秋の収穫祭が近づいた頃に、長屋の女たちに手紙が配られた。
バートン男爵からの宴への招待状。
下層の人間に文字が読める者はほとんどいないが、ジャンヌは元の育ちゆえに読むことができる。
内容を読めばそれは、宴の出し物としての名誉ある招待であるということだけが記されていた。
だがそれを理解できない者が長屋では、ほとんどだ。それでもポストマンの少年からバートン男爵からですと言われれば拒むことができないものだと察するほかなかった。
布一枚のみで集められた場所は、アード川を挟んだ貴族や豪商たちが乗馬を楽しむ牧草地帯。
まずは布を外すところから求められた。独り身の女も所帯持ちの女も関係なく秋晴れの空の下に肌を晒す。
冷たい風が肌を撫で、胸の頂きがが硬く尖り、無毛の股の間から風が通り抜ける感触に、ジャンヌは身を震わせた。
視線が無数に刺さる中、彼女たちはただ立たされる。男たちの嘲笑が耳に届き、身体を覆いたくなる衝動を必死に抑える。肌が粟立ち、股間の粘膜が空気に触れてわずかに湿り気を帯びるのが感じられる。その屈辱が喉を詰まらせる。
そして、次は馬に跨ること。ただ馬に跨るだけではない。鞍には突起物が一本張り出していた。
それがどこに入り何が起こるかを考えたジャンヌは、血の気が引いた。
太く冷たい木製のそれが、女の秘部を狙っているのは明らかだった。拒否など許されず、男たちの手で馬に押し上げられる。
突起が入口を押し広げ、ゆっくりと内部に沈み込む。膣壁が無理やり引き伸ばされ、鋭い痛みが下腹部を貫く。ジャンヌの唇から小さな悲鳴が漏れ、目尻に涙が滲む。異物の硬さと冷たさが内臓を圧迫し、吐き気が込み上げる。 馬に跨り胎の中の異物感に眉をひそめた。
そして落馬しては危ないからと足を固定される。馬を立ち上がらせると男が馬に鞭を入れた。
「―――っ」
声にならない声が喉の奥でほどけ、浅い吐息の合間に、意味を持たない喃語が混じる。
振り落とされないように手綱を握る。その握力を嘲るように、馬は速い、速すぎる。
揺れは痛みばかりを連れては来ない。知らない熱の芽も連れて来る。馬の動きごとに突起が内部を抉り、擦り、強制的に刺激を与える。ジャンヌの身体は彼女の心を裏切り、蜜が溢れ始め、突起を滑りやすくする。それがさらに動きを助長し、望まぬ快感が下腹部に広がる。
だがそれは彼女の意志ではない。ただの生理反応、辱めの産物だ。膣内が熱く腫れ上がり、摩擦のたびにぬちゃぬちゃという湿った音が響き、太ももを伝う温かい液体が自分の蜜だと気づいて吐き気がする。
「あぁっ……んぐ……は……あっ」
馬の跳ねるたび、喉から息が詰まったような生々しい喘ぎが漏れ、唇を噛んで抑えようとするが、激しい揺れで声が途切れなく溢れ、喉が震える。
その芽が羞恥の中で膨らまぬよう、奥歯を噛む。けれど身体は、命を守るための仕組みとして、ひたすら衝撃に耐える準備をする。潤いが溢れ、馬の鞍を汚す音が響く。男たちの視線がその光景を貪り、笑い声が上がる。
汗が背中を流れ、馬の体臭と混じり、鼻を突く。
その準備の質感を見られていると気づいた瞬間に、別種の痛みに変わる。視姦される屈辱が、身体の反応をさらに増幅させる。胸が上下し、息が乱れ、汗が肌を伝う。乳房が揺れ、乳首が擦れて痛痒い感覚が加わる。
「はあっ……あ、ぐ……っ……んっく……」
息が混じった湿った喘ぎが、無意識に喉を滑り落ち、男たちの笑いを誘う。声が枯れ始め、嗚咽のように掠れる。 女たちの息が乱れ、馬蹄が地を叩く音が数を増す。
バートン男爵たちは笑っている。あの馬はよく走る。産駒はどうかと言いながら。
女たちの股間が濡れ光るようすを指差し、卑猥な冗談を交わす。ジャンヌの秘部が突起でかき回され、蜜が飛び散る様子を遠くから見られ、胃が捩れるような恥ずかしさが襲う。喘ぎ声が大きくなり、彼女は必死に口を塞ごうとするが、手綱を離せない。
「んあぁ……はっ……ひゃん……っ」
声が上擦り、喉の奥から絞り出される。
彼らの笑談は、昼から日が傾くまで続いた。 秋の光は傾き、影が長く伸びて、女たちの体温と一緒に地面へ倒れていく。ジャンヌの内腿は蜜と汗でべっとりと濡れている。馬から降ろされた瞬間、足が震えて立っていられなかった。抜かれた突起から蜜が糸を引き、地面に滴り落ちる感触が、汚れを実感させる。
