その次期当主候補の一人「紫苑美来」はある日、一体の妖怪の討伐を命じられる。
それは「玉藻前」と呼ばれるかつて平安時代に王朝を滅ぼそうとした傾国の毒婦の妖狐だった。
その妖怪が封じられている結界は、中に足を踏み入れたら最後誰も無事には返っては来れない曰く付きの場所だった。
そして知る事になる、何故誰も無事には帰れないのかを
平安の世から千年続く魔術を扱い裏社会の牛耳る一族の一つ紫苑家。
その次期当主候補の一人である紫苑美来は男性が昔から牛耳る魔術社会において、女性でありながら高い能力を示し続けて候補の一人まで上り詰めた。
しかし女性であると言うハンディキャップを背負っていた。
彼女の目標は男性が牛耳るこの男尊女卑の魔術社会を変える事、その手始めとして紫苑家の当主になる。
力では間違いなく負けていない、それどころか他の男性候補を歯牙にも掛けないほどだ。
しかし女である自身を認めさせるには、男どころか誰もが成し遂げられない何かをなさなくてはいけなかった。
◎
ある日、現当主から呼び出しを受ける。
「はい、御当主様」
美来は当主の部屋の襖を開けて中に入り、礼をする。
彼女はラフな上着に白衣を纏い、下はジーンズと、とても目上の人に会うとは思えない格好だった。
当主はそのような格好であって気にせずに「堅苦しい挨拶はよい、座れ」と言い。彼女は座り相手に向き合う。
「一つ確認したい」
「はい、当主様」
相手の重圧にも彼女は一歩も怯まず真っ直ぐに向かい合う。
「お前が皆に語った当主になると言う野望。皆は笑っておったが」
今年の正月の集まり。
そこで彼女は宗家の人間も含めた前で当主になるから候補として認めろと啖呵を切った。
当主候補の一人である男が女が生意気を言うなと食ってかかったが、彼女はそんな相手をものの数秒で半殺しにして病院送りにした。
結果としてその男は魔術師として再起不能になり、候補に欠番が出た為に繰り上がりで候補になった事件があった。
魔術による傷害の為に警察にも司法にも裁けないのだ。
「今もその野望、その瞳にはいまだに燃えておるか?」
「はい、今は候補という立場ではありますが、最後には当主になっております」
現当主前にしても一切怯みも翳りもしないその真っ直ぐな視線を向ける。
当主は「ふむ…」と視線を向ける。
「一つだけ他の候補も黙らせられる偉業がある」
「何ですって?」
当主からのまさかの提案に耳を疑う。
紫苑家の現当主は女は子を孕ませる道具程度の認識しか持っていない男だ。
正月に力を示した為に美来を候補の末端として仕方なく認めただけで、彼から当主に擁立する事は無いと思っていた。
仮にもそんな偉業があるとしてもそれを美来に勧める理由。
それは達成が不可能に近いほどに困難な為にそれをやらせて体よく始末しようという事なのだ。
それはかぐや姫の求婚者への無理難題のようだ。
(このクソジジイ…)
表面には出さないが心の中は怒りで満ちている。
そして当主からの依頼を断れば彼女の候補としての立場は悪くなる。
つまりどんな理由があれ逃げる事は出来ないのだ。
「…その偉業とは何なのでしょうか?」
彼女はどう足掻いても受けるしかない。
相手はその態度を見てにやりと笑いながら話す。
「『玉藻前』を知っているか?」
「…傾国の美貌を持つ九尾の妖狐と聞いております」
玉藻前とは千年前に皇族に擦り寄り朝廷の滅亡を図った大妖怪。
しかしそれを達成する直前に正体がバレた為に逃亡し、最後に討伐された狐の妖怪。
「その『玉藻前』がどうかしたのでしょうか?」
「その女狐だがな」
美来はその女狐という表現に対して気が付かれないくらいだがピクリと眉を動かしてしまう。
妖怪の事だけでなく目の前にいる目障りな美来に対しても言っているように思えたからだ。
「いまだに討伐はされておらん」
「何ですって?」
ついそんな返しをしてしまう。
平安の時代に討伐されたという記録が残っているのだ。
「対外的には当時の魔術師達が討ち取ったとなっておる。しかし実際には一時的に封印するのでていいっぱいだったのだ」
「何故討伐したなどという嘘を?」
「これはあくまで儂の考察も入るが、当時の魔術師の立場から倒せないと言い出せない事情と考えられる」
美来は成程と頷く。
現代のような科学や司法制度のような仕組みが充実しない時代において、超常的な力を魔術師はその実績によって立場も守っていた。
つまり倒せませんと白状するのはその積み重ねた立場を捨てるようなものなのだ。
「つまり私にやらせたい事とは…」
彼女は何を相手がさせようとしているのかを察した。
「お前にはこの玉藻前の討伐をしてもらおうか」
相手から放たれる予想通りの提案にもはや呆れるしかない。
「慎んで受けさせていただきます」
そして彼女にはそれを断る術も無いし、そもそも断る理由も無い。
ここで実績を積み上げれば当主といえども彼女を無視できなくなる。
一つここで発言権を得るには丁度良い。
◎
「この祠か」
玉藻前が封じられている結界の前に辿り着く。
当主から厳命を受けてから二日後、言われた通りの場所にそれはあった。
