その中において一際賑う、一つの牢。そこは鎧羅族の少女、水嶺のシズクが囚われた牢屋だった。
代わる代わるに訪れる、皇魔族たちの無慈悲な凌辱。ついに夜が更け、彼女を犯す皇魔族たちが去っていった後、一人の皇魔族が静かに牢を訪れる。その男は、他の皇魔族たちとは明らかに違っていた。
絶望、羞恥、そして芽生える依存。シズクは延々犯され、戦士としての誇りも、故郷を想う気持ちさえも徐々に溶かされていく。
光の戦士は敗北した。それはすなわち、魔王マステリオンの復活を意味する。大地は紅く血に染まり、太陽は闇に覆われる――――伝承によれば、そうなると言われている。
まあ、そんな大それた話には興味がない。自分のような低級魔族が心を惹かれるのは、その場の糧と退屈しのぎくらいのものだ。
そう、退屈しのぎ。ここで重要になるのは、敗北した光の戦士たちは虜囚となり、大魔界に繋がる塔の地下牢で尋問と称する宴の糧にされていることだ。
「地上界の情報を聞き出せ、手段は任せる」
つまり、「好きにしろ」という合図。自分を含む下級皇魔は、喜んで光の戦士と名乗る子供たちに退屈しのぎを始めた。
鞭打つ者、殴る蹴る者、魔術でいたぶる者――――やり方は千差万別だったが、結果は変わらない。民の希望を一身に背負っていた四人の戦士はみな泣き叫び、深く慟哭する。
その中で、一際賑わったのは一人の少女が収監された檻だった。
水嶺のシズク。噂によると、光の戦士の末席に加えられた十代の少女だという。鎧羅族だか何かの血を引いているらしいが、まだ産毛もロクに生えていない幼体で、だからこそ多くの皇魔からターゲットにされてしまった。何時間も何日も、代わる代わるに牢の中へ入り浸られ、昼も夜も無く哀れな声を響かせている。
「……また始まったか」
廊下に響く絶叫。鉄を引き裂いたような金切り声と、果てしなく繰り返される「ごめんなさい」という呟き。ひっきりなしに交わされる卑猥な言葉の掛け合いの中、俺は廊下の壁に寄りかかり、静かに時を計っている。その喧騒が終わるのは、いつも決まって夜中の二刻過ぎだ。全員が疲れ果て、満足しては出て行くと――――部屋に残るのはただひとり。
深夜三刻をきっかりにして、自分は鍵束を取り出して牢の錠前を外す。松明一本で照らされた部屋は引き裂かれた布切れが散乱し、泥のような残滓が潰れた芋虫のようにこびりついた不潔な空間だ。その中央には同じく、汚れた蝋人形のように横たわる小さな肢体の姿もある。
「生きているかい? シズクちゃん」
呼びかけに対し返事はないが、消えかけの呼吸音はその問いに対する返答となっている――――生きているという事は、利用価値があるという事だ。
「今日も沢山酷い目に遭わされたみたいだね…………大丈夫?」
腰に吊るした布を引き取り、力の抜けた背中を支えながら、手のひらで後頭部を支えるようにしてゆっくりと少女を抱き起こす。
「ひ…………」
可哀想に、明らかに俺への恐怖でカタカタ震えている。まるで首根っこを捕まえられた野ウサギだ。
松明の灯りに照らされているのは、海と森が混ざり合ったような緑の髪。視線を下へ向けると、先の痕跡を示す小さな擦り傷も幾つか散見される。
しかしそれ以上に酷かったのは、その肌を覆っている大量の汚濁だ。白く濁った体液は乾燥し始めているが、まだ湿りを帯びている部分も多い。髪先から垂れ落ちる滴、谷間にこびりついた粘着質の塊、全身にまとわりついている精液と白い糸は――――百匹もの蜘蛛が彼女の上に糸を吐きかけて、複雑に入り組んだ巣を作ってしまったかのようだった。
