こちらはSkebで依頼を受けた作品となります。
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美術準備室は、どこか少しだけ埃っぽい。石膏像の欠片と、使い込まれたイーゼル。床には、乾ききらない絵の具の跡が薄く残っているようだ。工芸ならではの大きな机の前に立ち、
それは、一週間ほど前のこと――
『ごめーん、栞莉ー。どうしても抜けられない急用ができちゃってさー』
電話口の姉の声は、いつだって自信に満ち、はきはきしている。一〇歳近く年の離れた姉は、昔からそうだった。迷いがなくて、背筋が伸びていて、どこにいても目立つ。
『ヌードっつーても、女子だけってことにしてもらったし』
姉は軽く言ったけれど、その言葉の重みを、栞莉はいまになって噛みしめている。断れない性格だという自覚は、栞莉にもあった。けれど、それだけではない。姉の代わりを務める――私が、お姉ちゃんの――その響きに、栞莉の胸はほんの少しだけ高鳴っていた。
尊敬している。
眩しいと思う。
比べられるのは、正直、少しつらいくらい。
それでも、姉の背中を追いかけてしまう自分がいる。
憧れを胸に秘めつつ――栞莉は、ゆっくりと制服の留め具に指をかけた。
急ぐ必要はない。ここには、まだ自分ひとりしかいないのだから。
ボタンを外すたび、布がわずかに音を立てる。その音が、やけに大きく感じられて、彼女は一度だけ呼吸を整えた。
肩から制服を滑らせると、空気が肌に触れる。その冷たさに、背筋が自然と伸びる。
鏡に映るのは、見慣れたはずの自分の輪郭。その身を覆うのは、飾り気もなく、ただ服の内側で素肌を保護するためだけのもの。
けれど、まとっているものが一枚ずつ剥されていくごとに、そのシルエットは少しずつ意味を変えていく。
学生としての自分。姉の妹としての自分。
それらが、静かに削り取られ――普段外気に触れることのない胸の先が、かすかな冷たさに小さく震えた。
むき出しの“女子”としての自分だけが残っていく感覚。
スカートを外し、丁寧に畳んだ。
動作一つひとつが、いつもより慎重になる。
乱暴に扱ってはいけないものを、扱っている気がして。
最後に残った衣服に手をかけたとき、栞莉は一瞬だけ、ためらった。
それは恥ずかしさというより、境界線を越える直前の、名づけようのない静けさともいえる。
深く息を吸い、そして吐いた。
そして、ゆっくりと、布を下ろしていく。
腰に、お尻に――そして、股の下のわずかな隙間を通って、部屋の空気が栞莉の太ももを撫でまわす。トイレでも更衣室でもないそこで何も着けず立っていること――美術室というその空間が、栞莉の
肌に残るのは、重さのない解放感と、わずかな心許なさ。
裸であるという事実が、強調されることもなく、ただ“ここにある”という感覚だけが、たしかにあった。
そして、改めて鏡の前に立つ。栞莉は自分の姿を、逃げずに見つめた。
――これが、いまの私。
求められているのは、飾らない形。
線と重心。静かな呼吸。
彼女は、目を閉じ、今回依頼されているポーズを反芻していた。
――まだまだ、未熟。胸の張りも、腰のくびれも。姉には遠く及ばない。こんな自分に、姉の代わりなど務まるのだろうか――そこには、憧れだけでは埋められない差がつまびらかにされている。
だとしても――
栞莉は用意していたバスローブを羽織った。いまさら引き返すことはできない。それは、姉を裏切ることになるから。
女湯みたいなもの、だよね――栞莉は、そう自分に言い聞かせる。けれど――女子だけ
――やっぱり、すごい。自分には絶対できない。一つひとつが、自分の上を行く――それが、栞莉にとっての姉という存在だった。そんな姉の手伝いができる――そこに、不安は否めない。しかし、それ以上に誇らしかった。
準備室の外に、人の気配はある。だが、過剰に賑わっているということもなく、何人かの中年女性たちが、美術的な専門用語で会話しているようだ。どのくらいの人数がいるのか聞き忘れていたことを、栞莉はいまになって思い出す。ここは、姉の母校の高校美術室だ。それなりの広さはあるのだろう。もし、そこにギッシリ人が詰まっていたら――そんなわけ、ないよね――きっと、多くても一〇人くらい――栞莉は自分に都合の良い期待を抱きながら、美術室へ通じる扉を開けた。
しかし――現実はすべてにおいて、栞莉を裏切る。
――男の人――!?
