そんな姿、知っているのなんて、家族以外なら私だけであってほしかったのに。
「ねぇ、結月さん?今日みんなでカラオケ行くんだけれども、一緒に行かない?」
「あ、申し訳ございません。実は今日用事がありまして…。またいつか誘ってください、お誘いありがとうございます」
「あー…、そうなんだ。ごめんなさい。それじゃあ、またね」
そう言って席から離れていく女子生徒の後姿を見送って、雫は鞄の中に乱雑に教科書やノート類を詰め込む。別にクラスメイトとの仲を蔑ろにしているわけではないし、歌を歌ったり人前で披露するのが嫌なわけでもない。そう、ただ今日はどうしても外せない用事があったのだ。荷物をまとめ終わった雫は、校則も破り誘ってくれた女生徒たちを追い越して廊下を駆け抜ける。聞こえた教師の説教も聞き流し、下駄箱を通り過ぎて通学路とは逆方向へ進む。
金曜日の夕暮れ時は、他の曜日と比べて小中高と学生が多い気がする。大人で言う花金だろうか、と頭の隅で考えて雫は走る。そうして十分ほど、半ば全力で走ってきたために切れ切れになった息を整えるのも程々にして到着したマンションのロビーにあるパスワード扉のボタンを慣れた手つきでタッチする。最後のボタンを押せば、間もなく、男性の多くが思わずすれ違いざまに振り返ってしまうだろう美しい女性がクリーム色の長髪を軽く揺らしながら画面越しに雫に笑いかける。
『雫ちゃん、おつかれー。今開けるから待っててねー』
「はい、わかりました」
息を切らしながら了承すると、扉からガチャリという音が響く。その音に従って取っ手を掴み手前に引くと扉が開いた。そうしてセキュリティを解除してもらった雫はロビーを通りエレベーターへ。2階、3階と移り変わっていく表示板に心を躍らせる。そうして、到達した5階で徐々に開く扉の隙間から身体をねじ込むようにして外に出ると、出た場所から見て一番奥、最もエレベーターから遠い部屋へと向かう。息を整えながらインターホンを鳴らせば、少しの時間をおいて扉が開かれた。
「やっほー、雫ちゃん。お疲れ様ー」
「お疲れ様です、イアさん」
入って入って、と軽い調子で言うイアの言葉に誘われるがままに雫はイアの部屋の中へと入っていく。
「それで、あのゲームは買ってきてくれましたか…?」
「当然!仕事も休み取って朝一で電気屋並んで買ってきたよ!購入特典までバッチリ!」
「やった…!流石イアさん…!」
普段の物静かで落ち着いた様子の彼女を知る、例えばクラスメイトの面々が見たらきっと驚くであろう。静かにはしゃぐ雫は、無類のゲーム好きであった。それを知っているのは家族とイアのような親しい親戚くらいだろう。
「今日は泊ってく?まぁ、分かってるけどさ」
「勿論、泊っていきます。花金ですよ、花金」
「意味が違うと思うけど…まぁ、いいか」
そう苦笑するイアを尻目に、雫はイアから受け取ったゲームソフトの包装を手早く破り去りながらゲーム機を起動する。早くしましょう、と飲み物やお菓子を用意するイアを急かす。恐らく彼女のこういう側面をここまで知っているのは姉のゆかりかそれを除けば自分だけなのだろうという優越感めいた確信を、イアは持っている。そして、こうした側面を見せてくれる可愛らしい従妹の元へと飲み物とお菓子を持って向かった。
それからは、ひたすらにゲームの時間。久々に買ったシリーズ物の格闘ゲームは、かつての持ちキャラのキャラ性能が滅茶苦茶に変わっていて苦汁を飲まされたり、追加されたキャラクターが少なくとも使い初めの今ならやたらに使いやすくて思わず困惑したりと、新しいキャラクターに触れる度に一喜一憂を繰り返し、気が付けばご飯も食べずにもう日付が変わる時間帯。
