※この作品はR-18です。

せどりライターはカリスマバンドマン達と宅飲みに耽る   作:トクメイデス

4 / 4
原作時間軸:(前:原作での話の前、中:原作での話の途中、後:原作での話の後)
『ぼっち・ざ・ろっく!』 2巻第1話後~2巻第2話前
『廣井きくりの深酒日記』1巻第7話中~1巻第7話後


第04話 宵明けの約束

 きくり達が居る『STUDIO PONTA』にて、練習後の打ち合わせが行われていた。

「で、新曲の方はどうなんだ」

 きくりが作曲に苦戦しているのは、挙動不審な様子を見ているだけでも分かる。それでも志麻は、ライブのスケジュールを管理する上でも、その状況を聞かなければならなかった。

 未練がましく言い訳を重ねるきくりに『出来てないんだな』と断定口調で詰め寄った結果、素直に『はい』と肯定してきた。

「どのくらい出来てないんデスカ?」

「え、全然。ほぼやってない」

「廣井、お前が言い出したんだよな? 次のライブは新曲やるって!」

「しょーがないじゃーん! こればっかりはインスピレーション待ちなんだもーん」

 しかしこればかりは、きくりの言う通りだった。

 このバンド、『SICK HACK』の楽曲はきくりが作り、三人で編曲を話し合うのがほとんどだ。特にピアノ経験者と幼少期からのギタリストである二人が音楽性を決めていると言っても過言ではない。

 だからこそ志麻は、経費の管理を含めた雑務を積極的に引き受けているのだが……こういう時はいつも、二人の実力や感性に嫉妬してしまう。もしかしたら、多少は八つ当たりしたい気持ちも含まれていたのかもしれないが、それでも、言うべき時は言わないとときくりに新曲を催促したのだ。

「まぁ、別に急かすつもりはないんだよ」

 実際のところ、新曲を出すことにこだわる必要はない。変に作るよりはむしろある曲だけでセットリストを組む方が確実だ。だから志麻はイライザと共に、きくりに無理をしないよう促した。

 しかし、それは結果的に逆効果だったらしい。

「だいじょーぶ! この天才ベーシスト廣井きくりに任せなさい!」

 等と、以前にも言ったようなことを残してきくりは逃げ、いや帰っていった。

「大丈夫デスカね? 志麻」

「こればっかりは、なぁ……」

 とはいえ、新曲に関してはきくりに頼ることしかできず、志麻とイライザも今日のところは解散することにした。

(本当に大丈夫か、あいつ……)

 しかし、家でじっとする気分にもなれなかった志麻は、イライザと別れた後は自宅に帰ることなく、そのまま夜の街へと消えていった。

 

 

 

「それで相手の彼氏に相談する態とはいえ、元カレの家に来るとか……お前結構アホだろ?」

「うるさいな。予定無視して遠慮なく愚痴れる奴がお前しかいないんだから、仕方ないだろ」

「俺に人権はないのかよ……」

 それでも、人によっては煙たがられても仕方がない時間帯にも関わらず、一人(かずと)は志麻を自宅へと招き入れてくれた。せどりの為に買い集めた商品に煙草の匂いを付けるわけにはいかない為、この部屋で喫煙できるのはベランダと換気扇を回せるキッチン周りしかない。

 だから志麻は一人(かずと)と共に、訪問早々に暗いベランダへと出ていた。

「そういえば……廣井は今日、来てないんだな」

「あれ、知らないのか?」

 一口分だけ吸った一人(かずと)は、志麻の方を向いて言ってきた。

「きくりの奴、作曲中は絶対にここに来ないんだよ」

「…………え?」

 自分ではポーカーフェイスができていると思い込んでいた志麻だったが、実際は顔に出ていたのだろう。順を追って、一人(かずと)が説明してきた。

「情報のインプットがしたい時にはよく来るけど、作曲とかのアウトプットをするには俺含めて『誘惑が多過ぎる』んだとさ。まあ、出来た後に散々擦り寄って来るけど」

「そう、だったのか……」

 摘まんでいた煙草を吸うことなく、ただ灰になるのを志麻は眺めていた。

(あいつも、そういうところはちゃんと考えてたんだな……)

