※この作品はR-18です。

せどりライターはカリスマバンドマン達と宅飲みに耽る   作:トクメイデス

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原作時間軸:(前:原作での話の前、中:原作での話の途中、後:原作での話の後)
『ぼっち・ざ・ろっく!』 1巻第13話後~2巻第0話前
『廣井きくりの深酒日記』1巻第4話中~1巻第5話前


第01話 後藤一人(かずと)とは

 台風一過の直後。コインパーキングに停めた車から降りた男は一人、その近くにある居酒屋『かおみせ』へと向かっていた。

(下北沢か……あんまりこっちには来たことないが、結構面白そうな店が多そうだな)

 本来であれば生活圏から外れているのだが、今回は用事があって下北沢に来ていた。そして歩くこと数分、スマホの地図アプリを片手にようやく、目的の居酒屋が見えてきた時、二人の少女が店の前で何かを話していた。

(……ああ。いたいた)

「全員で人気バンドになって、うっ売れて学校中退したい……」

 その少女の言葉に、男は思わず足を止めてしまう。

(な、何を言っているんだあいつは……?)

 夜も遅いからと、叔父に頼まれていとこを迎えに来たのだが……その少女、後藤ひとり15歳の重い想いに、思わず委縮してしまう。

(どうしよう……聞かなかったことにするか?)

 しかし、叔父の直樹に頼まれた以上、迎えに行くことは確定事項だ。仕方なく、聞かなかったことにして時間を空けようと少し、様子を窺う。

「これからもたくさん見せてね。ぼっちちゃんのロック……『ぼっち・ざ・ろっく』を!」

「あっはい!」

(青春だな~……俺の高校時代とはえらい違いだ)

 コミュ障を自称するいとこのひとりとは違い、高校時代の男は完全に一人の世界を楽しんでいた。クラスメイト達とは別に交流がないわけではなかったが、基本的につるんでいたのはあぶれ者同士の女生徒だけ。

 だからこそ、アニメや漫画でしか見ないようなシチュエーションに、思わず感心してしまう。そうこう考えている内にひとり達は店に戻り、すでに数分が経過していた。

(……今店に入れば、さっきの会話を聞かなかったことにできるな)

 ひとりのバンドメンバーやバイト先の店長も居ると聞いていたので、手土産を二つ持参した上で財布の中にある複数の紙幣、その内の一枚が五千円であることを確認する。後は定型文の挨拶だけ残して、車でひとりを叔父の家へと送り届けるだけだった。

「いらっしゃいませ~」

「あ、いえ、人を迎えに来ただけです」

 応対してきた店員に、迎えに来た相手の特徴を伝えて案内して貰う。そこでようやく、いとこのひとりと顔を合わせた。

「すみません。いとこのひとりを迎えに来たのです、が……」

「……あ、お兄さん」

『お兄さん?』

 皿の上に残っていた唐揚げを取ろうとしていたひとりが、男の方を見てそう漏らしてくる。その発言につられて、その周囲に居た同席者達が同じ言葉を繰り返してから、一斉に振り向いてきた。

 しかし、男の視線は先程の『お兄さん』発言に、唯一加わっていなかった女性に向けられていた。

「…………きくり?」

「ん~……?」

 そう呼ばれた三つ編みの目立つ女性、廣井きくりはアルコールでグルグルになった眼差しを向けると、ニコーと微笑みながら話し掛けてきた。

「……あれ~? かず君何でここに居るの~?」

「そりゃこっちのセリフだ」

『かず君?』

 今度はひとりを含めた、きくり以外の全員がそう呟いてくる。仕方がないとばかりに男、後藤一人(かずと)は軽く息を吐いてから、自己紹介をした。

 

 

 

「ええと……初めまして。後藤ひとりのいとこで、後藤一人(かずと)と言います。ついでに言うと、そこで飲んだくれている廣井きくりの彼氏です」

『…………はあっ!?』

 

 

 

 言葉の理解が追い付いた途端、その場に居る全員が一人(かずと)ときくりを交互に見比べていく。

「おまっ、え、ぼっ、ぼぼっ、いや違っ……ひっ、ひとりちゃんのいとこで、廣井の彼氏ぃ!?」

 金髪を伸ばした女性が代表するかのように、全員が思っているだろう疑問を一人(かずと)にぶつけてくる。そして、当の本人はそれに対し、静かに頷いた。

「言わんとしていることは分かります……」

 ……頭を抱えながら。

「後、本人が気に入っているみたいなので『ぼっち』呼びで大丈夫ですよ」

 初めて聞いた時は『こいつマジか……』と思ったものだが、当の本人が気に入っている以上、一人(かずと)の方から言えることは何もない。

「お~い、かず君も飲もうよ~」

「今日は車だ、馬鹿」

 一応は彼女だが、一人(かずと)はきくりにそう吐き捨ててから、ひとりに帰宅の準備を促した。

「ではすみません。今日はもう遅いので、後日改めて挨拶させていただきます。あ、後良ろしければ、こちらもどうぞ」

 そして、出先で購入してきた手土産の入った紙袋をバンドメンバーとアルバイト先で一つずつ、後は『会計の足しに』と財布から取り出した一万円札を問い詰めてきた女性、伊地知星歌に手渡してから、ひとりの荷物を持ち上げた。