「かわいそうに…………よく我慢したね、偉いよ。すぐ綺麗にしてあげるから」
温水を浸み込ませた布を肌に触れさせた瞬間、皮膜がぴくんと小さく痙攣する。まるで傷口に塩を塗られたような仕草だが、所構わず作業を続けた。これはそういう『優しさ』なのだ。
肩から腕へ、次いで腕を引き上げて腋の下へ――――汚れを丁寧に拭い取りながら、彼女の身体を慰めるように清めていく。
「痛かったら言ってね」
俺は彼女を助けたいわけではない、逆だ。弱った彼女を介抱し、自分用に調教してしまいたいのだ。無慈悲に叩き潰すより、薄皮を剥ぐように弄ぶほうが遥かに面白いと俺は思う。あらゆるものが摩耗して、今や誰にでも捩じ伏せられるであろうこの娘を、時間をかけて解きほぐす。他者の尊厳を自らの手で磨耗させる醍醐味は、段階を踏む事によってこそ味わえるものだ。
「やめてえ…………」
一旦手を止め、シズクの頬を両手で包むようにして上を向かせる。珊瑚色の大きな瞳が潤んでいて、今にもポロポロ泣き出しそうだ。とても可愛らしい。
しかしそんな風に、誰の助けも呼べない場所で慈悲を乞うような眼差しを向けてはいけない。それは魔族にとって救いを求める合図などにはならず、愛撫を加速させるだけの誘いに他ならないのだから。
「さあ、今日も二人で愛し合おっか。おいで」
恋人をベッドへ誘う男のように俺は言う。泥にまみれた姫を救い出すみたいに、シズクの身体を抱え上げ、粗末なベッドの上へとそのまま寝かせる。涙の雨が過ぎ去ったその顔は、恐らく今日だけで何回もの絶望を迎えているのだろう。それを知っていながら、俺は上からそっと覆い被さるようにして彼女の顔を正面から見据える。
光の戦士でありながら、敵の奸計に落ちて日夜拷問される地獄。そして日が落ち、ようやく落ち着いたかと思えば、最後に残っているのがこの俺という訳だ。まあしかし、先の連中が行った事と比べれば、俺のする事は幾分『マシ』であると言えるだろう。
「俺は、優しくしてあげるから」
――――――――その、言葉通りの意味で。
…………ちゅう……ちゅく……ちゅっ……ちゅ……。
時が経ち、深夜三刻を回った地下への階段に、微かな水音と吐息が漂う。彼女の小さな喘ぎ声は、まるで井戸の底から立ち昇る水の呼吸音のように不規則的で、しかし途切れる事を知らない。他の皇魔共が鼾をかいて眠りにつく中、彼女を閉じ込めている石室は、淫靡な花園へと姿を変える。
「ふっ……うぅ……んぅ……」
互いの唾液を混ぜ合う接吻を、儀式さながらに長く行った。角度を変えて何度も何度も舌を入れ替え、喉の奥まで舌が伸び進むぐらいに深く舐める。勢い余ってそのまま窒息させてしまえそうな程に、シズクの息は浅く微かだ。
だから敢えて少ない空気を渡し、彼女を苦しみの中へと落とす。そうすれば尚のこと、自分の舌を吸い出す動きが切なくって可愛らしい。
「や……へぇ……はへっ……っ……」
その掠れた声の愛らしさといったら無い。だが休ませるつもりも毛頭無い。胸を押し除けようと力無く曲がる肘は、風の戯れと見紛う程度だ。だから自分も、その柔らかな肢体に自らの体躯を重ねて、ゆったりと圧し掛かる。
「んうぅ…………」
頃合いだ。腰を引き寄せながら、未だ熱を持った秘所に指を忍ばせる。先の皇魔共に散々使われたそこは、真珠をまぶしたような白い膿と粘液の混ざった泥沼と化している事だろう。
「あぶっ……うあっ……はっ……」
