【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「……やっぱり俺は難しいとしても誰も傷つけない道を選びたい。街の人から生命力を吸い取るだとかそんなことはできない。得られる魔力は少なくても街の霊脈から集める方法で行こう」
俺の言葉にキャスターが虚をつかれたようなきょとんとした表情をする。こちらからすればむしろ、何にキャスターが驚いてるのか分からない。
例え合理的なのだとしても、無関係な街の人々を巻き込むだなんてそんな馬鹿げたことできるはずがない。
一瞬でも迷った俺もどうかしていた。
「…………そうですか、流石は正義の味方を目指しているだけとのことはありますね、アナタは……本当にお強いですね」
「いや、そんな大袈裟な……ただ……厳しい戦いになるだろうことも確かだ、キャスターもそれでいいな?」
「はい、それがシロウ様のご決断ならわたしはそれに従います」
「よし、じゃあ、よろしく頼むよ」
それにしても、なんだかキャスターの青い目でじっと見つめられると思考に霧がかかったようにふわついていつもなら選ぶはずのない選択肢に駆られそうになることがある。キャスターの可愛いさに気持ちが浮ついてしまうのだろうか、しっかりせねば。
気持ちを引き締め直して、方針も決まったこれからのことを考える。
するべきことはまず2つ
街の霊脈から魔力を得ることと、新たなサーヴァントを召喚して戦力の増強を図ることだ。
「それじゃ、早速サーヴァント召喚するのか?」
これからのことを話し終えて、早速アクションを取ろうと浮き足立つ俺だが、キャスターに困ったように首を振られてしまう。
「他の誰かに召喚されて枠が埋まってしまう可能性もありますから、早く召喚したいのは山々なのですが……私の体調もまだ万全ではありません。召喚したサーヴァントと戦闘になる可能性もゼロではありませんし、ある程度状況を整えてから召喚しようと思います」
確かに……新しくサーヴァントを召喚したとして、必ずしもすんなり従ってくれるとは限らない。聖杯戦争は本来、最後の1組となるまで殺し合い願いを叶えるバトルロワイヤルだ。
キャスター自身があまり聖杯に固執しているわけではないし、協力するメリットも十二分にあるのでいきなり襲いかかってきたりはしないと思いたいが……サーヴァントとは過去の英雄の写し身、プライドの高い者や血気盛んな者もいるだろう。戦闘になる可能性は頭に入れておくべきだ。
チラリと自らの左手を見る。
うっすらと赤みがかった痣は、サーヴァントを召喚すれば令呪という刻印として形を為すらしい。
最悪の場合は令呪を使用すれば召喚したサーヴァントを制御することはできるのだろうが……一緒に戦っていく相手に無理やり命令を聞かせるような真似はしたくない。聞けば令呪には緊急時にサーヴァントを呼び寄せたり、回復や攻撃力の上昇に使うといったポジティブな用途にも使えるらしいし、そういったことだけに令呪を消費したいものだ。
「さて、召喚をしないとはいえ時間を無為に過ごすほど余裕もありませんからね……今日のところはシロウ様の魔術のほどを確認させていただきたいのですが、よろしいですか?」
キャスターの前マスターを殺したというランサーや若返りの薬を飲ませたという謎の金髪の男、それにまだ見ぬ他のサーヴァント達もいつ襲ってくるか分からない。
その前にせめて俺の戦力を把握しておきたいので、使える魔術を見せてくれということらしい。