人の多さより、まず、そこに戦慄した。実際のところ、女性だけなら一〇人程度なのだろう。しかし、その倍以上の男性によって、美術室は完全に埋め尽くされていた。
一瞬にして、足の裏から力が抜ける。――無理! これはもう、逃げるしか――! だって、話が違うもの!
しかし――
きっと、何かの手違いがあったのだろう。元々は男女混成のイベントだったはずなのだから。この条件で、姉は引き受けていたのである。だったら――
いまの自分は、姉の代理――そんな思いで、栞莉は部屋の中央に立った。
「よ、よろしく、お願いします……」
栞莉が著しく緊張しているからか、それとも、思ったより幼いモデルだったからか――描く側にも少し動揺した空気が流れている。そんな中――栞莉はタイマーをセットした。時間の管理も、モデルの役割である。
そして、ついに――もう、他にできることはない。観念したように、栞莉はローブの帯を解いていく。指先は震えるが、緩く止めていただけなので、それはむしろ、崩れるように床へと吸い込まれていった。そこにはもう、彼女の肌を包むだけの力はない。自然にできた隙間を自らの手で決定的なまでに広げると、そのすべてが肩を、腕を滑り落ちていく。
私、裸で――みんなの前に立ってる――しかも、最前列は男の人たちで固められており――みんな、手が動いてない――私の裸ばっかり
恥ずかしい。
心臓が、うるさい。
でも、やりきらなきゃ。
だって私は――お姉ちゃんとして、ここに来たのだから――
最初は、ただ、立っているだけ。ただ、ほんの少し重心は片方の足に寄せ、心持ち緩やかに――複雑なポーズを要しなかったことは、栞莉にとって僥倖だった。頭の中を真っ白に染めたまま――タイマーがピピピッ、と鳴ったとき、空気を穏やかにしたのは、むしろデッサン受講者たちのほうだった。一仕事やりきったような彼らのため息に気づき、栞莉は少し遅れて時間が来たことに気づく。休憩時間は五分。すぐにローブを羽織り直すと、それも念のためにセットしておいた。
そして、裸の羞恥から解放されたところで、栞莉は空白の二〇分を思い返す。実際のところ、思い返せるようなことは何もないのだが。けれど――悪い気はしなかった――ような、気がする。ただ、その感情を、栞莉は整理できていない。整理できていないまま――再びタイマーは鳴り響く。再び裸になる時間がやってきたのだ。
次は、背もたれのない丸椅子に座って、太ももに軽くひざを乗せて。今度は、最初ほど緊張はしなかった。しかしこれは、慣れというより諦観に近い。もう、いまさら恥ずかしがるのも手遅れすぎる――あくまで、これはモデルとしての務めであり、芸術的な振る舞いなのだと自分に言い聞かせていた。
二度目の二〇分をやりきったとき、栞莉の感情は少し変化していた。しかし、いまだ彼女の中で複雑な感情たちがどうしても噛み合わず、言語化できない。ただ、やはり――悪い気はしていない――それがむしろ、栞莉にとって最も不可解なことだった。
そして、三度目にローブを脱いだとき、栞莉ははっきりと認識する。――みんな服を着ているのに、自分だけ裸なんだ――
この催しに挑むときに、自分に言い聞かせていたこと――“女湯のようなもの”――その認識が誤っていたことに栞莉は気づく。温泉なら、みんな裸だ。けれど、いまは、自分だけ――自分だけ、裸で――!
そのとき、栞莉は初めて、自分が
だからこそ、みっつめのデッサンが終わったとき――栞莉は、あえてローブを着直さなかった。裸のまま、先ほど使った丸椅子に座り――何気なくスマホをいじったりしてみる。実際は、姉からのメッセージを開いたり閉じたりしているだけ。ただ、それだけのことで――ただ、スマホを見ているだけなのに――この場で、裸のままそれをしていることが、たまらなくドキドキする――!
誰もが、栞莉と同じように息抜きをしている。ヌードデッサンの場ということで、他の人たちのスマホ操作は認められていない。だから、何か連絡を取りたい人は、そのたびに部屋の外に出る必要がある。そんな人の流れの中で、栞莉は普通に過ごしている。ただ、ひとつ異なるのは――全裸ということだけ――
ピピピ、とタイマーが鳴り、よっつめのポーズを取る。それは、いわゆる横向き寝――胸もお尻も、あえて見せるように――片ひざを上げているから、アソコの普段見えないところまで覗かれてしまっている――
なのに――!