唇を離す。蛇のように抜け出した己の舌は、それまでの接吻が何処と繋がっていたかを示すように糸を引く。その軌跡の先にあるのは――――彼女の顔だ。先ほどまで交わされていた深い口づけの余韻を纏い、彼女の顔は踏み荒らされた水たまりのように混沌としている。ぐちゃぐちゃだ。
「いいね。じゃあおまんこの方も、お顔と同じくらいぐちゃぐちゃにしよっか❤️」
「やっ、やあっ。もういらないっ……やああ……っ」
何十回と重ねてきた行為の中で、彼女のウィークポイントはすべて暗譜済みだ。こうした行為は侵攻や略奪の中でも当たり前に行われる。だが、どんな娘も扱い方ひとつで華になるものだ。
最初の方は彼女も必死に歯を食いしばっていたが、今では多少の抵抗を演じながらも、最終的には受け入れるようになっている。それもこれも、毎晩のように繰り返された飴と鞭の成果だと言えよう。動物としての生体機能が、そうせざるを得ないのだ。
「お腹の力を抜いて…………シズクちゃんはこれから鳥になるんだよ」
指先は既に十分すぎるほど中へ馴染んでいる。しかしこれからの行為に至るには、こうした準備が必要不可欠なのだ。
焦りは酒の品位を落とす。既に幾つもの口づけを終えた彼女は、他の魔族と同じように俺を受け入れるだろう。しかしそのボトルへ口を付けるにはもっと、もっと時間をかけて、熟成期間を経てからでも遅くはない。
くちゅ……ちゅく……ちゅく……くちゅ……ちゅく……ちゅく……。
「は……❤️ はっ……❤️ はあん……❤️」
彼女の心は、今も変わらずドス黒い血を流し続けている。先の皇魔どもが与えた痛みの痕跡は、彼女の心に大きな痕を貼り付けている。
そこにあるのは血の海だ。酒で言うなら渋みやえぐみ。しかしそこには萌芽がある。色のない蜜が、糸を引きながら彼女の内腿を伝っているように、ほんの僅かなものだが、俺の注ぎ込んだラベンダーが、ゆっくりと彼女の奥に溶け込んでいるのを感じる。
………………にゅ…………にゅぷっ。
「ふゃ……うっ❤️」
俺は――――小さな星に触れる。指先に触れる僅かな隆起。膣という夜空に浮かぶ星屑の中で、一点だけ輝く快楽の星だ。何度触れてもその星だけは決して埋もれず、彼女の中で艶めく一番星として俺を誘惑する。
「いい声……ふふ、いつもお潮たくさん吹いちゃう場所だもんね❤️」
星図を巡ると、そこだけが硬くなった古傷のように盛り上がっていて心地が良い。それは他人の傷口を愛でる行為に似ていて背徳的だ。
……ぐちゅ……ぐちゅ……ぐちゅ……ぐちゅ……。
「やめえ……❤️ やぁ……❤️ そこっ……そこぉおっ……❤️」
「しっかり、呼吸して」
指の動きを募らせながらそう囁くと、シズクの脚は蛇の舌みたいに二又へ分かれていく。抵抗なのか誘いなのか分からないポーズ。膝はがくがくと震え、歪み、一点を弄ぶ指の動きに合わせて、歪み、首を吊られた罪人のように宙へ浮かんで行く。
「ふやああぁぁ❤️ ……ひゃうぅっ……ダメェ……こんなのおかしいよぉ……こんなのってぇ……❤️」
舌を垂らし、薬物中毒者の如く口をパクつかせるシズクの姿は滑稽ですらあった。羞恥で焼け付きそうな顔と、肉欲に支配されている脳の暴走。彼女の内部で、制御不能なエクスタシーと混乱が同時に巻き起こっていることは明白だった。
もうすぐだ。もうすぐ彼女の心は炸裂する。心の奥に押し留めていた膿が張り裂け、それを必死に堪えていた少女の意思とは関係なく、血飛沫は撒き散らされる。
そうしてこれまでの記憶から、俺という器へのデキャンタージュを終え、彼女は生まれ変わるのだ。
「すごいよおぉ……❤️ すごひっ……すごいいぃぃ……っっ❤️」
