こちらの作品もpixivに投稿しています。
《 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27071759 》
「セイジさん。今回のお仕事も頼みますよ」
指定のホテルに到着した僕にドライバーが声を掛けた。時刻は19時24分。指定の時間より少しばかり早く着いたようだ。車のドアから身体を出すと、生温かい風が頭の耳や尻尾にかかる。体毛が生えている場所であるだけに、汗が出てしまわないか心配してしまう。この時期にそんな汗は当たり前のことだ、無理もない、と他人はいう。昼間、専門学校で調理師を目指している僕だが、この仕事をしているときにはこういった身体の状態は些細なことでも用心しないといけないことだ。隠しても無理のないことだろう、言ってしまおう。
――派遣型ヘルスのキャスト、それが僕の裏の顔である。
元はというと、元来から病弱な妹の生活のためだ。妹は幼い頃から夢を見るようにして、末来を言い当ててきた。もちろん、両親も特別な力を持つ彼女を大切にし、周囲の人も好奇心から、または興味本位から関わってくる者が多かった。だが、「天は二物を与えず」ということは現実にあるのか、妹はあまり身体が頑丈ではなかった。両親はその現実にばかり目が行って妹を手厚く看病し、僕のことはあまり気にかけなくなったのだ。僕が15歳、妹が13歳のとき、両親が仕事先の事故で部下を逃がして亡くなってからは、妹は体調を崩すことがさらに多くなった。両親と深い関係にあった人たちからの支援ばかりでは生活も難しくなってきて、僕は高校入学と同時に年齢を偽ってこの仕事を始めたのである。
このキヴォトスは、古来から女性が権力の中心に立つ社会で、性産業においてそれに例外はない。シャーレの先生の祖国とかいう「ニホン」では女性が性産業の中心にいるらしいが、キヴォトスでは逆に男性が性産業の中心となっている。それぞれの自治区にいる女生徒たちが治安維持といった支配権を持っていることもあって、僕たち男性の中には女生徒に奉仕する仕事をする人間が少なからずいる。昔から多いのが、性産業への従事である。僕のように非合法である年頃から性産業で働く人もいれば、銃火器や弾丸、爆弾の開発や修理、名家の執事や家政夫として働く人もいる。ただ、こういった仕事の中、短期間で多くの稼ぎが得られ、身の安全も確保しやすい職業が性産業、即ち水商売だ。
水商売は一見すると危険な仕事でもあるが、日頃から生きるか死ぬか分からない世界にいる生徒たちにとって貴重な、そして、代え難い娯楽でもある。彼女たちにとっては1回の指名で日頃の恐怖や鬱憤を忘れられる場所が、男である僕たちにとっては1回の出勤でそれなりの金銭が得られる。お客さんの中には、ギフトカードやチップ料金などの差し入れをくれる人、写メ日記を見て話題を集めてくれる人もいて、とてもやりがいがある。ごくたまに、仕事のストレスや愚痴をぶつけたり、乱暴や暴言をぶつける地雷客もいるが、皆が皆、それ程酷いわけではない。各々が身だしなみを整え、清潔にし、僕たちを迎えてくれる。そうしたお客さんを見ると、誠心誠意、奉仕をしたくなる。……こんな姿の僕を、妹が見たら軽蔑をするのかもしれない。それでも、僕は妹が元気になれるなら、と思ってこの仕事をする。
「本日のお客さんは6階の68号室にいらっしゃるそうです。先程、到着の旨の連絡を彼女にしました」
「ありがとう。さてと、今回も頑張りますか……」
ホテルの入口に立つ。今回のお客さんがいるとされるホテル「hopper」は、6階と近辺のラブホテルの中でもそこそこ大きい。一つ一つの部屋が広めにも関わらず、休憩も宿泊も金額がとても安い。まぁ、この一帯は火山灰で育まれた豊かな土壌の植物を食べるバッタが多かった、という歴史がある。このホテルの名称の由来になるような背景のある土地もあって、安価なのである。僕の勤めるお店で割引制度が適用される位、この自治区ではよく利用されている。……ホテルの外装は補色の赤を基調としているが。
僕はホテルのロビーへ歩く。今日の最終出勤、相手はどんな人なのだろう。
片手にガンケースを手に持ったドライバーの横を一緒に歩くと、目の前に例の部屋が見えた。ラブホテルらしく、いかがわしい色合いのドア。その中央には流れるような文字で「68」と部屋番号が示されている。黄色がかった照明に照らされ、どこか古臭さを漂わせる。
