街を襲った異常事態。狂った男と、襲われる女。
逃げ惑うゆかりとマキの前に一台のワゴン車がやってくるのだがーーー。

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第1話

 

「ゆかりん、こっち!こっちに来て!」

「マキさん!でも、葵ちゃんが、そこで…!」

「駄目!誰かが逃げ切らないと!そうじゃないと、もう誰も助けられない!」

 

 後ろを気にするゆかりの手を引きマキは走る。葛藤を見せていたゆかりも、後ろから聞こえた悲鳴で手遅れであることを悟る。涙を拭う余裕もなく、心の中で何度も葵に謝罪をしながらマキの後を追う。後方から聞こえた呻き声に小さく悲鳴を漏らしながら、それでも二人は走った。

 

 何が原因で、どういった原理でそれが起こったかは全く分からない。一つ分かるのは、自分たちが住むこの街から逃げ出さなければいけないということだけだった。

 それはちょうど一週間前だった。『ライフ・ラヴ・ピース』と何を伝えたいかもよく分からない言葉を掲げた集団が活動を始めたのは。胡散臭く宗教にありがちな気味悪さもあって、少なくとも最初の二日間くらいは誰も取り合わなかった。それが、三日四日と活動するにつれて、男性の支持者がじわじわと増えていって。五日目にはあちこちの公園で集会が行われるくらいに信者を増やしていた。女性や子供はそれを気味悪がっていて見ていた。思えばこの時すでに誰かが何かしら行動を起こせばよかったのだろう。今となっては後の祭りだが。

六日目の夜に、何件も信者による強姦事件が発生した。警察に頼ろうにも、男性警察官の中にも信者が沢山いたようで機能不全に陥っていた。女性は男性信者の標的にされる。信者ではない男性が止めに入りもした例も多くあったが、いずれも動けなくなるまで暴行を受けて終わりだった。

それでも日が昇ったら事態は収束する。そうでなくともよい方向に動くに違いない。そんな淡い期待を裏切って、まさに今日、本当の地獄が幕を開けた。信者たちは欲望のままに行動を始めた。腹を空かせた肉食動物の様に街を彷徨い、女性を見つければ物凄い速さで追いかけて捕まえてはその場で欲望のまま強姦に至る。もう街中のあちこちから悲鳴と喘ぎ声が聞こえる。

最悪を想定してまだ暗いうちから街の外を目指し始めたゆかりたちにも、容赦なく信者の手は迫った。最初にきりたんをかばってずん子が、そのすぐ後に注意散漫になっていたきりたんが捕まった。その後には茜とあかり、つい先程には街の外にまで誰か一人でも逃げ切れば可能性はあると皆を励ましていた葵も捕まって、残りはマキとゆかりの二人だけ。折れそうになる心と震える脚を必死に奮い立たせて、二人は必死に走った。

 

「ゆかりん、早く!立って!」

「マ、マキさん…!先に行ってください…!マキさんだけでも…!」

「でも…!」

 

 先に限界を迎えたのはゆかりだった。何とか必死に脚を動かしていたが、小石を踏んでふらつきそのままその場に倒れ込む。ぐしゃぐしゃに表情を歪ませながら立ち上がろうとするが、脚が言うことを聞いてくれない。それで更に溢れ出る涙を止めることもできないゆかりを鼓舞しようとマキは立ち止まってしまう。瞬間、一気に疲労がマキの脚を襲う。街の外まで残り僅かのそこで二人の脚は限界を迎えてしまった。マキは辛うじて立っているが、それだけだ。あと数歩歩けるかどうか、という限界の状態だった。太陽も沈みかけ夜のとばりが下りようとしているその状況、二人は絶望感に襲われる。信者がここまで追ってきていたならばもう二人には犯される以外の選択肢は残されていない。

 最早ここまでと、二人の頭に諦めの選択肢が過る。その時だった。遠くからエンジン音が聞こえる。もう動けそうにない二人が緩慢な動作で顔を上げた。ぶろろろ、と次第に近づいてくる音の方向へ顔を向けると、一台のワゴン車が二人のすぐ前に止まる。それから降りたのは、長い薄桃色の髪の————女性だった。

 

「乗って」

 

