【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「……分かった、キャスターの言う通り街の人々から生命力を吸い取るプランで行こう」
何も命を落とすレベルまで搾り尽くそうというわけでは無いのだ、それで戦力を大幅に強化できるならこれほど美味しい話はないだろう。
俺の返答にキャスターは満足げな笑みを浮かべる。
「えぇっ、ふふっ、わたしはシロウ様のご決断に従うだけですがそれが正しい選択だと思いますよ、人間は心も体も脆いものです。無駄に険しい道を選んで失敗するよりは多少の犠牲を払ってでも確実な道を行くべきですから」
そうだ、10年前の惨劇をまた起こすわけにいかない。そのためには多少ダーティな手段でも確実な方法を取るべきだ。
かつて味わった地獄のような業火の熱さが脳裏に浮かび、反比例するように心が氷のように冷たくなっていくのを感じる。
「魔力量の問題はこれで解決しそうですね、後は新たなサーヴァントをシロウ様に召喚していただきいのですが……」
莫大な魔力が得られたとしても使える駒はやはり多い方が良い、俺にまだサーヴァントを召喚する権利があるのなら有用に使うべきだろう。
「すぐに召喚しても魂喰いに反対して暴れられるかもしれませんからね、もう少し力をつけてから召喚することとしましょう」
ふむ、確かに英雄と呼ばれるような高潔な者達ならば、こんな方法は反対するかもしれない。
こんな道理に反するような方法は……
「っ…………!」
そう考えた瞬間、脳裏にズキリとした痛みが走った。本当にこんな方法をとって良いのか、こんな人道に背くような選択を……そんな疑問が鎌首をもたげた時、慌てたようにキャスターがこちらを覗き込む。
「シロウ様、わたしの目を見てください」
言われてキャスターの瞳をじっと見つめる。
波のない穏やかな海のような青い瞳を見ていると、ざわついた心が不気味なまでに鎮まりかえっていくようだ。
「えぇ……えぇ、シロウ様は間違っていませんよ。それがより合理的な方法なのですからシロウ様は心を鬼にして仕方なく街の人々の命を吸い取るだけ……それは仕方のないことなんです」
キャスターが俺の顔を覗き込んで言葉を擦り込むようにゆっくりと語る。そうやって肯定されると俺は間違ってないんだという確信が芽生えてくる。
「……そうだな、俺は犠牲を払ってでも確実に被害を無くす方法を選んだんだ。変に日和って台無しにしたらそれこそダメだ、覚悟を決めたよ」
冷たい瞳でキャスターのことを見つめる。そんな俺に対してキャスターは何故か熱っぽい視線を返してくる。
「くすっ……それも正義の味方の在り方の一つですよね、うふふ素敵ですよシロウ様」
熱に浮かされたようにキャスターはそんなことを語る。
そんなキャスターを無視して俺は話を続ける。
「それで新しいサーヴァントの問題だが、街中から魔力を集めて俺たちが力をつけてから召喚するということで良いんだな?」
「えぇ、もしも召喚されたサーヴァントが逆らうようなら力でねじ伏せてしまいしょう」
キャスターの言葉にこくりとうなづき、チラリと自らの左手を見る。
うっすらと赤みがかった痣は、サーヴァントを召喚すれば令呪という刻印として形を為すらしい。
もしもの時は集めた魔力でサーヴァントを無力化し、それからこの令呪で無理やり命令を聞かせてしまえばいい。
左手の手の甲を見つめながら静かにそう思考を巡らせるのだった。
◇
次の日の朝、昨日は色々なことがあってぐっすりとは眠れなかった。ただ、なんだか妙に頭の中は冴えていて、ゆっくりと布団から体を起こす。
「おはようございます、シロウ様!今日から戦争に向けてはりきってまいりましょう!」
隣を見ればいつからいたのか、キャスターがやる気満々な顔でそんなことを言ってくる。
確かに今日からはやるべきことは沢山ある、街中の人々から生命力を吸い取るための仕掛けを作らなくてはいけないし敵マスターやサーヴァントについても調べて行かなければならない。
そんなやり取りをしていると、玄関の鍵がガチャリと開く音がした。
「この音……桜か、しまったな。もうそんな時間か……」
「サクラさん……ですか?」
「あぁ、学校の後輩でな。飯を作りにきてくれたりしてるんだよ。それと、藤ねえ……藤村って人も、もうしばらくしたら飯を食いにくると思う」
「サクラさんにフジムラさんですか……どちらも女性ですか?」
「ん?あぁ、そうだ。それよりキャスターのこと、なんで説明しようかな……」
