三月お別れの季節なので、さねぎゆの別れ話を書きました。タイトル通り『うな重食べて共寝して朝起きたら不死川が居なくなっていた。俺が凪いだら風は止まるんじゃなかったのか?…実弥…(さねぎゆ、ぎゆさね)』なお話。少し悲恋風味なので、悲恋苦手な御方は閲覧注意です⚠一応、濡れ場がヌルいけども有ります。さねぎゆ、ぎゆさね両方です。リバーシブルな感じですね。鰻屋の二階で致しております。リバ苦手な御方も閲覧注意です⚠そしてほんのりと前作『節分と豆まきと鮭大根と実弥と義勇の誕生日を祝う(ぎゆさね。でもあったとはな尊い鱗滝左近次は心の底からそう思う)』から地続きのお話ですが、特に前作を読んで無くとも読めると思うので短編で投稿させていただいております。気になる御方は前作もどうぞ御覧下さいませ。一応R−18のBL作品なので苦手な御方は御注意下さい⚠キャラ崩壊苦手な御方も閲覧注意です⚠尚、この作品は散りゆく桜のように遠い未来まで何でも許せる御方向けの作品です。
…蟄虫啓戸…啓蟄の候……北風から南風へ変わり。
…虫や生き物だけでなく草木も芽吹くー春の息吹ーが感じられる今日、此の頃に…。
俺と不死川は鱗滝師匠の御使いで狭霧山から下山し田圃のある田舎道を進み繁華街へと来ていた。
大きく立派な薬問屋で鱗滝師匠より承った和紙に師匠の達筆な文字にて綴られし呪文の様な名称の生薬を入手してゆく「龍骨…龍脳…鹿角霜…此れで全部だな…」入念に生薬の名称を確認し俺が言えば側で見守って居た不死川が言う。
「…なんつーか…呪文みてェな名前だなァ…あの良く利く軟膏でも作んのかねェ…!?」……と。
会計を無事に済ませた俺は不思議そうに生薬を大きな瞳で見詰める不死川に答えて言う。
「此の生薬の種類からして何時もの軟膏では無く…たぶん…喉の薬か、後は柴胡加竜骨牡蛎湯かもしくわ桂枝加竜骨牡蛎湯…辺りをお作りになるのではなかろうか… 」
「……ぉお。テメェが何を言ってんのか俺には良くわかんねぇが、アレだな。呼吸の型の名前みてェだなァ……」不死川が何だか睡そうに大きな瞳をシパシパと屡叩かせて言った。不死川が大きな瞳をシパシパと屡叩かせる度に長い睫毛が揺れる。
「ん?……なんだァ?俺の顔に何かついてンのかァ?」
不意に不死川の大きな瞳と視線が搗ち合い。
「……冨岡ァ?ぉ〜〜ぃ?大丈夫かぁ!?」不死川が俺の眼の前で指の欠けた右手をヒラヒラと振る。
「…はっ。すまない。不死川の睫毛に見惚れていた…」
我に帰って俺が言えば不死川は「ッたく!!テメェは、何言ってんだか!?」と呆れて笑い不意に俺の眼の前でヒラヒラと振っていた指の欠けた右手で優しく俺の目元に触れて言う。
「…テメェの睫毛の方が綺麗だと思ぅがなぁ…」
コツンと額を合わせれば睫毛が互いに触れ合う程の。
互いの鼻先が互いに触れ合う程の。
互いの吐息を互いに甘く感じ合える程の。
互いの口唇が互いに触れ合いそうな程の。
そんな至近距離で不死川の色気のある声が戦ぐ……。
「…なんつーか…伏し目がちで、色っぽぃ…」……と。
不意に実弥の気配が戦ぎ俺の口唇に熱風の如き接吻を贈る。余りの心地好さに危うく絆されそうになったが此処は往来俺は何とか思い止まりボソボソと「…往来だぞ…」と小声で実弥に言う。思えば此の瞬間だったのだろうか?
「…そぅだな…悪ィ……」
…実弥は、思いの外…繊細で傷付き易い……。
平気そうな風を装ってはいたが酷く傷付いた表情をしていた。気づいていたのに上手く言葉に出来なかった……。
「…野郎同士だと…悪目立ちするよなぁ……」
何時に無く不死川の声が微かに揺らぎ戦いでいたのを覚えている。大正の世は西洋文化の流入により江戸幕末より続いてきた男色の文化が風化していると…鱗滝師匠が、仰っていた…。
「…冨岡…やっぱり…テメェは…」
……不死川は、俺に何かを伝えようとして、それきり口を小さく噤み…結局…何も言わなかった……。
……俺も結局…不死川が何を伝えようとしていたのか…其先の言葉を訊く事が出来なかった……。
或いは其先の言葉を訊くのが恐かったのかも知れない。
…口を噤んだ儘に鱗滝師匠に頼まれた生薬を片腕に抱え繁華街の往来を二人で並んで歩く…。
…口を噤んだ儘に隣を歩く不死川を横目に盗み見れば、思いの外に長く繊細に揺れる睫毛が傷痕の走る色素の薄い頬に深い陰影を落としていた…。
…無性に不死川の傷痕だらけの手を握りたい…手を取らなければならないような…そんな衝動に駆られたが、遺された片腕は荷物で塞がっていて、俺は、結局…不死川の傷痕だらけの手を握る事は出来なかった……。
……此の時に不死川の手を取り握っていたら。
……少なからず俺達の未来は変わっていただろうか?