 そう短く言われて、二人は耐え切れず涙を流した。これで助かる、と動きそうにもなかった脚を無理矢理に動かして、ゆかりに至っては最早四つん這いでワゴン車に助けを借りながら乗り込んだ。面倒そうに手助けした長髪の女性が最後に乗り込んでドアが閉まる。走り出した車の中で、緊張と疲労で飛びそうになる意識をどうにか保たせながら、二人は女性に礼を言った。

 

「あ、あの、ありがとう、ございます…!」

「わたしたち、もう、助からないって思ってて…!」

 

 恥も外聞もなく涙や鼻水で顔を歪ませながら頭を下げるのを、しかし、女性は冷たくあしらった。

 

「助けた訳じゃない。貴方達が最後まで残ったから回収しに来ただけ」

 

 その冷たい態度と、それ以上によく理解できない言葉に、安堵が困惑と不安に代わろうとしている二人の目の前に、女性はペンダントのようなものを掲げた。

 

「面倒だから、とりあえずこれを見て。それさえしてくれればいいから」

 

 その言葉に従ってチェーンの先にある赤い石に視線を向ける。そのままじっと見つめていると、石が淡い光を帯びてくる。それを見ていると、ただでさえ疲労で飛びかけていた意識が更に遠くなる。本来であれば警戒すべき状況だが、考える気力などとうに残っていない二人の意識は闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりとした意識を手繰り寄せていると、ぱちゅんぱちゅんと叩き付ける様な水音が聞こえる気がした。段々と意識が戻っていくに従って水音がよりはっきりと聞こえてくる。

 

 ————ぅ、ぁああ———っ!

 

それと共に、今日一日で聞き慣れてしまった、同時にもう二度と聞きたくなかった音————否、声が聞こえる。そして、その声には聞き慣れた響きがあって。ゆかりは不穏な気配を感じながらも目を開いた。

 

 

「ふぁああ!あぁん!あぁっ!」

「ん、ちゅ、こくっ…。はぁ、おいし」

 

 そうして視界に入った光景はゆかりの予想だにしなかったものだった。

 

「そ、そこぉ!もっと、もっとぉ!」

「ん、そこまで強請らなくてもいい。ちゃんとあげるから」

「いぃ、ん!ひ、ひくびも、ちくびもさわってぇ!」

「はいはい…、美味しいからいいけど」

 

 如何にも柔らかそうなベッドの上。そこで声からも見た目からも女性であるとしか思えかった薄桃色の長髪の車の女性が、本来あるはずのない陰茎でマキを下から突き上げながら性行為に及んでいた。合意の上かどうかは定かでないが、それを受け入れそうにないマキはこちらにもう見向きもしない様子で行為に没頭している。そして、一瞬目を疑ったが、見間違いではなくマキの豊満な胸の先端からは白くねっとりとした母乳が零れており、女性の方も喉を鳴らしながらマキの乳首に吸い付いている。

 

「あぁ、おはよう。マキ?と比べればだいぶ遅いけれども。まぁ、疲れてたから仕方ない」

 

 マキが乱れるベッドとは逆方向から声が聞こえる。まだ痛みが多少残る身体を捩って、ゆかりは声の主を探す。この段階に至って漸く、ゆかりはマキと同様に上等なベッドの上に横になっていたことに気付いた。

 

「やぁ。ゆかり、であってるよね。改めて、おはよう」

 

 声の主は、黄色の髪を後ろで纏めた、自分よりも少しだけ年下の様に見える少女であった。薄桃髪の女性がそうならば、この少女もまた自分にはついていないものを持っているのかもしれない。助けてくれた、としたら失礼極まりないと思いつつも不安は拭えず少々の警戒心を抱きながらゆかりは少女に視線を向ける。

 

「お、はようございます。えっと…」

「ん?あぁ、もしかしてナマエ?とか言った方がいいかな?イアと同じで識別コードでいいか。私はオネだよ」

 

 識別コードという聞き馴染みのない単語に、ゆかりの中に募る不穏さが一層増す。

 

「えっと、オネ、さん?ここはどこです?あの、そこの人に助けてもらって、そこまでは覚えてるんですけれど…」

「うーん…。ちょっと待ってね。色々と訂正するところがあるなぁ…」

 

 オネはそう困ったように呟いて首筋を掻く。

 

「まず、私達がやってるのは別に助けた訳じゃないから。そもそも、地球のオスを操ってたの私達だし」

「…え、えぇ?」

 

 ゆかりの頭が真っ白になる。あんなに怖い事件を巻き起こしていた元凶が、この二人?