 必要なこととはいえ、新曲を急かしたりしたのは悪手だったのではないかと思い、眉を潜めてしまう志麻だったが……その眼前に差し出された缶コーヒーに意識が逸れてしまう。

「煙草とコーヒーって合うだろ? とりあえず飲めよ」

「あ、ああ……ありがとう」

 ベランダ近くにストックしていたらしく、温めの缶コーヒーが志麻の喉に流れていく。半端に茹る中では下手に冷えた物よりも飲みやすかった為か、一息で空にしてしまった。

「大体さ……昔から考え過ぎなんだよ、岩下。もうちょっと肩の力を抜けよ」

「……じゃあ、新曲を急かさない方が良かったのかよ」

 そう愚痴る志麻だが、一人(かずと)は新しい煙草を一本取り出し、火を点けながら否定した。

「それこそ、『どっちでもいい』な」

「なんだそれは? 無責任な奴だな……」

「現に無関係だろ。バンド活動に関しては」

 実際にその通りだが、それが彼女のいるバンドに対する物言いかと、志麻は思わず睨みつけてしまう。しかし、当の一人(かずと)は気に留めることなく、自分の缶コーヒーと煙草を交互に楽しんでいた。

 そしてふと、こんなことを話し始めてきた。

「俺さ、本当はライターじゃなくて小説家になりたいんだよ」

「……その話は昔、散々聞いた」

 だから何だと言おうとした志麻だったが、それを意図して遮るかのように、一人(かずと)の話が続けられていく。

「だけど俺には、足りない物が多過ぎた。文章力は当然として知識量に人生経験、後は……長編を書き上げる実力と完成させた実績、とかだな」

「何が言いたい?」

 ようやく話が途切れたタイミングで口を挟んだものの、一人(かずと)の言いたいことは志麻にもなんとなくだが分かっていた。

 何故なら、一人(かずと)は『小説家になりたい』と言っているが……『小説家になりたかった』と過去形していない。諦めていない、という意思を見せてきているからだ。

「できる、できないは関係ない、ってことだよ」

 ようやく根元まで吸いきった煙草を携帯灰皿に入れると、一人(かずと)はガラス戸を背にもたれかかり、その場でしゃがみ込んだ。

「俺もきくりも、多分同じなんだよ。だた『そうしたい』からその道を選んで、未だに続けている。違うのは、結果を出せているかどうかだけだ」

 しゃがみ込んだまま、新しい煙草を出すことなく、一人(かずと)は完全に陽の沈んだ空を見上げていた。

「そりゃ俺みたいに生きる気力がなくなる程立ち止まることもあれば、今のきくりのように新曲作れずに藻掻くしかない時だってあるさ。ただな……お前等はバンド、止める気はないんだろ?」

「……当たり前だ」

「俺だってそうだよ……だから、どっちでもいいんだ」

 次いで飲み干した缶コーヒーを片手に、一人(かずと)はただ、独り言のように呟いてくる。

「止めないんだったら、それこそ続けるしかないんだ。新曲が出来ようが出来なかろうが、ライブするのは確定事項だろ? だったら、ギリギリまで待ってみろよ。それから考えたって遅くはないさ」

 時には急かすことだって必要かもしれないが、大事なのは続けるかどうかを選ぶことだけだ。

(昔はちゃんと、選んでたんだけどな……)

 隣に居る一人(かずと)と付き合うきっかけとなった出来事。その原因も、元を辿れば志麻の自業自得と言われても、仕方がない。

『ただの八方美人かと思ってたけど……自分があって格好良いじゃん』

 高校時代に言われたことを、大学でも続けていればあるいは……いや、仮定の話をしても仕方がない。今の自分は『SICK HACK』のドラム担当、それ以上でも以下でもないのだから。

