天真爛漫なハーフエルフ姫との入れ替わり 作:おくらいりーOh9lawinー
アンナの朝は早い。エレンの秘書として本格的に働き始める前からーー乳母の役目こそなかったけれど、お世話係として、時に身内でありながら非情な決断をしなければならないエレンの両親よりも、両親らしく、ずっと接してきている。
アンナは姉であり、母であり、そして秘書官でもあった。
エレンはまだ、エルフの中では幼子もいいところなのだけれど、人間として考えるなら、既に大人としての入口に立っている状態である。何より、伴侶ーー豊崎マモルという、どこからどう見ても普通の、人間の青年がパートナーになってからは、より責任感というものを自覚し始めたようで悪くない。
いい兆候である。将来に怯えて、体を守るように縮こまりながら寝ていた頃や、眠れずに泣いていた頃と違って、生き生きとしている。ちょっと反動がつきすぎたような気もするが、それはパートナーであるマモルがうまく流している。
血筋や地位を絶対視する他のエルフからすれば、マモルは何一つ持たない、「相応しくない男」だけれども、入れ替わりに文句も言わず、一生を添い遂げると啖呵を切れる彼のことを、アンナは高く評価していた。エレンもまた、不思議とはじめから彼には心を開いていたし、きっとこれからも仲良く暮らしていくのだろう。
そう思っていたら、執務室のドアが勢いよく開かれた。部屋に入ってきたのは不機嫌そうな青年、つまり、入れ替わった状態のエレンで、彼女はドアをしっかり施錠して、近くのソファにどっかと座った。
「おはようございます、エレン様」
「うん」
「あの、マモル様は?」
「アンナ」
声に霜が下りている。アンナは内心で首を傾げる。
「マモルはしばらく入室禁止。来ても追い返してっ」
「理由を伺っても?」
「あれはマモルじゃない」
このカップル――というか正確にはもう夫婦なので、おしどり夫婦と言うべきか――にしては珍しい。まさか速攻離婚とは言いださないだろうけれど、相当おかんむりのようだ。
ケンカでもしたのですか、というより早く、エレンはバンバンと机を叩きながら言った。
「あれは、サキュバスだよっ」
「……さきゅばす?」
「そう!私がやめてって言っても搾り取ろうとして、私、殺されかけたのっ!」
アンナは、深くため息をついた。
そして、エレンにはいつものカップではなく、紙コップで紅茶を出そうと決心した。自分でもみみっちいやり方に泣けてくる。
「昨日までは良かったの」
と、エレンは尋ねられたわけでもないのに語り出す。
「昨日ね、マモルといつものように、おやすみのイチャイチャをしてーーふふ、前髪をいじって、おでこを出させてみせたマモル、可愛かったなぁ……じゃなくて、その、したのっ」
「なにを一人で百面相しているんですか」
ついつい相槌を打ってしまう、自分自身に呆れてしまう。
「でね?私もマモルも満足してーーああでも、マモルはアへ顔になって、おまんこから私が中出しした精液をポトポト零してたけどーー私がそこは男としてリードして、抱きしめながら囁いたの。『明日もずっといちゃいちゃしようね』ってーー」
「はあ」
「そしたらねっ!」
ぶう、とフグのように頬を膨らませてエレンが叫ぶ。
「『言っておくけど、学校でしようとしたら怒るからね』って!」
「いや、それはマモル様のほうが正しいです」
最近思う。エレンにとってのマモルは、ただの伴侶なだけではなく、最早外付けのブレーキか何かではないのか、と。この少女、一人でエルフの業を背負い過ぎである。
将来的に子孫繁栄の神様か何かに祀り上げられる代わりに、清楚という概念をぶち壊しにする、ド淫乱とか、そんな感じの不名誉なあだ名をつけられそうだ。
「で、私はいろいろ言ってみたの!マモルだって楽しんでたとか、私とイチャイチャするのは嫌いなのかって。そしたら、『学校で性行為に及ぶのは、風紀の面から言って賛同しかねます』って」
「私はマモル様を全面的に擁護しますし、むしろ前例のない言葉で殿下を非難したく思います」
「聞いて!いいから聞いて!」
「はあ」
「で、最終的に、私が、『明日やめてって言っても絶対やめてあげない』って言ったら、『では、本日、殿下と同衾して、明日、殿下が襲おうとしてもできないくらいに搾り取って差し上げます』とか言うの!そこまで言われたら私、売り言葉に買い言葉で、やってみなさい、って挑発して、それで……」
「それで、負けたと?」
「負けてないもんっ」
本人は涙目である。しかしアンナは完全に白けていた。というか、最初からどう考えてもマモルが正しいので、擁護のしようがなかった。
「あの子おかしいよっ。いつもならもう許してっ、って舌を出しながらヒーヒー言って私にだらしないアヘ顔見せるくせに、私が休憩入れようとしても、そのたびに私の上に乗ってきて、犯してきたのっ。挙句に『勃たないと言うなら、強制的にさせます』とか言ってとんでもないフェラテクまで……あんなのマモルじゃない!」
何というか、その状況が見て取れるようだった。