「なにがすごいの?」
「わかんないいぃぃ……❤️ わかんな……っ❤️ わか……やあぁっ❤️ やぁぁあ……❤️ いく……いっちゃうぅぅ……❤️」
シズクは既に、その虜にある。
「じゃあ、わかるようになるまで一緒にお勉強会だね❤️」
グチュグチュグチュグチュグチュ。
歓喜の中で尿道が膨らむ。膀胱が緊張する度に、彼女の内部へ溜まっている血潮が出口を求めて圧力を増していくのがわかる。桜貝が花開く瞬間のように、その水門は噴出口を広げたまま鼓動を高鳴らせていた。
「飛んでおいで、さあ」
汗腺の奥に潜んでいた神経の糸が、グニという一つの指令によりすべて引き抜かれる。皮膚の表層へ湧き上がる鳥肌。一つの言葉が引き金となって、シズクの脚は宙を舞うみたいに投げ出される。
透明な雫が空気を切り裂く矢のごとく、弓を引いた腰から放射状に放たれた。それは明らかに、尿失禁とは異なるものだった。
ぷしゃっ――――――。
「はあああぁぁぁっ❤️! うああぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ❤️」
両手で胴体を支え、二肢を大胆に割った姿は人という字に似ていた。光を担う戦士としての役目も全う出来ず、彼女は全身で表現していた。「私は無様に敗北した娘です」と、そう身体で語れるくらいに、シズクは敗北の標本として完成していた。
なんて、可愛いんだろう。事実として絶頂を迎えたシズクの表情は、自分の審美感を激しく揺さぶるリアリズムを見せつけていた。年相応にぎゅっと瞑られた眼差し。頬を真っ赤に染めあげて、真珠を産むみたいに涙腺を壊した瞼からは大粒の涙が零れている。それは、生存本能が極限まで研ぎ澄まされた末の開花だ。
「これ以上ない、満点の顔だったよ❤️」
「はっ……はあっ……❤️」
その嘘偽りのない愛と共に、俺はシズクの身体を自らの腕の中へ招き入れる。濃密でコク深い絶頂の余韻は、今も見事に彼女のハートを射抜いていた。そんな虚脱状態で、まともに思考をとることが出来るだろうか――――――いいや、不可能だ。
「どうして他の奴らにはこれが分からないんだろうね」
「あ……ぁ……❤️」
だからこそ俺は問いを投げる。
「シズクちゃんはこんなに可愛いのに、どうして他のヤツらはシズクちゃんを虐めるのかな」
「わた……し」
その実、他の連中がどう動くかなどに興味はない。そんな哲学にはなんの意味も感じない。
「わかんない?」
故にそこは意義があるのだ。
「――――――いいんだよ」
考えることに、意味など無いんだということを刷り込む大きな意義が。
「いいんだよ、シズクちゃん。考えなくていいんだよ、そんなこと」
これはあくまで一幕。光の戦士が堕ちてゆくまでの一過程だ。幕が上がり、照明が当たったその瞬間から、彼女の身体は俺という観衆へ晒されることになっている。この問いは、所詮舞台上に咲いた花への手向けに過ぎない。
俺は彼女の頭と腰を、そうするべくして引き寄せる。歌劇の終幕で男女同士が吸い寄せられ、唇の温度が共有されるその瞬間みたいにして。
「……ごめん……なサいっ……わたしが……わたしが弱いから、みんな傷ついて……こんな……こんなことにっ……」
前線に出て旗を振るということは、その背後にある希望を一身に背負うという事だ。負ければ、積み重なったそのツケを支払うことになる。シズクは今、それを身体で支払っているのだ。
「空っぽになろう、シズクちゃん。君を苦しめるだけの記憶も、責務も、ぜんぶ水泡にして飛ばせばいい…………例えキミが何者になろうと、俺はそんなこと気にしないから」