 そう割り切った後、志麻もまた煙草と空き缶を片付け始めた。

「それにしても……」

「ん?」

 消臭剤を身体に振りかけ、部屋に臭いを持ち込ませないようにしてから中に入った志麻は、ベッドの縁に腰掛けて一人(かずと)の方を向いた。

「まさか、結果出してない奴に諭されるとはな」

「喧嘩なら買うぞコラ」

 そう言い、剣呑な顔付きで近寄ろうとする一人(かずと)だったが、突如鳴り響いたスマホの通知音のせいで歩みを止めてしまう。

「時間的に……場所によっては終電だな」

 近くに置いてある目覚まし時計を見てそう言う一人(かずと)に、志麻もまた頷くと自分のスマホを取り出し、通話状態にした。

『もしもし志麻ぁ? ちょっと高尾山まで迎えに来て欲しいんだけど』

「わかった。のたれ死ね」

 そして返事を聞く間もなく、志麻はきくりからの通話を切った。

「……廣井の奴、何でお前に連絡しなかったんだ?」

「今日は徹夜するつもりだったから、スマホの通知切ってスリープ状態にしてたんだよ」

 だが鬼電はされていたのか、一人(かずと)がスマホの画面を確認して若干、いや多少は目立つ程に苦い顔をしていた。

「一応言っといたんだけどな……『ライターの案件が溜まってるから今日は相手する時間がない』って」

「嘘つけ」

 暇じゃないなら何で自分を招き入れた、とばかりに睨みつける志麻に、一人(かずと)はひらひらと手を振ってからある物を投げつけてきた。

「ガス欠だから、レンタル料代わりに給油しといてくれ。レギュラーで満タンな」

「お前……こうなると分かってて家に上げたのか?」

「あいつが悩んだら呑んだくれて、どっか変な所に行くのはもう分かりきってるだろ」

 さすがの一人(かずと)も、きくりの生態については理解が深まっていたらしい。だから志麻の愚痴を聞きつつ時間を潰し、助けを求めてきたタイミングで車の鍵を都合良く貸してきたのだろう。

「岩下の愚痴聞くのときくりを迎えに行くのじゃあ、時間短いのは完全にお前だろ? それに……」

「それに?」

 一区切り置き、一人(かずと)は志麻に告げてきた。

 

 

 

「せっかくここまでやってきたのに、本当にのたれ死なれても困るだろ?」

「……それもそうだな」

 

 

 

 そう言い、早速迎えに行こうと立ち上がった志麻だったが、ふと一人(かずと)の前で足を止める。

「なあ……廣井迎えに行く手間賃として、ガソリン代もまけてくれないか?」

「これ、『彼氏彼女』じゃなくて、『バンド仲間』の問題だと思うんだけど……もしかして、経費ヤバいの?」

「相変わらずカツカツだよ。あいつのせいで……まったく」

 そう言い、志麻は一人(かずと)へとしなだれかかってくる。

 右手を一人(かずと)の股座に当てた志麻は、上目遣いに視線を向けた。

「別れたってのに、何でこんなことしてるんだか……」

 軽く数回、ほぼ撫でる程の感触でしかないだろうが、目の前の男にはそれで十分だった。徐々に固くなる一物が衣服によって苦痛を強いられる少し手前で、志麻は器用に一人(かずと)のそれを露出させた。