「あぁ、じゃあ魔術を見てもらうとするかな。切嗣……あっ、俺の魔術の師匠なんだけど、切嗣が死んでからずっと独学でやってたから。誰かに見てもらうってのは新鮮で緊張するよ」
「そうなんですか、それは教え甲斐がありそうですね」
「とりあえず、いつも俺が魔術の練習をしてる土蔵に……」
気合いを入れつつ、キャスターを土蔵に案内しようと席から立ち上がった時だった。
グ〜と俺のお腹が鳴った。
そういえば、キャスターの看病につきっきりで夕食抜きだったからな。
聖杯戦争など予想外の話を聞かされた疲労やそのあとのまぐわいもあって急に腹が減ってきた。
「あ……ごめんなさい、気が利かなくて。お夕食まだでしたよね?」
「あぁ、なんかパパッと作るよ。キャスターはお腹減ってないか?ついでになんか作るけど」
「いえ、お気持ちはありがたいですがサーヴァントに食事の必要はありませんから……」
「けど、別に食べれないってわけじゃないんだろう?体調と魔力が回復してきたなら食っといた方がいいって」
腹が減っては戦はできぬと昔の人も言っている。
体調的に問題がないのなら食べて英気を養ったほうがいいだろう。
とはいえ、この後に魔術を見てもらうのだからあまり凝った料理を作ってる時間もない。冷蔵庫にあった昨日のあまりの白米でおにぎりでも作ることとするか……
ラップの上に軽く塩をふって、ごはんを乗せ、ふりかけを混ぜる。それからギュギュと三角に形を整えていく。
単純な料理だが、この包む時の力加減で食べる時のフワッとさが変わるのだ。
「さ、どうぞ。口に合うか、分からないけど」
キャスターの前におにぎりをいくつか置いてやる。
食文化というのは地域や時代によって異なるものだ。
現代の日本人にとっては美味しいと感じるものでも、他の時代他の地域で生まれたキャスターにとってはそうではないかもしれない。
少し不安に思いながら、キャスターが食べる様子をチラリと見る。
「…………」
やはり、おにぎりを見たことがないのかしげしげとその青い瞳でおにぎりを見つめ、意を決したようにハムリと口にする。小さな口でモグモグとおにぎりを頬張る姿はまるでハムスターのようだ。
「んっ………美味しい、シンプルな料理ですがそれだけに栄養補給を手早く済ませられる合理性もあってとても良い料理ですね」
コクリとおにぎりを咀嚼し、キャスターがそう評する。なんとかお口にあったようで良かった。
「よし、それじゃ改めて、魔術を見てもらうことにするか」
俺もパクリとおにぎりを口に入れ、腹ごしらえも終えたところでようやく土蔵に向かうのだった。
◇
「ここが、シロウ様の工房ですか……」
土蔵に案内されたキャスターが物珍しげにキョロキョロと辺りを見回す。
「まぁ、工房なんてほど大したもんじゃないけどな、単にここで魔術の練習してるってだけだし」
魔術師の工房といえばフラスコで怪しげな薬品を混ぜたりだとか大鍋をかき混ぜてグツグツと煮込んだりだとかしている印象があるが残念ながらこの土蔵にはそういったモノはない。
案内しといてなんだが、特に面白味はないだろう。
「さて、とりあえず、いつも魔術を使ってる感じでやればいいかな?」
「はい、それでだいたいシロウ様のレベルは測れると思います」
「じゃあ、強化の魔術でも使うかな。と言っても、そんな仰々しく言うほど大した魔術も使えないんだけど……」
強化の対象とするために鉄パイプを目の前に置き、ブルーシートの上にあぐらをかいて座る。
そうしていつものように魔術回路を作る。
丹田に意識を集中させ、体全体をマクロに把握する感覚からもっとミクロに細胞単位まで把握できるように深く深く意識を沈めていく。