言葉も、論理も後悔も、すべてはこれから重なり合う粘膜を通して、溶けて混ざって消えていく。彼女がすべきことは、自分を縛り付けている鎖を破り、目の前に差し出された闇の心地よさに身を委ねることだ。
俺はゆっくりと、一つのエンディングを迎えるように顔を寄せる。彼女を縛る光の世界は、このキスの行方次第で、永遠の彼方に消え去るのだろう。
「だから今は、二人で感じられるこの世界を――――いっしょに踊ろう」
――――――この日、シズクとまともな会話をしたのはこれが最後だろう。考えるほどに心は焼ける。ならば考える暇もないほどに、この瞬間へ溺れてしまえばいい。夢と現実の区別がつかない方が、時には幸福だ。
俺の知っている事実。光の戦士と呼ばれた少年少女の内、二人が既にハエの集り場となったこと。聖龍族の末裔、リュウガという少年と、獣牙族の末裔、タイガという少年だ。
これをシズクに伝える気はない。言えばどうなるかは明白だろう。瞳から輝きが失われていく光景が容易に思い浮かぶ。
それは雑念だ。汚泥にまみれた濁り水だ。仲間の生死も、守るべき故郷の命運も、いずれ訪れる運命も関係ない。この甘美なる暗闇の中で、まともでいる事すら悪い事かのように溺れてしまえば、理性の枷は溶けてなくなる。
「あはっ……はぁっ……はっ……❤️」
夜半の静寂を破るのは、汗にまみれた二つの肉体が奏でる熱。月明かりすらもこの淀みを晴らすことはできないだろう。蒸気と噎せ返るような獣臭が渦巻く中、シズクは俺の上に跨る。正確に言えば、俺の腰を跨いで座る形になっている。俺の身体は椅子、シズクという小さな赤子の揺り籠だ。
ぎしっ……ぎしっ……ぎっ……ぎっ……。
「どうしたのシズクちゃん……そんな大胆になっちゃって❤️」
「イ……いひっ……❤️ これイひっ……❤️ しゅごいぃ❤️」
律動というには拙い、快楽を求める本能だけが脊椎を揺らす淫らな舞。心臓の位置にかかる吐息は甘く濁り、シズクは完全に溺れている。その視界はきっと虹に覆われているのだろう。
膝が何度も床を蹴り、へその輪郭が伸び縮みしてはまた沈む。敵である筈の俺に急所を捧げ、貪欲に快楽を求め続ける姿に――――戦士としての面影は最早欠片も無い。
「エッチだなあシズクちゃん、もうベロチューしながら水分補給もしちゃおっか❤️」
「うん……うんっ……❤️」
「ふふっ、素直になったね❤️」
二人でエチュードを奏でながら、俺は床に転がしていた携帯用の水筒を手に取り、親指で栓を弾き飛ばして水を一口含む。渇きの余韻が喉で燻るうちに、俺は身を乗り出して、彼女の腹を潤してやらんと唇を塞いだ。
「んうんっ❤️」
ずるるっ……こく……こく……こくっ……。
一つの舌が架け橋となり、二つの唇は流れる水の堤防となる。飢餓と渇きを織り成す焦燥が、シズクの内側を焼き尽くさんとしていたのだろう。彼女の喉が素早く上下するのを、俺は間近で感じていた。
歯と歯の間をこぼれる水は少しずつ減っていき、溢れ出た雫が顎先や頬へと伝って、朱色に染まった彼女の肌をしとどに濡らす。後頭部を支えるように右手を添え、更に深く舌を入れ込まんと、俺はシズクの頭蓋をゆっくり自分へと向けて仰がせた。こうする事でより深く、シズクを愛せる。
「んん……ん……お……っ……❤️」
ぬぢゅ……ぢゅぐ……ぢゅく……。
嗚咽混じりの感嘆。シズクの腹は波打ち、幾何学模様の吸盤を持った生物のように蠢いて、精を搾り取らんとしてくる。脳髄を蝕む酩酊感が脊椎を駆け上がり、亀頭の先から漏れ出る先走りが臨界点を感じさせた。