「それでは失礼します。今後とも、ひとりのことをよろしくお願いいたします」

「じゃ、じゃあ皆、えっと……また」

 各々がひとりに挨拶を交わしていく中、一人(かずと)の元へともぞもぞと近付いてきたきくりは立ち上がり、身体を寄せながら話し掛けてきた。

「何々~、かず君ってぼっちちゃんのお兄さんだったの~?」

「……だから、いとこだっての」

 相変わらず飲んだくれているきくりが抱きついて来ようとするが、公共の場な上にこれから車に乗るので酒気を浴びないようにと、無理矢理押し返した。

「お前こそ、いつひとりと知り合ったんだよ?」

「この前酔っぱらって金沢八景まで行った時に、チケット買ってあげた~」

 チケットノルマをさばけずにいたひとりが、通りすがりの凄腕ベーシストに助けて貰った話は聞いていたが……それが目の前にいる飲んだくれだったとは、さすがの一人(かずと)も予想だにしていなかった。

(『酔っぱらいのお姉さん』って聞いた時は、まさかとは思っていたが……)

 そもそも、女性で常時酩酊状態の凄腕ベーシストな時点でその可能性に至れなかったことに、一人(かずと)の頭痛はさらに酷くなってくる。

「それより一緒に飲もうよ~」

「だから……っ!」

 未だにしつこくすり寄ってくるきくりを強引に座らせてから、一人(かずと)はひとりと共に背を向けた。

「今日はひとりの迎えだって言ってんだろうがっ!」

「何だよ~! せっかく帰ってきたのに彼女は無視かぁ!」

「元々明日のライブ明けに会う予定だっただろうが! 偶々会っただけですり寄って来んじゃねぇ!」

 思わず手や足が出てしまう前にと、一人(かずと)はきくりに叫び返しながら、ひとりと共に店の出口へと向かっていく。

「彼女よりいとこの方が大事なのかっ! 彼氏の風上にも置けない奴めっ!」

「飲んだくれの酒クズ彼女よりも、大恩ある後藤家のご息女様優先に決まってんだろうが馬鹿野郎っ!」

 罵詈雑言の応酬と共に、一人(かずと)とひとりは店を後にした。

 

 

 

「ぅぅ、愛しの彼氏に『馬鹿野郎』って言われたぁ……このカリスマベーシストの私から告ったんだぞぉ~、少しはデレろよぉ~……」

「……あれ、ぼっちちゃんって良い所のお嬢さんだったの?」

 涙目でカミングアウトしているきくりを放置したまま、そう聞いてくる星歌に妹の虹夏は『多分違う』と、首を横に振って答えた。

「お家は……普通のご家庭だったよね? 喜多ちゃん」

「はい。一軒家なので『多少裕福かな?』とは思いましたけど……それ以外は伊地知先輩の言う通り、普通のご家庭って感じでしたよ?」

 そう言い合いながら顔を突き合わせる虹夏と郁代に、多少は落ち着きを取り戻したきくりが答えた。

「……ああ。それなら多分、親を亡くして天涯孤独だったところを叔父さんの実家が引き取ってくれたからじゃない? 『そのおかげで今がある』って、昔話してくれてさ~」

 きくりの言葉に、その場に居た全員が黙り込む。ただ一人、りょうだけは残った料理を片っ端から口に運んでいたが。

「ま、別に気にしなくていいって、いいって~」

 居た堪れない空気になっているにもかかわらず、涙を止めたきくりはやれやれと肩を竦めて、首を振り出した。

「大体こんなの、自分に降りかかってないだけでよくある話じゃ……ぜんばい、ぐるじぃ~」

「……ああ、よくある話だな。おい」

 同じく母親を亡くしている伊地知姉妹の冷たい視線に晒されながら、星歌に胸倉を掴まれたきくりは宙吊りにされ、再び涙目になってしまうのだった。

 

 

 

(ああ、疲れる……)

 ひとりを送り届けるだけだと思っていたので、大したことはないからと叔父、直樹の頼みを聞いて引き受けたのだが、まさか彼女のきくりがいるとは思わず、余計に体力を消耗させられた気分になってしまう。