ドアの前に立つ。
いつもの通り、右手で3回ノックする。
「はーい、今行きますよ」
中から声がする。
しばらくして、ドアが開いた。
目の前には少女。彼女はその小柄さに反して、頭髪が目立つ。しかも、顔立ちはどこか気だるげで無口そうなのもあって、髪が本体では、と思ってしまう程であった。そんな彼女は赤く、そして豊かな頭髪が引き立つような、真っ白なパジャマを着ている。恐らく、ホテルに常備されるものを身につけたのだろう。
「こんな遅い時間に来てくださってありがとうございます。今日、予約をしたイロハです」
そう、彼女は名乗った。
ん?少し、生臭い臭いがするような……。
「こんばんは、本日はご指名ありがとうございます。派遣型ヘルス「ラグニアー」のセイジです。今日はよろしくお願いします」
いつも通りの決まり文句が自然と口から出てくる。
「早速ですが、こちら。私の銃です。そちらのガンケースに」
おっと、そうだった。
セックスをする際に、互いの武器及び弾丸、手榴弾は全て渡すこと。それがこのキヴォトスにおける性産業の基本だ。その手の管理がされなかった頃は、不満に駆られたお客さんがキャストを銃で負傷させる事件が起きていたらしく、今ではお店を利用する際には必須の契約として出てくる。今回は拳銃だったため、小さいガンケースで済んだ。だが、生徒によっては大きな銃を預ける人もいる。そういうときは何人かで対応するガンケースを運び、紛失しないように管理することがほとんど。苦労が絶えないが、これはしょうがない。互いの安全のためだ。
互いの銃を収めたガンケースをドライバーに預ける。彼は扉の近くで時間が来るまで待機するらしい。傍らのバッグは角ばっている。本か何かが詰められているのだろうか。
「それでは、当店人気No.3のセイジ君との、楽しいお時間を」
芝居がかった言い回しをして、ドライバーは部屋の扉を閉める。
薄物の服の僕、真っ白なパジャマを身につけたイロハの2人だけの部屋。
この静かな部屋で僕たちがセックスすると思うと、何だか、不思議な気分になった。
「それにしても、大変ですよ。2年に進級してからは、先輩からの無茶ぶりも多くなりましたし、正直、やってられません。こうして、セイジさんと一緒にいれば、私も怠けられますかねぇ?」
「そうかもね……。でも、今日はあくまでもキャストとお客さんとの関係であるからね。それに、僕は住まいがここではないし。一緒にいるのも簡単じゃないよ」
「ハァ……。残念です。でも、今日は仕事の悩みも煩わしさも全部忘れます♡」
最初の数分間は雑談で始まる。料金を払ってから、どんなプレイがいいか、してほしくないペッティングはあるか、SPオプションは何にするか、私生活のお話や趣味、教養と色々と。そうしてお話がまとまったら、次はシャワー室へ向かう。身体の汗や垢をしっかりと取るだけでなく、互いの裸を見せ合うためにも行う。
「それじゃ、シャワーを浴びようか。さ、行こ」
「いや、遠慮します。ちょっとした楽しみをしたくて……」
「それは……、お店の決まりを守らないの?」
イロハは迷うことなく、パジャマのボタンを外す。本来、セックスをする際の衛生のためにもシャワーでの洗浄は必須だ。それを断るお客さんはごくたまにいる。そういったお客さんは「地雷客」としてブラックリストに記されるが、どうも彼女はそうには見えない。
「まぁまぁ、そんなことを言わずに。貧相な、つまらない身体ですが楽しんでください♡」
服を脱ぎ、あられもない姿を見せる。豊かな赤髪に目を引かれていたが、裸の彼女は豊満ではないが、そこはかとない色気があった。
小ぶりながらも形が整った乳房。
色白の肌には似つかわしくない、濃い色の乳輪と乳首。
あばらがよく見える程に痩せた上半身。
小ぢんまりとしていながら美しさのある尻。
そして、目を引く陰毛に染められた陰部。
「おや?私、悪いお客さんでしたか?こんな貧相な身体じゃシャワーを浴びると無くなってしまいそうですねぇ。そうなったら、セイジさんが看取ってくれますか?」
「ハハハ……。それは勘弁」
僕はシャワーを浴びた。流れる水、体毛に満ちた尻尾をボディーソープでしっかりと洗い、ドライヤーで隅々まで乾かす。先程までの汗を洗い流したことで、心持ちも随分と楽になった気がする。