 

「どこから話そうかな。まず私達は惑星アリアから来た、ゆかりたちからすれば宇宙人になるのかな」

「う、うちゅうじん?」

「私達の星は、メスが極端に減ってるんだ。子供を産むハハオヤが少ないから、私達みたいなアリアのオスは、他の星から自分と交わるメス、地球の言葉だとツガイだったかな?それを回収して来いって任務を受けてるんだ。それで地球に来たの。ただ、地球は個体が多かったから優秀なメスを見つけてよりハハオヤに相応しい個体を見つけるために選別作業を行ってたの。それで、私達の担当してた街で一番優秀なメスがゆかりとマキだったから、イアが二人を回収しに行ったってわけ。だから、助けたってわけじゃないの」

 

 分かった?と首を傾げて覗き込んでくるオネに、ゆかりは唇をわなわなと震わせる。

 

「…ぃ、で」

「ん?」

「ふざけないでください!貴方達の星の勝手な都合で、私達の星を滅茶苦茶にして!それで、ずん子さんたちをあんなに酷い目に遭わせて!それが赦されるとでも思っているんですか!?」

 

 ありったけの怒りを叫んで、ゆかりは痛む身体に鞭を打って起き上がろうとする。抵抗しようと必死のゆかりを眺めていまいちピンと来てない様子のオネは、身動ぎをするゆかりの額に手を伸ばす。それだけで、ゆかりの身体は自身の意志に反してぴたりとその動きを止めた。

 

「そこらへんのアフターフォローは安心していいよ?アリアは地球よりもずっと技術が進んでるから身体が無事なら死んでても生き返らせられるし、記憶の改変だってできる。二人の友達とか家族も私達が去る頃には何ともなく過ごしてるよ。ただゆかりとマキがいないだけの人生になるだけ。だから、大丈夫でしょ?」

「なにが、大丈夫ですか…!人の暮らしを勝手に滅茶苦茶にして…!そもそも、私達二人の意志は一体どこに!」

 

 唸り声をあげながらびくともしない身体に力を込める。呆れたように息をついてオネはゆかりの傍らに腰掛けた。

 

「そこは我慢してほしいかな?私だってツガイにはちゃんと優しくするよ?」

「うる、っさい、です…!っ、マキさん!マキさん、しっかりして!」

 

 自分の身体がどうしようもないならと、ゆかりは諦めずにマキの名を叫んだ。

 

「あぁう!い、いいの、いいよぉ!いあ、いあぁ!」

「いいね、マキ。気持ちいね?」

 

 しかし、その呼びかけも空しく、マキはイアから与えられる快感にすっかり蕩けさせられて使い物になる様子はない。それでも諦めたくないといった様子を見せるゆかりの様子にいよいよ痺れを切らしたのだろう。オネは、上着のポケットからペンダントを取り出す。

 

「仕方ないなぁ…。ゆかり、こっち見て?」

「そんな、こと言われて…!見る、わけ…、が…」

 

 見ないように強く意思を保とうとするものの、身体はその言葉に抗えず視線はふらふらと揺れるペンダントに向けられる。ペンダントの先端で淡く光る黄色の宝石を見たゆかりの脳裏に車での赤い宝石が思い出される。やばい、と視線を逸らそうとするのに瞳は少しも動かない。瞼も瞬きの僅かな瞬間しか目を覆ってくれない。焦る気持ちを更に追い詰めるように、ゆかりは自身の胸がとくんと高鳴るのを感じた。

 

「ぅ、や、やめ…て…」

「ふふ、やぁだ」

 

 そう悪戯っぽく笑いながら左右にペンダントを揺らす。その動きに視線がついていくのを揶揄うように眺めるオネに苛立ちが募る。募るのに、それ以上にオネを愛おしく思う気持ちが膨らんでいく。自らの思い出や意志を塗りつぶすように溢れるオネへの好感情。これと同じことをマキもされたのだと察した。だが、それが分かったところで対処法などない。既にただの友人どころではない、ずん子や茜らに抱いている親愛と同じかそれ以上の好意をオネに対して持ってしまっている。この身体が動くのなら、目の前にいる彼女の温もりを求めて抱きしめているだろう。