もう、栞莉の中に恐れや迷いはない。これが芸術的に認められている行為だという自負もある。だが、何より――ドキドキして、気持ちいい――! 栞莉は、その感情を受け入れた。混乱することもない。だが、しいていうのなら――
次の休憩でも、栞莉はローブを羽織り直さなかった。一応スマホを手に取り、画面を見ている
五度目ともなると、栞莉の中でも余裕が芽生えてくる。両足ひざ立ちになり、両腕を頭上へと掲げるポーズ。芸術的には、天に感謝するような意味があるのだろう。けれど、いまの栞莉には――見て――
今回は作品の公開が禁止されているので、純粋にレッスン目的だ。けれど、もし、自分のヌードデッサンがみんなの前に貼り出されたら――学校のみんなに、自分の裸が見られてしまう――でも、嫌なわけではない。急速に変わっていく心境に栞莉自身がついていけていないが――
多くの人たちは、その前を素通りするかもしれない。だが、一部の人――目の前に座っている男性のような人たちはジロジロとポスターを舐めまわすように
ピピピ、とデッサン終了を告げるタイマーで、栞莉は我に返った。今度は何も考えられなかったわけではない。ただ――
その感情の正体に気づいたのは、最後のデッサンが始まってからだった。ペタンとお尻をつけて、背中を軽く反らせながら腕で上半身を支え――足もゆったりとひざを曲げて開いて――こんなの、アソコを見せびらかしてるみたい――!
目の前の男は、待ってましたと言わんばかりに――最後のデッサンということもあり、堂々と視姦している。その割れ目がうっすらと開き、蜜があふれ始めている入り口を――
「ぁ……は……あぁ……」
栞莉の口から、甘い吐息が漏れる。乳首は破裂しそうなほど膨らみ、滴る割れ目の内側では、敏感なところがさらに肉厚を増している。オナニーしたい――このときほど、はっきりとそう意識したことはない。小学生の頃、悪友から教わり、ときどき、何となく触れてみたことはある。だが、それだけだった。ここまで強く思ったことなど、一度もなかった。それどころか、まだ触れていないのに――それは、視線か。それとも、外気の流れか――栞莉は全身を愛撫されているかのような快感に包まれていた。
「はぁ……はぁ……♡」
栞莉の瞳は潤み、両足は弛緩して割れ目が自然と広がりを作っていく。お尻の下にはねっとりとした小さな水溜まりまでできてしまった。その冷たさが、栞莉の熱をさらに刺激する。
「はぁっ、はぁ……あぁん……♡」
その頬は熱っぽく、口の端には水玉が光っている。栞莉は、完全に
ピピピッ、ピピピッ
「はぁっ、んんっ、んんんんんっ♡♡♡」
それは、まるでアラームに貫かれたかのように。栞莉はひと際大きくのけぞると、パタリと後ろに倒れてしまった。本当は、もう少しこの余韻を味わっていたかったけれど――お尻の下にピチャリと敷きこんだ冷たさに、栞莉はどうにか気を取り直す。おもらししていたことがバレたら、さすがに恥ずかしい――!