イロハはというと、裸のままだ。近くには汚れた下り物シート、使い終えた歯ブラシセットがある。流石に陰部や口は洗ったようだ。
「あぁ、やっと戻ってきたんですか。思いの外、時間がかかるんですね。ま、そんなに大きな尻尾では洗うのも大変ですよね?」
「まぁ、君の言うようにね」
持って来たタイマーを手に取る。画面には「130分」が表示されている。お店の指示通り、ボタンを押す。
「さてと、これからが本番だよ。さ、おいで」
「全く……、何とまぁ大きい身体。遥かに小さい私の身にもなってくださいよ」
イロハは赤髪をかきわけながらこちらに近づく。歩く度に汗ばんだ体臭が広がった。
互いの身体を抱きしめる。これは最初の決まりだ。直に触れることで、相手の身体を確かめるのである。
「オヤオヤ、セイジさんは身体が細いんですね。耳を当てると、鼓動の音がドクドク聴こえてきますよ」
「君もだよ。肩や腕を動かす度に、骨やあばらがよく動くからね」
「……私への煽りですか?そりゃ、私はグラマラスからは程遠いですし、無理ありませんヨォ」
イロハの身体を抱きしめると、脂肪があまりない身体であることを実感する。別の生き物のように動く骨たち、胸元にかかる鼻息とコリコリ当たる鼻先。そして、腕に絡みつく長髪。何といっても、それを感じようとするとあの体臭がやってくるのが癖になる。本来は違反行為として「地雷客」になるはずの彼女のことを、つい許してしまいそうだ。
「このまましてくれませんか?お口のチューを」
「そうしよう、少し待ってて」
膝を屈ませ、顔の位置を合わせた。彼女の身体は僕よりも小さい。最近は生徒会の仕事で中々会えない妹と同じ位なのだろうか。その小さな身体に目が行っていたが、顔は整っている。眠たげな眼。厚さのない唇。鼻筋も徒に長くない。髪をある程度整えれば、きっと輝きそうな顔立ちだ。ただ、本人の性格を考えると、この気怠げな性格には今のままが相応しそうだ。
突然、イロハが僕に唇を重ねてきた。唇の隙間からは歯磨き粉の香りがほんのりと漂う。その唇は普段から手入れをしているからか、瑞々しく、そして、柔らかかった。
「ムフフ……、不意打ち成功、ですね。これでも、唇やおまんこの手入れは欠かさずしてますよ。他のキャストさんも褒めてくれました、フフッ♡」
魅惑に満ちた顔を僕に見せる。すぼませた唇に人差し指を深く食い込ませたと思うと、投げキッスの要領で僕に人差し指を向けた。色っぽい……。
「オヤァ、こっちは素直なんですか……。私も、こっちは素直ですよ」
先程のキスで気づかなかったが、いつの間にか、僕の男ははちきれんがばかりに硬くなっていた。前にいるイロハは、茂みの中に指を突っ込む。そうして、柘榴のように艶々とした秘部を僕に見せつけた。
「さて、始めよっか。じゃんけん、する?」
「先攻と後攻ですか?やりましょう」
対応する本人とのコミュニケーションを取るためにも、こういった小さな遊びも必要だ。
「私はチョキで、セイジさんはパー。……私の勝ちですね」
珍しく、このじゃんけんで負けてしまった。まぁ、たまにはお客さんにリードされるのも悪くない。
「どこ、触っていいですか?この暗い色のおっぱい、そ、れ、と、この硬くなったムスコさん、ですか?おやおやぁ、迷いますねぇ……」
彼女の身体が近くに来ると、先程からの体臭がさらにきつくなってくる。視界の右端にかすかに頭頂部が見え、右腕には赤い髪が刺青のようにピッタリとへばり着く。今の僕はイロハとダブルベッドで横になっているため、彼女がどんな顔なのかは分からない。ただ、声色からして僕のことを煽ろうとしているのは間違いないようだ。
「何も言わないなんて、困っちゃいます。私が先にサワサワしちゃいましょうか?」
イロハは手を伸ばす。その伸びた手で最初に乳首をつかんだ。実家の金庫の鍵をクルクル回すように、つまんでは回し、つまんでは回す。身体に染み渡るような快感が胸から胴体へと伝わってくる。そうして彼女は空いたもう片方の手で僕のムスコを優しく握った。
「……ンショっと。男の人って、気持ちいことに素直なんですね。セイジさん、触る度にヒクヒク動いてて可愛いです♡」
頭を動かし、横顔を僕の視界に見せる。体臭に少しばかり、汗の臭いが混ざってきた。鼻筋が光っていて、いやらしい。
「ウ、上手いね。こういうお店、よく利用するの?」
「はい。最近は仕事が多くて指名できなかったんですが、去年は月に1回はヤってましたよ。そうしてると、嫌でもテクは上手くなってしまうみたいですねぇ」