加えて、ゆかりの下腹部から全身に広がるじわじわとした熱が思考を苛む。その熱が今まさに多感な年頃である自分を時折悩ませる性的なものであると経験から知っていた。

親愛に性感の二つを支配されて、ゆかりの身体はいよいよオネを求めてしまっている。感情では求めていないと必死に言い聞かせてはいるが、それも時間の問題であろう。いよいよゆかりの中にも諦めの感情が芽生え花開きつつあった。そして、それを見逃すオネではなく。

 

「ねーぇ、ゆかり。キス、しよ?」

「ん、だ、めぇ…」

「いいんだよ、私に任せて?ん、ちゅぅ…」

 

 ペンダントは上着に戻されたが、もう身体はオネを求めてしまっている。重ねられた唇がゆかりを追い詰める。額に添えられたオネの手がふ、と離れる。それがトリガーだったのだろう。先程までどれほど力を入れても動く様子のなかった身体は嘘のように自由となる。これがあと数分遅ければゆかりにとって幸運だっただろう。しかし、現実は非情。解き放たれたゆかりの腕は、自然な様子でオネの背中へと回される。それが更にゆかりの諦観を加速させる。

 

「ゆかり…、ひた、らして…。ん、れぅ、ちゅ…」

「ひ、ぁん…。うぅ、れる…」

 

 指示された通りに絡みあう舌が与える幸福感と快感に、いよいよゆかりの反抗心は瀬戸際まで追いやられる。もう心の大部分が屈服したい、このままオネにされるがままに犯されたいと彼女を求めてしまっている。

 

「ぷあ。…じゃあ、少し待ってね」

 

 そう言うとオネは手早く自らの服を脱ぎ去る。慣れた様子で下着まで脱ぎ捨てると、その下に隠れていた可愛らしい外見に似つかわしくない剛直が現れる。服を脱ぐまでの僅かな時間でさえ待ちきれないというように物欲しげな視線を向けてしまうゆかりは、現れたオネの陰茎に視線が釘付けになってしまう。あれが自分の中に入る。未知に対する恐怖もあったが、それを与える対象がオネというそれだけで快感への期待が勝ってしまう。

 

「これを、今から入れるんだよ?…欲しい?」

 

 ちろ、と唇を舐めながら挑発するように笑うオネの問いかけに、ごくりと喉を鳴らして頷いた。もう抵抗の意志はない。心まで屈服したゆかりは、震える手でもたつきながらも身に着けていたズボンと下着を脱いでいく。オネはその従順な様子にぞくりとした快感を覚える。いじらしい彼女の服を脱ぐのを手伝ってやり、更に口付けだけで濡れそぼったゆかりの秘所を指でほぐしてやる。入口を軽く指で往復しただけで、大袈裟に身体を震わせる未来のツガイの姿にオネは性急に自らの性器をゆかりの花弁に添える。

 

「挿入れるよ…」

「は、い。…ん、っう、うううんっ!?」

「はぁ…っ!?は、はは、気持ちい…!」

 

 互いに初めての性交による快感に身体を震わせる。ゆかりの秘唇からは純潔が散った証がたら、と流れ落ちるが、二人ともそれに構う余裕はない。ゆかりは挿入れられたその刺激で既に軽い絶頂に押し上げられ、それどころかその先を貪欲に求める膣肉が主の意志も無視して肉槍を締め付ける。その締め付けて咀嚼してくる柔肉の温かさに、オネも気を抜いたら直ぐに子種を吐き出してしまいそうだ。

 

「う、うごく、よ…!ゆかり…!」

「き、てぇ…!は、はやく…!」

「う、ん…!あ、ぅう…っ!き、つ…っ!」

「う、うぅう!あ、はぁ、あぁん!ふぁああ!」

 

 オネの動きは、アリアのオスとしては些か稚拙なものではあったが、それでも快感と信愛を増幅されたゆかりにとっては十分すぎるほどの気持ちよさであった。オネからしてもゆかりの性器は柔らかでありながらきゅうきゅうと心地よく締め付けてくるその動きに射精感が込み上げてくる。このまま射精したいという欲求と、一方でツガイとなったメスにオスとしての優位を示したいというアリアのプライドの両方にあてられて、オネはゆかりを押し倒すようにして馬乗りになる。きゃっ、という可愛らしい悲鳴とされるがままのゆかりに征服欲が満たされていくのを感じながら、オネはゆかりの薄い唇を奪う。