栞莉は、すぐさまその身を起こす。そして、少しふらつくひざを奮い立たせ――ローブを小脇に抱えると、ゆるりとした足取りで、美術準備室へ戻っていく。私、まだ、裸なんだ――服を着た、みんなの中で――
栞莉はひとり、美術準備室に戻ると――
「あっ、んっ、はぁっ、あぁぁぁぁぁ……っ♡」
ローブを羽織ることもなく、服を着こむこともなく、ただ、一心不乱に自らの性感帯を貪る。こんなに濡れたことはない。こんなに
「あぅんっ、はぁんっ!? あぁっ、あぁっ、ああああああああっ♡♡♡」
栞莉は抑えることなく声を上げる。扉の向こうまで聞こえていたら――そんなことに、思いを馳せながら。
最初は、姉の代わりとして。しかし、最後には自分の意思でそこにいた。栞莉の胸の奥で、小さな歯車が音を立てて回り始めている。まだ、その変化の正体はわからない。けれど、それがもう戻れないものということだけは、はっきりとわかっていた。少なくとも――今日はもう、家まで下着を着ける気にはなりそうもない。
***
あの特別な週末が明けて――日が傾ききる前の時間帯、学校の正門を抜けると、栞莉の歩調は自然と速まる。これから、ひとり暮らしをしている姉の家に向かうのだ。徒歩二〇分の道のりは、何度も通っているはずなのに、今日はやけに近く感じる。やはり、栞莉の中で何かが変わり始めているようだ。
今日は、モデル代を受け取りに行く。表向きの理由はそれだ。けれど、姉に会うのに理由はいらない。
尊敬している。
かっこいいと思っている。
こうして、モデルの対価を受け取るということは――自分が、姉の代わりを務められたということ。それを、褒めてほしかった。
マンションは、駅から少し離れた場所にある。若干古く、派手さもないが、外壁は手入れが行き届いていて、エントランスのガラスも曇っていない。決して豪華ではないが、それでも、生活がきちんと整っている感じがする。そういうところも、栞莉はこの家が好きだった。
合鍵はもらっているのでひとりで入れるが、一応呼び鈴を鳴らすのが栞莉らしいところというべきか。テンキーで部屋番号を押し始めようとしたとき――栞莉の鞄の中でガタガタとスマホが音を立てる。何となく予感があり、確認してみると――案の定、姉からのメッセージが届いていた。
『ごめん。もう少しかかるから、先に入って待ってて』
やっぱりな、と思いながら、栞莉は家の鍵を持ち直した。
階段を上って、三階の突き当り。姉の部屋の中は、相変わらずだった。明るい色合いの家具。小物は多いのに、散らかっていない。ギャルっぽいセンスなのに、どこか実務的だ。
座卓はあるが、そこにノートパソコンは乗っておらず、りっぱなパソコンデスクに、しっかりしたデスクトップ型が備え付けられていた。モニタの上には、ウェブカメラも取り付けてある。これで会議とか打ち合わせなどをするのかもしれない。スーツを着た大人たちを前に毅然とした態度で振る舞う姉の姿を思い描き、やっぱりカッコいいな、と栞莉は胸を熱くする。
机の上は片付いているけれど――その隅のほうに置かれていた、四つの単語カードのようなものが目に入った。銀のリングで束ねられていて、英単語などを覚えるのに使われるものだ。
姉が、そういうアナログな教材を利用しているのが意外で、栞莉は何気なくそのうちのひとつを手に取ってみた。すると、そこには『明け方』『午前中』『夕方』――どうやら、時間帯が記されているらしい。それも、日本語で。別段外国語を記憶するためのものではないらしい。
不思議に思い、ふたつめを開いてみた。こちらでは『バス停』『駅前』など場所が示されている。
何だか面白そうな予感がして、栞莉はみっつめも読んでみることにした。だが――そこに書かれていた単語に、栞莉は思わず絶句する。『下着』や『水着』はともかく――『上半裸』って――これって、もう――! たしかに、栞莉は絶句していた。しかし同時に――
「あ、あぁ……はぁ……♡」
栞莉の中に、ヌードモデルのときの熱が蘇ってくる。想像しているだけで、身体が疼いてくるようだ。
その疼きに引き寄せられるように、栞莉は最後のひとつの中身も見てみる。そこには――『胸揉み』『ローションまみれ』って――! これ、絶対エッチなお題――!