「どうやら…嘘八百でもなさそうだ」
結界越しで弱まっているとはいえ強力な妖怪の気配がする。
ここに来る前に当主から過去に玉藻前に挑んだもの達の資料を出来る限り提示させた。
さすがに相手が美来を疎ましく思っているとはいえそこは渋らなかった。
過去の挑戦者、その全員がもれなく無事に帰還していない。
ある者は心身を喪失し、そしてある者は意識が戻らない、またある者は結界から帰ってすら来れない。
二度目の挑戦をする者など当然おらず。
また何故そのような状態になるのか誰も玉藻前の情報を持って帰れないのだ。
「さてと玉藻前」
結界内部まであと一歩に迫る。
「私の当主に至る為の踏み台になってもらおうか」
そう宣言して迷いなく内部に入る。
「ここが…」
結界の中に入ると彼女を迎え入れたのは広い畳の敷き詰められた部屋だった。
ただしその広いは部屋がただ広いのではなく、天井が視認できず上がいったい何メートルあるのか分からず、壁も遠くが真っ黒に見える程に底知れない。
「おうおう、これはまた若い女子が来るとはの」
美来の耳はその絡みつくような女の声を拾った。
そこにいたのは真紅の着物を纏う九つの尾を持つ女性だった。
その着物は胸元のところではだけで乳がこぼれ落ちそうになり、ザックリと切れた裾からは滑らかでつ ムッチリとした太ももが白く眩しい。
そしてくすくすと口元に手をやって微笑み仕草は可愛らしさと色香を振り撒いている。
もしも男が対峙すればその姿を見ただけで骨抜きにされるかも知れない。
彼女は女性であり、また高位の魔術師でもある為か、相手を勿論美しく妖艶だとは思う、だが相手の色香に惑わされたりはしない。
「お前が…玉藻前だな」
確認の為に美来は尋ねる。
もっとも相手がその質問に素直に答えるのかは不明ではあるが。
「ここに来る者は皆一様に我をそう呼ぶ」
少しだけ寂しそうに妖狐は答えた。
美来はその意図を図りかねた。
「そうか、なら私の野望の為にも死んでもらおうか」
美来はそう宣言して敵と定めた相手に向かって構える。
「ふふ…」
妖狐は楽しそうに微笑みながら口に当てていない方の手をこまねくように動かす。
最初にその仕草を見た美来は挑発されているのかと勘繰った。
それとも相当な戦闘狂なのか、頭のネジでも外れてしまったのか。
(違う…これは手をこまねいているんじゃない…)
彼女の目にはその仕草が手で風を送っている様に見えた。
しかしここには風などないし、仮に何かを送ろうとするなら何を手で薙いでいるというのか。
「ふふ、女子よ。お主は高位の術師であり、女でもある。少し我に付き合ってもらおうか」
「何を…え…?」
その時、美来はぬるりとした香りを嗅いだ。
もうその香りを嗅いでしまい手遅れだった。
「え、ひゃっ!?何これ…」
その香りを嗅いだ途端に彼女は漏らしてしまう。
堪える事が出来ずにズボンがどんどん染みで濡れていく。
美来は知らない事だが妖狐の香り、又はフェロモンとも呼べるものは嗅いだ相手の筋肉を弛緩させる効果がある。
その影響で股間の尿道とその周りの筋肉から力が削ぎ落とされて漏れるのを我慢出来なくなっているのだ。
「ふふ、その羞恥が命取り」
妖狐は祝詞を唱えると漏れ出るものを焦って手で股を押さえて止めようとしている相手に向けて術を放つ。
「ッ!?しまっ…!」
美来は何とか防ごうとするがすでに遅く、その攻撃が直撃してしまう。
しかし世界は何も変わらなかった。
「な、にが…」
彼女の体は傷一つ付けられていないし、体調も悪くなる様子も無い。
まさか妖狐が手加減をするはずもない。
「あ、れ…?」
そこで彼女が立ちっぱなしの妖狐を確認すると自身を襲う異変に気がついた。
とても妖狐の存在が愛おしく、美しく、そして蠱惑的なものに感じるのだ。
着物からハミ出そうな胸も、白く眩しい足も全てが魅力的で心が乱される。
端的に言うならば「エロ」く見えるのだ。その事実が彼女の中の警鐘を鳴らす。
「な、何をした…!」
強がって大きな声で問いただすが声音が震えるのを抑えられない。
「ふ…何、少し男の幸せを教えてやろうと思ってな。ほれ下を見てみよ」
妖狐はニコリとそう言って視線を相手の股間へと向ける。
それに釣られて美来も妖狐から自身の股の部分へと視線を向ける。
「は…?」
そこにはズボンがはち切れそうな程に膨れ上がる何かがあった。
それは男根、ペニス、ちんこと呼ばれるもので、大きさは男顔負けの立派なそれが大きな弧を描いて股から生えているのだ。
「さてと」
「はっ」
妖狐の声が聞こえたと思ったらもう既に相手は目の前にいた。
「教えてやろう、我に挑むものかどのような末路を迎えるのか」
相手は魔術なのか美来のズボンを消滅させてしまい生やしたペニスを外に解放する。
彼女の下着は既に意味をなしておらずそれははみ出していた。
「な…!」
下半身を丸出しにされた衝撃といまだ見たことのない男のそれに驚愕する。
「こんな物は必要ない」
相手はショーツも取っ払ってしまい完全に下半身を丸裸にしてしまう。
そして躊躇いなく相手のそれを握る。
「やっ…!」