「あー、もうこんな時間か。ちょっと夕食にしようか」
「そうですね…、でも、私大丈夫ですよ?それならまだゲームをしていても…」
「でも、夕食取らせないと、ゆかちゃんに怒られるし…。適当にお弁当買ってくるから、ゲームやって待ってて?」
「そんなに、姉さんの言うこと気にしなくていいのに…。分かりました」
どこか不満げに言う雫の様子に苦笑しながら近くの24時間営業のスーパーで適当に弁当を見繕い帰ってくる。なんだかんだ空腹だったのだろう、何買ってきたんですか、とテーブルにエコバッグを置いた自分の元へコントローラーを置いて寄ってくるのだから。そんな様子に可愛らしさを覚えながら、彼女と共にイアはテーブルでお弁当を食べた。
「そういえば、学校ではどんな感じなの?」
「学校ですか?」
「趣味の合う友達とか見つけた?」
「んー…、一応いますよ?」
「え?」
何の気ない世間話。学校で、気の合う友人がいるかなんて、親戚のお姉さんの立場からすれば、いてよかったねぇ、で終わらせるだけの話だ。
「雫ちゃんだとすると、ゲームだよね?誰?男の人?」
「はい。吉田くんと伊織くん、どっちも男の子でゲーム同好会でも作ろうか、なんて言ってます」
折角だから女子部員欲しいなぁなんて言うんですよ。そう言ってインスタントの味噌汁を啜りながら頬を緩ませる雫の様子に、しかしイアは内心焦り眩暈がするような心持だった。
私しか知らない、優等生の仮面を捨て去った柔らかで無邪気な笑顔。それを誰かに見せるなんて。怒りか焦りか独占欲か、どれか分からない、あるいはそのどれにも当てはまるのでは、という歪んだ感情がイアの心を支配する。口にする弁当からは最早味も触感も感じない。イアの心を支配するのは、目の前の自身を慕ってくれる少女に対する執着心であった。
そこから、ゲームを一緒にやっても集中できるはずもなく。
「今日はもう休みます?私ももう寝ますから…」
なんて、自分より一回り近く年下の少女に気を使われるのが情けない。けれど、そう気を使ってくれるのが嬉しくて、やはり執着心はさらに強くなる一方と、自分の単純さに呆れてしまう。
「うん、今日はもう寝ようかな…」
そんな執着心を忘れたくて、頭を冷やそうと雫の提案をイアは受け入れる。ゲーム機の置かれたリビングを後に、寝室のベッドに身体を滑らせる。そうして目を瞑り、程よく疲れた体に身を任せて眠りに向かおうとする。
しかし、そうはならなかった。物静かに、しかし、ゲームに熱中する、いうなれば静かな青い炎の彼女が、ありきたりな激しいだけの赤い炎になるのか。あるいは、不完全燃焼めいて黒くぶすぶすとした汚い煙を発するようになるのか。そのどれもが嫌だ。彼女は静かに燃えている今が最も美しいのだから。それを汚すなんて許せない。そんな黒く穢れた執着心に心を乱され、睡魔など襲ってくる様子はない。
水でも飲んで落ち着こう。そう考えてキッチンへ向かおうとリビングを通り過ぎる。通り過ぎようとして、ソファをベッド代わりに眠る雫の姿を見る。相変わらず可愛らしいその姿に癒されようと、頬を撫でようとした時だった。
「伊織くん…」
その寝言がトリガーだった。もう、雫は穢されてしまった。あの頃の純粋な青い炎はもう潰えてしまった。そう、不純の極みたることに気付いていない女は身勝手に絶望する。もう、私と共に純粋にゲームを楽しむ彼女はいない、と。