「……お兄さん、送ってくれてありがとう」

「気にすんな。むしろ悪かったな、ライブに行けなくて」

「ううん、大丈夫……」

 事前に予定が埋まっていたとはいえ、ライブに行けなかったことを少し残念に思う一人(かずと)だった。

「それにしても……お兄さん、お姉さんと付き合っていたんだ」

「……まあ、今のところ話す気はなかったけどな」

 付き合ったからといって、必ずしも結婚にまで至るとは限らない。結局は婚姻前のお試し期間みたいなものだ。しかも一人(かずと)達の場合、ある事情が片付くまでは進展できないので、後藤家にきくりを紹介する気はさらさらなかった。

 ……ひとりが、誰かとバンドを組むまでは。

「ひとり……」

「うん?」

 助手席から振り返ってくるひとりに、一人(かずと)はハンドルを回しながら告げた。

「……本気でバンドで食っていきたいなら、あいつに色々聞いとけ。先輩バンドマンの現実を知っても続けたいって思うなら、誰も止めはしないだろう」

 むしろ、叔父達は嬉々として推し進めそうな気もするが……そう思いはした一人(かずと)だが、下手に口にすると別の意味で本気にしかねないので、今は伏せておくことにする。

「お兄さんは、止めたりしないの?」

「本気で何かに取り組んでる奴を、外野があれこれ言ったところで止められるわけないだろ?」

 もうすぐ……ひとりの家が見えてくる。派手に出迎えてくれるだろうとは思いつつも、手土産を渡したら早々に立ち去る気でいた一人(かずと)は、アクセルを緩めながら言葉を吐いた。

「大事なのは、お前がどうしたいかだ。ヤバそうになったら止めてやるから、まずは好きにやってみろよ」

 ひとりが望むなら、手助け位はする。けれども、自分から動かない奴に何かをしようとする程、一人(かずと)に過干渉な気質はなかった。

「うん……ありがとう」

 その言葉と共に、車は停まった。

「……あ。後最後に、きくりについてだが」

「?」

 車から降り、荷物とギターケースを手渡しながら、一人(かずと)はひとりに忠告する。

「音楽に関して相談があるなら聞いても良いが……それ以外は絶対に聞くな。むしろシカトしろ」

「あ、うん……」

 その言い淀みに、一人(かずと)はもう手遅れだと悟ってしまう。

(明日……いや、今すぐしばきに行こう)

 遠慮とは別の意味で、一人(かずと)はひとりと叔父夫婦の見送りを受けながら、東京へととんぼ返りした。

 

 

 

 一方その頃、伊地知家では。

「最近じゃ後輩達からも嫌がられるし。かず君なんて取材旅行とかで家に居ないことも多い上に、居ても二回に一回は追い返そうとしてくるんですよぉ~……」

「引っ越せよ……」

「そんなお金ないですよぉ! 借金に追われてるから!」

「え? お前借金まであんの?」

(堅実に生きよう……)

「そうですよぉ! しかもかず君、『借金完済するまでは絶対結婚しないし、同棲もしないからな!』って言ってくるしぃ!」

「……いや、それは彼氏が正しい。むしろ何で捨てられてないんだよ?」

(だから紹介されてなかったんだ……ぼっちちゃんが知らないわけだよ)

 

 

 

 

 そして東京に戻ってきた一人(かずと)は、車から降りてすぐにスマホで電話を入れた。相手はもちろん、彼女のきくりだった。

『……はい。廣井のスマホです』

 しかし、出てきたのはスマホの持ち主ではなかった。けれども、一人(かずと)がきくりの状況を知るには、それだけで十分だった。

「あ、夜遅くにすみません。後藤ですが……そのスマホの持ち主のきくり(クズ)、今どうしてますか?」

『その廣井(クズ)なら今、バケツにゲロゲロ吐いてるところだよ……』

 フランクな口調で話す星歌に構うことなく、きくりの様子を聞いた一人(かずと)はやはり迎えに行くべきだと考えて、自宅に戻らずに再び車へと乗り込んだ。

「申し訳ございません、そのきくり(クズ)はこちらで引き取ります。これからそちらに伺うか、近くまで連れ出していただくことは可能でしょうか?」

『あ~……じゃあ、『STARRY』ってライブハウスの前まで来てくれ。廣井を(このクズ)店の前に転がしとくから、勝手に持ってってくれると助かる』

「分かりました。お詫びはまた後日、日を改めて」

 再び車で近くまで移動し、停めてから歩き出した先に転がっているきくりを回収した一人(かずと)は、そのまま自宅へと引き返していった。

 

 

 

「ぅぅ~……」

 ベッドに転がされながら呻くきくりに、椅子に腰掛けた一人(かずと)は肘掛けに腕を置き、その様子を眺めていた。

(本当、何で付き合ったんだろ……)