「……座っていいか?」

「そうしてくれ。立ったままだとやり辛い」

「どっちの意味で?」

 そんな冗談を聞き流し、ベッドの縁に移動した一人(かずと)の足元に膝をついた志麻は衣服から解放された肉棒に手の平を当て、優しく擦り始める。

「で、出してくれるのか?」

「いつも直接的過ぎなんだよ、お前……一割」

「満額」

「それでも安くないか…………志麻」

 普段は呼ばれない名前だが、再会後も時折行っている情事の際にいつも聞いている為か、志麻が違和感を抱くことは特になかった。

「お前にただ奢って貰うのは、筋違いだろ。一人(かずと)も言った通り……これは『バンド仲間』での問題だ」

 唇を舐め、乾いた表情ながらも一人(かずと)を誘惑する志麻。

「ちゃんと身体で払うから、ガソリン代も出してくれないか? 満額で」

「だから、安売りするなって。そんなんだから……ったく」

 一瞬、一人(かずと)が言葉を濁して区切ってくる。おそらくは元カレの話を持ち出そうとしたのだろうが、寸でのところで思い留まってくれたらしい。

「……口だけで良いぞ。ピンサロならギリ相場だ」

「取引成立」

 その言葉を合図に、志麻は一人(かずと)の分身を口に含んだ。

 最初は亀頭部分を舐めてから軽く咥え、そして唾液をまぶしつつ徐々に、喉奥へと届かんばかりに咥え込んでいく。

「じゅぶっ、じゅるるっ……」

「ぁぁ……っ!」

 コンドーム越しではない、生の舌使いが直に伝わる即尺に、一人(かずと)の息子は早くも限界を迎えようとしていた。

「でっ、射精る……っ!?」

「……っ」

 手慣れた調子で放出される白濁液を口に含んだまま、志麻は近くに置いてあったティッシュを数枚取り、その中に吐き出した。

「ふぅ……そういえば、廣井はやってくれないのか?」

「というより、やらせたくない」

 志麻から受け取ったティッシュで自身の物を雑に拭い取ってから、一人(かずと)は再び服を着込み始めた。

「ボーカルは喉が命だろ? それに……あいつの歯が尖り過ぎてて、咥えさせるのが正直怖い。そういう意味では志、……岩下みたいな関係の奴がいてくれて、ちょっと助かってる」

 本気か冗談かは分からないが、少なくとも強引に関係を迫られるよりはマシなので、志麻は一人(かずと)の戯言を聞き流すだけに留めた。

「おまけに……この程度で風俗行ってたら、それこそ性病に罹りそうだし」

「少しはムードを作ろうと思わないのか、後藤」

 しかし、その辺りは交際当時からすでに諦めている為、志麻は気にすることなく後藤の財布を取り上げ、中から一万円札を一枚抜いた。

「釣りも貰っとくぞ。元カノで金だけの関係とはいえ、彼女がいるくせに浮気したんだ。文句はないよな?」

「フェラ一回口止め込みで一万円……少し安くないか?」

「その辺は、昔付き合ってたよしみだ。まけといてやるよ」

 その言葉を最後に、志麻は洗面台へと歩いていく。その後ろを、自らの性器を隠し終えた一人(かずと)が何故かついてくる。

「前から思ってたんだけどさ……」

「何だ?」

 歯磨き用だろうプラスチックのコップに水を入れ、数回うがいを繰り返してから、志麻は一人(かずと)の方を向いた。

「俺って、そんなに悪役が下手か?」

「ああ、下手だな」

 玄関で見送りを受けながら、志麻は一人(かずと)にこう吐き捨てた。

 

 

 

「女に未練残させる位の半端な演技なら、むしろ本当に悪人やってくれてた方が助かったよ」

 

 

 

 少し言い過ぎたか、と高尾山へと向けて車を運転しながら、志麻はぼんやりと考えた。

(根が悪人になりきれてないんだよな、あいつ……何であんなバイトしてたんだ?)

 しかし、それがなければ、志麻が今何をしていたのかは予想もつかない。そういう意味では、一人(かずと)に感謝しかできなかった。

 一旦ガソリンスタンドに寄り、給油するついでにと、志麻はきくりに電話を入れた。

『もしもし』

「高尾のどこにいるんだよ?」

 ニ、三話してから、給油を終えた志麻は清算を手早く済ませ、一人(かずと)から借りた車に再び乗り込んだ。目的地が高尾山の時点で高速道路も視野に入れていた。だから一万円の残りで料金を払い、一時間もしない内に到着することができたのだ。