何故、姉がこんなものを用意していたかはわからない。けれど、栞莉もまた、これで
とはいえ、勝手に持ち出すわけにはいかない。そこで――よっつのカードの束を傍に寄せて並べ、視線を逸らし、直接見ないようにしながらひとつずつ手探りで捲っていく。そして、スマホのカメラで撮影。ピントは自動で合わせてくれていると信じたい。そこからさらにめくってもう一度――! どんな組み合わせになっているのか想像すると、それだけで栞莉の
そして、いつつめのお題を揃えたとき――ガチャガチャ――玄関の錠が回される音が鳴り響き、栞莉は慌ててカードを元あった机の隅に戻した。そして、ペタンと床に座り、スマホをいじり始める。さも、ずっとそうしてましたよ、という様相で姉を迎えるために。だが、撮ったばかりの写真は、ここではまだ見たくなかった。それを見るときは――何があっても、絶対実行する――そのくらいの心構えで臨まなければ、面白くない。
すると、そこに。
「ただいまー。いやー、いろいろあってねー」
「おかえりなさい」
姉は部屋に入ってくると、軽く髪をかき上げた。肩にかかる長さの髪はきちんと整えられていて、明るめの色合いなのに、どこか落ち着いた印象を受ける。派手さよりも、手入れの行き届いた艶が目についた。
身体の線がわかる服装ではあるが、露骨さはない。動きやすさと見映えを両立させた、計算の行き届いた装い。背筋は自然と伸び、歩き方に迷いがない。
栞莉は、改めて思う。――やっぱり、お姉ちゃんは格好いい。いわゆる、“ギャル”と一言で片づけるには、あまりにも端正だ。視線の運び方も、声の張りも、場に馴染む距離感も。どれもが、経験に裏打ちされた余裕があった。
自分とは、住んでいる世界が違う――そう思わされるのに、不思議と卑屈にはならない。ただ、少しだけ背伸びをしたくなる存在だった。
妹からの尊敬のまなざしに気づかぬように、姉はくるりと背を向ける。どうやら、渡すべきものは棚に用意してあったらしい。姉は可愛らしくもしっとりとした桜柄のあしらわれた封筒と――
「え?」
栞莉は驚いて小さく声を上げる。だが、サイズのわりにはそんなに重そうな音も響かなかったので、どうやら中身は軽いらしい。
「オマケ。誕生日近いでしょ」
誕プレはちゃんと別に用意してるから、と姉は笑う。だから、栞莉もまた、ティッシュとかそういう生活消耗品かな、と軽く考えていた。
しかし後日――その中身を見て、驚愕することとなる。
さて。
夜、姉の車で家まで送ってもらったが、自分の部屋に戻ると、栞莉は早速スマホと向き合った。そして、ゆっくりと深呼吸。さっき、姉の部屋で撮ってきた『どこいつゲーム』の最初のお題――何が出てきても、絶対にやりきる――やらなきゃ、姉を裏切ることになる――と、一方的に誓いを立てて、栞莉はアルバムアプリをそっと開く。サムネイルは並んでいるが、幸い文字は小さく、一つひとつ拡大しないと何が書いてあるかはわからない。
栞莉はその中の、最初に撮影した一枚をタップした。
***
やはり、偶然が生み出すお題にとりわけ過激なものはない。
『夕方』『コンビニ』『ノーブラ』『一〇分間待機』
『午前中』『電車』『ノーパン』『自撮り』
――さすがに、『昼間』『学校』『全裸』『オナニー』は、どうなることかと思ったが、それもどうにかやりきった。
これと比べれば、次の『早朝』『バス通り』『水着』『ランニング』くらい、大したことはなかった。――むしろ、学校のお題より、気持ちが良かったかもしれない。
この調子なら、簡単にクリアできそうだ。それどころか、物足りなささえ感じる。達成感よりも、煮え切らなさを抱えながら、栞莉は最後の一枚をタップする。
だが――
「……え? ……うーん……」
一見、それは不可能に見えた。しかし、その実現方法をひらめいたとき――彼女の
時間帯は『深夜』、場所は『駅前』、行動は『プリ撮影』――そもそも駅前にそんな機械はない。なら、駅前のゲームセンターかな? とも思ったが、深夜となると店が開いていない。けれど、ここまで完遂してきたのだから、最後までやり通したい――そんな思いが、栞莉に気づかせた。――証明写真。これなら、深夜ということも都合がいい。
ただ、駅前は駅前。深夜といっても、それなりに人通りがある。それに、服装の指示――最初は何のことかわからなかったけど、調べてみてビックリした。そして――是非やってみたい、と思えた。
それに加えて、彼女の
そのまま――撮影は進んでいく。顔は映らないように――けれど、裸は映したい――それで、椅子の上でひざ立ちに。顔のところにおっぱいが来ているのは、ちょっと面白いな、とこんな状況なのに思わずクスリとしてしまう。