ふらり。思わず立ち眩んだ彼女は、運よく音を立てずにテーブルで身体を支える。ぎ、と僅かに音が鳴っただけで雫は起きる気配がない。それで、雫が目を覚ませばどれほど簡単にことが運んだだろう。冷静さもない今のイアが雫を拒む、そうなれば二人の関係は疎遠ないしは平行線になってお終いだった。
しかし、執心でまともな選択肢を選べない癖に、選択肢を選ぶという冷静さだけは取り戻したイアは、選ぶべきではない最悪のカードを切ったのだった。
***
雫が目を覚ました。覚ました先に広がる視界が暗い。まだ夜かな、と考えて、頬に感じる柔らかな布の感触に違和感を覚える。どうにかして取り外そうと手を動かそうとして、
「…!?や、な、なに…!?」
四肢を伸ばされた状態で縛ることで拘束されていることに気付いた。身体に感じる掛布団や背中に感じるマットレスの感触から自分が借りていたソファではなく、もっと上等なベッドであることは何となくわかるが感じられるのはそれだけ。目が覚めた途端の予想外の出来事の連続に、年の割には冷静で大人びた雫といえども混乱していた。
「なに、これ…!?イアさん、イアさん…!」
家主であるイアは大丈夫だろうか、もしかしたら自分と同じような目に遭っているのではないか。その不安に駆られ、唯一自由であった口で叫ぶ。彼女の安否を心配するその様子はどこまでも健気だった。
「はーい、どうしたの?」
そして、その深刻な叫びを軽薄な調子で返す悪辣さたるや。イアは軽々しい返事をして、雫はそれに安心と困惑を覚えるほかなかった。
「イ、イアさん?た、助けてください…!」
返事から分かる気楽な様子に彼女の無事を確信した雫は、犯人が誰かも分からぬままにイアに助けを求める。…自らを拘束した張本人にそれを求めても意味がないのに。
「うん、そうだね。助けてあげる。雫ちゃんを元の雫ちゃんに戻してあげるよ」
「も、元の私…って?」
「青い炎の雫ちゃん。ただ純粋にゲームが好きで、私と一緒にゲームを楽しんでくれる雫ちゃん」
「そ、そんなの、今だってゲームも好きで、イアさんとゲームもして…!」
「でも、伊織君って言ってたよね?それに、吉田君だっけ?……邪魔だなって?」
「そんな…!?」
驚きの表情を浮かべるがイアはそんなもの意に介しない。最早雫の主張など半分も聞いていないだろう。
「でも、大丈夫。私とゲームのことだけ考えられるようにしてあげるから。心配しないでねー?」
「い、いや…!離して…!」
がたがたと、拘束されて動かない身体をされでも震わせる雫へとゆっくりイアが近づいていく。近づいて、掛けられた布団を一息に取り払う。取り払われて、ひんやりとした空気を全身に感じる。そこで雫は、自らが衣服の類を全く着ていない、というよりも剥ぎ取られたことに気付き、寒さとは別の身震いをした。服を着ていないということ、そして先のイアの発言。思春期の雫の脳内に嫌な予感が過る。
「…ふふ、おませさんだなぁ雫ちゃんは。…でも、だぁい正解」
「や、やぁあ!やだぁ!」
いよいよ恐怖に負けて叫ぶもここに助けは来ない。それなりに高いマンションだ、防音性もしっかりとしている。どれほど叫ぼうと、声が部屋の外に届くことはない。
視界を奪われて気配でしかイアを感じられない雫の身体に、彼女の魔の手が迫る。唇を耳元に近づけ息を吹きかける。
「ひゃ…!?」
そのまま唇で軽く耳殻を食み、舌先で耳裏から首筋までを辿り鎖骨に柔く嚙み付く。
「…っ、うぅ…」
撫でるように体を這わせていた手を胸元に伸ばし、まだ発展途上ながら確かに柔らかさを感じさせる胸を揉み解す。
「ふ、ぅん…、あっ…!!はうぅ…!!」
そうして最後に、くにくにと柔らかく形を変える胸の頂を両手の親指と人差し指でぎゅう、と強く摘んでやる。