説明の口実を考える俺をよそにキャスターがさっと歩き出す。
「あっ、ちょっと……!」
俺の制止を無視してスタスタと玄関に向かってしまう。
「おはようございます、せんぱ…」
ひょこりと顔を出した紫色の髪の少女、俺の後輩である、桜がにこやかに朝の挨拶をするが、その言葉はキャスターを認識してピタリと止まる。
「えっと、あなたは……?」
「はじめまして、あなたがサクラさんですか?」
「えっ?えぇ、そうですけど……」
困惑したままの桜にに構わずキャスターはぐいと近寄ると、ジロジロと全身を舐め回すように見つめる。
「え……えっと、先輩、この方は……?」
「あぁ、ちょっと色々あってな……家に泊めてるんだ」
「この娘を、ですか……」
怪訝な表情をする桜をまぁ色々あったのだと適当に言い含める。
「はぁ……まぁ、よろしくお願いします、キャスターさん」
釈然としない顔のまま桜が頭を下げる、その声音からは警戒心が滲み出ている。
下手に怪しまれると、今後の活動に支障が出るかもしれない、何か上手い言い訳を用意しておかないとな……そんなことを思っているとキャスターは桜の手を取り、グッと体を近づけその体を抱きしめる。
「えっ……?キャスターさん?」
「ふふっ、仲良しのハグです!これからよろしくお願いしますね、サクラさん!」
そう言って至近距離で微笑みかけるキャスターに桜は驚いたように目を丸くしてる。キャスターはそんな桜に構わず、むぎゅっと頭をその大きな胸に押し付けるようにしてその体を預け、そのまま心音を確かめるかのように目を瞑る。
「…………」
「えっえっ?キャスターさん?」
目を白黒させて困惑する桜。
しかし、初対面の相手にここまでグイグイ迫れるキャスターは凄いな。
外国人だから日本人とはパーソナルスペースの捉え方が違うのか、それとも女子って友達同士でハグしたり妙に距離感近い時があるし、そういうノリなのだろうか。
そうしてしばらくキャスターはニコニコとした顔で桜の豊満な体を抱き止めていたのだが、パッと体を離すとくるりと振り返りこちらに小声で囁いてくる。
「あのサクラという娘については、どの程度知っているのですか?」
「ん?どの程度って……どういうことだ?」
キャスターの質問の意図が掴めずに首を傾げる。
どんな性格か?何が好きなのか?と言ったことを聞かれるならともかく、どの程度知っているか、とは中々妙な質問の仕方ではないだろうか。
疑問符を浮かべる俺にキャスターは少し言葉を選ぶようにしてから再度口を開く。
「いえ……年齢も近いようですし、もしかしたら恋仲なのかと思いまして……」
「恋仲って……そういうのじゃないよ。学校の後輩で色々手伝いもしてくれてるってだけさ」
「そうですか……」
俺の言葉を聞きながら、一瞬チラリと桜の方に視線を向ける。
「……………………」
氷のような冷たさを帯びた視線
そして……………
「きゃあ!」
キャスターが桜の顔をわし掴みにして、そのまま押し倒すように倒れ込む。
「っ……なにをっ!?」
慌ててキャスターを桜から引き離すが、桜は力無く倒れたままだ。
「安心してください、眠らせただけですよ。その娘……どうやら聖杯戦争の関係者のようなので」
は?桜が聖杯戦争の関係者?
「魔力のパスが外部と繋がっています。まずマスターで間違いないでしょう」
「マスターって……でも、サーヴァントと契約したら令呪が体に浮かぶんだろう?桜にそんなものは見当たらないが」
「ふむ……どうやら、マスターとしての権利自体は誰かに譲渡しているようですね。この家に入ってきた時も無警戒でしたしシロウ様を狙ってきた敵というわけではなさそうですが……この聖杯戦争の関係者に違いはありません」
「……敵じゃないなら、こんないきなり眠らせる必要はないはずだ。とりあえず桜と冷静に話がしたい、早く起こしてくれ」
少し苛立ちのような感情を抱きながらもキャスターにそう命令する。
確かに聖杯戦争と何か関わりがあるというなら警戒しなければならないのは分かるがいきなり気絶させるなんて……
桜を……俺にとって大事な存在を……
「……いいんですか? 下手するとこの娘死んじゃいますよ?」
死ぬーーその言葉に一瞬、頭が真っ白になり、次いでカッと頭に血が上る感覚と共にキャスターに叫ぶ。
「なっ……そんな強力な魔術で眠らせたのか!?」
「あぁ、いえいえ違いますよ。起こすのはもちろん簡単です。ですが……どうにも彼女、体の中に妙な蟲を飼っているようなので」
「は?……むし?」
虫を体の中で飼ってる?