未体験である握られる感覚に戸惑い慌てて相手の手を取って制止させようとする。
「ふふ、愛いの。男の感覚は鋭いだろう?」
静止しようとする相手の手などお構いなしに妖怪の腕力で手コキを始めてしまう。
その手はとても優しく、無理矢理のはずなのに痛くは無いのだ。
「あ、あっ」
初めての感覚のはずなのに快感が止まらずに先っぽから先走りが流れてペニス全体を濡らして、より手コキの為の潤滑油としてしまう。
手の動きがスムーズかつ速いものになっていき、にちゅにちゅと美来の股間から音がし始める。
何とか理性を保とうとするが、無意識なのか美来は腰を自然と動かしてしまっている。
「ふふ、まずは一回目」
相手が限界である事を見抜いた妖狐はスパートをかけるように手の動きを激しくしてから、握っているペニスをギュッと掴んでしまう。
「ひゃあああんっっ!!!」
その刺激がトドメとなって美来は快楽の叫びとその体から白い液体が迸った。
その快感に脳は焼き切れて思考は真っ白になり、満たされる脱力感が残る。
「まだ終わらん」
妖狐は手にべっとりとついている白いそれを舐め取ると、倒れ込もうとする相手を無理矢理抱き止めてから無理矢理口を付けをしてしまう。
「ん、んんっ!!?」
口の中に侵入してくる相手の舌と唾液、そして自身の体から放出された性液。
「ん、んっ…んぅ…」
それはとても背徳的で慌てて振り解こうとするが相手は体をガッチリと抱きしめている為逃げる事が出来ない。
長く続いた接吻、それが終わった時にはもう美来の瞳には魔術師としての矜持は消えてしまいただ惚けるだけの傾国の毒婦に溺れる女しかそこにはいなかった。
「まだ舞えるであろう?こんなものでは終わらんよ」
気絶し倒れようとする相手を無理矢理抱き止めてから、そのムッチリとした太ももで相手のペニスを挟み込んでゆるりと動かしてしまう。
いわゆる素股というやつだ。
「あ、ああっ…」
彼女は股間から生えるそれを襲う弾力と柔らかさ、そして心を乱す妖狐の香り。
それらは再び美来を絶頂の淵に追い込むのには十分だった。
「あ、いっい…!」
彼女はもう射精欲を抑えられず絶頂を迎えそうになる。
「まだだの」
「え…?」
だかその瞬間に妖狐は太ももの動きを止めてしまう。
(な、なんで?)
突然止まった快楽に混乱する。
じくじくと熱の籠る己の部位にもどかしさだけが残る。
そして完全に快感の波が引いて射精欲が消えたそのタイミング、そこで妖狐は止めていた太ももを再び動かし始める。
「ん…っ!あっ…はぁぁ!」
再び美来は喘ぎ始める。
そして再び白い液を放出する寸前まで追い詰められる。
だがしかし再び太ももから送られる快感がピタリと止まってしまう。
再びの寸止めに美来は気が狂いそうだった。
「なんで…」
「ふふ、何でだと思う?」
妖狐は口の端から涎を垂らし目を虚にしながらも問いかけてくる相手に対して意味深に微笑む。
(そうか…)
ここで美来も寸止めをしてくる相手の意図に気がついた。
(待ってるんだ…)
妖狐の狙いは己という傾国の毒婦に完全に溺れさせることなのだ。
だが快感を送ってイカせても、それは後で妖狐によって無理矢理レイプされたと本人が心のどこかで言い訳が出来る。
つまり妖狐は美来が自らの意思で堕ちるのを待っている。
自ら望んで妖狐の中にペニスを入れようとするのを待っている。
「こんな快楽で満足ではなかろう?」
妖狐が口を開く。
「心の底から堕ちた時の快感はこの比では無いぞ?」
相手の瞳が妖しく光り誘ってくる。
「望むなら入れてよいぞ。だがお前からだ」
「は、はぁっ…!」
美来はその誘惑に対して何とか息を整えて堪えようとする。
しかし妖狐には分かる。既に相手は堕ちかけているのだと。
心を繋いでいる理性という鎖が少しずつ千切れて来ていると。
心の奥底では妖狐のその温かそうな中に入れたいと、奥深くまで味わいたいと。
まだ生えたばかりでどうしたらいいのか分からない男性器。だが既に男の本能が植え付けられているのか煮えたぎる様に熱い。
(魔術師としてのプライドで強がっているだけ…ならば…)
妖狐はそこまで考えてから美来の上着に手をかけると一気にブラごとずり上げその小ぶりだが確かな膨らみを解放する。
「あっ」
心の準備も出来ずに晒される自分の胸、その事実に顔を真っ赤にする。
妖狐は微笑むと相手の両乳首を両方の指でぐにっとひねる。
「んひゃあっ!!」
彼女は叫び声とその刺激を受けてギリギリ保っていた理性が吹き飛んでしまった。
「えっち…したいっ…入れたいっ!」
美来は相手の肩を掴んでガクガクと震える足を何とか奮い立たせ、みっともなく惨めな懇願する。
その目元にら涙が流れており、屈辱に塗れている。
「ふふ…」
妖狐はやっと口でねだったのを見て相手への憐みから笑った。
彼女は真紅の着物の裾をずり上げて恥丘を晒す。
辺り一帯にムワッとした女の匂いが充満する。人がこの色香の中でまともな思考を保てるはずもない。
「舐めなさい」
相手の視線がそれに釘付けになっているのを見てそう命令をする。
甘く濃厚な女の香りが美来の鼻腔を埋め尽くし、思考をピンク色に支配する。