そこから休む間もなく歩かされ、屋敷の地下へと連れていかれた。
石の階に松明の炎がゆれる。縄が垂れ、腕が上へ引かれる。
爪先がかろうじて床に触れる高さ。
命じられるのは、脚を大きく開くこと、その姿勢を維持すること。
股間が丸見えになり、馬の余韻で腫れた秘部が空気に触れてヒリヒリする。男たちの視線がそこに集中し、ジャンヌは顔を赤らめ、目を逸らす。開かれた脚の筋肉が引きつり、痛みが走る。
開いた奥に、冷たい指先。
何かを塗り込められる。肌がすぐに熱を拾い、内側から紅潮があがる。媚薬だ。ジャンヌにはすぐにわかった。指が内部を掻き回し、薬を塗り広げる。熱が急速に広がり、秘部が疼き始める。息が上擦る。腰が勝手にくねり、蜜が滴り落ちる。指の感触がぬるぬると滑り、膣壁を刺激し、強制的な熱気が子宮まで届く。薬の臭いが鼻を突き、吐き気がする。
「んぁっ……はあ……あっ……んん……」
息が喘ぎに変わり、喉が震え、湿った音が喉から漏れ出す。
息が上がり潤うそこを隠そうと腰と足が動いた瞬間、乾いた鞭の音が背を打ち鋭い痛みが血より速く神経を走る。皮膚が浅く裂け、赤い筋が浮かぶ。痛みが火のように広がる。
「あぁっ……いゃっ……ぐ……っ」
鋭い悲鳴が喉から飛び出し、媚薬の熱と混じって体がびくっと反応し、声が嗚咽のように歪む。
隠すなという合図。
体勢が崩れても、同じ音が落ちる。鞭が背中や尻を何度も打ち、痛みが快感と混ざり、ジャンヌの身体を混乱させる。媚薬の効果で、痛みさえも甘い痺れに変わり始めるが、心は拒絶する。尻の肉が腫れ上がり、熱く脈打つ。
「んあぁっ……やっ……ひゃんぐ……っ」
鞭のたびに声が漏れ、抑えきれない喘ぎが部屋に響く。声が喉を擦り、涙と唾液が混じって生々しく滴る。
彼らの視線は、股の濡れ具合と背に浮かぶ赤の線とを等価の見世物として扱う。女たちの秘部が媚薬で膨らみ、蜜を垂らす様子を観察し、指で弄ぶ。指が花芯をを摘み、擦られ、雷に打たれたような感覚が全身を駆け巡る。ジャンヌの喉から抑えきれない喘ぎが漏れ、涙と鼻水が垂れる。
「あ、あ、あんっ……はあんっ、んくぅ……っ」
連続する喘ぎが、彼女の意志を無視して溢れ出し、息が荒く喉が鳴る。
脚は痺れ、感覚が遠のく。だが媚薬の熱は消えず、絶え間ない疼きがジャンヌを
「ふうっ……んぐ……んんぁ……っ」
息が乱れ、喉が勝手に鳴り、湿った音が響く。
やっと縄が緩む頃、立つこともできない女たちに、彼らが求めたのは“続き”だった。
男たちが群がり、縄から解放された身体を床に押し倒す。硬くなった男根が、次々と秘部を貫く。媚薬で敏感になった内部が、強引な動きに反応し、望まぬ絶頂を強制される。
ジャンヌは抵抗しようとするが、力なく、ただ受け入れるしかない。男たちの汗と吐息が肌にまとわりつき、汚される感覚が胸を締め付ける。男根の熱さと太さが膣を埋め尽くし、摩擦のたびにぬちゃぬちゃと体液の音が響く。精液が内部に注がれ、温かくねばつく感触が子宮を汚す。普段は感じることのない絶頂の波が来るたび、身体が痙攣し、涙が溢れ、声が枯れる。
「あぁんっ……いやぁ……んんぅっ……はっ、はぁん……あっあっ……」
喘ぎが絶え間なく続き、男たちの動きに合わせて喉が震える。嗚咽混じりの生々しい声が石の部屋に反響し、喉の奥から吐き出されるような音が混じる。
石の空間に女たちの強制的な喘ぎと男たちの満足げな呻き。
酒の匂い、男と女の汗の臭い、松明の煤。体液の臭いが混じり、部屋を満たす。精液と蜜の混じった粘つく臭いが鼻を塞ぎ、息苦しくなる。
時間は、砂のようにこぼれていくのに、終わりだけが訪れない。
意識が落ちるたび、水をかけられ、頬を打たれ、また浮かび上がる。冷たい水が肌を叩き、痛みを呼び起こす。頰の腫れが熱く疼く。
「ひゃぁっ……あぐ……っ」
水の衝撃で声が飛び出し、意識が戻る。声が掠れ、喉が痛む。
気をやられては面白味がないんだろう。
その確信だけが、はっきりしていく。
ジャンヌの目は涙で濡れ、辱めの果てに自分を失う恐怖が募る。