意味が分からず頭に疑問符を浮かべたまま固まってしまう。
「えぇ、先ほど抱きついた時に調べましたがかなり根深く侵食されているようですね。まぁ魔術師の家系では体内に使い魔の類を埋め込み肉体を改造することはそう珍しい話でもありませんよ。非効率だとは思いますけどね」
体内に使い魔を埋め込む?あまりに現実感のない話に足元がぐらぐらと揺れる感覚に襲われる。
桜の体にそんなものが……?
それも言い方的にはその蟲自体は桜の使い魔ではなく、第三者によって埋め込まれたもののようだ。
「今は蟲ごと眠らせていますが、起こしたらどうなるか分かりませんよ。桜さん本人に悪意はなくとも蟲が勝手に動いてシロウ様を害そうとするか……あるいはサクラさん自身を自決させるかもしれませんね」
「っ……その蟲は体から引きずり出せないのか?」
「侵食がかなり深いので難しいですね……まぁ対処法はないではないですが……」
話しながらもキャスターは眠ったままの桜をずるずると引っ張り、ふとんまで運ぶとそこにゴロンと転がらせる。
「どうしたらいいんだ?勿体ぶらずに早く教えてくれ!」
俺の言葉にニタリとキャスターが笑う。
「簡単です……聖杯を得ればいいんですよ」
聖杯……願いを叶える万能の杯
「聖杯を得ればサクラさんの治療程度は簡単にできるでしょう。ますますこの戦争で勝つ理由が増えましたね」
……元々、俺がこの戦争に参加したのは巻き込まれるかもしれない無辜の人々を守るためで、聖杯は他に相応しい願いを持つものがいるのなら別に譲っても構わないと考えていた。
だが、桜の命を聖杯で救えると言うのならば……
「うふっ……いいですね、鉄のような冷たい目……流石は正義の味方ですね」
冷たい目……か、今の俺はどんな目をしているのやら
だが、何にせよやるべきことは変わらない
街の人々から命を吸い取ると決めた時点で、覚悟は決まっている。
聖杯を得る、そのためにーー
◇
キャスターと出会ったあの雨の日から、数十日の時が過ぎた。
聖杯戦争は盤面を進め、その間に俺たちにも色々な出来事があった。
まず、当初の予定通りに街の人々から生命力を吸い取って膨大な魔力を得ることができた。
ニュースでは連日、どこそこで人が倒れたなんて話を報道している。少しばかし派手に生命力を吸いすぎたか……ひょっとしたら生い先の短い老人なんかは命を落としてしまっている者もいるかもしれない。
『どの道消えかけていた命です、たまたまそれをかき消してしまったことを罪と思う必要なんてありませんよ』
キャスターのそんな囁き……
「…………」
少し横を見れば、黄金の剣を携えた騎士が俺のことを睨んでいる。
憤怒のこもったその表情は今にも俺を斬り殺したいと言わんばかりだがそれは叶わない。
彼女……セイバーを召喚してすぐに『俺に逆らうな』と令呪を使用したからだ。逆らって叛逆でもされたら面倒だからな、先手を打たせてもらった。
それでも、初めは令呪の拘束力に抗ったりしていたのでもう一画令呪を使うハメになったりキャスターの魔術で電撃を浴びせたりすることとなって大変だったものだ。
『下衆が……貴様のような男に喚び出されるとは!!』
それが彼女が俺に投げかけた最後の言葉らしい言葉で、以降は口を開くこともなく人形のような態度で俺に従っている。
『サーヴァント……『従者』を表す言葉通りの今の姿、それがマスターとサーヴァントの本来あるべき形なのですよ』
キャスターのそんな囁き……
その後に同級生の遠坂がアーチャーのマスターだったのを知った時も驚いたな。遠坂と接触した時にはまだセイバーが反抗的だった頃なので力押しで倒すわけにはいかなかった、だから同盟を結ぼうと持ちかけて騙し討ちをしたのだったか。
『アンタなんかを少しでも信用した私がバカだったわ!』
アーチャーを失い、自らも血に塗れながらも吐き捨てるようにそう言った彼女の言葉を思い返す。
『これは戦争なのですから、騙される方が悪いんですよ』
キャスターのそんな囁き……
その後は集めた膨大な魔力や服従させたセイバーの力でライダーやランサーなどを順調に倒していった。問題となったのはバーサーカーだ、イリヤと名乗る白い少女が引き連れた巨人のようなサーヴァントは再生能力のある宝具を有していた。
流石にそんな相手には力押しだけでは勝つことが難しい。
だから、セイバーとキャスターでバーサーカーを足止めして、その間に俺がイリヤを刺し殺したのだ。
『淀んだ目……初めは切嗣に似ているかとも思ったけど違ったわね……小を切り捨て大を守る正義の味方ですらない、自らが何をしているかも分からずに無我夢中で駆け回るただの獣よ』
そんな蔑むかのようなイリヤの最期の言葉
獣……?俺のことか?