息を荒げているその姿に理性など存在しない。
彼女は膝を折り視線を相手の股と同じ高さにすると、そこに顔を埋めて一心不乱に舐め始める。
「ちゅ…れろぉ…んふぅ…」
美来の舌が必死に動く音が響く。
「惨めだの」
妖狐は目の前の高貴高慢だった女魔術師が自分の為に必死に奉仕をする姿、それを上から眺めて満足感に浸った。
「はぁ…ふぅ」
美来は命令されてもないのに舌先を這わせる先を太ももや足先にも伸ばしていた。
この妖狐を喜ばせよう、あの快楽をまた与えて欲しいと全身で表現し必死になっていた。
目の前で傅いて妖狐の足、特に足先の指を丁寧に舐める姿は哀れささえ覚えるほどだ。
そしてその哀れさは妖狐を興奮させる材料として十分なもの。
「良い子だ」
一通り奉仕をさせた後、相手の頭を優しく撫でてから顎に手を添えてからクイッと顔を上げさせる。
「本当に」
妖狐は自分の股に指でそっと触れる。
そこは相手の舌によってぬるりとベタついている。
「ここに入れて欲しいか?」
相手に問いかける。
まさにここが美来が人が奴隷かを分ける分水嶺。
「はい、あなたに全てを捧げます」
彼女は何の迷いも無くそう言い切った。
瞳は早くこのはち切れそうなペニスを入れさせてくれと語っていた。
「ご褒美だ」
妖狐は相手の肩を掴むと地面に横たわらせる形でそっと押し倒した。
「何を…」
美来は一体何をされるのか分からなかった。何故自分が押し倒されるのか。
「言ったであろう、奉仕には相応の対価をやらねばな」
「それはいった…ああっ!?」
美来の質問は最後まで続く事はなくよがり声でかき消された。
妖狐が今度は自分が相手の股に顔を埋めて、パクリと相手のペニスを口に含んだのだ。
「いっ、くぅー!!!」
しかしペニスを口に含まれるその刺激が強すぎたのか、ものの数秒で嬌声と共に精を吐き出してしまった。
「早すぎる」
妖狐は口を離してから拭いながら苦笑いをする。
極限まで性感が高まっていたとはいえ口に含まれてから我慢の一つもできない事に笑う他ない。
「あっ、ああん!」
「んふぅ…今度はもう少し楽しませるように」
再び妖狐の舌が美来を襲う。
舌が相手のペニスの筋に沿って丁寧に舐めあげる。
「あっ…はあ…!んぅ〜っ!」
今度は簡単に射精しないように必死に我慢する。
ここでまた簡単に出してしまったらこの気持ちよさが終わってしまう。
「…まん」
「何か呟いたか?」
相手が何かを口にしているのを耳で拾い尋ねる。
「…我慢っ…我慢しなくちゃ…っ!」
「ふふ、愛いやつ」
健気にも先ほど何となくで口にした楽しませるようにという一言を守ろうとしている。
しかし千年の時を生きている妖狐の舌技は見事で、数十年生きただけの小娘が理性で抑えられる程に甘くはなかった。
先程まで存在しなかった美来に生えた性器、それを何度も絶頂へと導いた事があるかのように妖狐は扱っていく。
美来は再びイカされ骨抜きにされて、体と理性を徹底的に弄ばれてしまい白旗を上げざるを得なかった。
妖狐の口が自身の股から離れていく。
「…」
美来は自身で出した白濁と相手の唾液に塗れる己の股間を眺めてから目に涙を薄らと浮かべる。
そして涙声で相手に懇願する。
「お願い…挿れさせてください…あなたの中に…」
妖狐はその言葉を聞いて満足そうに頷く。
そして相手の前にごろりと倒れてからゆっくりと横たわり股を開いた。相手に濡れそぼり光る己の秘所を見せつける。
「来なさい」
簡潔にそう告げた。
その言葉を合図となり美来の中に微かに残っていたかもしれない理性は消失した。
人として押し留めていた枷は失われて、妖狐の撒いた快楽は相手を獣にしてしまう。
「ッ!?」
美来はそれを見てまさに獣のように飛びつき腰を押し付けた。
「ああんっ!!」
あまりの気持ちよさに腰は砕けそうになり、体が震える。
自身の性器から伝わってくる感触、女では決して味わうことの出来ない熱さに脳を支配される。
「うっ…ひっ…」
一突きをする事に伝わってくる妖狐の中の温かさとぬめりとした感触。
それらは美来の頭の芯から揺さぶってしまう。
「ひああっ…あうぅ気持ちいいっ…もっと…!」
顔を真っ赤にし、まともな言葉すら発することも出来ずに喘ぐ。限界を超えた快感を受けたからかポロポロと涙も流している。
もはやここにいるのは紫苑家の次期当主候補の魔術師、紫苑美来ではない。
傾国の毒婦である妖狐の与える快楽に溺れる一人の奴隷だった。
(可愛いものよ)
妖狐は相手の腰使いを感じてくすりと笑う。
それはあまりにもお粗末でぎこちない。そしてなりより必死で可愛らしい。
ここで妖狐は倒れてされるがままから一転して相手を押し倒してその体の上に乗っかった。
「ふふっ…」
上には乗ったが入れずに入り口に相手の性器を擦り付けて刺激する。
「さてどうしようか?」
「……」
そう妖狐から言われて美来は自分がどうするべきなのか分かっていた。
もう一秒だとしてもペニスが包まれていない状況など耐えられないのだ。
彼女に妖狐の支配に対して抵抗する意思も力も残されていない。