……俺には、わからない……。
……わからなかった。……何故?
……実弥は俺の前から去って行ってしまったのか。
……実弥の気持ちは……実弥にしかわからない。
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春に二人で、うな重を食べた。あの思い出の鰻屋の二階で、実弥は、俺を求めた。何時もの様に優しく。けれど何処か性急に烈しく熱く。俺の心と躰を求めた。俺は、応えた。熱い呼吸の中で、烈しく脈打つ胸の高鳴りの中で、実弥の指の欠けた傷痕だらけの手を握り本数の足らない指に己の遺された左腕の少しは器用になってきた左手の指を優しく絡めて、傷痕の走る色素の薄い甘い香りのする頬に己の頬を擦り寄せて互いの鼻先が至近距離で心地好く触れ合い……軈て口唇が重なり合う。
優しく甘くけれども熱く烈しく深く深く接吻を幾度も幾度も贈りあえば、口の端から互いの吐息を繋ぐ透明な糸だけが、俺と実弥を繋いでいた。
……もっと欲しい。……もっと。
……もっと。……実弥がっ、
「…実弥が、欲しい…」
……喉の奥から胸の奥から溢れた想い。
「…俺も…テメェが、欲しぃ…義勇…」
……指の揃った傷痕だらけの左手で、実弥が俺の開けた着物の帯を解く。何時の間にか日は落ちて夕暮れに焼ける空の色が、円窓に差し込み実弥のあまり日を通さない黒い双眸を小豆鼠の色味に染め上げてゆく様が、とても艶やかで綺麗だったのを憶えている。
「…っ、あっ…さね…みっ…」
実弥の昂りを其の身に迎え入れれば躰の奥が灼ける様に熱く。実弥が腰を穿つ度に彈ける快感に躰が心が奮える。
ーー仄かに鰻が焼ける芳ばしい匂いがする……。
ーーもう直ぐに鰻が焼き上がるのだろう……。
ーーもう少しだけ…此の儘…実弥に抱かれていたい。
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ーーチュン、チュン、と。小鳥が朝の訪れを告げる。
あの後、鰻が焼き上がり。俺達は乱れた着物を慌てて正し、春に二人でうな重を食べたあの時の様に共に肩を並べうな重を食べた。俺は、あの頃より少し器用になった左手で箸を持ち。もうポロポロとうな重の鰻の蒲焼きが落ちる事も無く綺麗に食べられる様になっていた。
「…左手器用になったよなァ…冨岡」うな重を食べ終えた不死川が頬杖付いて俺を見て言う「前に一緒に食いに行った時はポロポロ零してたってのに」と。
「…あの時…俺の口を不死川は拭ってくれたな」懐かしくなって不死川に言えば、不死川は何だか少し淋しげな声で独り言の様に「…もうすぐ…一年経つな…テメェと恋仲になって…義勇」と小さく囁いた。
「…そうだな…実弥」気恥ずかしくて言葉少なに返したら実弥が切なげに目を細めて微笑って言った。
小さく掠れて揺れる儚げな風が吹く様な声で「…義勇…お前と一緒に居られて良かったーありがとうー」と。
ーーとても真っ直ぐに俺を見て言ったんだ。
余りにも真っ直ぐな眼差しの其の瞳の奥から綺羅綺羅と光風の様に光り輝く涙が止め処無く不死川の大きな目を縁取る長く繊細な睫毛に燦めいては戦ぎ、軈て、其の傷痕だらけの色素の薄い頬をポロポロと流れ落ちる。
「ー実弥ー」俺は遺された左腕で実弥を抱き締めた。
ーー其処から先は、連れ込み宿では無いが、元々、藤の家紋の家の流れを汲む鰻屋の御亭主の御厚意で、其の儘、俺達は鰻屋の二階に泊まってゆく事になり。
ーー……今度は、俺が実弥を抱いた……。
ーー……搖れる躰。ーー……揺れる心。
ーー……濡れる瞳に。
ーー……口唇の端から溢れる想い。
ーーとっくに日は沈み円窓に差し込むは弥生の月か。
柔らかな月明かりの中でーー、
「ぎゆっ…もぅっ…ッッッ!!」
実弥の躰の柔らかな処を穿てば、実弥は靭やかな躰を弓形に反らし烈しく奮えながら俺の背に爪を立て風に吹かれてしまいそうな儚かな声を強く噛み締め殺した口唇から堪えきれずに吐精と共に吐露してくれた……。
「…義勇ー愛してるー…」