そうして神経と血管を掻き分けて魔術回路を繋ぐようなイメージをして……
「…………えっ?」
そこで、キャスターの声が聞こえた。
思わず口から漏れ出たといった感じのキャスターの疑問符に、魔術の行使を中止する。
いつもやってる通りにやったし、まだ強化をする前段階だからそんな変なところはないはずなのだが……
「ん?なんかおかしかったか?」
「あっ……いえ……ごめんなさい、お邪魔してしまって。何でもありませんからそのまま続けてください」
何でもないと言いながらもキャスターのこちらを見る目が動揺を表すように左右に泳ぐ。
過去の英雄たるサーヴァント、それも魔術の得意なクラスであるキャスターより俺の魔術が優れているなどとは思っていなかったしダメ出しされるかもとは思っていたが、こうして困惑の表情を浮かべられるとは思わなかった。
「……じゃあ、改めて……」
キャスターが息を潜めて見守るなか、十分ほどかけて魔術回路を生成する。
「っ…………ふう……」
そうして魔力回路を作り出し、今度は強化を使用するために目前の鉄パイプに手を伸ばす。
「ーーーー構造把握、解明」
目を瞑り鉄パイプに手を当てて、その中身を探る。
指の先に感じる金属の冷たい感覚に、自らの熱を送るイメージ。
そうしてだんだんと鉄パイプと自分の体温が同じになったのような感覚となり、まるで鉄パイプが自分の指の延長かのように思えてくる。鮮明となった感覚の中で鉄パイプの中の金属分の偏りを、僅かな形の歪みを一つずつ確認していく。
「構造の把握……魔術においては基本的な技術ですが、ここまで丁寧に、いいえ……狂気的にやっているのは初めて見ますね」
キャスターがぽつりとなにか呟くが、今の状況ではその言葉を理解する余力はなく、ただ指先の感覚にだけ集中する。
「ーーーー強化、開始」
そうして鉄パイプに神経を通すかのように、その僅かな隙間に魔力を注ぎ入れ……
「あっ…………!」
そこまで工程を進めたところで魔力が霧散するのを感じた。
これは強化の魔術の失敗だ。
「やっぱりダメか……」
元々、強化の魔術を満足に成功させられたことは数えられるくらいしかなかった。キャスターの前だしカッコいいところを見せたかったのだがそう上手くはいかないようだ。
「…………今ので終わりですか?」
「あぁ、ご覧の通り、正直に言って魔術師としては全然でさ。マスターとしては不甲斐ないかもしれないけど……」
キャスターを失望させてしまっただろうか。
そう思い、彼女の方をチラリとうかがう。
キャスターは考え込むように俺をじっと見ていたが、ふと視線を外すとキョロキョロと土蔵の中に視線をさまよわせる。
「……この蔵の中にあるモノからいくつか、魔力の残滓を感じます。投影魔術で作ったモノですか?」
「ん?あぁ、強化はあんまり上手くいかないことが多くてさ。たまに投影を使って息抜きしてたんだ」
「…………なるほど」
転がっていた投影品の壺を手に取り、その表面をキャスターの白い指が伝う。
「…………投影したものを武器にすることは可能ですか?」
「えっ?いや、どうだろう……多分、剣なんかが目の前にあればそれ自体の投影はできるけど、投影ってちょっと欠けたらすぐ崩れちゃうしな」
俺としては投影は暇つぶし程度のものだったのであまり実用に転化することを考えたことはなかった。
武器の投影自体は確かに可能だろうが……
「ーーーー投影、開始」
試しに近くに転がっているレンチを投影してみる。
こちらは強化とは違って、なんとか成功させることができた。
「っ…………」