『なんか山の中にいるんだよね~』

 とか言っていたきくりだったが、志麻の電話を合図に下山していたらしく、無事麓付近で合流できた。

「酔っ払って無計画に山に入るな! しかも夜中に!」

「でも新曲……」

「新曲より命だろうが!」

 人気のない宵闇の中、志麻の説教はきくりの耳だけに留まらず、辺り一帯にまで響いていた。

「だって……」

「私が来なかったらどうするつもりだったんだよ!」

 

 

 

 一通り説教を終え、一人(かずと)の車にきくりを乗せた志麻は、再びハンドルを握って新宿へと向かった。

「これ、かず君の車だよね。かず君は?」

「ライター業の案件で徹夜だってさ。お前にも言ってたって聞いてるぞ」

「あ~そんなこと言ってたような……」

 頭の中にあるその記憶を引っ張り出そうとして、助手席で呻くきくりだったが、結局思い出せずに諦めていた。

「車を返すついでに、後藤ん家に泊まっていったらどうだ? 歩いて帰るよりはマシだろ?」

「合鍵があればそうしてたんだけどね~」

 どこからともなく、『おにころ』のパックを取り出したきくりの頭を引っ叩く志麻。夏場で陽が長いとはいえ、夜明けまではまだ時間がある中、二人の乗る車は宵闇の道を駆けていく。

「貰ってないのか?」

「貰う前にまたやらかしたから、お預け喰らった~」

 本当に懲りないリーダーだと志麻は呆れ、無性に煙草が吸いたくなってきていた。

「後藤に連絡がつけば良いんだけどな……最悪、車で一晩明かすことになりかねないぞ、お前」

「までも、なんとかなるっしょ。とりあえず……」

 助手席にあるダッシュボードを漁り出したきくりは、中から新品の煙草を取り出すと一本抜き、志麻に差し出した。

「……ほい。吸いたくなってるんじゃない?」

「誰のせいだと思ってるんだ……まったく」

 (一人(かずと)の)煙草を咥えた志麻は、きくりが(勝手に)点けたシガーライターでゆっくりと、煙を燻らせていく。

「ふぅ……後で後藤に何か言われても、知らないからな」

「まあ、お互い共犯ってことでいいじゃん」

 そして拾い上げられた『おにころ』に今度こそストローを刺されてしまい、もう諦めたとばかりに志麻は煙草を吹かした。

 

 

 

「ただ…………私がいない間に、かず君取らないでね」

 

 

 

 ガタッ!

「ゲホッ、ゴホッ、ゴッ……! げっ!? 煙草落とした!?」

「ちょ、ちょ、ちょっと!? 志麻!? 危ない、停めて停めてっ!?」

 慌てて路肩に停め、落とした吸殻を探してから灰皿に押し付けて火を消した二人は互いの顔を見合わせ、同時に安堵の息を漏らす。

「……運転中は止めてくれ。いつか聞かれそうな気はしてたけど」

「いや、志麻も隠す気なかったじゃん。作業中にスマホの通知切ってるかず君から車借りるなんてマンションかその近くに居ないと無理だし、最初から家に居たんなら電車は終電出てるから、もうタクシーかレンタカー使うしかないじゃん」

 一先ずは落ち着こうと、互いに新しい煙草と『おにころ』のパックを持ち、座席に深く座り込む二人。一応ハザードランプを点けてから、志麻はシガーライターを再度使った後、横目できくりを見つめる。

「お前、酒入ってるくせに何で頭回るんだよ……」

「いや~前からなんとなく、気付いてたんだけどさ~……私こんなんじゃん」

 酒に溺れすぎている自覚がある為か、きくりは一人(かずと)と志麻の関係には目を瞑っていた。

「だから、浮気されても仕方ないかな~って。その割には、微妙に割り切ってるように見えたから確信持てなかったけど」

「……実際そうだよ」

 エアコンを止め、窓を全開にして換気するものの、蒸し暑い風で汗が流れてしまう。

 深夜帯だというのに未だ残る暑さを無視し、煙草を摘まんでから志麻は言った。

「こっちはお前等の、特に廣井のせいで余計な心労が溜まりまくってるからな。だから煙草と性欲で、ストレス発散してたんだよ。相手が後藤なのは……金銭的な理由と、元々関係があったから抵抗がないってのが大きいけどな」

