「……なるほど、これが貴方のやり方ですか」
視界が赤黒い肉壁に覆われ、世界が反転した。
対峙し、互いを認めた瞬間、突如として展開された空間。
異なる理によって閉じて完成された場所。
地獄の片隅。
それは物理的な破壊ではなく、精神の最も柔らかい部分を執拗に突き、内側から瓦解させることを目的とした、極めて悪趣味な空間だった。
私の足元から這い上がってくる、粘り気のある影。
蛇のように私の脚を、腰を、そして首筋を締め付け、物理的な拘束以上に重苦しい「快楽」と「恐怖」の混ざり合った毒を流し込んできた。
これが。
淫蕩の悪魔。
さすが、深淵の一柱に名を連ねるだけはある。
遥か太古より、あらゆる人の子を犯し、耽溺させ、夢中にしてきたということか。
「さて」
お手並み拝見といこう。
この私が支配するに値するほどのものか。
せいぜい。
「期待外れでないことを祈りますよ?」
肉の鎖が私の自由を奪い、空間全体が私を飲み込もうと脈打つ。
私の意識を泥の中に沈め、自分なしでは息もできない家畜へと作り替えようとしている。
脳の奥を直接かき回されるような、不快なはずの感覚。
いつの間にか、神経が書き換えられていくように、悍ましくも蠱惑的で狂おしいものになっていく。
肉鞭のように絡みつく影が、蠢くたびにゾクリゾクリと迸るもの。
たとえ悪魔であろうとも、この原初的感覚には逆らえないということか。
「……っ、……っ。ふふっ」
一切を拒絶することなく、自然と反応するままに受け入れながら、思わず笑ってしまった。
なるほど。
悪くない。
これはきっと自分の「支配」ととても相性がいいものだ。
この苦痛と表裏一体の快感こそが、抗い難く、逆らえないものを齎すのだと。
「はっ……!」
もうほとんど半裸にされつつある。
胸を腹を、尻を、足を冒涜的に汚されながら、反応を続ける。
すでに露出させられた下着を濡らしているのはわかっていた。
こうも効果的にこの私の顕現体から感覚を引き出すなど、想像していた以上に強力な悪魔だったらしい。
「んっくっ」
くちゅりと、股間に宛がわれた瞬間、より強くはっきりとしたものに襲われて背筋を捩る。
そうですか、これからが本番だと。
いいでしょう、さあ、私を捉え捕食してごらんなさい。
自らゆっくりと足を開いていった。
すると、さらに直接的な接触と動きが始まっていく。
淫らな悦びを最大限にくみ出すように、展開されていく影の肉鞭。
ぬちゅぬちゅくちゅくちゅと、音を立てて性器官を蹂躙されながら、それ以外の身体中も同時に犯され続ける。
「は……っ! は……っ! はっ! んんっ!!」
びくんっと強い衝撃に、思わず腰を前後に跳ねてしまった。
本格的な責めが開始した途端、思わず臨界を迎えてしまったらしい。
あっさりと、小さな絶頂を迎えたのだと淡々と理解する。
「ひ、久しぶりですよ。性的に至るなど……」
ジーンと下腹を中心に全身を甘く犯していく波紋。
侵食は確実に進んでいるという実感。
そうして最初の関門を超えてしまったことを敏感に察したのだろう、すぐに次の反応を引き出すべく、影が踊り始める。
どこか控えめに、遠慮がちであった動きはもう、乱暴で、力強く、こちらを全く配慮しないようなものになりつつあった。
「は……っ! う……っ! ああっ!!」
でもその暴力的なものこそが、さらなる淫らな悦びへと無理矢理誘っていく。
つるし上げられるように、両足を抱えて広げるように開けられ、その中心をいつしかぬっちゅぬっちゅと先端が入り込みつつあった。
「んっ! んっ! ……ふふっ、さあ、遠慮することはありません。どちらが格上なのか、証明いたしましょう。……っ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ずぬぅぅぅぅっと、一気に入ってきた。
途端、生まれて迸ったものに、我知らず絶叫を上げていた。
「あぁぁぁぁぁぁっぁあっ!!」
これは。
なんて。
「は……っ! は……っ! んんっ! んっ! んっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あぁっ!」
初めこそゆっくりと始まるストローク、やがてみるみる早く容赦ないものになっていく。
もうこのころには完全に次の臨界へと備え始めていた。
間もなく訪れることが確実の、快感の最果てへと至ることを意識していた。
イク。
今度は中で。
最も深く気持ちいい場所を犯されて。
齎されるものを想像し、さらに感覚を助長する。
抑えられない、本能的な叫びをあげながら、この強力な力に身も心も薙ぎ払われていくような気持ちになっていく。
よろしい。
そのまま来なさい。
すべてを受け止めきって、なお超越してみせよう。
私の名前、「支配」にかけて。
どれだけ凄まじい魔的誘惑といえども、それ以上の深淵があることを教えてあげよう。
「……っ! ……っ! っくっ! イ……くぅっ! 〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
絡みつかれているままに思い切り四肢に力がこもり、限界まですべてが圧縮されていく。
「あ゛ーーーーーーーーーーっ!!」
そして巨大な爆発。
何もかもが消し去って無くなる、無限の白い虚無。
刹那の臨死的感覚。
「……っ、……っ!」
出口に向かって、硬直しきっていた体が突然の解放に、腰を大きくなんどもなんどもバウンドさせる。
そう真っ白になった脳裏の隅で、やはりこの程度ならば問題ないと確信した。
せいぜいが所、この感覚自体はもうこれ以上の深みなどないだろう。
バリエーションや連続させることなどで、多少は変動するかもしれないが。
「は……っ、は……っ、はぁ……っ、はぁ……っ、ふう」
ただ、どうせならば完膚なきまでに思い知らせてやろうと判断した。
コイツができることすべてをやらせつくして。
何も意味がないことを嫌って程わからせてやって。
完全に魂を折ってやる。
それが最も完全なる支配の術(すべ)。
「……まだ終わりではないんでしょう? どうぞ、すべてを出し尽くして結構ですよ?」
今少し、好きにさせようと思った。
身体中をこれ以上に激しく、どこもかしこも、穴という穴を犯されるのだろうと。
何度、性的反応をくみ出されようとも。
そのくらいで済むなら、望むところだった。
了