だったら、もっと――ひざ立ちどころか、背中を押し付けるように椅子の上に立ち、支えている右足とは逆の左足を両腕で抱え込む。ううん、もっと――! 静かに右腕を下ろすと、アソコの割れ目を二本の指でニュっと開く。前に立つ者のすべてを映し出すカメラの前で。栞莉は自分のソコを、初めて見た。テカテカと照明を受けて光るそこは――すごく、エッチ――! しかも、敏感なところにはオモチャがくっついていて、お尻からはプラプラとケーブルが三本も伸びている。なのに、こんなものに不愉快さではなく、楽しさを感じているのだから――私って、もしかして、いやらしい女のコ――? それでも、自重する気にはなれなかった。こんな快感を知ってしまったら――もっと――
パシャリ。
その画面には、栞莉の花びらがしっかりと映し出されている。しかし、そこにあるのは嫌悪感や後悔ではなく、達成感。このありさまが形となって残ることを思うだけで、栞莉の
しばらく待てば、それは現像されることだろう。――自分の恥ずかしいところが全部詰まった写真が。
それを、このまま置いていってしまおう――何気なく拾った人が、私の姿を
座席はカメラと向かい合うように奥の壁際にあるので、その前の床はガランと空いている。まるで、そこに座ってください、と言わんばかりに。壁際には脱ぎ散らかしたシャツとスカート。その真ん中で、裸のまま――いや、
「はぁ……はぁ……
栞莉は両手でしっかりと割れ目を開いたまま、外の様子に耳を澄ませる。ローターはずっと栞莉の
コツ、コツコツ――
その足音は、栞莉の前で立ち止まった。その静寂が、栞莉の胸を深く貫く。
だが、すぐに――
コツコツコツコツ――
早足で遠のいていった。絶対
「はぁっ、あぁっ、ああああああああ♡♡♡」
ビクビクッ、ビクッ、ビクンッ、ビクン――ッ
ぷしゃああああああああ――
箱の外に飛び出す勢いで、栞莉は激しく潮を噴く。恍惚とした熱にその身を委ねながら。
「はぁん……あぁん……はぁ……」
自分が危険なことをしている自覚はある。けれども――そのとき栞莉は、自分が
***
――そして、栞莉は行きついた。
休日、電車に乗ると、全力で下り方面へ。そこに、栞莉の知る者はおらず、栞莉を知る者もいない。
「はぁ、はぁ……えへへ……♪」
いまから挑戦することを思うと、栞莉はドキドキと、そして、ニヤニヤが止まらない。顔を隠すためのサングラスとマスク――下着は家に置いてきた。おかげで、ずっとドキドキしている。アソコのよだれは収まらず、申し訳ないことに、座席を濡らしてしまった。
そんな冷たさを感じつつ――おそらく、前の駅がこのあたりで一番大きな街だったのだろう。この車両には栞莉ひとりとなった。他の乗客がいなくなったことで、栞莉は――ボックス席で服を脱ぐ。シャツをめくり上げ、スカートを下ろしただけで、すぐに栞莉の恥ずかしいすべてが丸見えになった。
「あはぁ……はぁ……
栞莉はひざ立ちになり、窓ガラスに
目的地は特に決めていなかった。けれど、このあたり一帯について調べてはいる。だから、どこでも良かった。なので、ゆっくりと電車が速度を落とし始めたところで、栞莉はスマホの肩紐を掛けると席を立つ。ホームに、人がいなかったから。胸と胸の間を通るストラップが、よりいやらしさを作り出しているようだ。
「あ……はぁ……はぁ……」
こんな場所で裸なんて――いまにもオナニーしたくなったが、そのとき――栞莉はホームの片隅に目を留める。駅の古さに似つかわしくない、少し新しめなコインロッカー――栞莉は、まさに衝動的に。脱いだ服をその一室に放り込むと、扉をパタンと閉め――スマホでカチャンと鍵をかけてしまった。
「はぁ……はぁ……私……あぁ……っ♡♡♡」
ビクビクっ、ビクっ、ビクっ――ビクン――っ
これまで抑えていたものが、指一本触れることなく勝手に弾けた。その余韻は甘く栞莉を冒していくが――彼女は、自分でも信じられないほど貪欲になっている。私がほしいのは、こんなものじゃない。もっと、もっとみんなの日常へ――そのまましっかりした足取りで、無人改札を通過して――
「……はぁ……♡」
身を守るものはすべてロッカーに――そんな無防備な姿で、これからここの人たちの生活へと踏み込んでいくのだ。
この駅で降りたのは気まぐれだったけれど、栞莉にとってちょうど良かったかもしれない。駅前に、レンタサイクルがあるから。
裸のままスマホで手続きを行い、サドルにお尻を下ろす。すると、それだけで座面がペチャッと鳴った。今日はきっと、帰宅するまで彼女の割れ目が乾くことはないのだろう。
明るい空の下、全裸にサングラスにマスクという常軌を逸した姿で、栞莉は広い国道へ向けてペダルを漕ぎ始める。覆い隠された下の素顔に浮かぶ面持ちは、どこか彼女が敬愛する姉に似ていた。