「ふ~ん……」

 自分のせいにされてはいるものの、きくりは気にすることなく『おにころ』の中身を吸い上げていた。

「じゃあ、かず君にはもう未練がないの?」

「……その未練が晴らせれば、一番良かったんだけどな」

 灰皿に軽く灰を落とした志麻は、口元に煙草を運んでいく。

「バンド活動を優先してると、下手に恋人なんか作れない上に、そもそもまともな出会いがありゃしない。正直、後藤以上の男なんて……銀次郎さん位じゃないか?」

「あ~たしかに。でも銀ちゃんイケオジだけど、心が乙女だからな~」

 そもそも独身かどうかすらも分からないので、ますます下手に手を出すわけにはいかない相手だった。

「だから焼け木杭に火がついちゃったのか~」

「……悪いな。一応、身体の関係に留めておくつもりだった」

 それ以前に、きっかけはきくりの借金である。

「一回、お前の借金をバンド経費で管理できるよう清算しただろ? 後藤は『気にしなくてもいい』って言ってくれてたが……私は気にしていたし、何よりもバンド活動する上で、変なスキャンダルは残したくなかったからな」

「だから『自分の身体で返してた』、ってこと?」

「いや……返す態で抱かれたかったんだろうな」

 知ってるか、と志麻はきくりに問い掛けた。

「私を女として見てくれる人が少ない上に……女扱いしてくれる中で一番優しかったのは、後藤なんだよ」

「そっか……」

「だからまた、女として抱かれたかった。それで色々理由をつけては後藤と、一人(かずと)と寝てる」

 少しの沈黙を挟み、志麻は吹かしていた煙草を口元から退けた。

「言い訳はしない。あいつは『俺のせいにしとけ』って言ってたけどな……こればっかりは私が全面的に悪い。だから、責めるなら私だけにしてくれ」

「…………」

 志麻が吸い終えた煙草を灰皿に片付け、そっと閉じた後、ようやくきくりが口を開いた。

「いや、私という彼女がいるのに、他の女に手を出したかず君が悪いでしょ」

「だから、それは私が、」

 言い返そうとする志麻の口に、指を押し当てて黙らせたきくりは……その顔に、微笑を浮かべていた。

「ほんと悪役が下手だよね。かず君」

「……そうだな」

 とはいえ、さすがの志麻もお咎めなしというわけにはいかない。だがきくりは気にすることなく、『おにころ』を飲み干していた。

「借金返済するまでは、目を瞑っとく。全部、私のせいだし。ただ……それ以上の関係に、元鞘に戻りたいならさ」

 助手席から、きくりの右手が伸びてきた。固く、拳を握った状態で。

「せめてさ……隠れたりせずに真正面からぶつかってくれない? 私、こそこそされる方が苦手だし……嫌いだからさ」

「廣井……」

 腕を持ち上げるべきかどうか、それを考える前に、志麻はきくりに聞いた。

「お前はそれでいいのかよ?」

「良くないよ、ただの妥協案だし。ただ……」

 左腕で頬杖を突き、顔を載せたきくりはニヤリとした笑みに切り替えてくる。

 

 

 

「私達にとって一番大事なのは『SICK HACK』、でしょ?」

「…………そうだな」

 

 

 

 その言葉を最後に、志麻はきくりの拳に向けて、自分の左手を持ち上げた。

『これからも、バンド活動には手を抜かないからさ……志麻の元カレの後藤君に、告白してもいい?』

 かつて、一人(かずと)に告白する前にきくりから言われた言葉が、脳裏を過ぎっていく。それを一度反芻した後、志麻もまた、覚悟を決めた。

「今はそんな気はさらさらないが、もし今後そういう気持ちになったら……ちゃんと言う。ちゃんと喧嘩を売る。ちゃんと真正面から、廣井とぶつかった上で一人(かずと)を貰う。それで良いか?」