いつ終わるのか、時間の感覚は剝がれ落ち、体の境が曖昧になる。
自分は物か。まだ人か。問いだけが胸の底で回り続けた。
本当の意味で開放された頃には日が高く昇っていた。
「もう良い。あとは金でも握らせておけ。あぁ、裸で返しては可哀想か。布もついでに被せておくんだぞ」
男爵の言葉ともに屋敷の裏側に転がした女たちを見てバートン男爵は、冷ややかな声でそう言うと従者に命じて女たちの手元に金を置かせ白い布を被せさせた。
動ける者などいない。気を失っている者、荒い息を吐き続けたせいでむせて嘔吐する者、目は開いているが身体に力が入らない者、女たちは身も心も擦り切れるほどに酷使されていた。
「う……うぅ……ん……」
その中でもジャンヌは、手元のコイン手を伸ばし握りしめた。
身体中痛くてたまらない。足の感覚もろくに戻っていない。
それでもここにいたくない。
その一心でジャンヌは、起き上がると体に布をまきつけて立ち上がる。内腿に残る精液のねばつきと、腫れた秘部の痛みが、歩くたびに思い出させる。
帰りたい。人間に戻りたい。
足が重い。ふらついて転んでも、また立ち上がる。
足を叱咤して歩き続けて、ようやく長屋に帰り着く頃には日が傾いていた。
「ジャンヌっ!」
小屋の近くまで来た頃、聞きなれた声がした。
瞠目して立っている棗の姿があった。
「なつ、め……」
棗の姿を見た途端、とうとう足から力が抜けた。
倒れる寸前のジャンヌを棗は抱きとめた。
「どこ行っとった!? 何があったと!?」
棗は、抱きとめたジャンヌに声を荒らげながら尋ねた。
昨日は、三日に一度の日だった。だが、ダークグレイッシュのいつもの通りに行ってもジャンヌの姿は何時間経っても現れず、小屋にも来たが留守でどこに行ったのか心配していた。
夜も遅くなり翌日、仕事終わりに小屋にまた来てみれば、ジャンヌがふらふらと布だけで帰ってきたというところだったのだ。
「バートン男爵の、ところへ……」
いつもは小鳥の囀りのような声は、酷く掠れていた。青い目も泣き腫らしたように赤くなり腫れぼったい。
「バートン男爵……」
その名前だけで棗は、全てを悟った。
バートン男爵は、市民特に女からはその名を聞くだけで震え上がられるほど悪名高い貴族だった。
時おり、端女を集めて趣向の合う者たちと享楽の宴を開く。貴族以外の人間を人間とは思わず、女をものとして扱う。
何をされたかなど聞きたくもなかった。いや、聞くのをはばかられた。
ふと見れば布が巻かれていない肩に赤い筋が走っていることに棗は気づいた。
息を飲む。
怒りで体が震えた。だが、怒りに任せて行動するよりもまずは腕の中のジャンヌのことを優先しようと深く呼吸して心を鎮めて、彼女を抱えて小屋に戻った。
ジャンヌが体に巻き付けていた布を剥ぐ。
男の手の痕がいくつも白い肌にくっきりと赤く残っていた。
棗は、歯噛みして外の浄水樽の中に溜まっている水をタライに出した。
飲水のための水だが、川の水や浅井戸の水でジャンヌの体を拭く気になれなかった。
以前、雨に濡れた身体を乾かす為にと渡したリネン混のタオルを水浸しして絞り丁寧に身体を拭く。
「背中、拭くばい。体起こすけんね」
首の後ろに腕を回してジャンヌの上体を起こす。
「なっ……」
背中を見た棗は、言葉を失った。
そこには皮膚が浅く裂けたミミズバレがいく筋も走っている。
それが何によってできたのか考えなくてもわかる。
ジャンヌの肌は、磁気のように白い。だから赤はより鮮明になる。
それを好んだ者がいたということだ。
怒りがまた湧き上がってくる。奥歯を噛んでそれを押し殺してジャンヌの背中を拭いた。少しでも浄水した水でよかったと埒外なことを考える手は、それでも怒りで震えていた。
ジャンヌの小屋には傷の手当ができるようなものはない。
「ちいと時間かかるが、持っとってくれ」
棗は、そうジャンヌに言って小屋を出ると走った。
体の中に渦まく怒りと悔しさを振り払うように走り、顔なじみの薬局へと駆け込んだ。
そこで買ったのは、消毒用のスピリットとガーゼ、傷用の軟膏。それらの入った紙袋を手にしてまた走った。今度は、少しでも早くジャンヌの手当をするのだという気持ちで。