もう片方の乳首をしゃぶられた。硬い歯で乳輪が圧され、柔らかい舌が乳首をなぞる。それと同時に、小さな手でムスコを扱かれる。4本の指が根元から先端、先端から根本をさすられるとこれが気持ちいい。彼女の場合、指の肉にタコがないこともあって、敏感な裏筋が包まれるような快感に襲われる。その度に身体が何かの機械のようにうずいてくる。
イロハは口から糸を引かせながら僕に顔を向ける。
「いやぁ、男の人の身体をこうして好き勝手できる機会なんて中々ありませんねェ。そろそろ出そうですか?」
頷く。今、僕の身体は火が点いたように、熱い。
イロハが動いた。何をするのかと思っていると、自分の秘部を僕の顔に近づけている。
「どうせ、イかせあうのなら、一緒に気持ちよくなれる方がいいですよね?私がこっちを舐めますから、セイジさんは私のを舐めてください。できますか?」
なるほど、「シックスナイン」か。この体位なら、いつもの仕事でこなしているから平気だ。
迷うことなく、僕は彼女の秘部を口に含んだ。
そこは、肉体、というよりは小さな生き物のようだった。周りに生える陰毛が口に当たり、チクチク痛む。その陰毛に隠されたヒダは意識を得たかのように硬くなる。最初のときは苦みだけだったそこは、「蜜壺」の名に恥じない甘みに満ちていく。舌を顎の方へ動かすと、小さな出っ張りに当たった。そっと入口を吸い、出っ張りを舌先で転がすと、ビクンと動く。
これまで抱いてきた子たちと違い、クンニをしてもイロハはわざとらしい喘ぎをしない。大体のお客さんは、「こうすればキャストさんは喜ぶだろう」と身勝手な思いでそうしてくるからだ。彼女の場合、ペッティングやクンニをすると、声や吐息が小さく、しかし、身体が震える。この仕事に慣れた僕にはとても新鮮で、そして、年下なのに助けられたような気分になる。
そして、僕とイロハは共に達した。
今回、イロハはSP料金を払わなかったこともあって、セックスはシックスナインやペッティングだけで終わった。その後は、雑多な話をして過ごした。行為の後、僕の長く豊かな尻尾を枕にして横になった彼女は汗もかいたこともあって、不思議な臭いを発している。いや、「臭い」というより「匂い」という方が近いだろうか。
備えたタイマーを見る。時間はあと僅か。
「ところで、SP料金を払わなかったのはどうしてなの?大体のお客さんは払うのに」
「まぁ、私はムラムラしてたのは事実ですけど、その、そこまでして発散したいというわけでは……。……こうして、人気ボーイのセイジさんと一緒にいられたらそれでいいんです」
「やれやれ……。それじゃ、締めのアレ、してあげるね」
「言ってないですけど……。まぁ、折角なら」
僕はお客さんと別れのハグ、キス、そして挨拶をする前に独自のプレイをしている。
いわゆる、「煙草を使わないシガーキス」だ。
キヴォトス人でも煙草は有害なため、「表向きでは」禁止されている。しかし、映像作品や創作では外国のそういう描写は規制されない。学校ではその危険性が説明される。それでも、一定数の生徒や子どもは煙草に密かな憧れを持っている。
思えば、最初に指名をしてくれたあの超天才清楚系、病弱、何だったか……、その子にしてからは是非ともやってほしいと頼まれることが多くなった。
そんなわけで、僕はいつもの要領で「ソーダシガレット」を開く。小袋に満ちたお菓子から2本、指で引っ張る。そして、一本を彼女に、残る一本を手に取る。
互いに口に含んだ。
そして、目を合わせる。
シガレットの先端を、ツン、と合わせる。
急いで口の中へ呑み込み、胃袋へ。
咀嚼し、呑み込む音がホテルの部屋に広がる。
「実家にある、ロマンス映画みたいでしたね、私たち」
「そうだった?そう言ってくれて僕も嬉しいよ」
そんな背伸びした時間を裂くように、タイマーが鳴り響く。
お別れの時間のようだ。
「本日はご指名、ありがとうございました。またのご指名をお待ちします」
「はい、いつでも」
「折角だから、今日のことは秘密にするね。僕は許すけど、他のお客さんにはしないこと。いい?」
「……ハイ、これからはサボりませんよ、そういうこと」
尻尾を彼女の背中に寄せる。
そして僕たちは、唇を重ねた。
仄かに、ソーダの風味がする。
余談ですが、キヴォトスは女性向け風〇産業が活発そうですよね。