吐息混じりの少し掠れた甘い実弥の声が、熱風の様な吐息に乗り俺の鼓膜の奥深くに優しく戦いだ……。
……其れが、実弥が俺に遺した最後の言葉だった。
そしてーーチュン、チュン、と。
小鳥が朝の訪れを告げる鳴き声が耳に届き。
……目を覚ませば、実弥の腕の中で寝ていた筈なのに。
……実弥の姿は、何処にも無かった。
「…実弥…」乱れた布団から身を起こし実弥を呼ぶが、何処にも見当たらない。何処へ行ってしまったのか。
うな重食べて共寝して朝起きたら不死川が居なくなっていた。ふと卓袱台の上に何やら書き置きが残されているのが目に留まり。其の置き手紙を手に取り目を通す。
其処には『ありがとうーさようならー』随分と上手になった実弥の筆跡で…そう…書かれていた。白い紙に微かに滲むのは、涙の跡だろうか。…実弥…泣いているのか。
……ぽた。ぽた。……と。
涙が零れ実弥の涙の跡を俺の涙が濡らしていった。
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あれから俺は、不死川を追って旅に出た……。
ーー風が吹いてゆく様に、ーー水が流れてゆく様に、何処かへ行ってしまった実弥を探し求めて、旅に出た。
春風駘蕩たる花信風が水風となり川の水面を優しく吹き抜けて、俺の頬に触れ暖かく撫ぜてゆくーー。
風が吹く度にーー、実弥を感じているーー。
…あれは…確か一年程前のことかーー。
……二人で花見をした時の縁台に独りきりで座り。
……爽々と風に揺れる桜を眺める。
桜の花弁を運ぶ花風は不死川の様で……、
「…風は、何処へゆくのだろう…」
あの時の様に溢した言葉に心が痛んだ……。
『…安心しなァ…テメェが、凪いだら風は止まる……もぅ暫く…此処に居るょ…』と不死川は、あの時…俺の心痛に聡く気付いて…小さく…そう言ったのだ。確かにそう言ったのだ。
……そう、言ってくれたではないかっ。
……なのに……何故?……何故?
……何故、俺の前から居なくなった?
……どうして?
……どうしてっ、俺の傍に居てくれない?
「俺が凪いだら風は止まるんじゃなかったのか?」
……止め処無く涙が流ては落ちてゆく。
……悲しい。……寂しい。……恋しい。……愛しい。
「…実弥…」ーーもう一度、実弥に逢いたいっ……。
ーー俺は、そう幾度も願ったが、これっきり。ついぞ。
ーー再び実弥に相見える事は叶わなかった……。
……優しい風だけが俺の涙を拭い吹き抜けていた。
弥生に吹く風に実弥への想いを乗せ天を仰げば、溢れ出す涙の粒と羊雲を旋風となった烈しい風が凛と澄む青い空へと運びゆく。光る白い月が、滲む視界に静かに浮かび揺れていた。瞳を閉じれば心に実弥が焼き付いて離れない。鼓膜の奥に熱風の様な実弥の吐息と声が『…義勇ー愛してるー…』最後に紡いでくれた愛の言葉が優しく消えることのない残響となり戦いでいる。仄かに薫る甘い実弥の匂いを鼻腔の奥に憶えている。何一つ忘れられるわけが無い。
風が吹く度にーー、実弥を感じているーー。
実弥が傍に居てくれている。そんな夢をみている。
実弥は何処かで俺を感じてくれているだろうか?
流れゆく季節の中で、もう一度。
ーー幾星霜。ーー幾星霜。巡る輪廻の中で、もう一度。
ーー俺は、実弥に逢いたいーー
春へと続いてゆく桜の蕾が花咲く瞬間の喜びを。
ーーまた二人で分かち合えたなら。
ーーまた二人で咲い合えるのなら。
ーーただ。きっと。それだけで幸福だ。
ーーずっと。ずっと。此の先の未来でも良い。
ーー隣で、ただ。そっと咲っていて。欲しい。
ーー願わくば、今世も来世も、ずっと。ずっと。
「ー実弥が幸福であるようにー」俺は同じ空の下にいるであろう実弥を想い仰いだ天にそっと祈った。
ーー凪いでも止まらぬ風を想ってーー
ーー水面を撫でる水風に想いを馳せてーー
『うな重食べて共寝して朝起きたら不死川が居なくなっていた。俺が凪いだら風は止まるんじゃなかったのか?…実弥…(さねぎゆ、ぎゆさね)』ありがとうーさようならー