「お姉様ぁ…お願い中に入れて…気持ちよくしてぇ…」
美来は泣きじゃくりながら必死の懇願をする。
「良い子だ」
妖狐は満足そうに笑み、腰をドンと落とした。
「あ、あ」
彼女は意識が飛びそうな程の快感を与えられた。美来のそれは完全に妖狐の中に飲み込まれた。
妖狐が腰を激しく上下に動かし始めると、これまでの人生の中で感じたことのない圧倒的な快感の奔流に飲み込まれた。
思考する力は粉々に砕け、視界に広がる色は色欲しか無い。
(勝った)
妖狐は自身の勝ちを確信した。
これまで多くの魔術師が自身を殺すか式神として調伏する為にやってきた。
しかしその全ての返り討ちにしてきた。
「おねぇ…さまぁ…」
彼女に跨がれ瞳をとろんとさせて、思考能力を奪われた瞳になっている美来。
そんな哀れな人間など腐るほど見てきた。
欲に溺れさせ思考力を失わせる事により口を封じ妖狐の力を外に流布させないようにする。
それによりどんな強者が来ても初見で不意を撃って仕留めて来たのだ。
もっとも妖狐としても正面戦闘で遅れを取るつもりはない。実際色仕掛けの効かない相手は腕力でなぶり殺してきた。
「んあぁ…」
そんな事を考えていると美来の喘ぎ声と共にペニスから大量の精液が飛び出し妖狐の中を満たす。
「哀れな子」
そうして地面に残ったのはピクピクと恍惚な表情で震えている哀れな魔術師だった。
徹底的に心を壊して従属させた。
「さてと…」
目の前に倒れ伏す相手をどうしようかと考える。
ここで殺してしまってもいいし、見せしめに結界外に投げ捨ててもいい、当面の暇潰しとして性奴隷として飼ってもいい。
しかしそこで光り輝く鎖がガッチリと妖狐の首に巻きついた。
「なに…!?」
驚いて鎖の伸びている先を見る。
そこにはもう片方の鎖の先端を握っている、服装の白衣も乱れていない、凛とした瞳で妖狐を見つめている「紫苑美来」がいた。
「どういう…な、ぜ…お前は…」
妖狐は思考がまとまらず途切れ途切れの言葉になる。
「貴女が跨ってるそれ」
美来はそこで口を開いた。
「本当に私?」
妖狐はそう言われていまだに跨っている相手を見る。
じっと倒れて息も絶え絶えな相手を見ると皮膚の一部がぼろりと剥がれて体の関節部分が露わになる。
「まさか…人形!?」
そう、先程まで性的な拷問を与えていたのは、精巧な作りとそこに魔術をかけてまるで生きているかのように偽装しただけの人形。
「あり得ない…人形と生身の人間を間違えるはずが…」
いくら精巧と言ってもそれを間違えるはずがない。
それが出来るというなら目の前の女はどれ程の天賦の才を持っているのだろうかとじっと見やる。
「そうね、普通なら人と人形を間違えるはずもない」
相手の表情から美来は思考を読んだ。
その疑問を受けるのは彼女の半生の中で幾度となく浴びたものなのだろう。
「でも残念ね玉藻前、貴女の予想は一部間違ってるわ」
「何だと?」
「私は魔術の天才でも何でもないわ」
その一言に妖狐はそんな筈はないと思った。
人と区別のつかない人形を操り、そして不意をうって妖狐を捉えて見せている。
それはここに玉藻前が封じられてから千年間誰も成し遂げられなかった偉業だ。
「何故なら私はね、女であると言うだけで魔術の訓練を碌に与えられなかった持たざる側だから」
だからこそ考えた。
魔術教育の機会を不当に奪われても諦めない事と考える事だけは誰にも奪えない。
そんな彼女が辿り着いたのが現代の科学によって魔術式を補強する方法だ。
それは道具に魔力を流す魔道具の存在があるからこそ、それを応用し研究をして突き詰めるのは簡単だった。
「玉藻前、お前と戦った術師で生還した者は例外なく心身喪失して情報が得られなかった」
問題はそれだった。
彼女は初見の相手に対して戦うリスクを知っている。
自身を誰よりも弱者だと認識しているからこそ危険な賽は振らない。
「だから私は人形を使って偵察してたんだ。お前の力を知る為に、私は敵の情報を知らずに飛び込む馬鹿はしない」
「しかし…どこに隠れていた。この開けた空間ではいくらなんでも見つかる筈…」
その問いかけを受けて彼女は羽織っている白衣を脱ぐ。
「それはだね」
そして白衣を頭から被るとまるで空気に溶けるように姿が消える。
「この白衣は光の屈折率を…って言っても分からないと思うけど、とにかく姿を消せる道具でもあるんだよ」
身につける服すらも手駒として使い少しでも勝つ確率を上げる。
それが彼女の戦い方なのだ。
「この女狐めえっ!」
「褒め言葉ですか?」
憎々しげに睨む視線を柳のように逸らす。
「さて…と」
「なっ!」
その声と共に跨っていた人形の手が動き出し妖狐の腰を力強く引き寄せる。
「んああぁ!?」
そしてズンッ!とペニスが奥深くまで入り込む。
首輪によって力を抑えられた彼女はどのような仕打ちを受けても体を守れずまさに丸裸だ。
「その人形の体はナノマシンという人間とほぼ同じ成分で出来てるわ。通常の人体と比べて約九十パーセントの一致率を誇るとっておきの特注品よ」
そこに魔術というブレイクスルーを加えたほぼ人間と大差の無いロボットのような物。