キャスターがその様子を見て、なぜか身を固くしたが、俺は構わずレンチをガンガンと床に叩きつけてみる。
「ふっ!……よっ!……はっ!」
レンチは何度か打ち付けられる衝撃には耐えたが、3回目でヒビが入り、そこからサラサラと砂像のように形が崩れ始めてしまった。
「幻想は綻びが生じればただの虚構になり下がる……というわけですか」
完全に粒子となって消えたレンチを見て、キャスターが興味深げにそう分析する。
投影したものに欠けが生じれば即座にその物体は消失してしまう。そしてそれは元の投影精度が甘ければ僅かな衝撃で消えてしまうほどに顕著だ。もっと鍛えて投影の精度を上げたらあるいは実用も可能なのかもしれないが、少なくとも今の俺の腕では戦闘に使用することは難しいだろう。
「それで、一通り見てもらったわけだけど……どうかな、俺の魔術?」
構造把握、強化、投影
俺の使える魔術はとりあえず見てもらった。
切嗣以外の人間に魔術を見せるのは今回が初めてだ。
ほとんど独学みたいなものだったとはいえこの10年間、俺なりに鍛えてきたつもりだ。
とはいえ結局、強化も投影も実用の範疇にはない。使えるのは基礎である構造把握ぐらいだ。
そんな俺に対してキャスターがどんな評価下すのかドキドキとしながら待つ。
「えぇ……えぇ、素晴らしい力です。正義の味方になるに十分な魔術ですよ」
そうして返ってきたのは、予想以上の高評価であった。
「えっ、ほんとに?その……自分で言うのもなんだけど、強化とか失敗しちゃったし、ひどいできだったろ?」
「確かに、未だ未熟な部分はありますが。鍛えれば十二分にサーヴァントにも通用しうる可能性もありますよ」
にっこりと優しげな笑みを浮かべて、キャスターがそう太鼓判を押してくれる。
「サーヴァントにもか……過去の英雄相手に俺が戦えるかは分かんないけど……」
「もちろん、今すぐは無理ですが少し指導すれば戦えるようになりますよ。私が指南しますから一緒に鍛えましょう!」
キャスターが俺の手を取ってそうニコリと微笑みかけてくれる。
そう自信満々に言われると、俺もなんだが出来るんじゃないかと言う気持ちになってくる。
キャスターの指導か……一体、どんなことをするのやら。
「そういや、キャスターって魔術師のクラスなわけだしやっぱり魔術が上手いんだよな?問題なければ見せてもらってもいいか?」
「わたしですか?まぁ、構いませんが……」
キャスターの魔術の腕前を疑っているわけではないが、そもそも俺は他の魔術師というものをよく知らない。単純に好奇心からキャスターがどの程度の魔術が使えるのかは見ておきたい。
「さて……それでは、僭越ながら……」
キャスターが小さく咳払いし、どこからともなく赤銅色の錫杖を取り出す。月の意匠があしらわれた杖を持つキャスターをアニメなんかに出てくる魔法少女みたいだな、なんてことを思いながらぼんやりと見つめる。
「◼️◼️◼️◼️」
瞬間、目の前がパッと明るくなった。
何が起こったのが頭がついていかなかったが、どうやらキャスターが呪文を唱えると共に小さな火の玉が目の前に出現したようだ。俺の使う強化の魔術なんかは魔術回路の形成も合わせてかなりの時間を要するが、キャスターほどの魔術師になるとたった一言で魔術の行使が可能らしい。
さらにキャスターは杖を少し動かして炎の形を操り、小さな人型を取らせトコトコと歩かせて見せる。
「おぉ、すごいな!切嗣だってここまでの凄い魔術は使えなかった」
「そ、そうですか?今は魔力に余裕がないのでこんなモノはホントに初歩的なモノなのですが……」
