
「先ほどコンビネーションが重要だと言ったが、未熟な今のお前ではギルガメッシュには勝てない。勝つためには……まず自らの強さを知る必要がある」
「俺の強さ……」
先ほど俺のことを弱いと評したアーチャーが今度は俺の強さを知れと言う。
弱さと強さ、その言葉の意味を反芻するように考える。
「これは、そのための試練だ。今から私はお前を斬る。お前は自らの力でそれに対処して見せろ」
そう言ってアーチャーはチャキリと白刀を構える。
その凍りつくような視線には混じり気のない殺気が含まれていた。
試練だとは言っているが……こいつは本気で俺を斬るつもりだ、もし俺がここで奴の攻撃を対処できなければ死んでも構わないと思っている。
「ちょっと待ってください!アーチャーさんがシロウ様を試すつもりなのは分かりますが、何もこんな方法を取らなくとも……」
「いや、いいんだキャスター、俺たちはこれからギルガメッシュの千里眼をくぐり抜けてセイバーを解放しなきゃならない。死にかけのアーチャーの攻撃くらいいなせなきゃそんなことは夢のまた夢だ」
アーチャーは命の僅かな残り火を俺を鍛えるために使おうとしてくれている。
ならば、こちらも命を賭けるぐらいをしなくてはな。
「ですが……」
「大丈夫だ、言っただろう?正義の味方になってみせるって。それならこのくらいの試練は乗り越えてみせるさ」
正義の味方になる、そんな俺の夢を叶えるためにキャスターは様々な暗躍をしてみせた。
魂喰いや黒い聖杯の力……キャスターのやり方を受け入れていれば、あるいはもっと簡単に強力な力が手に入ったのかもしれない。
だが、俺はそれを否定した。
なればこそ、俺はキャスターに自らの強さを示さなくてはならない。正義の味方を名乗るだけの強さを。
「キャスター、俺を信じてくれ」
俺の言葉にキャスターがゆっくりと頷く。
それを確認してからアーチャーが地面に投げた黒刀を拾い構える。
手にした瞬間にズシリと感じる重い感覚、おそらくかなりの業物なのだろう。
対となる形から察するにおそらく性能はアーチャーの手にしている白刀と同等か。
だが……単にこの刀で切り結めば負けるのは俺だ。
武器の切れ味や硬度が同じでも担い手の力が違いすぎる。
人間とサーヴァント、俺とアーチャーの間には絶対的な力と技量の差があるのだ。
「いくぞ、衛宮士郎……お前の強さを証明して見せろ」
アーチャーがグッと体を捻りタメの動作を取る。
おそらく次の瞬間にはその刀が俺に向けて振るわれるだろう。
考えろ、考えろ、考えろ。
俺とアーチャーの差を埋めるだけの『何か』を。
俺だけが持つ『強さ』が何なのかを。
「シッーーーー!」
そうしてついにアーチャーの凶刀が振るわれる。
刹那の一撃……回避は不可能だ。
俺はアーチャーの攻撃に対して……