小屋の前で息を整えてから中に入るとジャンヌは、棗が寝かせたときのまま仰向けに横になった状態だった。
寝返り打つことすらできないのだろう。そして小屋の中にかもらしたのか独特の臭いが僅かにした。
動くことはできなくても生理現象は止まることがない。出てしまったのは仕方のないことだ。
「棗……」
ジャンヌが細く棗を呼んだ。
「どうした。喉乾いたか?」
努めて優しい声音を意識して尋ねた。
「これ……」
ジャンヌが手を差し出してくる。その手には銀貨が二枚あった。
バートン男爵からの報酬なのだろう。ただ物として扱ったただけでは世間体が悪い。雇ったという体裁の為の金をジャンヌは、持ち帰ってきたのだ。
「これで、その……紙袋の、中身、足りますか……」
喋るのが辛いのか途切れ途切れにジャンヌは、尋ねてきた。
こんなときでもジャンヌは、対価を払おうとした。
「足りる。足りるが、受け取らん。それはジャンヌが耐え抜いた証やけん。俺が受けるとるのは違うばい。……けんど、持っとくのがいやなら、預かっとくが、どげんする?」
薬代の対価としては受け取る気は、棗にはない。
だが、もし、ジャンヌが物として尊厳を削らた証拠として持っておくのを拒むなら、いつかそれを使ってもいいと思える時がくるまで預かっておこうとは思った。
ジャンヌは、何も言わなかった。言わなかったが、棗に銀貨を渡した。
預けられたそれを棗をズボンのポケットにしまった。
「うつ伏せにするけんね」
棗は、一声かけてジャンヌの体に触れる。
仰向けの体をうつ伏せに倒せば、より赤が目に強く映る。
肩、背中、腰、尻、太ももの裏。
痛々しくおぞまし赤い筋に棗は、ひとつ深呼吸した。
ガーゼに消毒用のスピリットをかけて湿らせる。
「しみるやろうけど、耐えてくれ」
そう言ってガーゼでミミズバレを撫でた。
「―――っ」
声にならない悲鳴をあげて、ジャンヌの体が強ばる。
血は出ていない。それでも皮膚が浅く裂けているのだ。痛くないわけがない。
ガーゼを替えては消毒する。それが終われば軟膏をたっぷりとミミズバレに塗ってジャンヌが身体に巻き付けて帰ってきた布を裂いて雑菌が入らないように蓋をする。
傷痕が残らないことだけを祈った。
「棗……」
掠れたか細い声がまた棗を呼んだ。
「ん?」
「私、ちゃんと、人に戻れましたか?」
その問いに棗は、僅かに目を見開く。
人として扱われていない。
バートン男爵の下で行なわれたなにかがジャンヌの中で自分は人間なのかそれとも物なのかを曖昧にしたのだろう。
それでも彼女は、帰って来た。
人間に戻るために、生きているんだと声なき声で言うために、トーライトの長屋まで帰って来た。
「あぁ、戻っとる。ジャンヌ、お前はちゃんと人間や」
棗は、優しくも力強く言いジャンヌの手を握った。
仄かな体温は、彼女がものではなく生きていると伝えていた。
棗の言葉を聞いたジャンヌは、安心したようにわずかに微笑み目を閉じ、ようやく眠った。
棗は、ジャンヌの寝息を確かめてから外へ出た。
浄水樽の蛇口から、一筋の水がタライに落ちる。
透明ではない。けれど、濁りは少ない。
この水で、背を拭ったことだけが、どうしようもない夜の端に小さな救いの輪郭を描く。
ポケットの奥で、二枚の銀貨が触れ合った。
カチャ、と乾いた音。
彼女の“証”を今は預かる。使い道はまだ決めない。
いつか返す日が来るまで。
バケツに水を組んできて使った分の水を補充してまた小屋に戻る前に棗はひとつ息を吐いた。
怒りはなくなっていない。
けれど怒りだけでは、ジャンヌの傷は塞がらない。
食わせ、水を飲ませ、寝かせ、働ける日に働かせる。
当たり前のことを当たり前に戻す。
それが、いま棗にできることのすべてだった。
「……また来るけん」
そっと呟いてろうそくを消した
小屋の中に静かな寝息だけが残る。
外では収穫祭のための音楽の練習の笛の音が遠く、かすかに鳴っている。
それは誰かの豊穣を祝う音で、ここに横たわる者にはひどく遠い。
それでも、明日は来る。
手の中の銀貨が、彼女の“人間”をもう一度支える日まで。