何故そんな言葉をかけられるのかまるで見当がつかない。
『ご立派ですねシロウ様、おかげでバーサーカーを倒すことができました。その勇姿はまさに正義の味方と呼べるでしょう!』
キャスターのそんな囁き……
これまでの戦いの最中にも何度か自分は何か間違っているんじゃないかだなんて、そんな風な考えが頭をよぎることがあった。
だが、その度にキャスターは俺は間違っていないのだと囁いてくれて、貴方こそが正義の味方なのだとその青い瞳で見つめてくれる。
その声を聞いて、その瞳を見つめているといつの間にか悩みなんて綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
「これで……他のサーヴァントは全員倒したな、後は聖杯を手に入れるだけだ」
何にせよ、邪魔者は全て消し去った。
後は現れるという聖杯を手に入れるだけだ。
そうして俺とキャスターは、聖杯が現れるという柳洞寺へとやってきたのだが……
「ーーーー先輩!」
夜になり静まり返った柳洞寺
そこには1人の少女の姿があった。
「桜……!なんでここに……」
キャスターの魔術で眠らされているはずの桜が寺の境内の真ん中で立っている。俺の姿を見るや叫んだその姿を見るに、意図してここで待っていたのは明白だ。
「ふぅん……まさか自力で目覚めるだなんて、魔術には疎いと思っていましたが、聖杯の力が満たされた影響か、それともそれだけ強い自我を持っているのか……」
「っ………キャスター!」
冷静に分析を行うキャスターのことをキッと桜が睨む。
その視線はキャスターのことを完全に敵と見做していた。
「先輩!その女からすぐに離れてください!」
「えっ、急にどうしたんだよ桜?」
桜が必死に縋り付くように叫ぶが、何をそんなに慌てているのかが分からない。キャスターは俺のサーヴァントだし、今までも逆らう素振りなんて見せることなく俺に付き従ってきてくれた。
「桜、キャスターに眠らされていたから何か勘違いをしているのかもしれないが、アレは桜を守るために必要なことだったんだ。だから……」
「違います!!」
なんとか取りなそうとする俺の言葉を桜がピシャリと否定する。
「眠っている間にもぼんやりと意識はありました、その間にキャスターが先輩を唆していたことも知っています」
キャスターは確かに度々俺に助言をくれたりはしたが、唆すだなんてそんな……
「私には分かります……その娘は私と同じように影を抱えた人間です。まともじゃない……先輩!正気に戻ってください!街の人達から生気を吸い取るだなんて先輩らしくありません!」
桜がうっすらと目に涙を浮かべながら、俺にそう訴えかけてくる。
「サーヴァントを令呪で無理矢理に従わせたり、他のマスターを騙し討ちしたり……全部キャスターが唆したことでしょう!」
確かに、それらはキャスターに言われて行ったことではあるが……
「先輩は誰かを見捨てたり、裏切ったりするような人ではないはずです!」
「っ…………!」
桜の言葉に、頭がズキリと痛む。
俺は今まで何をしていたんだ?
桜のためと言いながら多くのものを踏みつけて壊してきたんじゃないのか?
「先輩!先輩の理想を思い出してください!」
俺の理想?
