最強ベーゼのやりなおし〜わたしは闇堕ちを許さない!〜 作:蒼依スピカ
始業ベルが鳴っても担任はいまだ来ず、教室はちょっとした雑談時間になっていた。
「はあぁぁぁ~~~……」
そんな中、うてなは自分の机に突っ伏し、深いため息をついていた。
(キウィちゃんにはエッチなことは控えようとか言ったのに、自分から誘っちゃうなんて……)
キウィをイカせて、自分もイカされて、それで終了——なら遅刻はしなかった。
しかし、うてなは自分からお尻を広げてキウィを誘惑し、ベルが鳴ってもプレイを楽しんでいたのだ。
(替えのショーツも早速一枚使っちゃったし、放課後まで持つのかな〜……)
うてなは体操着袋の底に替えのショーツを五枚入れていきていた。
自分が濡れやすくなっている自覚があり、学校が魔の巣窟——否、天国だとわかりきっていたから。
「大丈夫、うてなちゃん?」
「んん~~~……」
突っ伏したまま隣の席を見ると、花菱はるかが心配そうにこちらを見つめており、その隣からは水神小夜もうてなを心配そうに見ていた。さらにその奥では、天川薫子がつまらなさそうに肘を付き、前をボーッと眺めている。
当時のうてなから見たら「仲の良い友人」でも、今のうてなから見たら「変身前のトレスマジア」なのだ。ハッキリ言って目の毒以外の何ものでもなかった。
「良い——(じゅる……)」
「え、なにが?」
「あっ、ごめん、なんでもないよ!」
バッと顔を上げ、よだれをごしごし拭く。
(こんな幸せ空間にずっといたのに気付かなかったなんて、勿体ない青春だったんだな~……でも——)
変身後の姿が今の普通の姿とボヤ~と重なり、凜々しい姿のトレスマジアの輪郭がぼやける。
(あぁぁぁ……記憶喪失になりたいぃぃ……。だから正体バレは絶対のタブーなんだよぉ……)
三人から視線を外して完全に突っ伏し、シクシクと泣き始める。
「うてなちゃん!?」
「ぐすっ、大丈夫、大丈夫だから、今はそっとしておいて下さい……シクシク……」
「辛いことがあったらなんでも相談してね。いつでも力になるから!」
「うん、ありがとう、はるかちゃん……シクシク……」
いかにもマゼンタらしい言葉を掛けられたうてなはさらに落ち込み、担任が来るまで泣き続けるのだった……。
***
「はーい、みなさん席に着いてくださーい」
始業ベルが鳴って十五分後、ようやく担任が姿を見せる。
転校生である阿良河キウィは廊下で待機中だが、扉の隙間からうてなに向かって手を振っていた。
そして朝礼が終わると、担任が転校生の存在を告げる。
「阿良河さん、入ってきてください」
「は~い」
教室から黄色い歓声が上がる。
控えめに言ってキウィはかなり可愛い部類であり、ギャルっぽい雰囲気と色気のある仕草が一部の女子に刺さったのだ。
そしてさらに、校門前でうてなとのディープキス現場を目撃していた女子からは、ピンク色の視線も向けられていた。
「それじゃ阿良河さん、自己紹介を——」
「うってなちゃーーーん!!」
自己紹介そっちのけで、窓際最後尾のうてなに向かってダッシュ飛び込みをかます。
うてなはキウィに抱きつかれたまま椅子ごと倒れ込み、頬と頬を合わせてぐりぐりされる。
「寂しかったよ~、うてなちゃん! ちゅ、ちゅう~~~♡」
「ちょ、キウィちゃん、ついさっき会話したばかりだし、人前ではダメって——」
「あ、そうだったねぇ~。嬉しすぎてついつい~」
「もう……。ほら、先生もみんなも困ってるから、前に戻って自己紹介して」
事情をよく知らない担任や女子は呆気にとられ、二人の関係を知る女子は赤面していた。
キウィはパンパンと制服を整えると教壇の横に戻り、自己紹介をする。
「阿良河キウィで~す。大好きなものはうてなちゃん、大好物なのもうてなちゃん、趣味はうてなちゃんと一緒にいること~」
「「「 …… 」」」
「そして嫌いなものは~~~……」
「「「 (ごくり) 」」」
教室に謎の緊張が走る。
「大っ嫌いなのは~……魔法少女で~す」
「「「 え? 」」」
「ぶっ!」
うてなは吹き出し、教室からは戸惑いの声が上がった。
「以上で~す」
「……あ、それじゃあ、阿良河さんの席はあそこ——」
担任はすでに用意されていた空席——うてなの前の席を指すが、キウィはそれを無視してうてなの隣の席に移動し、座っている花菱はるかを見下ろす。
「うてなちゃんの隣はアタシの指定席だから替わって~」
「え? え? え?」
動揺するはるかの手を無理矢理引いて席からどかすと、そこに当たり前のように腰をおろす。
「ほい、アンタの鞄。あ、これからよろしくね~、うてなちゃ〜ん♡」
はるかへの対応と180度様子が豹変するキウィには、怖すぎて異論の声は上がらなかった。ただ一人、うてなを除いて。
「キウィちゃん、ちゃんと席は決まってたんだから、そんなわがままは——ん?」
「どうしたの~、うてなちゃん?」
うてなはキウィの隣に見える水神小夜と、その先に見える天川薫子を見て違和感を覚える。
(さっきまではトレスマジアとぼんやり重なっていたのに、今は……そうでもない?)
花菱はるか、水神小夜、天川薫子が一緒に視界に入ったときは三人が「トレスマジア」に見えていたのだ。
(そうか! トレスマジアは「チーム」の魔法少女! 三人でトレスマジアなんだから一人欠ければチームじゃなくなる!)
そう、花菱はるかが視界から消えたことで、うてなが無意識に「トレスマジア」と変換していた脳のロジックに乱れが生じたのだ。
「すごいよキウィちゃん! これは世紀の大発見だよ!」
思わず立ち上がってキウィの手を取り、ぶんぶん振る。
「これで少しは救われたよ! ありがとう!」
「う、んん~~~……?」
今度はうてなの豹変ぶりに対して教室が静まりかえる。
普段は口数が少なく、どちらかというと「陰キャ」に属していた少女がいきなり陽キャのように振る舞っているのだ。クラスメイトからしてみれば、それは驚天動地の異常事態だった。
「んんっ!! 柊さん、ホームルーム中ですよ」
「あ、ご、ごめんなさい……」
担任に注意されたことで「いつものうてな」に早変わりし、スッと席に着く。
「えー、色々ありましたが、みなさん、阿良河さんと仲良くしてあげてくださいね」
「「「 はーい 」」」
こうして、前の世界では他のクラスだった阿良河キウィは、この世界ではうてなと同じクラスになり、あまつさえ隣の席になったのだった。