 

「ちゅ、ゆかり…、ちう、ふ、ぅうう!うぅん!」

「お、ね…。ちゅ、おねぇ…!ふゅう、う、ちゅる、んん!」

 

 唇ではじゅるじゅると舌を絡ませ、性器ではばちゅんばちゅんと上から叩き付ける様に蜜を散らす。およそ上品とはかけ離れた水音を立てながら、二人は余裕なさげではあるものの恍惚とした表情を浮かべながら高みへと昇っていく。

 

「ゆか、ゆかり!も、もう!」

「きて、きてぇ!」

 

 オネはフィニッシュとに勢いづけて膣内最奥の子宮口を殴りつけるように腰を打ち付ける。その刺激に先に絶頂へと押し上げられたゆかりの膣内は一際力強く絞り取るようにしてオネの男根を締め上げてオネの白濁を強請る。それにあたかも応えるようにして、限界を迎えたオネは子種を吐き出した。

 

「あ、あつい、い、ぃい…。きもちい、です…」

「は、ぁああ…。ゆかりぃ…」

 

 その余韻に浸るように、オネはゆかりに触れるだけの口付けを交わす。ゆかりも、数刻前のことなどまるで忘れたようにその緩慢な愛情を受け取って笑みを浮かべた。そうして甘い愛情を紡いでいる間に再び熱の灯る蜜壺に包まれた肉槍が硬さを取り戻す。その熱と硬度に互いに気付くと、二人は視線を交わして互いの内で燻る熱を確かめ合う。もう二人の間に言葉はいらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆかり、大丈夫?不安はない?」

「ないと言ったら、それは嘘になりますけど…。それよりも楽しみなのが強いです」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、ゆかりは傍らで落ち着かない様子のオネの手をぎゅ、と握る。その腹部はふっくらと膨れていて、新たな命をそこに宿していた。

 

「でも、もしも失敗したら…。あぁ、なんで死人は簡単に起こせるのに、生まれくる命は駄目なの…」

「もう。失敗する前提で考えないでください」

「だけど…」

 

 下手に技術が発達している星の人間はこんな時情けないな、とゆかりは苦笑する。惑星アリアではある種の聖域めいた場所である出産管理センターのロビーで、二人はゆかりの名前を呼ばれるのを待っていた。アリアに帰星してからも幾度となく爛れた夜を繰り返した二人は遂にその身体に新しい命を宿したのだった。

 

「本当に、大丈夫なの?ゆかりは、本当に強いよね…」

「地球生まれですから。それよりも、オネは心配をし過ぎです。マキさんだって無事だったでしょう?」

「でも、千人に一人は生まれる前に耐えられないかもしれないって…。そんなの、不安になるでしょ?」

「いいから落ち着きなさい。普段のかっこいいオネでいてくださいよ」

 

 そう言われて、やっと落ち着く気になったのか深呼吸を何度も繰り替えして隣に座る。いつもは小柄な姿に似つかわしくない格好良さを見せるのに、今日は情けない姿を見せっぱなしだ。

 

「それよりも。オネ、もしもこの子が育ったら、大丈夫そうですか?」

「…難しくても、絶対に行こう。イアとマキも一緒に」

「はい。見せてあげたいです。私のふるさと…」

 

 自分達夫婦と、マキとイアの夫婦。四人で決めた約束事。子供が出来たら、その子供に地球を見せてあげよう。ママはここで生まれて、ここで育ったんだよって。記憶の断片も何もないとは分かっていてもいいから。オネとイアが提案して、悩みながらも自分とマキで賛成したその計画。情報漏洩とか、母体の逃亡だとか、色々問題があるようで難しいけれど、と前置きした上でオネはどうにかすると言ってくれた。だから、私がまずはその一歩を踏まなければならない。

 

『ユカリ=ユヅキさん、診療室へお入りください』

 

 医療施設特有の事務的な放送を冷静に受け止めて、ゆかりは立ち上がる。その手を名残惜し気にぎゅ、と握る手に苦笑しながらもう一方の手を重ねる。

 

「行ってきます。私、頑張りますね。マキに負けないくらい頑張りますから。だから、今日はかっこよく待っててね、お父さん」

 

 そう言って、不安そうな表情を浮かべながらも力強く首肯した愛しい人に見送られて、ゆかりは母親となるための第一歩を踏み出した。


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