※この作品はR-18です。

エロスの極み   作:村上しんご

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第1話 異世界からの迷い人

 ヒロシはこの時すでに、限界まで達していた。

 人など遥かに超えたような、側面を這う舌の動き──。

 

 その繊細で滑らかな動きは、50年を優に超える人生を過ごしていながら、今までに味わったことすらない。

 強弱を付けながらも、決して逸る様子もなく、一定のリズムで淡々と繰り返されている。

 ”そこに行って欲しい”と焦れても、敢えてそこはさけ、別のところを穏やかに這いずり回る。

 しかも、それは絶妙で気分が削がれるわけではない。微妙な心地好さが全身を駆け巡り、切ない思いが急速に湧き上がる。

 

 会社に行けば部長として、常に部下たちに偉そうにしてるヒロシ。

 

 これが……異世界か──

 

 彼はそう思いながら、泣き出しそうな顔をして、膝元にしゃがむ少女の顔を股間に押し付けていった。

 

「うぅ────ーっ!」

 

 なぜ、こんなことになったのだろう──

 ヒロシの脳裏に、今朝の出来事が蘇る。

 

 通勤の途中、いつもと違う光景が目に入った。

 

 そこに立っていたのは、奇妙な格好の少女だった。

 年齢は十代後半だろうか。まるで冒険ゲームに出てくる神官のような衣服を身にまとっている。

 だが、コスプレにしては浮いている。衣装はやけに本格的で、その場の空気だけは本当の異世界のようだ。

 

 そして何より、少女は驚くほど美しい。

 

 神官帽から覗くブロンドの髪は絹糸のように細く、雪のように白い肌には傷一つない。切れ長の二重の目には瑠璃色の光が宿り、見下ろすわけでもないのに、人を寄せ付けない威圧感がある。

 

 通りを行き交う人々は皆、彼女を振り返った。

 しかし、誰一人として声を掛けようとしない。

 あまりにも現実離れした美貌ゆえ、人々は一歩踏み出す勇気を奪われているのだ。

 

「ここはどこ〜? わたしはだぁ〜れ?」

 

 突然、少女は子どもみたいな調子で声を上げた。

 その口調だけが、見た目の神聖さから完全に浮いている。

 

 そのとたん、ただの美しい異国の少女から、異常な存在へと変わっていた。

 

 きょとんとした顔で立ちすくむ彼女は、通勤ラッシュの中でぽつんと取り残され、まるで世界から切り離された人形のようだ。

 誰が見ても、まともではない──そう思わせる挙動だった。

 

「なんなんだよ、ここは……誰か教えろよ……」

 

 少女は戸惑いを隠せず、ブツブツとつぶやいている。

 その言葉遣いは雑で、見た目の美しさには到底そぐわない。

 

 ……関わってはいけない。

 本能がそう告げている。だが、そう思うのに、足が勝手に動く。運命を感じたかのように、どうしても目を逸らせない。

 

 気づけば、ヒロシは彼女の目の前に立っていた。

 額に、じんわりと汗が滲んだ。

 ヒロシ自身、なぜ声をかけようとしているのか、明確な理由はわからなかった。

 

「き、君……その、変わった格好は……何かね?」

 

 できるだけ落ち着いた口調を意識した。

 仕事帰りの酔っぱらいを諭す時のように、年長者としての節度を保とうとする。

 

「誰だよ! お前は!」

 

 しかし、少女の返答は、外見からは想像できないほど雑な口調だった。しかも、ギャルのような調子の、ため口だ。

 ヒロシは58歳、会社役員でもある。髪は薄いが年相応の威厳はあり、肥えた腹もそれなりの貫禄に見える。

 そんな自分に、十代の少女がこんな口の利き方をする理由など、どこにもないはずだった。

 

「君……年長者に対して、その口の利き方は何だね?」

 

「ウゼェよ! それにキメェんだよ!」

 

 少女は、なぜかキレていた。

 理不尽な言葉使いに、ヒロシはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

「それより、おっさん! ここはどこよ……」

 

 “おっさん”。

 その呼び方に、ヒロシは思わず息をのんだ。

 今まで部下からも、取引先からも、そんな呼ばれ方をされたことはない。

 ひどく失礼な娘だが、勢いに押されて言い返す余裕もなかった。

 

「お、オフィス街の駅前です……」

 

「……おふぃすがい?」

 

 気付けば、自分の方が敬語。

 少女は、ヒロシの言葉をぎこちない発音で繰り返した。

 その様子に、ヒロシは思わず疑念を抱く。

 単語が理解できないのか、それとも外国人なのか。

 どちらにせよ、まともなコミュニケーションが取れる相手ではなさそうだった。

 

 ヒロシは溜息をひとつつくと、少女を置き去りにしてオフィスへ向かうことにした。

 これ以上関わる必要はない。仕事に遅れるのは御免だ。

 

 歩き出しながら、ヒロシは心の中で念を押すように思った。

 ──ただの、変な子供だ。

 そう決めつけておかないと、余計なことまで考えてしまいそうだった。

 