「ああぁ!!?」
「ふふふ、どこも敏感だねぇ。雫ちゃんはえっちだなぁ」
その声に気をよくしたイアは、胸に伸ばしていた手の一方をお腹に滑らせる。滑らかな肌を撫でるようにして、まだ茂みも生えていないその先、乙女の秘洞へと指を触れさせる。そこを触れられる恐怖に、まともに声を出すことも身じろぐこともできない。
「や…、やめて…」
辛うじて零れ落ちた声は、先程まで叫んでいたそれとは比較にならないほど小さいもので。余りの恐怖でまともに声も出ないのだろう。
「ふふ…、だぁめ」
だが、そんな懇願イアには関係ない。あっさりと雫の秘所へと指を挿し込んだ。
「ひ、い、ぃたい…!いやぁ!」
多少愛液で濡れているとはいえ、まだ十分に潤ってはいない雫の秘所はぎちぎちときつくイアの指を締め上げる。しかし、指を痛いほどに締め付けられているイアはそれを気にする様子もなく、ぐりぐりと雫の内壁を抉るように指を動かす。
「いや、やぁ、やめ…っ、あぁん!?…え、ぃ、あ…!?」
「あ…ふふっ、みぃっけ」
ただ痛みしか感じない、そう思っていたし事実そうだったはずの雫の中に入り込んだ指がある一点を穿つ。その瞬間、痛みとは似ているようで、しかし決定的に違う痺れのような何かが全身を駆け巡った。自分を襲った未知の感覚に雫は困惑と恐怖を覚えるしかない。しかし、それを許すイアではない。穿たれた、ざらざらとした一点。そこを執拗に責め続けた。
「あっ、あ、いぁ、あっ、や、こわい、こわいのぉ!なに、っ、これぇ!?」
「それが、気持ちいいっていうんだよ?ほら、ほらぁ!」
情け容赦なくぐりぐりと指を往復させるイアの指の動きに翻弄されるまま、雫は身体をがくがくと震わせる。目の前でぱちぱちと火花が散り、そして最後、イアがぐり、と一際強く指を曲げたその瞬間、雫の視界が火花ごとシャットアウトする。一瞬のブラックアウトの後、力の抜けた体と飛んだ意識、そして腰が浮くようなふわふわとした感覚に雫が混乱し、へたりと脱力してしまう。自分の身に起こった分からない何か。目を白黒させる少女に、イアは愛液に塗れた指に舌を這わせながら淫靡に笑い答える。
「どうだったかな?初めての絶頂は?」
絶頂?あれがたまに友達が言っていた『イく』ということ?雫がそれを頭の中で咀嚼し理解するまでには少しの時間を要した。そうして、力が抜けるとも怖いともよく分からないあの感覚が絶頂だと脳が解釈した途端に、思ったほどでもないなと、どうにも場違いな感想を抱いた。天にも昇るほど、とか他の気持ちいいが全部安っぽくなる、とか言ってたけれど、ただ『よく分からない』と『怖い』が一緒にきて最後には腰の力が抜けるだけで。
「んひぃっ!?」
そう、思考をトリップさせていた雫を先程の『よく分からない』が襲う。まだ震える上半身を無理に動かして下腹部を見れば、秘所の上の方で何かを摘むように指を閉じている。その指先がすりすりと動くたびにやってくる『よく分からない』が恐ろしくて、思わず縋るようにシーツを掴む。
「な、なんですか、ひっ!あ、あぁ!」
「んー?ここはね、クリトリスっていうの。特に敏感で気持ちよくなれるところなんだよぉ?」
雫の抵抗もむなしく、イアはそう言ってクリトリスを指で挟んで刺激する。こりこりとイアの指が動くたびに背筋にぞくぞくとした悪寒が走り、未知の感覚に対する恐怖が雫を襲う。そして、雫を二度目の絶頂が襲い脱力感が身体を支配する。
「も、もうやめて…、こわい、からぁ…!」
「んー?やだ、かなぁ」
「え?」
「だって、まだ初めて、貰ってないもん」
初めて?何の?
