恋愛感情、は分からない。でも、腐れ縁ではあるから。
「ゆかりちゃんは期末テスト大丈夫そう?」
「ん?まぁ何とかなるでしょう、少なくとも補習授業に回されることはないと思いますけど」
「うえー、羨ましい…」
そう言いながら、もう十年来の幼馴染である双葉湊音は今日も変わらず彼女の母お手製のお弁当を口に運ぶ。相変わらず美味しそうな卵焼きだ。
「そういう湊音はどうなんです?いつもの様にピンチですか?」
「どうしてそんな酷いこと言うの…」
事実でしょう、と揶揄うようにそう返せば、湊音は不満げにそうだけどと渋々肯定する。社交性や愛嬌と引き換えに勉学関連のいろはをどこかへ置いてきた彼女には進学校にカウントされるこの高校の授業は幾分か難しくついていくのも大変なようだった。
「それじゃいつも通り私の家でいいですか?」
「ほんといつも助かります…ありがたやありがたや…」
湊音はそう言って私に手を合わせる。テストや復習で困る彼女をその度助けているのが、まぁ人並には勉強の出来る私だった。元を辿れば、うちの高校に入るために苦手な勉強を教えてくれと頼まれたのが始まりだったか。正直偏差値を落としたもっと難度の低い高校を受けた方がいいのでは、と当時の担任とも口を揃えて言ったが『ゆかりちゃんと同じ高校に行きたいから。それを諦めるなんてそんなの青春じゃない』なんて嬉しくも恥ずかしいことこの上ない理由付けをされて、それから一応の幼馴染であった私達は更に強固な“腐れ縁”によって結ばれることになった。
***
「ここのところはこの数字を代入してここに持ってくれば、はい、これで終わりです」
「あー、成程。ふー…、やっと全部終わったぁ~…」
「はいはい、お疲れ様でした」
そう伸びをして凝り固まった身体を癒す湊音を労ってテーブルに広がった自分の教科書を片付ける。数学の課題については一通り終わったし、少し休憩しても罰は当たらないだろう。
「それじゃ、少し休憩にしましょうか?」
「そうしよー、少しだらけちゃうのもそれはそれで青春っぽいし」
「貴方のその青春判定は一体どういう基準でやってるんですか…」
そう呆れたように言ったところで「えへへ」と気の抜けた笑みが返ってくるだけでこちらも気分が抜けてしまう。勉強の気分もすっかり削がれた私は部屋をちょっと抜けて台所へ向かう。適当にコーラとスナック菓子を見繕って戻ってくれば、湊音は幼馴染特権をフル活用しているつもりかベッドにうつ伏せになって枕に顔を埋めていた。
「おーい、リラックスするにしてもやり方とかあるんじゃないでしょうかー?」
「ん…、だってこのベッドゆかりちゃんの匂いするんだもん。あー、めっちゃ癒される…」
「普通に恥ずかしいんですけど…」
やれやれと本日何回目かの溜息と共にテーブルに持ってきたお菓子を置く。そうして一息ついてみると今日一日分の疲れが少し顔を出したので、制服姿のままぼすん、と我が物顔で身を預ける幼馴染の横に横たわる。湊音に背を向ける様に部屋の方を向いて横になるがそうしているだけでも彼女の温もりは伝わってくる。認めるのはとても恥ずかしいが、その温もりに一日の疲れは不思議と軽くなっていくように感じる。ただ横になっているだけなので気分的なものなのだろうが、それでもちゃんと効果があるのだから彼女の存在は私の中では相当大きいらしい。
「ん…。おぉ、本物が来た…」
「言い方とかあるんじゃ、ってちょっと、」
抗議の声を上げようとした私を遮るように、湊音は私に抱き着いてきた。腰に腕を回されて首筋に顔を埋められる。同性の幼馴染とはいえ、季節柄暑い日が続いている。匂いとか気になるのをこの青春馬鹿は理解していないのか。