俺の理想、夢、
それは、確か……
「いけませんよ、シロウ様」
痛む頭の中で何かを思いかけた時にキャスターの言葉がその思考を遮るように響く。
「キャ、スター……」
「シロウ様の理想は私が叶えて差し上げます。だからアナタは何も考えずに私の言葉に従っていればいいんです……」
キャスターの言葉に……
「……サクラさん、わたしも最初にアナタと会った時からシンパシーを感じていたんですよ。この娘はわたしと同じように心に闇を抱えているなって」
桜の殺気が混じった視線を受けながらも、キャスターは悠々と言葉を紡ぐ。
「大人の私ならアナタに同情して共感したのかもしれませんが……どうにも幼いこのわたしには同族嫌悪の気持ちの方が強いようですね……ですから……」
スッとキャスターの顔が俺に近づく。
「むぐっ……!」
ぴちゃり、と音を立てて俺の口内にキャスターの舌が入り込んできて、湿り気を帯びた柔らかな感覚に思わず目を白黒させてしまう。
「なっ…………!」
いきなり俺に口付けをしてきたキャスターを見て桜も目を見開いて驚いている。
「んっ……❤️ちゅ❤️んくっ……❤️」
ぴちゃり、ぴちゃりとわざとらしく水音を立てるキャスター、そのニンマリとした視線は俺ではなく桜を見下すように向けられていた。
「あっ、せ、先輩……」
桜が愕然としたように声を発するがその声も俺にはどこかぼんやりとして届いていた。
キャスターの顔が睫毛が触れ合いそうなほど近くにある、自然に映り込む青い瞳に吸い込まれるような感覚
さらにくちゅり、と淫靡な音を立てて這いずり回る舌の感触に思考が麻痺したように動かなくなってくる。
「あはっ……❤️」
ぼんやりとする俺をよそに、ゆっくりとキャスターの唇が離れ、混ざり合った唾液が橋のようにして俺とキャスターの間に伸びている。
そんな光景を見せつけてキャスターは勝ち誇ったような顔を桜に対して浮かべ見せる。
「っ…………」
一瞬だけ顔を伏せて、再び顔を上げた桜はただキャスターのことを見つめていた。その視線は敵意を通り越して殺意と呼べるレベルの代物だ。
ドロドロとした深い感情に濡れた瞳
「あっ、あああああああ!!!」
ドロリとした黒い影が桜の足元から伸び広がる。
その様はまるで世界そのものに墨汁でも溢したかのようだ。
「ほう、これほどとは……!」
キャスターもその攻撃は予想外だったのかそんな光景に僅かに目を細める、そうしてる間にも影はどんどんと広がり俺たちにまで伸びる。
「あがっ……!」
そうして、その影が俺の足元に触れた瞬間に何か禍々しく嫌なものが流れ込んでくる感覚があった。
「シロウ様!」
即座にキャスターが何らかの魔術を使用し、杖から発せられた紫色の光が俺を包み込む。
キャスターの瞳を見ている時に時折感じていた浮遊感、その中でもとびきりに強烈な感覚に意識がふわつく。
「あっ、げげがご……」
だが、それで黒い影の侵食による嫌な感じは消え去ることはなくて、この世のありったけ毒を煮込み合わせたヘドロと麻薬のように甘い砂糖がドロドロと俺の体の中で溶け合っていくかのような錯覚を覚える。
「縺ェ繧薙□縺薙l縺溘☆縺代※」
助けてくれ……そう言おうとして、言葉とも言えない言葉が俺の口から溢れ落ちた。
脳はコンクリのようにふやけて、視界は虹を眼球に放り込んだかのような黒色に染まっている。
「あれれ?もしかして壊れちゃいましたか?わたしの暗示とサクラさんの呪いがぶつかったせいでしょうか……まぁ、中身がどうなっても大した問題ではありませんか……」
そんな俺を見てのんびりとキャスターが呟く、なんとかしてくれ!と思うがそう考える思考すらもバラバラと剥がれ落ちて支離滅裂なものに変わっていく。
「縺ェ繧薙〒縺薙s縺ェ縺薙→縺ォ」
何故、こんなことになったのだろうか
最後に残った僅かな理性がそんな後悔をよぎらせる。
これは報い……なのだろうか
俺は安易に楽な道を選んでその手を汚した。
そして耳を塞ぎ思考を停止させて、その汚れた手の意味を考えることもしなかった。
その末路がまともにモノを考えることも話すこともできない木偶人形だとはお似合いか。
そんな風に考えて……その思考もそのうちにバラバラと崩れるように消えていった。
BAD END