そこまで考えて、ふわふわと漂っていた思考が落ち着いて、それが何なのか理解した途端、さぁ、と雫の顔が青くなる。
「や、やだぁ!!お願いします!それだけは、いやぁあああ!!!」
「ん-、ちょっと煩いなぁ」
「がぅ!?んぅ、うん、んー!!?」
少し苛立ったように雫の口へ布を詰め込む。半ば噛まれるのを覚悟で入れた左手は、犬歯が当たり引っ掻かれたような傷ができ、血も漏れてしまっている。しかし、イアはそれを気にせず、軽く舐める程度で傷の治療を済ませた。
「じゃあ、あんまり焦らすのもあれだし、一気にいっちゃうね?」
「むぅ、うぅうう!ううううんぅ!!」
「さーん、にーぃ、いーち…」
「んんんぅぅううう!うぅぅんんぅ!!?」
「ぜーろ!」
ぷつん。
「————————————っ!!!?」
一息。まるで包装のプチプチを一つ潰すぐらいの気軽さで、雫の純潔は無様に、あっけなく奪われた。同年代では現実主義者で理想などをあまりひけらかさない雫ではあったが、最初くらいは好きな人、というか自分が選んだ人に奪われたい、くらいの願いはあった。それが、それなりに信頼していたはずだった従妹にいとも容易くぶち破られた。喪失感と絶望感、それらが雫の心を黒く染めていく。その瞳には、イアが言っていた青い炎など微塵にも感じさせない。『もうやめて』。雫が思うのはただそれだけだった。
「初めて、おめでとうね?それじゃあ、これからが本番だよ?」
「ん、ぅ…」
何がめでたいというのだろう。それに、本番とは?
「流石に初めてを貰って痛いだけ、なんてのはやっぱり思い出としては最悪じゃない?だから、忘れるくらい気持ちよくイかせてあげる」
もう、やめて。これ以上に最悪なことなんてない。これからできることなんて、最悪の上塗りだ。そう言おうと、口に押し付けられた邪魔な布を取り外そうと首を横に振り舌で押し出そうとしても、力が入らなくて口の中から出て行ってくれない。
「じゃあ、これからたくさん気持ちよくしてあげるからね?」
そうして、悪魔は雫の血の滴る秘唇へと再び手を伸ばしたーーー
***
「…雫、大丈夫ですか?」
「…ゆかり、お姉ちゃん」
結月邸、夕方。最近、雫の帰りが早くなった。雫は確かに一見取っ付きづらいがいざ関わればユーモアに溢れた意外と面白い人物である、というのがゆかりを含めた周囲の評価である。『新しい同好会を立ち上げる』なんてことも言っていたのに、今ではその話題を振っても口を閉ざすだけ。それに笑うこともめっきり無くなった。元々無表情気味なので、付き合いが浅いと分かりづらいが、さすがに姉ともなれば妹の感情くらい手に取るようにわかる。
「学校で何かありましたか?それとも、進路とか仕事とかの話です?もし、力になれることがあるなら私はいつでも」
「…お姉ちゃん、ごめんなさい!」
「っ、雫!」
そう、勢いだけの謝罪をして雫は自分の部屋に駆け込む。急に駆け出した妹の勢いに負け、どうにか伸ばした手はその細腕を掴むには遅すぎた。
ばたん。
閉じられた扉に背を預け、雫は暗い部屋でぺたんと力なく座り込む。
『雫ちゃん、可愛いからこんな感じで撮っちゃったんだぁ。…雫ちゃんは頭がいいから、言いたいこと分かるよね?』
悪魔の一言がいつまでも耳にこびりついて離れない。抱きしめられながら見せられたあの映像をどうにかしなければ、自分は一生あの女の奴隷だ。だが、どうすればいいかなんて分からない。出し抜き方も、映像の奪い方も。だから、私は彼女の言いなりになるしかないのだ。悪魔が言う“余計な虫”と関わらないようにして、誰にも秘密を洩らさないように独りで耐えきって。
「…っ、お姉ちゃん、…吉田君、伊織君…」
すすり泣くか細い声は、誰にも届くことはない。