そして人ではないため人間を超えた頑強さとスタミナを誇る。
「教えて欲しいものね」
「な、なにを」
ここで妖狐は狩る側と狩られる側が逆だったと気がついた。
美来は怯える相手に対してにこりと微笑みながら宣告する。
「『心の底から堕ちた時の快感』ってやつ」
この日初めて妖狐の心の底からの敗北の喘ぎ声がその結界内に鳴り響いたのだ。
◎
「どう?心からの快感ってやつは?」
「……」
美来からの問い掛けに対して地面に倒れ込む妖狐は答えない。
あの後、ありとあらゆる手を使い妖狐を蹂躙してその力を削いだ。
「まぁ答えないならいいや」
最初からその辺りには興味がないのか意識が別の事に移る。
「…殺さないのか?」
「ん?あ、生きてた?」
ボソリと呟くような問い掛けに対して、相手はまだ話せる元気は残ってたかと中々に酷い思考を持つ。
「ぶっちゃけるとここに来る目的は貴女を殺すためだし、実際さっきまでは殺すつもりだったよ」
「何だと?」
その一言に上体を上げる。
体は性液や体液などでドロリとしていたがそんな事は些細な事だ。
「汚いな。ほらタオルに香水と着替えね、あとは体を洗う用の水道水入れたやつにリンスにシャンプー、服はジャージだけど我慢して」
汚い理由の九割方は美来のせいである。
少しして妖狐はジャージに着替えた。胸と尻が明らかにパッツパツだし、ズボンから尻尾がはみ出ている。
ちなみに香水は香りを付けるものではなく、脱臭用で妖狐のフェロモンを抑える効果がある。拷問している間に調合したものだ。
「いいよそのジャージに穴開けても、尻尾邪魔でしょ」
妖狐はそう言われてビリッとお尻あたりを破く。
そして改めて二人はその場に座り向かい合う。
「取引だ」
「取引だと?」
相手がなにを言い出したのかすぐに理解できなくなる。
「お前と式神契約をしたい」
式神契約とは土地神や付喪神といった自然と宿る土地の力と契約するか、もしくは妖怪のような存在と契約して力を得る事だ。
そして妖怪を手懐けるのはほぼ不可能だ。よって契約はお互いの出せる利益やメリットを提示する形になる。
「とは言っても生殺与奪権は私が握ってるから契約条件の割合は九対一にさせて貰うけどね」
「…それで何をさせたい?」
妖狐としては気には食わないが話を聞かなくては前に進まないために続きを話すように勧める。
「私はこの結界の解析を九割方終えた。あと一時間でも貰えたら貴女をここから出せる」
「何だと?」
妖狐がこんな戦いばかりしている理由は結界から出られないというシンプルな理由だ。
ここから出られないから撃退する他ないのだ。
「そういえば先程から」
彼女の視線は地面に置かれているノートパソコンだった。
自身を人形を使いレイプしている時も何やらそれを使って作業をしていた。
「あれでこの結界の構成式を解析してる。もうすぐ中和術式が組める」
信じられないと思った。
妖狐が千年かけても破壊できない結界なのだ。しかし目の前の女はそれをやってのけると思える凄味があった。
何となくだがこんなくだらない嘘はつかないやつだと。
「私からの提示はここからお前を出す事。もちろん契約には私に対して肉体的にも精神的にも手は出せないように縛らせて貰うけど」
「…それでこちらは何を差し出せばいい?」
何もないのに出して貰えるとは思えないため話を促す。
「当然貴女にはその妖狐としての力を必要な時に私の為に振るってもらう」
「なるほどな、だが提案というには強制力が高いな」
「賢いね。貴女にはこれを断る事は絶対に出来ない」
妖狐は分かっている。
ここで目の前にいる紫苑美来を口封じなり殺せないという事は妖狐の技や手の内が広く流布してしまうのだ。
そうすればいずれは倒されるし、調伏されてしまうだろう。
それが嫌ならここで契約を結んで結界外に出るしかない。
「もう一押しとして私が貴女の力を必要としてない時は勝手にしてくれて構わないよ」
「何だと?」
予想だにもしていなかった条件に驚く。
てっきり契約でガチガチに固められて監禁か拘束でもされると思っていたからだ。
「遊ぼうが食って寝てようがそれは自由に楽しめばいい。ある程度は現代社会に則して欲しいけど」
「……」
あまりにも妖狐にとって旨すぎる話だと思った。
何をさせたいかは不明だが明らかにメリットがある話だった。
目の前にいる女に弄ばれたという点を除けば受けていいと思える。
「お前は何を望む?」
「私?」
「そうだ。お前からしても我を調伏して歩き回る危険を理解出来ないわけではあるまい」
伝説に記される大妖怪を従えたらどのような目に遭うのか、目の前の女がそれらのリスクを想像出来ないとも思えなかった。
「私は何が何でも紫苑家の当主になってこの魔術界をひっくり返す。その為なら悪魔と契約してもいいし、背中を刺される最後でもいい」
「ひっくり返すと来たか…」
妖狐はひっくり返すというセリフに反応した。
彼女もまたかつての朝廷の崩壊を狙った身だ。
何故そのようなことをしようとしたのか、あの日から千年たった今では鮮明に思い出せない。
(それ以前にこんな気兼ねなく話せるのは何年ぶりだ?)