 いきなり呼び出された先で待っていたきくりに『ずっと好きでした、付き合ってくださいっ!』と言われた時は、さすがに面食らってしまった。だが、あまりにも真っ直ぐにぶつけられたので、その気持ちに応えたくなって付き合いだした……のが運の尽きだった。

「あぁい……ぁ、あぇ? かず君?」

「……ようやく起きたか、きくり」

 ベッドの上で目を覚ましたきくりは、未だに酩酊状態のグルグル眼で顔を動かし……自身の両手が頭上に伸ばされ、両手首を手枷で拘束されていることに気付く。

「え~……またぁ?」

「そりゃこっちのセリフだ」

 しかし、きくりにとってこれは初めての経験ではない。一人(かずと)と付き合い始めて半年もしない内に『介抱中に暴れ出さないように』と、以前面白半分で購入していたSMグッズを用いだしたのが事の発端だが……まさかそのまま情事に繋がるとは、二人共思いもしなかった。

「お前もいいかげん、懲りろよな……また人様に迷惑掛けやがって」

「ぅぅ……」

 きくりが目を覚ましたので、一人(かずと)も椅子から立ち上がると、そのまま彼女が横たわっているベッドの上にその身を乗り出した。

「……そんなにお仕置きされたいのか、きくり」

 風呂上がりの残り香が鼻腔をくすぐってくるが、いつものスカジャンとキャミワンピースを身に纏っている。服は替えなかったのか、それとも着替えさせられた上で放り出されたのかは知らないが、それも含めて謝罪しなければならないだろう。

「まあ、その件は後だ。それより……」

「あひゃぁっ!」

 キャミワンピースのスカートの中に手を入れ、細過ぎる肢体の上に指をなぞらせて這い上がらせていく。徐々に股座のショーツ、次に胸部を覆うブラを晒していくが、酔いが回っている上に拘束されたきくりに、一人(かずと)を止める術はない。

「初めて見る下着だな。さっきまでお前を介抱してくれてた人の物か?」

「ぁ、ぅ……ぁぃ。妹ちゃんが用意してくれた着替えです」

「妹ちゃん、ね……」

 捲れ上がったキャミワンピースはそのままに、一人(かずと)の手は下の方へと引き返していく。そのゆっくりとした指先は、きくりの股座へとにじり寄っていた。

「そういえば気になってたんだが……居酒屋に居た人達と知り合いなのか?」

 ひとりとの関係はすでに聞いているが、それ以外の繋がりがよく分からず、一度本人に聞いてみる一人(かずと)。指先が陰部、さらにはショーツの手前で止まったことで焦らされているきくりは、面白い位にベラベラと話し始めた。

「ぼっちちゃん達がライブしてたライブハウス、私の大学の先輩がやってて……」

「……おい、マジか」

 だとしたら、バンドメンバーで同じ大学だった岩下志麻にも話を通した方がいい。そう判断し、きくりから一度離れた一人(かずと)はスマホを手に取ると、すぐにロインを飛ばした。

『きくりがまたやらかした。お前等の大学の先輩で、下北沢でライブハウスやってる人に心当たりあるか?』

 すでに深夜帯で、健康的な生活を送っている志麻からの返事は朝になるかとも思っていたが、予想よりも早く反応が返ってきた。

『おい、まさかそれって、伊地知先輩のことじゃないよな?』

「きくり……その先輩って、伊地知っていう人か?」

「そう、そうだから、早く続きを……ひゃぅっ!?」

 片手で器用に、傷めないようにショーツを脱がしながら、もう片方の手ではスマホを操作し、ロインを飛ばしていく。

『どうもそうらしい。きくりを回収した上で、後日謝罪に行くとは伝えてある』

『分かった。謝罪の件はこっちで対応するから、クズの方は任せた』

 話が纏まった後、スマホを置いた一人(かずと)は入れ替わりに、コンドームの入った箱を手に取った。

「……で、おいクズ」

「ぅ、ぅ、ぅぅ~……」

 ショーツを完全に脱がし終え、陰部が丸出しになってしまっているきくりをベッドの上で見下ろしながら、一人(かずと)もまた下半身を晒した。いくら不健康で貧相な身体とはいえ、愛しの彼女の裸体だ。息子の方は露出した途端、ビキビキと硬直し始めている。

「これからお前を犯す。いいな?」

「ぃ、ぃぁ……」

 箱からコンドームを取り出そうとする中、きくりが返してきたのは否定とも何とも取れない呻き声のみ。しかし一人(かずと)は、ただ自分の分身を見せつけるだけだった。

「……そうか、嫌なら仕方ないか」

「…………ぁぇ?」

 勃起状態のペニスをくい、くいと揺らしながら、一人(かずと)はきくりの身体に触れるだけで、それ以上に何かをしようとはしなかった。無論、秘所にだけは一切手を伸ばさずに。