「かかってこいや~」

 二人の拳がぶつかったその瞬間、朝日が昇り始めた。

 

 

 

「眠……」

 朝日が昇り切った中、ようやく全ての案件を片付けた一人(かずと)は北側の作業部屋から出て、ダイニングを通っていく。このままベッドの上に寝転がりたいと思っていたのだが……先客が二人居た為、仕方なく煙草の入ったワークポーチを持ったまま、ベランダへと足を進めた。

(変な気分だな……)

 今カノと元カノが一緒に寝ているベッドを背に、一人(かずと)は一人眠気に襲われながら、煙草に火を点けるのだった。

(あそこまで気持ちよく寝られると、起こしたくなくなるから厄介だよな……)

 

 

 

 そしてライブ本番。

「ごめん、歌詞飛んだ~」

「廣井っ!」

 ドン!

 その光景を遠目に見ていた一人(かずと)は、その場で腹を抱えて笑い出した。

「あんたの彼女でしょ、もう……」

 隣で呆れた眼差しを向けてくる銀次郎にそう言われても、一人(かずと)の気持ちが揺らぐことは一切なかった。

 

 

 

第4.5話

 ようやく起きたきくりと志麻と入れ替わりに、ベッドに飛び込もうとした一人(かずと)だったが……ふとあることが気になり、二人に問い掛けた。

「そういやお前等、どうやって入ってきたんだ? チェーンは元からないけど、鍵はちゃんと掛けてたよな?」

「一階の郵便受けにあった合鍵使った~」

「お前、私と付き合ってた時と番号同じだったぞ。ちゃんと変えとけよな」

 不法侵入者にあるまじき不遜な態度を見せてくる新旧の彼女達のせいで、一人(かずと)は就寝前に郵便受けのダイヤルの変更方法を調べ、再設定する羽目になりました。




番外編2
一人:後藤一人(かずと)、きく:廣井きくり、志麻:岩下志麻、イラ:清水イライザ
イラ「一つ、湊友希那のライブシーンを繰り返し見て、『パンチラしないかなぁ』と邪な感情を抱いている」
一人「…………」
イラ「二つ、マッケナ・グレイス演じるフィービー・スペングラーを見て、欲情しかけていたことがある」
きく「…………」
イラ「三つ、昔買ったセクシー女優のDVDが桁違いに高騰していたことにも気付かず中古値段で売ったせいで、未だに損した気分のままでいる」
志麻「…………」
イラ「作者は作者の罪を数えた。さあ、読者も、読者の罪を……数えろ」

スーパー酒呑童子EXくん『決め台詞終了たぜ!』ボーン

イラ「フゥ、言い切ってスッキリしましタ!」
志麻「いきなり何の話だ。これは?」
きく「そもそも、何を咎められているの?」
一人「読者の皆さんは別に、何も悪いことしてないよな?」
イラ「何を言ってるんデスか!?」
 バンバン、と叩かれるホワイトボード。
きく「何これ?」
志麻「これは……前話から集めてたアンケートの結果?」
イラ「そうですよっ!」

 以下、アンケート結果(第04話投稿直前時点でのものです)
選択肢1. / 6%
選択肢2. / 6%
選択肢3. / 0%
選択肢4. / 3%
選択肢5. / 0%
選択肢6. / 3%
選択肢7. / 9%
選択肢8. / 74%

きく「一番多かったのは……選択肢8、って何だっけ?」
一人「たしか……『8.アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』2期製作決定、放送が楽しみです』、だな」
志麻「普通だと思うけど……」
イラ「何言ってるんデスか志麻っ! ここはオタク魂の国、日本ですよっ!?」
きく「え、大和魂とか侍魂じゃないの?」
一人「それも最近、持ってる奴がいるかも怪しいけどな」
イラ「シャラップ!」
志麻「じゃあ何なんだ? 一体」
イラ「コレは由々しき事態なんデスヨ……何故ナラッ!」
一人・きく・志麻『何故なら?』