目の前にいる相手は自分に対して殺意も敵意も向けない。
「名は?」
「私?『紫苑美来』」
「よしいいだろう、その式神契約に乗ってやる。ただし我を退屈させるな。紫苑美来」
妖狐は相手に向けて手を差し出した。
それは契約への一歩目と言うことだろう。
「望むところ」
美来もにやりと笑いその手を取った。ここでふと思った疑問があった。
「そう言えば何て呼べばいい?玉藻前は通称でしょう?本当の名前は?」
「名前か、あったような気がしたがもう千年前の話だ覚えておらん」
かつては何かしらの呼び名はあった気がしたがもう長いこと呼ばれておらず忘れてしまった。
「じゃあ今日から貴女は『美月』と名乗りなさい」
彼女は少し考えてからそう名付けることにした。
「みつき?どう言うことだ?」
「貴女の美しさは月の下でならもっと映えると思ったから。私は今から美月と呼ぶし、そう名乗りなさい」
そして紫苑美来は宣言する。
「妖怪の『玉藻前』は今日をもって死んだ。そして『美月』として新しく生まれ変わるのよ」
美月は千年ぶりにワクワクするような感覚を覚えた。
この長い停滞を破りついに外に出る時が来たのだと。
レイプから始まった二人の関係は奇妙な事に一緒に戦うパートナーになったのだ。
◎
美来が玉藻前の討伐に出てから一週間が過ぎた。
既に周りからは殺されたのではないかと専らの噂だ。
「当主様!」
使用人の女性がノックもなく部屋に飛び込んでくる。
「どうした騒々しい」
本来であれば罰を与えるべき案件だが様子が尋常ではない。
「美来様が…!」
「何があったか?まさか死んだか?」
相手の焦りようについにたんこぶの一つが消えたかと前のめりになる。
「いえ…玉藻前を討伐したと…」
「何だと!?」
信じられないと言った反応。
千年間あらゆる高位の魔術師が仕留められなかった筈なのに何故生きて帰ってこれたのか。
そんな筈はない、何かしらのトリックでも使って誤魔化したに違いないと思い込もうとする。
「美来はどこだ!ここに連れてこい!」
「そんなに騒がない方が良いかと、お体に触りますよ」
ノックもなしに平然と当主の執務室に入って来たのは美来だった。
「おや?」
まるで人を食ったような態度で問いかける。
「まるで信じられないと言った顔色で、私が玉藻前を討伐して何か不都合でもありますか?」
最初から美来を始末する為に送ったのは当然バレている。
そして五体満足で生還しただけにバツが悪い。
「貴様…どのような手を使った。貴様の力で倒せるわけがない」
「なるほど、そうやって事実を認めない事で心の安定を図りますか」
「事実だろう!」
顔を真っ赤にして言い返すが哀れな事この上ない。
「なら証拠を見せましょう。来い美月」
「はい主様」
すると突然、強力な色香を放つ妖狐が現れる。
「な、何だと…」
その威圧感に当主はつい腰が抜けそうになる。
彼があれこれ理由をつけて戦わなかった存在が何のしがらみもなく目の前にいる。
使用人の女は恐怖のあまり部屋から逃げ出してしまった。
「こちらが玉藻前と呼ばれていた妖怪です。調伏の際に『美月』と改めて名前をつけましたが」
まるで新しいおもちゃを自慢するように語る。
本来であれば偽物だと言い放つところだが、彼は一流魔術師だからこそ分かるのだ。
目の前にいる妖狐は何の欺瞞の無い本物であると。
「何を望む…」
ギリッと奥歯を噛み締めながら問いかける。
「ん?」
彼女は聞こえてはいたが敢えて聞き取りづらいフリをした。
「こうして見せつけたと言う事は当主になる便宜でも図れというのだろうが」
彼も相手の要求は分かっている。
この偉業があれば表面上は何も言えない。
「あーまぁそうですね。最初はそうするつもりでした」
しかしもう当主に興味が無いとでも言うような態度を取る。
「何だと?」
「仮に現当主が認めても周りが黙ってないでしょう。それでは今と変わらない、それどころか邪魔をされ足を引っ張られて私を取り巻く環境は悪化するでしょう」
仮に当主になったとしても周りは誰一人として彼女を認めないだろう。
それどころか邪魔すらされる可能性が高い。
摂政のようにあれこれ裏から支配しようとする可能性もある。
「矮小な男」
美月はボソリと呟いた。否、敢えて聞こえるようなボリュームで話したのだ。
「何だと?」
「矮小と言った、その耳は飾りか?」
美月は呆れたように手をしっしっと振ってうざったそうにしている。
「妖怪風情が…っ!美来!その妖怪を黙らせろ!!」
「おや?妖狐風情の戯言など受け流されてもよろしいのでは?それとも図星でしょうか?」
「貴様ァ…!」
当主はここで完全に頭に血が昇った。
そして椅子から立ち上がり魔術式を発動させてその手に光の剣を握る。
「断罪の剣っ!」
その剣は見た目のリーチは十センチだが、術式によって刃の届く距離を無限に伸ばせる。
しかもその架空の刃は質量を持たず、あらゆる障害物をすり抜け対象のみを切断貫通する。
しかも十センチの重さで一切の空気抵抗を受けない為、一キロだろうが千キロ先だろうが何の負担もなく相手を切り裂ける。
つまり剣という形を取っているが実態は手先を延長に放つレーザーのようなものだ。
「はぁ…」
美来はその短気さに呆れて溜息を吐いた。
相手の術式は知っている、その力によって紫苑家の当主の座を勝ち取った事を。
そして何の対策もせずに自分が対面するはずもないことも。
「がっ…?」
剣で二人の首を刎ねる寸前で手が止まってしまう。
(体が…動かん!?)
彼は自身のこの技に絶大な信頼を置いてきた。
なのに攻撃を当てる事が出来ない。その刃はあくまで攻撃の射程距離を拡張するもののため、刃を先の延長線上に対象がいないと当たらないのだ。
「おーおー、凄いのうこれは」
美月は着物の袖から袋を取り出した。
それは見た目は匂い袋だった。だが美来が持たせたものが匂いを楽しむそれであるはずがない。
「どうかされましたか?当主様?まさか先程の美月の無礼を不問にしていただけるのですか?」
美来はそんな訳はないと確信しつつも白々しくそう言った。
「ああ、私も頭に血が昇り過ぎた。すまない」
(口が勝手に!)