「いくら恋人同士でも、合意がないと不同意性交等罪が適用されるかもしれない。だから仕方ないよな~」

「ぅ、ぅぅ……」

 全身できくりに覆いかぶさっていく一人(かずと)だが、一線は越えたりしない。若干ゲロ臭い口元の近くを舐め回しながら、相手の方から求めてくるように誘導する。

「さて、どうして欲しいんだ? この借金まみれの酒クズベーシストが」

「ぅぅ、ぅぁああああん!?」

 身体中を舐め回すように這い回る指だけで、きくりの昂りは限界に近くなってきているらしい。肉棒にぶつからないよう、暴れ出す足を抑え込んでいる間に求める声が飛んできた。

「嫌だ、嫌だ! 意地悪しないでっ、もう焦らさないで挿れてよ……かず君っ!」

 絶頂に達しそうで至れない、その状態に耐え切れなくなったきくりがそう叫んできた。一人(かずと)はもう一度、抑え込んでいた腕に力を入れてから一度離れ、陰茎にコンドームを被せていく。

「少し、力を抜け……いちっ!」

 ズブッ!

「あうっ!?」

 きくりが呻くのも厭わず、一人(かずと)は腰を振り始めた。

「にっ、にとさんはっ!?」

「下手にカウントしたら、お前力入れるだろうが。痛めない為の配慮だよ配慮」

 すでに、前戯で解れていたからこそできる芸当だ。本来であればあまり褒められた行動ではない。

「大体、お前は、いっつもいっつも……」

「ぁぅっ、ぁっ! ぁああっ!?」

 パンッ、パンッ、パンッ…………

「人様に迷惑ばかり掛けやがって、本当にっ!」

「ごっ、ごっごご……ごめんなしゃぁいっ! か、かじゅくんっ、こうしょくっ、こうしょく解いてぇ……っ!?」

「駄目に決まってんだろ馬鹿っ!」

 それではお仕置きにならないと、一人(かずと)は自身の肉槍できくりの膣内を蹂躙し、やがて果てた。

「ぁぎゃはっ!?」

 そして同時に、きくりも達してしまう。目尻に涙を浮かべ、息も乱れて口元が涎まみれになっている彼女の顔に自分の口を近付けた一人(かずと)は、そのまま耳元へと寄せて、囁きかけた。

「まあ……そんなクズなところも好きだけどな、きくり」

 拘束を解いた一人(かずと)は、きくりと共にベッドの上で眠りに就いた。

 

 

 

 翌朝、ベッドの上には一人(かずと)しかいなかった。

「ん…………」

 時計を見ると、すでに九時に差し掛かろうとしている。取材旅行から帰ってきてすぐにひとりを送り届け、その足できくりを回収したのはさすがに堪えたらしい。

 まずは、下半身だけ裸という間抜けな姿をどうにかしようと、まずは上の服を脱ごうとした時、ダイニングキッチンの方からきくりが顔を出してきた。

「あ、お、おはよう……かずと君」

「……おはよう、きくり」

 酒が抜けて、完全にシラフになっているきくりはキャミワンピースの上からエプロンを纏い、部屋の中へと入ってきた。

「朝ご飯、作ったんだけど……お米で良かった?」

「ああ、特に決めてなかったから大丈夫だ。着替えるからちょっと待っててくれ」

 そう言い、先にダイニングキッチンの方へと戻そうと手を振ってくる一人(かずと)に、きくりは下半身に視線を向けないようにして、背中を向けて部屋を出て行った。

 ……チラチラと見ていたのは丸わかりだったが。

「はあ……さて、と」

 着替えを身に着けつつも、一人(かずと)の手はスマホに伸びていた。

『昼までにはきくりを追い出して、『FOLT』に行かせればいいか?』

『頼んだ。後、謝罪はライブ前にこっちで済ませておくから、後藤はもう気にしなくていいぞ』

『OK(スタンプ)』

 着替え終え、志麻とのやり取りを済ませた一人(かずと)はダイニングキッチンの方へと歩き出した。

 一人(かずと)の家は二人用の分譲マンションの一室で、『家賃と考えれば一月当たりのローンの金額が安い』から選んだようなものだった。不便があればさっさと出て行こうかとも思っていたのだが、中古の割には存外居心地が良く、大学に入学してからはずっとここに住んでいた。

 南と北にそれぞれ部屋がある2DKの間取りで、その間にダイニングキッチンや水回りが揃っており、そこにあるテーブル席にきくりは腰掛けていた。その向かいに一人(かずと)が座ったことで、二人の朝食は静かに始まる。

「ど、どうかな……?」

 おどおどと心配そうに見つめてくるきくりに対して、一人(かずと)は素直に答えた。

「いや、美味いけど? そんないつも聞かなくたって」

「よ、良かったぁ~……」

 返事を聞いてすぐ、本気で安堵した表情を浮かべてくるきくりに、一人(かずと)は表情に出さないように努めながら嘆息した。

(……本当、酔ってる時と性格が違い過ぎるな)

 シラフでいる時は高校時代の、まだ『廣井』と呼んでいた頃のきくりとまったく同じだった。引っ込み思案で根暗なところは変わっていないが、一人(かずと)にとってはこちらの方が付き合い慣れているので気にならなかった。

(まあ酔ってる時は酔ってる時で、『気の合う飲み友』感が強いからあっちも好きだけど……本当に同一人物か?)