「待てよ! おっさん! 置いてくんじゃないよ! 事情を説明しやがれぇ!」

 

 突然、背後から怒鳴り声が飛んできた。

 振り返らずとも、誰の声かはわかる。

 少女は、ヒロシが逃げようとしたことに気づいたのだろう。

 怒りと困惑をないまぜにした表情で、足早に追いすがってくる。

 

 ヒロシは思わず眉をひそめる。

 事情を聞きたいのは、むしろ自分の方だった。

 常識のない少女を問いただすはずが、なぜか自分が追及されている。

 

 無視するのが一番だ。

 聞こえないふりをして足を速める。

 だが、少女は諦める気配を見せず、ぴったりとついてくる。

 

 このままでは──

 頭の弱い女の子とオフィスに仲良く御出勤だ。妙な噂が会社中に広がってしまう。

 

「おっさん! 事情をちゃんと説明しろ!」

 

 しかし、少女の剣幕は止まらない。

 まるでヒロシが悪事の犯人であるかのように責め立ててくる。

 ヒロシは、口を開きかけて固まった。

 何を、どう説明すればいいというのか。答えようがない。

 

「あ、あのね……事情を聞きたいのは、むしろ私の方なんだけど……」

 

 思わず控えめな言い方になってしまう。

 その瞬間、少女は肩を揺らし、大きな声で笑い出した。

 

「何の事情だよ! おっさん、ウケるぅ~!」

 

 ケタケタと笑う声は、周囲の通行人まで振り返らせるほど大きい。

 ヒロシには、もはや日本語が通じない相手に見えた。

 

「私はね、勇者パーティーの一員だよ。この姿見たら、わかるでしょ? ハハハハハ!」

 

 少女は胸を張り、誇らしげに自称した。

 しかし、ヒロシには理解不能だ。

 迂闊に声をかけた自分を、今さらながら恨みたくなる。

 

 警察に連れていったほうが早いのかもしれない──

 だが、この調子だ。余計に面倒なことになりそうで、ヒロシは身震いした。

 

「……あの~、私、トイレに行きたいのですが?」

 

 言葉を選びつつ、とにかく距離を作ろうとした瞬間──

 

「ダメだよ。逃げるつもりだろ……」

 

 少女の声が、今度はやけに低く響いた。

 笑顔は浮かべたままなのに、その目だけは鋭い光を宿している。

 

「どうしても行きたいなら、私も付いてくぞ! ハハハハハ!」

 

 高らかに響く笑い声は、もはや狂気めいていた。

 

 ──駄目だ。

 こうなったら、トイレの個室の窓から逃げるしかない……。

 

 ヒロシは必死に逃走計画を練り始めた。

 少女の動きを横目で伺いながら、滲む汗をハンカチで拭う。そして、人通りの少ない公共トイレへと足早に向かった。

 

 ここなら、職場の人間に見られる心配はない。

 奥の木陰から抜ければ、入り口で待っている少女にも気づかれずに逃げられる──そのはずだった。

 

 しかし、少女は何のためらいもなく、ヒロシの背後からそのままトイレの中へついてきた。

 

「ちょ、ちょっと! ここ男子トイレ!」

 

 ヒロシは声をひそめながらも慌てて制止する。しかし少女は首をかしげただけで、まるで意味がわからないといった顔だ。

 

 そのとき、偶然トイレを利用しに来た男性たちが、一斉に目を見開いた。

 視線はまず少女へ、次にヒロシへと移り、冷たい警戒の色を帯びていく。

 まるで、変態プレイをしにきたように見つめるが、ヒロシにそのつもりはない。

 

 針のむしろに座らされたような気分のヒロシとは対照的に、少女は機嫌よくニコニコと笑っていた。

 周囲の視線などまるで気にする様子もなく、物珍しそうにトイレの中をキョロキョロと観察している。

 

「うわ~! すごいな! こんなトイレがあるんだな!」

 

 まるで観光地にでも来たかのようなテンションだ。

 少女は男子トイレを見るのが初めてらしく、感動と驚きに満ちあふれていた。

 

 その時、誰も触れていないのに、小便器の水が突然流れた。

 

「あっ! 勝手に水が流れたぞ! 魔法か!?」

 

 少女は目を輝かせ、トイレの機能すら異世界の神器のように扱う。

 そして、いまだに自分を“勇者パーティーの一員”だと思い込んでいるらしい。

 

 しかし、周りからすればただの危ない娘だ。

 ヒロシは何とかして距離を置きたかったが、少女にしっかりと腕を掴まれており、振りほどくことすらできなかった。

 

 ──頼む、もう放してくれ……!