「汗臭いとか、気になるんだけれ、ど…!?」
「れろ…、しょっぱ…」
「ちょ、なにして…っ!?」
舐めてきた。物理的に。最早恥ずかしいとかの域じゃない、何をやっているんだこの馬鹿は。そう言ってやろうとして、身体をぐるっと回されて押し倒されるような形になる。仰向けになった私に馬乗りになるように湊音は陣取る。その表情は時に青春馬鹿扱いされるどこか間の抜けた彼女らしからぬもので。
「…なんですか」
「…頑張ったから、ご褒美ほしいなぁ、って」
「…私が報酬ほしいくらいなんですけれど」
「…むぅ」
欲張りな幼馴染は不満げに頬を膨らませる。呆れる様に溜息を付くと、何か思いついたようにあ、と声を上げた。
「じゃあ、これが私からゆかりちゃんへのご褒美ってことで」
「どこがご褒美なんですか」
「気持ちいいよ?」
こてん、と不思議そうに首を傾げる。この青春馬鹿は、自分の発言に違和感を覚えたりなどはしないのか。
「…高校生に不純交遊は早いと思いますが」
「皆やってるらしいよ?」
「よそはよそ、うちはうちで…」
「それに、ちょっと悪いことするのも青春っぽくない?」
そう人差し指を口元にあて普段の能天気な彼女のそれとは少し違う悪い笑みを浮かべると、湊音は気圧されて反論できない私の唇を奪った。
「んぅ、ちゅ…れるっ」
「ん!?ふ…ちゅ、れぅ」
耐性のない私に容赦無く、唇を奪うどころか舌まで挿し込んできた。キスだけで内心どぎまぎしている私などお構いなしに侵入してきた柔舌は、私のそれを絡め取り無遠慮に口内を蹂躙する。大人のキスなど初めてでそれを気持ちいいよりも不思議な感覚として受け止めているのを察したのか、湊音は私の制服に手を伸ばして想像していたよりもずっと器用に脱がしにかかる。その手際の良さにじわじわと侵食してきた快感で鈍る思考は、しかしあらぬ不安を浮かべてきて私はそれに耐えきれずブラウスの前をはだけさせた湊音の手を叩いて彼女に待ったをかける。
「どうしたの?」
「っ、はぁ…。いえ…、その、なんか手慣れてるなって…」
「そうかな?まぁ、イメトレだけなら何回もやったからね」
「…本当に、それだけ?」
あぁ、我ながら本当に面倒くさい。幼馴染で“腐れ縁”だからってそんな資格あるわけないのに、彼女が他の誰かとそういう関係なのかと考えるだけで私の醜い腹の内はぐるぐると仄暗い感情を渦巻かせ、彼女にあらぬ不満と不安を募らせる。
「…ふーん」
「なんですか…」
「いやぁ、私もなかなかなものじゃないかな、と」
「…馬鹿にしてます」
「そんなつもりはないよ」
そこまで言ってぎゅ、と抱きしめられる。
「私は昔からゆかりちゃん一筋だよ?信じてもらえないかもだけど」
「…本当に?」
「そうじゃなかったら、あんなに高校入試頑張りません」
そう笑いながら湊音は私の頭を撫でるのだ。ああ、私が面倒くさいのもそうだが彼女はずるい。こんなの絆されるしかないじゃないか。
「でもまぁ、私の愛情伝わってないみたいだから今日は頑張るね?こういうすれ違いも青春っぽいけど私がゆかりちゃんのこと大好きって伝えてみせるから」
私が落ち着いたのが分かったのか撫でるのをやめると頬にキスを落として私の上着に手をかける。するりと脱がすと更にその奥の下着に手が伸びる。当然恥ずかしさもあるが今更かと彼女にされるがまま、下着は剥ぎ取られ上半身は何も身に着けていないままになる。さして大きくもない胸を見られる、つまらないだろうと諦めながら湊音の顔に視線を向けて。どうして、そんな頬を赤く染めてるの?