 付き合いたての頃はこの二面性によく混乱したものだが、慣れれば妻妾同衾で興奮できることに気付いた途端、あまり気にならなくなった。

「……ちなみに何で、昨日は拘束されたまま犯されたか分かるか?」

「あっ、あっ、あ……」

 一人(かずと)がそう問いかけた途端、きくりは取ろうとしていたおにぎりを皿の上に落とし、椅子の上で怯えたように縮こまってしまう。

「わっ、私がまた、酔って皆様にご迷惑をおかけして……せっ、切腹っ! 切腹してお詫びをっ!?」

「落ち着け、俺が悪かった。もういいからっ!」

 発する言葉と共に、一人(かずと)は椅子から立ち上がったきくりの手を取り、キッチンから包丁を掴もうとするのを強引に止めた。

「大体今日だって、ライブあんだろうが。死んでる場合かっ!」

「……あっ!?」

 今頃思い出したのかと、呆れる一人(かずと)だったが、次のきくりの叫びに、ますます頭痛が加速してしまう。

「あ~っ! ベース失くしたままだったっ!?」

「…………」

 今度は急いで楽器を探しに行こうと駆け出すきくりの肩を掴んだまま、一人(かずと)はスマホを取り出して電話を掛ける。

 連絡した先は、『SICK HACK』のホームでもある新宿のライブハウス『FOLT』だった。

『……はい、新宿『FOLT』』

「あ、銀さんですか?」

『ちょっと、その声一人(かずと)でしょ? 『銀さん』なんて呼んでくるのはあんただけよ』

 電話に出た新宿『FOLT』の店長、吉田銀次郎が電話越しにそう言ってくる。一人(かずと)からすれば『銀ちゃん』は子供っぽ過ぎるし、『銀次郎さん』はかしこまり過ぎているからと『銀さん』呼びにしているのだが、本人はあまり気に入っていないらしい。

 おそらくは木刀を持ったギャグマンガの主人公を思い浮かべているのだろうが、一人(かずと)からしてみれば、『銀さん』呼びの方が距離感的に丁度良いので、未だに変えずにいた。

 さすがに本気で嫌がりだしたら止めるつもりだったが、そこまでではないからとダラダラ続けているのが現状である。実質、『銀さん』呼びは一人(かずと)しかしていないということもあるが。

『何、帰ってたの? ……まあ丁度良かったわ。どうせまたきくりが『ベース失くした』って騒いでるんでしょう』

「まさしくその通りです。それで、何か連絡はありましたか?」

 念の為にと、ベースの入ったギターケースには『持ち主と『FOLT』の連絡先』を書いたカードも同封していたのだが、どうやら無事連絡が届いていたらしい。

『さっき連絡があったから、バイトの子に出勤前に取りに行って貰うよう、頼んどいたわよ。で……肝心のきくりは?』

「そっちは確保してます。昼までには『FOLT』に行かせますので、よろしくお願いします」

『分かったわよ。も~……一人(かずと)は今日、こっちに来るの?』

「そのつもりですよ」

 きくり達『SICK HACK』のライブを聴いてから、合流して打ち上げする予定だったので、遅れて『FOLT』に向かうつもりだと、一人(かずと)は銀次郎に答えた。

「オープンより少し早めに顔出しますので。ではまた」

『はいはい。私は時間まで寝てるから、ちゃんときくりを送り出してね~……』

 そう言い、銀次郎が電話を切るのに合わせて、一人(かずと)はスマホを降ろしてきくりの方を向いた。

「ベースはライブまでに回収して貰えるってさ。良かったな」

「よ、良かったぁ……」

 先程以上に安堵した顔で、腰が抜けたのかその場でへたり込むきくりに、一人(かずと)はどうしたものかと考え込む。

(シラフのまま行かせるか、それとも酒を入れて追い出すか……それが問題だな)

 シラフきくり(ヒト科)はライブ前になると逃げ出すか、酒に溺れる習性がある。

 いっそ外で昼食を取ってから、そのまま『FOLT』に投げ込む手もなくはないが、保護者役の志麻がいなければそれでも逃げ出そうとするのがきくりだった。

「……ほら、朝飯の続きを食おう。せっかくきくりが作ってくれたのが冷めちまう」

「う、うん。そうだね……」

(まあ、朝飯食ってから考えればいいか)