 

 心の中で必死に助けを求めるヒロシに、男性利用者たちの冷たい視線が突き刺さる。

 

「おっさん、早く済ませろよ……」

 

 腕を掴んだままの少女が、低い声で小さく囁き、鋭い目つきでヒロシを睨み上げていた。

 その容赦のない目が「逃がさない」と言っているようで、ヒロシの背筋は一気に冷たくなる。

 

 個室に入って、窓から逃げるしかない。

 思考はパニックでぐるぐる回り、足は震えながらも個室へ向かってしまっていた。

 

 だが──

 

「なっ!」

 

 少女も当然のようにヒロシの後ろに続き、そのまま個室に入ろうとする。

 

 ここは職場から離れているとはいえ、れっきとした公衆トイレだ。

 もし一緒に入ってしまえば、通報は免れないだろう。

 間違いなく“変態”と呼ばれ、社会的に死ぬ。いや、人生どころか存在まで消されかねない。

 

「ま、待ってください! 貴女まで入るんですか!?」

 

「そりゃそうだろ? おっさん、逃げる気まんまんじゃん?」

 

 少女は当然のように言い放ち、ヒロシの腕をさらに強く掴んだ。

 

 ヒロシは思う。

 ──いくら何でも、年頃の娘がおっさんと一緒に個室に入るなんて、普通は危機感を覚えるだろう!?

 

「男女がトイレの個室に一緒に入るなんて……おかしいですよ!」

 

「私は構わないよ。 ちゃんと見ててやんよ? ケラケラ……」

 

 笑顔は無邪気──しかし、その無邪気さが狂気にも見える。

 

 少女は人の常識も、羞恥も、境界線すら持っていない。

 ヒロシは知った。

 ──この子は、本当に怖い。

 

 恐怖が背筋を凍らせる。

 逃げられる可能性は、刻一刻と薄れていった。

 

 ヒロシは全身に汗を噴き出しながらも、覚悟を決めて個室へ足を踏み入れた。

 背後から浴びせられる視線は冷たく──もはや呼吸すら苦しい。

 

 震える指でドアを閉め、ゆっくりと鍵を掛ける。

 

 カチリ。

 その音は、まるで現実に自ら鎖をはめたかのようだった。

 

 狭い個室に、少女の気配が同居する。

 神官姿の純白の法衣が目に入った瞬間、ヒロシは思わず視線をそらした。

 

 ──眩しい。

 だがそれは神々しさというより、この状況では不釣り合いな、異質な光だった。

 

 少女は平然とした表情で、まっすぐヒロシを見ていた。

 その瞳に羞恥も常識もなく、ただ“狂気”だけが宿っている。

 

「さあ、早くしろ。脱げ」

 

 少女は静かに、しかし命令のように言った。

 ヒロシは瞳に涙を溜めながら、ベルトを外してズボンを下げる。そして、少女の鋭い視線に屈するようにパンツを下ろした。

 

 ──ヒロシにとって、こんな屈辱は初めてだった。

 生まれてきてから彼女すら出来たことはなく、独身で身近な女性など母親しかいない。

 しかし、社会的な地位を持ち、収入も増えてからは月一回、夜のお店にも行っている。

 そこですら、こんな屈辱的なプレイなどしたことがない。

 

 ヒロシは頭が混乱し、自分が何をしているのかもわからなかった。

 ただ──少女の視線を感じていると、その部分が熱くなり、ムクムクと勝手に大きくなる。

 

「なんだよ! 立ってんじゃん!」

 

 それを見て彼女はニヤリと笑った。その視線は、獲物に狙いを定める野獣のようにギラついている。

 

「早く済ませろ!」

 

 呟く彼女の声は低く、唸るようにドスが効いていた。ヒロシは泣きながら洋式便器に座るが、何も出るはずはない。

 ただ──あそこだけが元気に天を向いている。

 屈辱に苛まれながらも、ヒロシは観念したように口を開いた。

 

「す、すみません……何も出ません……」

 

 気張ってるヒロシの前で、しゃがみ込む少女は、その一言でフッと表情を緩めた。

 

「なんだよー。やっぱ、嘘かよ~」

 

 そして、そう言って一息つくように天井を見上げる。

 ヒロシは少女の意外な反応に正直、ほっとしていた。激怒されると思っていたのに、怒る気配もない。

 だが、少し間をあけてから、少女はゆっくりと正面を向く。その顔を見た瞬間、ヒロシは思わず凍り付いた。

 

「ところで……これ、どうすんの?」

 

 それは、まるで悪魔の微笑みだった。彼女は天を見上げるあそこに指を差し、ヒロシの反応をマジマジと伺っている。

 

「ど、どうするって?」

 

 ヒロシはそう言いながら、固くなってる部分を思わず手で隠す。

 

「抜いてやろうか?……溜まってんだろ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヒロシの時は止まった。さまざまな状況が頭の中を駆け巡り、目の前の微笑に思わず息を呑む。

 目にうつる、艶々の唇が異様に艶めかしくさえ感じた。

 

 声も出せずに呆然としていると、少女はヒロシを立たせ、強引に手を退かした。

 ヒロシは頭が混乱して、抵抗する事すら考え付かない。

 

 ゆっくりと迫ってくる温かな呼吸。濡れて輝く唇がヒロシの弱いところに、ゆっくりと吸い付いていった。

 

 

 

 

 

 

               ~to be continued~

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