「綺麗…」
「ちょ…、恥ずかし、ひゃぁ!?」
惚けたようにそう呟いて私の胸に手を伸ばす。それに恥ずかしさが割り増しされて思わず止めようとするも、その前に湊音の手は薄い胸に届いてその肉をふに、と揉みしだいて丘陵の頂点を指で弾いてきた。私だってこれでも年頃だから自分で弄ることもある、本当にたまにだけれども。でも、その何倍も強い快感が走って思わず声が漏れる。
「ぅ…、ふ、んぁ、ま…っ!」
その声にタガが外れたのか、湊音が私の胸を揉むだけでなくその中心に口づける。彼女の指先よりもずっと柔らかくて熱い感触に慎ましやかな弾力のその頂上が硬さを増し膨らんでいく。恥ずかしいのに与えられる快感は嫌ではない。その快感を与えてくれるのが湊音だからか、思わず胸元に埋まる彼女の頭を抱き締めると柔く歯まで立ててきて次第に強くなる快感に身を震わして喘ぐことしか出来ない。
「っ、ぅうっ…」
そうして快感に耐えていると、きゅう、と熱量の上がる身体の中心が湿り気を帯びてきているのに気付いた。その感触がどうにも気になって、とんとんと胸を弄るのに夢中になっている湊音の背を叩いた。
「ん、気持ちよくなくなった?」
「いや…、その、下脱いでいいですか?その、ぬるぬるして気持ち悪くて…」
「え、じゃあ、下触っていい?…痛くしないから」
そう不安そうに言う湊音の様子に思わず笑いそうになる。私はこんなに気持ちよくなっているのだから、今更不安になることないのに。
「ええ、いいですよ。…優しくしてくださいね?」
すっかり濡れた下着を脱ぎながらそう笑えば、湊音も笑みを零して私の濡れそぼった秘孔へと手を伸ばす。くちゅり、と水音が鳴って快感と違和感が混ざった不思議な感覚が身体に走る。
「ん…!」
「い、痛い?」
「だいじょ、ぶです…。だから、もっと触って…」
「…うん」
いつもは青春青春と後先考えず突っ走るタイプなのに今はもどかしくて堪らない。でも、自分を気遣っていると思うとそれも嬉しくて。そうしているうちにじれったかった指先がじわじわと大きな動きになっていく。くちゅくちゅと水音と共に快感も大きくなっていって、耐え切れずに声が漏れる。
「ふ、ぁあっ!?っ、いま、の、ま…!?」
「…ここ?」
「ひゃあっ!」
湊音の指先が私の“いいところ”を掠めて強い快感が走ったのに思わず大きな声が漏れて、余りに良すぎるのが怖くて咄嗟に待ったをかけるのだけれど、恐らくスイッチの入った湊音はそれで止まらずその“いいところ”に指先を執拗に擦り付ける。
「あ、あぁ、ひっ!だ、だめ、い、いっちゃ…っ!」
「いいよ、いっちゃえ、ゆかりちゃん…!」
「あ、あぁ、———————っ!」
にちゅにちゅと細かく胎内を往復する指先に耐え切れず漏れる自分のものとは思えない高い声が段々と細くなっていくのをちかちかする頭で感じ取って、痺れにも似た快感が走った私の身体はきゅうと自分でも分かるくらい湊音の指を締め付けるのだった。
***
「…私の家、共働きでよかったです」
「…えーと、ごめんなさい」
「謝らないでくださいよ。…私も、その、よかったんですから」
用意されたコーラに口付けてどこか不安げにこちらを見る湊音に頬を膨らませるようにして言えば、いくらか不安も和らいだらしい。
「でも、私が湊音を触れてないのはイーブンじゃないでしょう?」
「あー、うん…。でも、ゆかりちゃんがえっちなことできるかは分からなかったからさー…。無理にさせるのも青春っぽくないじゃん?」
「青春を都合のいい言い訳にしないでくださいこのおバカ」
少し痺れる身体を伸ばしておでこをぴんと弾けば、反論できないようで「うぅ…」と声を漏らす湊音。それに、どちらから言えば無理にでもやらせる方が向こう見ずな青春っぽさが出てる、と思うのは私だけだろうか。
「んー…。じゃあ、あんまり聞くことじゃないかもだけど、ゆかりちゃんはえっちなこととか経験あるの?」
「…いや、一応は。湊音ほどじゃないでしょうけど…」
「おー、青春だ。でも、私も多分そんな上手じゃないよお」
「私よりうまかったら十分です。…なんでそんな上手なのか気になるのですけれど」
じとりとした視線を向けてやると、スナック菓子に伸ばし掛けた手を戻して青春馬鹿は慌てたように振る舞う。
「いや、本当にイメトレとかしてただけだよ?…本当に、ゆかりちゃんの初めてになりたくてずっとずっと待ってたんだから」
そう言う湊音の顔は内容は兎も角として真剣そのもので、思わず声を噤んでしまう。
「…そうですか、それは光栄です」
そう言えば湊音は私が納得したのも分かったようで、安心したようにお菓子に再び手を伸ばす。
「…でも、私が自信ないのはそうですけど。私も湊音に触りたいです、触り合いっこでもいいので」
「っ、それは、ちょっと困るよ」
むせる様にして湊音は私のお願いに反論した。
「えー、不純交遊は青春なんでしょう?今度、時間出来たときにでも。それまでに私も訓練しますので、覚悟しておいてくださいね」
「え、えー…。そんなー…」
すっかり困ってわたわたとする青春馬鹿な幼馴染に思わず笑みを零しながら、私もほったらかれていたお菓子に手を伸ばした。