 きくりと共に朝食を食べ終えた後、少しゆっくりしようと部屋に戻り、ベッドの横にあるローテーブルや座卓が四つ並んでいるスペースに腰掛けた。

「きくりは午後から『FOLT』に行くんだよな? それまでどうする?」

「あ、うんライブで。どうしよう……えっと、邪魔にならないように隅で蹲っています」

「……いや、そんなことしなくていいって」

 適当にテレビでも付けようかと考えていた一人(かずと)だったが、どこかもぞもぞとしているきくりを見て、その肩に手を伸ばす。

「しばらく一緒に居られなかったからな……時間まで、ゆっくり過ごそっか」

「うん……」

 適当なベンチや図書室の閲覧席、偶にワックやソイゼに行ったこともあったと高校時代の思い出を振り返りながら、一人(かずと)はきくりの肩を抱き寄せた。

「昔はこうなるなんて、想像もつかなかったな……」

「そう、だね……」

 家庭環境によって価値観がずれてしまった一人(かずと)と、暗い性格で誰にもなじめずにいたきくり。同じクラスに居たはぐれ者同士の二人がつるむようになるまで、そう時間はかからなかった。

「…………」

「…………」

 少しの間、割と居心地の良い沈黙を味わっていた一人(かずと)は、ふと愛用のワークポーチへと手を伸ばす。けれども、横から伸びたきくりの手により奪われてしまう。

「駄目だよ。かずと君……身体に悪いんだから」

 そのまま取られてしまうワークポーチだが、一人(かずと)は気にせず、代わりにきくりの身を引き寄せた。

「だったら、代わりのものを寄越せよ」

「ぁ…………っ、ん」

 静かに、きくりとキスをする一人(かずと)。

「っ、……大体、それを守るんなら、きくりももう酒を飲むなよ?」

「ぃゃ、ぁ……」

(まあ、無理だろうな……)

 何度となく繰り返してきたやり取りに未だ飽きは見えず、一人(かずと)は下がろうとしたきくりの身体に手を伸ばし、身に纏っているキャミワンピースを一息に脱がせた。

「シャワー浴びる時間は、残しといてやるよ。昨日も入ってないだろ?」

「ぅ、ううん。先輩の家で借りて……」

「……その後は?」

 下着は残しているものの、きくりは未練がましく両手を回して隠してくる。それすらも一人(かずと)を挑発しているとは気付かないのだろう。けれども、その指摘に恰好以外での羞恥が生まれ、さらに顔を紅潮させていた。

「か、勝手に使うのはどうかと思って……」

「朝食の準備はしてくれただろ? あれだって、道具や食材を勝手に使ってないか?」

 言葉遊びだが、シラフ状態のきくりには思いのほか効く。しかし一人(かずと)は特に気にしていないし、むしろ酔っていた際にフリマサイトに出品していた商品を踏み壊した時の方がむしろ怒りに胸が震えたが。

 ちなみに壊された商品は全て取引前だった為、取り下げて事なきを得ている。けれども、その時のきくりは泥酔状態で何一つ反省していなかったが。

「まあ、ちょっと意地悪だったな。それに……」

 きくりを押し倒し、伸ばした手を差し込んでブラをずらし、胸を露にさせる。抵抗することなく、むしろされるがままに弄ばれ、徐々に耐え切れなくなった声が漏れ出てきていた。

「ぁ……、ゃ……っ!?」

 押し返そうとするか弱い腕の力を意に介さないまま、一人(かずと)は口元を乳房の先にある小さな実に寄せ、軽く咥えて転がす。その間、空いた手はきくりのショーツを脱がそうと蠢いていた。

「かっ、かず、と君……っ!?」

「……ゆっくりできないのはいつものことか」

 普段からキャミワンピース一枚の薄着なきくりとは違い、多少着込んでいる一人(かずと)は裸になる時間も惜しみ、下半身だけ剥き出しにしてコンドームを取り付ける。

「挿れるぞ」

「ぅっ、ん……」

 シラフのきくりは抵抗せず、むしろ自分から受け入れるかのように、一人(かずと)の身体を抱き寄せてきた。そのまま床の上で、正常位で互いの性感帯を刺激し合うものの、その勢いは明らかに、昨日の夜よりも緩やかなものだった。

(本当、性格変わり過ぎだよな……)

 ある意味二人の女に好かれてるな、と思いながらも、一人(かずと)は昨夜とは違うペースで腰を振り続けた。

「駄目、かずと君……もうっ!?」

 苦しんでいるように見えて、どこか昂りを堪えている表情のまま、

「ぁ…………っ!?」

 きくりは先に達してしまった。それに遅れて、絶頂に伴う膣収縮によって一人(かずと)の肉棒は絞られるように締め付けられて……その全てを、また彼女の膣内へとコンドーム越しに吐き出してしまう。