褒められて恥ずかしいのか、僅かにはにかみつつ炎や氷、光の玉などをポンポンと杖から出して見せる。
「いや、すごいなほんと!絵本や映画なんかに出てくる『魔女』みたいだ」
俺の使える魔術は強化や投影など地味なモノばかりだ。
色とりどりの閃光を放つキャスターの魔術を見てホントに綺麗だと思った。
だから、そう褒めたつもりだったのが……
「……………………」
俺の言葉に何故かキャスターは押し黙ってしまう。
「少し……魔力を使いすぎたかもしれません。あまり無駄遣いするわけにもいきませんしこの辺にしておきましょう」
言葉と共にフワフワと浮いていた光の玉なんかがフッとかき消え、先程まで蔵を照らしていた幻想的な光景は一気に元の薄暗い現実へと引き戻される。
「あっ……あぁ、なんかごめんな?ちょっとはしゃぎすぎちゃったか」
「いえいえ!シロウ様にお褒めいただいて私も舞い上がりすぎていたようです」
しまったな、キャスターの魔術があんまりにも凄かったから騒ぎすぎたかもしれない。キャスターはまだ病み上がりで魔力だって余裕があるわけではないのだ、そのことを忘れてはいけない。
「さて、それではシロウ様の魔術も確認できましたし、今日のところは休むとしましょう」
キャスターが話を打ち切るようにして、土蔵から出る。
俺も今日は色々なことがあってだいぶ疲れた、このあとは大人しく眠るとしよう。
◇
「じゃあ、俺はあっちの部屋で寝るから。もし何かあったら呼んでくれ」
外人は慣れない布団だと眠りにくいという人もいるらしいが、キャスターの場合は特に問題なさそうだし先ほどの看病で寝かせていた布団をそのまま使ってもらって俺は別室で寝るとしよう。
「あっ、いえ……私は霊体化してシロウ様のお側に控えておくつもりです。敵の襲撃があるかもしれませんから」
霊体化……そういえば、サーヴァントは姿を消してその身を潜めることができるのだったか。
「それってちゃんと休めるのか?」
「臨戦態勢でいるよりは魔力の消費は少ないはずです」
「けど、キャスターは寝ずに敵の警戒するんだろ?まだ万全の状態でもないのにそんなことさせられないよ」
というか、仮にキャスターの体調が万全であっても女の子に寝ずの番をさせて自分だけ眠れるほど俺の神経は図太くない。戦略的に考えても、キャスターにはしっかりと休息を取ってもらった方がいいだろうしここはちゃんと眠ってもらおう。
「さて、それじゃあ改めておやすみ……」
「その、可能ならばシロウ様と床を共にしたいのですが……」
今度こそ部屋を出ようとした俺の服の裾をキャスターが遠慮がちに引っ張る。
「えっ……それってまさか……」
「あぁ、いえいえエッチな意味ではありませんよ、シロウ様には英気を養っていただくためにもゆっくりと休んでもらわなくてはなりませんから」
思わず顔を赤くした俺の言葉をキャスターがやんわりと否定する。
む……キャスターと致した行為の記憶がまだ目新しいからかとんだ早とちりをしてしまった。
キャスターが言ってるのは別室ではなく、同室で睡眠を取った方が安全だと言う話だろう。
いかんな、思考がまだ不埒な方向へと傾いているのかもしれない、俺は堅実に戦う道を選んだのだから下らない考えは捨てなければ。
「そうだな……じゃあもう一つ布団をこっちの部屋に持ってくるよ」
「あぁ、いえ……確かにエッチなことはしませんが、どうせならば同じ布団で眠りたいのですが……」
「え、いや、それは……」
敵の襲撃に備えて、近くで寝る必要があるのは分かる。
だが、わざわざ同じ布団で寝る必要があるのか?