大方エレンが、男の体になったのをいいことに、そして、いつもの調子で散々マモルを挑発したのだろう。あはは、あれだけ大口叩いといてその程度?とか、ほーら、もうイキそうな顔をしてる!とか、そういう、メスガキにも負けない煽りを次々と生み出す彼女の姿が目に見えるようだ。
というか、エレンを幼少の頃から知っているから耐えられるのであって、その絵面は普通の男子高校生なので、耐性がないものが見たら、「キモ」の一言で一刀両断されてもおかしくなかった。
そんなエレンに、正常位でされたのかバックから犯されたのか、あるいは彼女が言うようにずっと彼を体の上に乗せていたのかは知らないが、二発、三発と調子に乗って射精した辺りで、マモルがいつもと違うことに気づいたのだろう。
豊崎マモルはごく平凡な人間である。魔法も使えないし、実家がそれをカバーするほど太い、社会的地位があるというわけでもない、平凡な家庭の平凡な男子である。しかし、これと決めたことに関しては、何としてもその一念を貫き通そうとする覚悟のようなものを時々垣間見ることができた。
入れ替わった責任をエレン一人に負わせることだってできた。自分は被害者だ、と喚き散らすこともできたし、あるいは、パニックになってもおかしくなかった。突然降ってわいた社会的責任というものに耐え切れずに、早く元に戻せ、と言い募る可能性だってあったかもしれない。
それを、なんだかんだなあなあで流しながら、きっちり、入れ替わったエレンの本来の責務まで引き受けようとして、婚約会見の場で、どちらともとれない演技で、エレンという一人の少女のすべてを背負って代役を完璧に努めたり、正直、色ボケした状態のエレンには勿体ないほどである。
たぶんそれが、諫言という形で発揮されたんだろうなぁ、とアンナはしみじみ思った。
それにしては、最悪な光景だった。エレンはマモルを絶頂させることでほら、言わんこっちゃない、と勝ち誇って、学校でもセックスしようと必死に腰を振ったのだろうし、マモルはマモルで公序良俗のために、絶頂を耐えるか流したりしながら、それでもエレンを腰砕けにしようと、何度も何度も夜のお相手を務めたのだろう。
「私頑張ったのに!おっぱいをぎゅうって握ってみたり、おちんちんでマモルの奥深いところまで突き上げたり、ものすっごいベロチューしたりしたのに!」
「聞きたくないです」
「なのにマモルったら、いつもみたいに、イクっ、とか一言も言わないで、喘ぎ声を必死で殺して、逆に私が射精したら、『その程度ですか?』って言わんばかりにこっちを見てきて、『まだ出ますよね?殿下』とか言って……ああもう、あの子絶対サキュバス!淫乱!間違いないね!」
「マモル様がサキュバスなら、あなたもサキュバスなのでは?」
というかむしろ、その方がしっくりくる気がする。いくら男になったからと言って、あれほど性に奔放になるのはおかしいと思ったのだ。なるほど、謎が解けた、とアンナは納得する。
「だからアンナ!今日から絶対!ぜえったいマモルをこの部屋に入れちゃダメだからね!」
「おや、手が滑りました」
「アンナーっ!?」
ドアを開けた。そこには、セーラー服を完璧に着こなしたマモルが立っていた。顔に貼りついた笑みは、人前では仮面を被って、陰で泣いていた子供の頃のエレンそっくりだったが、その笑みにはただならぬ凄味が浮かんでいた。
「アンナさん、ごきげんよう。殿下は?」
「こちらに」
「アンナー!この裏切り者ぉ!」
「殿下、おはようございます。ほら、わたくしと学校に行ってくださいませんか?」
ととと、と小走りで走り寄ったかと思えば、下からエレンを覗き込む。すぐにエレンの顔が真っ赤になった。
「うるさいうるさい!このサキュバス!本物のマモルを返してっ」
「ひどいです、殿下。そんなことを仰るなんて」
言いながらさりげなく頬に手をやって、どうしたものかと思案する顔に、アンナは戦慄する。女性らしい動きが、かつてないくらい洗練されていた。
「マモル様、あなた……」
「なんでしょうか、アンナさん?」
にっこりと、微笑みが返ってくる。一瞬言葉を詰まらせたアンナとは対照的に、あーっ、と大声を上げてエレンが彼女を捕まえた。
「殿下!乱暴はっ」
「うるさいこのサキュバスっ。こうなったらここでもう一回犯してやるもんね!」
「ふふ、殿下に愛していただけて嬉しゅうございます。でも……」
ぺろり、と舌なめずりしながら、凄味のある笑みを浮かべて彼は言う。
「学校で、おいたはいけませんよ?」
「ふ、ふんっ!その強がりが、どこまで続くか見物だねっ」
エレンがマモルを、ベッドの上に投げ飛ばし、スカートをめくり上げてショーツを引きずり下ろす。カチャカチャッ、と金具が鳴る。足を肩に担いで、エレンがマモルの秘所に自分の肉棒を押し込んだ。
「ほらっ、早くッ!アヘアヘ言っちゃえっ」
「もう、殿下は乱暴なんですからぁ」
アンナは、額に手をやった。覚悟が決まりすぎると、マモルは完璧な女子モードになれるらしい。
それはそれで悪くないのだが――この光景は、あまりにも残念過ぎる。
「お二人とも、せめて遅刻しないようにお願いします」
尻を丸出しにして、必死の形相で腰を叩きつけている男と、小さな声で喘ぎながら、男の余裕のないさまを見て笑っている少女に声をかけ、アンナは執務室を後にした。