イラ「もしこれが悪乗りでないなら……選択肢8に投票してくれた人全員、アニメで満足してそれ以上を望んでナイ、ってことなんデスよ!」

一人・きく・志麻『ナ、ナンダッテー?』
イラ「ソコッ! 『作品の楽しみ方なんて人それぞれじゃないか?』って顔は止めてクダサイッ! アニメが面白かったら原作も読んで楽しむ。さらにグッズを買い漁り、それだけでは満足せずに二次創作からファンアートに至るまで手を伸ばす! それこそが真のオタクじゃないんデスカッ!?」
一人「いや、別に……なあ?」
きく「そうだよ。オタクでもそうじゃなくても、楽しみ方なんて人それぞれなんだし」
志麻「むしろ、非公式の二次創作であるこの小説を読んでくれた上に、アンケートまで投票してくれた読者様に感謝すべきじゃないのか?」
イラ「そんナ綺麗事はきくりのお腹の中身と一緒に流してクダサイッ!」
きく「ヒドッ!?」
一人「そりゃ、『けいおん』とかアニメで話が拡張され過ぎてるように見えて、実際の原作では描かれてないシーンが多々あるのもあるけどさ……それだって製作者側の都合だろ? 楽しめないなら楽しめないで良いじゃん。その時に別のメディアや作品に切り替えてこうぜ」
イラ「唯ちゃんの両親の顔ガ、原作でははっきり描かれているのにデスカ? 映画では出さなかったくせに」
一人「どちらかと言うと澪の……いや、止めとこ。今回の俺の立ち位置、すっごい微妙だし」
イラ「と、に、か、く! 『悪乗りしてる暇があったら、路上喫煙者から『罰金』と称してカツアゲしてでも原作全巻揃えて読破しろ』って私は言いタイんデス!」

スーパー酒呑童子EXくん『詐欺、恐喝、横領諸々で普通に捕まるぜ!』ボーン

一人「いや、アニメ勢にネタバレ強要させんなよ。『呪術廻戦』の時を思い出せよ。動画投稿で酷いことになってたじゃないか」
イラ「それハッ!? そう、デス、けど……」
きく『(まったく話が分からない……)』
志麻『(一体何があったんだ……)』
イラ「ゴホン……分かりマシタ、これ以上ハ何も言いません。デスが、読者にも覚悟して貰いマス」
一人・きく・志麻『覚悟?』
イラ「そう……それこそが以下の、作者の言葉デス!」



作者「続けられるだけ続けますが、アニメ放映分までしか書きません。エタるかオリジナルで締めるかは、そこまで書いてからまた決めます」



きく「……そんなんでいいの?」
一人「まあ、下手に続けても、二期が始まらないと分からないキャラも出てくるから仕方ないんじゃないか。S(本名)とかSさん(学校パート次第)とかSさん(ギリ出てくるかも)とか」
志麻「それ言い出したら、ヨヨコとかギリだったもんな。顔出してたから多分セーフだけど」
イラ「というわけデ、読者の皆さんハ次回まで二原作を履修するよう二! これ必修デスカラね!」
一人・きく・志麻『人様に何かを強要しない』
イラ「Oh……」



アンケート
1.『管理局贔屓の情報屋』の代わりにコミマ(≒コミケ)更新頑張って
2.『管理局贔屓の情報屋』の代わりに年一更新頑張って
3.それより『コレデモカノジョデス』の続き書いて
4.それより『1room after illusion』の続き書いて
5.何か違うから別の新作(二次創作)書いて
6.ハーメルン様から書籍化した人がいるけど、ここではオリジナル書かないの?
7.ここは俺達にまかせて、別ペンネームを優先して頑張ってくれ!
8.アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』2期製作決定、放送が楽しみです

今後の更新について

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