彼の体が自身の意思を無視して勝手に動き出す。既に術式を解いてしまっている。
「美月に持たせた袋の中身」
彼女はチラリと視線を向ける。
「あれは妖狐の体臭が持つ筋肉弛緩効果を強化する薬品です。結果として体の運動系統に電気信号や側頭葉といった記憶そのものに干渉できる劇薬になりました」
「何故お前は平然としてられる…」
平面上の距離なら彼女の方が近いはずでとっくにその臭いに犯されていなければおかしいのだ。
「美月は私に対して肉体的にも精神的にも危害を加えられない様に契約をしてますから。まぁ凄い臭いはしますけど」
彼女はニッコリと笑う。
それこそが殺すのをやめて美月を引き込もうとした理由だった。
「まさかあの時からここまで考えていたとはの。食えない女狐め」
美月は呆れたように言った。
相手を狐と例える皮肉な言い回し。しかし相手は気を悪くした様子は無い。
「それは最上級の褒め言葉として受け取っておくわ」
そんな軽口を叩きながらも美来は当主の前に何の警戒もせずに立つ。
「これは要求でも交渉でも、ましてや懇願でもない」
絶対零度の様な視線で相手を見つめる。
「私に従え」
◎
紫苑家の本邸の大広間に多く人が集まっていた。
先日、突然当主が後継者を指名する為に集まる様に言ったのだ。
当然、次期当主候補達やそれを応援する人間など、とにかく紫苑家に関わる人たちが一同に集結していた。
「あいつはいないのか」
一人がポツリと呟いた。
誰もが紫苑美来がここにいない事に違和感を覚える。
彼女を応援するものは皆無でいくら本人が力を示しなりたいと騒ぎ立てても無理だと軽く見ていたが、この会合にすらいないのはおかしい。
「当主様がおなーりー」
使用人の一人が部屋の襖を開けて当主を迎え入れる。
しかしそこから出てきたのは男性ではなく白衣を纏った普段着の美来だった。
当主が座るために用意された座椅子に彼女はどかりと座った。
「やあ皆さん、私が先代から現当主に指名された紫苑美来です。これからよろしくね」
そしてニッコリと手を振りながらそう宣言した。
その宣言に会場は一気にざわついた。
この会は間違いなく当主でなければ送ることの出来ない方法での伝達だった。
「いや、美来ちゃん悪ふざけは良くないよ」
男の一人がそう言って美来の前に立って諭すように言う。
相手のその態度が煩わしいのか懐から一枚の紙を取り出す。
「ほら」
「これは?」
ずいっと紙を押し付けられて不審に思う。
「私が当主に指名された事を書面としてまとめたもの」
「何だって?」
彼は慌てて紙に目を通す。
そこには自身は隠居する事と「紫苑美来」を次期当主に指名した事が書かれている。
その筆跡はしっかりとしたもので脅された形跡は見られず、刻印が刻まれており間違いなく紫苑家当主が書いたものだとわかる。
そもそも美来の力ではあの当主の術式に勝てるはずがないのだ。
「今から私に対して歯向かうものは紫苑家に対して敵対するものとします」
その宣言に再びざわつく。
「ふざけるな!」
一人の男が立ち上がり異を唱えた。
「お前が当主だと!?そんな訳ないだろ!」
その言葉を皮切りに会場にいたもの達が一斉に反論を始めた。
「ふむ、こうなるのは分かっていた。なら元当主様に説明していただきましょう」
その言葉と共に一人の男が入ってくる。
「当主…さま?」
だがその姿に誰もが絶句した。
男の目は焦点が明らかにあっておらず普通ではなかった。まるで骨の髄までしゃぶり尽くされたような。
「ねぇ、次の当主は誰にするの?」
「美来こそ相応しい…」
「ありがとう」
美来は平然とやり取りを交わしていた。
「というわけで今日から私が当主です。こうなりたくないなら私に従うように」
もはや隠す気もなく言い放つ。
そう言われても誰も納得するはずがない。
「反逆者め」
当主候補だった男の一人が立ち上がり全身に雷を纏い飛び込んでくる。
彼女は立ち上がる事なく相手を見ていた。
「勇気があると言いたいけど、そういうのは勇ましいではなくて無謀と言うんだ。美月!」
「ガッ!?」
男は突如現れた妖狐によって蹴りを入れられて吹き飛ばされる。
「我が主に仇なすものは許さん」
美月はふわりと美来の前に立つと凄味のある笑みで宣言した。
その威圧感に誰もその場から動けない。
「紹介が遅れました。彼女は美月、かつて『玉藻前』と呼ばれた妖怪です」
やっとここに居る皆が美来の強気な理由に気がついた。
そして当主だった男の惨状の理由も。
「おや、それでも皆さん納得がいかない様子」
当たり前だがこの場を凌いでから何か対策を練ろうと考えるもの、一旦彼女に取り入ってから寝首をかこうとする者。
素直に従おうとする人はいなかった。
「それは仕方ありません。心は痛みますが私に従いたいと思って貰います」
その宣言と同時に部屋の四方から小さな爆竹レベルの爆発が起きて煙が室内に充満する。
皆が何だ!何が起きた!と各々叫んでいたが一人、また一人と倒れていき、十秒程で全員が床の畳に倒れてしまう。
「もう終わりか?この程度で魔術の名家を名乗るとはの」
「馬鹿正直なんだよ、頭も硬いし。私が呼ばれた側ならまず当主に秘密裏に接触して罠の可能性を潰すよ。まぁこれじゃあ近いうちにこの家は潰れただろうね」
二人だけは平然と立っていた。
「それに終わりじゃないよ、ここから始める」
しかしギラリとした欲望を美来の瞳は激らせていた。
これでは遊ぶ暇も無さそうだなと美月は呆れてしまう。
◎
一人の女性講師が黒板に板書をしながら授業を行っている。
「こうして魔術界を一つに平定した『紫苑美来』は男女も身分も関係なく素質さえあれば魔術を学べる制度と機関を作り。この日本を現代まで続く魔術国家にしました」
紫苑美来の死後から既に百年以上の月日が経っていた。
彼女も生前は魔術界最大の犯罪者と罵られていた。
しかし死んでから十年、五十年、百年と経つにつれて彼女の作った制度や政策が身を結び評価されるようになっていた。
そして科学と魔術を組み合わせた「魔導術」を世に広めてより多くの人の門戸と可能性を広めた。
「ねーせんせー」
生徒の一人が手を挙げて質問をする。
当然生徒の好奇心を無碍にはしない。
「はい何でしょう?」
「美来さまってどんな人?」
そう問われた女はニコリと微笑みながら答えた。
「ええ、強くズル賢くて、そして食えない女狐だった」