「はぁ…………おっと」

 射精後の脱力感に囚われていた一人(かずと)を押し退け、立ち上がったきくりは脱がされた服や下着を掴むと、そのまま部屋を出て行った。

 急いで服を着て、帰ろうというわけではないだろう。その証拠に、浴室の方へと駆けこんで行った。

「散々ヤってるくせに、シラフだといつも恥ずかしがるな……」

 遅れて起き上がった一人(かずと)は、きくりが立て籠っている浴室の前に立った。

「大丈夫か?」

『…………ぅん』

 扉一枚を隔てて、一人(かずと)はきくりと言葉を交わした。

「そのまま風呂入って、身体洗ってからライブに行けよ。俺にはどうして欲しい?」

『…………』

 少しの間を空けて、扉越しにきくりの声が飛んできた。

『……ごめん。今は恥ずかしいから、顔を見られたくない』

「分かった」

 まあいつものことかと、一人(かずと)は先程とはダイニングを挟んで反対の、作業部屋兼商品の保管場所にした北側の部屋へと向かうことにする。

『ちゃんと綺麗にして、『FOLT』に行くから……今日のライブ、観に来てくれる?』

「当たり前のことを聞くな」

 背を向ける前に投げられた問いに、一人(かずと)は少しだけ声を張り上げて答えた。

「…………行くに決まってんだろ」

 

 

 

 そしてライブまでの数時間、一人(かずと)がライター業の原稿内容やせどり商品の紹介文を考えている間に、支度を終えたきくりから声を掛けられた。

『行ってきます……』

「ああ。ライブ、楽しみにしてるよ」

『……うんっ!』

 部屋の扉越しだろうと、きくりが笑っていることだけは一人(かずと)にも分かってしまう返事だった。




登場人物
後藤一人(かずと)(1月10日生まれ、25歳)
 ライター業と中古円盤類のせどりで生計を立てている25歳。後藤ひとりのいとこ。『家賃と考えれば一月当たりのローンの金額が安い』からと、二人用の分譲マンションの一室に暮らしているが、普段は取材旅行や単発バイトで不在なことが多い。

廣井きくり(9月28日生まれ、25歳)
 インディーズバンド『SICK HACK』のリーダー。一人(かずと)の彼女にして、カリスマベーシストかつ借金まみれの酒クズバンドマン。同じ高校のクラスメイトで、あぶれ者同士よくつるんでいたが、当時は恋愛的な関係ではなかった。

岩下志麻(5月15日生まれ、最近26歳になったばかり)
 インディーズバンド『SICK HACK』のドラム担当。きくり同様、一人(かずと)とは高校時代の同級生だが当時はほとんど交流がなく、覚えているだけでも一回しか会話をしたことがない。一人(かずと)の大学時代の元カノで、感情的になると名前呼びになることがある。

清水イライザ(1月1日生まれ、21歳)
 インディーズバンド『SICK HACK』のギター担当。一人(かずと)のことは交遊関係の中で唯一、アニソンについて語れるオタク仲間だと思っている(しかし、当の本人はアニメを観る、アニソンを聞くだけのライトオタク)。最初は『清水』と呼ばれていたが、本人の希望やきくりの許しもあって『カズト』、『イライザ』呼びが定着した。

吉田銀次郎(2月14日生まれの37歳)
 新宿のライブハウス『FOLT』の店長。一人(かずと)からは『銀さん』と呼ばれている。毎回きくりがやらかすからと、一人(かずと)から取材旅行土産を受け取ることもしばしば。

後藤ひとり(2月21日生まれ、15歳)
 カバー動画投稿者『ギターヒーロー』にして女子高生ロックバンド『結束バンド』のリードギター。一人(かずと)のいとこであり、家族以外で気軽に接することができる数少ない存在から『お兄さん』と呼び慕っている。『ぼっち』というあだ名でバンド活動を始めたので、折を見て(主に借金が理由で)紹介する気のなかったきくりと顔合わせをさせようと考えていたが、先に会っていたことに驚く。



アンケート
1.『管理局贔屓の情報屋』の代わりにコミマ(≒コミケ)更新頑張って
2.『管理局贔屓の情報屋』の代わりに年一更新頑張って
3.それより『コレデモカノジョデス』の続き書いて
4.それより『1room after illusion』の続き書いて
5.何か違うから別の新作(二次創作)書いて
6.ハーメルン様から書籍化した人がいるけど、ここではオリジナル書かないの?
7.ここは俺達にまかせて、別ペンネームを優先して頑張ってくれ!
8.アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』2期製作決定、放送が楽しみです

今後の更新について

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