そう困惑する俺にキャスターがまくし立てるように言葉を重ねる。
「シロウ様とはまだ、正式な魔力パスは結んでいませんが魔力のある人間の近くにいるだけでサーヴァントは魔力が回復できるのです。どうせ睡眠を取るのなら、より効率的な休息方法にすべきですからね。肌が密着できるほど近くで眠るのが良いです」
「そう……なのか?そんなので魔力のやり取りなんてできそうにないが……」
魔力なんてそう簡単にやり取りできるもんじゃないはずだ。
だからこそ魔力のパスを結んだり先ほどのまぐわいのような深い肉体的接触が必要なわけで、流石に近くにいるだけで魔力が回復するってことはないんじゃないかなぁと思うのだが。
「…………誤差レベルで、僅かながら、回復できるとかできないとか……」
俺の問いに尻すぼみに声を小さくしながらキャスターが答える、大した効果は見込めないということだろうか。
「まぁ別にデメリットがあるわけでもないし、一緒に寝たいって言うなら構わないけど……」
気まずそうに目を逸らしていたキャスターの顔がパッとほころぶ。
「シロウ様と一緒に眠れるなんて嬉しいです!さぁ、そうと決まれば明日も早いですからね!サッサと寝てしまいましょう!」
言うが早いかキャスターがパチンと指を鳴らす。
それと同時にキャスターの身に纏っていたフリフリとしたドレスのような衣装のフリルやスカートの前垂れなどの装飾部分が空中に粒となって消える。残ったのは、ネグリジェのように薄い下着部分だけ。
パジャマが無いから仕方ないとはいえ、随分と扇情的な格好だ。
「じゃ、じゃあ電気消すぞ」
「はい、おやすみなさい。シロウ様」
あまり見てるのも気まずいので、さっさと電気を消して視覚情報を断つ。
「…………」
暗闇の中、布団に入る。狭い布団に2人も入るのだ、キャスターが小柄だとはいえ必然的に体は接触しその肌が俺の肌に触れる。
「ふふ、ぬくぬくですね」
何がおかしいのかキャスターがクスクスと笑う。
確かに触れ合った肌を通じてキャスターの体温を感じるがこちらとしては笑い事ではない。
眠ろうと目を瞑っても、先程チラリと見たキャスターのネグリジェ姿を思い出してしまう。
スラリとした長い足、僅かにくびれた腰つき、抱きしめたら砕けてしまいそうな薄い体、僅かな……しかし確かな膨らみが感じられる胸、透き通るほど白い首筋。
子供というには女性らしく、しかし大人と呼ぶには未成熟な体。
「な……なぁ、やっぱりまずくないか?その……一応、俺、男だぞ?キャスターとしても嫌じゃないのか?」
先ほどのまぐわいはあくまでも魔力供給のために必要なことであった。
俺が途中から調子に乗ってキャスターを襲うような形になってしまったし、キャスターもそれをまんざらでもないような態度を取っていたがあくまでもそれはそれだ。
こうして狭い布団の中で密着し、睡眠という無防備な姿を晒すのはまた別種の気まずさがある。
「シロウ様はお嫌ですか?」
返ってきたのは今にも泣き出しそうな声。
表情は見えないがきっと雨の中で捨てられた子犬のような表情をしてるのだろう。
「嫌ってわけじゃないけどさ……」
「なら問題ありませんね!」
嫌悪感など微塵も感じさせない声でキャスターはそう結論づける。
そうして、しばらくするとすぅすぅと安らかな寝息が聞こえてきた。どうやら、もう眠ってしまったらしい。緊張しているこちらが馬鹿らしくなる。
とはいえ……キャスターはあまりにも俺に対して警戒心が薄い気がする。いや、もっと言えば妙に好意的だ。
昔、他人からの好意に鈍感だと言われたことがあるが、そんな俺が好かれていると感じるのだからよっぽどだろう。いくら俺がキャスターを助けたとは言え、ここまですぐに気を許せるものなのだろうか?
「ただの思い上がりなのかぁ……」
街の人々から生命力を吸い取るだなんて発想をなんでも無いことのように語っていたキャスター、過激な思想としか思えないがそもそもキャスターの生きていた時代と現代では色々と倫理観も違うのだろう。
ちらりと眠るキャスターの寝顔を見る。
瞼を深く閉じ、口を薄く開けて警戒など微塵もしていないようなあどけない表情。
過激な発言や俺への好意的な態度は気にかかるが、その表情からは子供らしい無邪気さとお淑やかな清楚さしか感じられない。
あまり現代の価値観を押し付けるのも窮屈だろうし、どうしても暴走するようならばその時はきちんと話せば聞いてくれるだろう。
そんなことをつらつらと考えているうちに、いつのまにか俺の意識も睡魔へと呑まれていくのだった。