身体の内側で脈打つ熱量を前に、理性などひび割れた氷のようなものだ。俺の舌は海蛇のように彼女の口腔を泳ぎ、喉の粘膜を掻き分けながら底へと潜り込む。
俺たちは絡み合ったままベッドの上を転がりあう。太陽と月が交互に入れ替わるように背中をベッドに預けるシズクと、その上に覆い被さる俺。
「ふうっ……! んんんうぅ~~~~~~~~❤️」
そして訪れる、稲光が瞬くかの如き一閃。弦楽器が最高音域で弾かれ、糸が引き千切れる瞬間にも似た悲鳴。まるで電気刺激を与えられた蛙のように、断続的な痙攣が太股から足先へと及んだ。
――――――キスでの絶頂。挿入中とはいえ、キスだけでここまで激しい反応を見せる少女は稀だ。通常、これほどまでの反応を接吻によって引き起こすには、長い期間に渡る身体と心理への徹底的な条件付けが必要になる。例えば毎晩のように、舌を絡ませながら乳房や性器への愛撫を組み合わせ、舌を動かす筋肉と快楽神経を結びつけさせるなどの性的興奮を紐付けなければならない。
これまでの夜は、まさにその為の礎だったのだろう。初めての邂逅を、怯え切った表情を、解きほぐすために選んだ手段が『キス』だった。時に優しく、執拗に唇を重ね続け、彼女の体内でキスという行為が単なる粘膜接触以上の媚薬へと変貌するよう働きかけた。抵抗する舌を絡めとるたび、目尻に滲む涙の意味すらも変わっていった。
ずるるるる…………ぴちゃ。
「ふうっ…………ついにキスでもイケちゃったね、シズクちゃん❤️」
「ぷあっ、はっ、はぁっ…………❤️」
――――――長い長い時間をかけて作り上げてきた芸術品を前に、俺の胸中は愉悦と期待で満ち溢れている。キスでの絶頂という大きな前準備を経て、残る舞台はただ一つ。
仰向けにされたシズクの身体は、観衆の溜め息を誘うアリアのように、湿っぽい肌を艶めかしく際立たせていた。
既に彼女の中は、灼けるような熱気と洪水のような潤いに満ちており、限界まで張り詰めた俺の欲望は、導火線の火花が本体に届いた一時のように爆ぜることを求めている。
(フィナーレだ)
一歩踏み込み、俺はシズクの膝裏へ手を添え押し広げた。華に蕾を差し出させるようなその姿。鏡面のように潤んだ瞳がこちらを見上げる。
ベッドへ肘をつき、低い姿勢で俺は腰骨を前進させた。蕾はそれを待ち望んでいたかのように亀頭を吸い込み、濡れそぼった粘膜の抱擁が、螺旋階段のように俺を誘う。俺の陰茎は、まるで女神にでも祝福されているようだった。
…………ぐちゃん…………ぐちゃん。
「はあぁっ……❤️」
泣いているのか、笑っているのか、判別し難い歪んだ顔。眉を八の字に垂らし、シズクは今、その身に宿る全ての感覚を、あられもない官能のセンセーションへと変換して、全身で表現していた。
「んうぅんっ……❤️ はうあっ……ふやあぁ……❤️ ふゃあああぁぁ……っ❤️!」
自分の身体に宿るであろう、新たな生命に耳を傾けるかの如く、シズクが眉根を寄せているのが俺には分かる。
膝がベッドへ釘づけになり、砕石機のように「ぱんぱん」と重く打ち下ろされる腰。地面に根を張る巨木のように、俺はその姿勢を崩さない。背中を押し込まれ、上半身を完全に寝具へ埋没させたシズクは、ただ俺という存在に上書きされていく。
ぐっちゃ、ぐっちゃ、ぐっちゅっ。ぐちゅうぅっ。
「すっごい声❤️ どう? きもちいーかい? シズクちゃん」
「はいいぃっ……❤️ しゅご、しゅごいよぉ……❤️ あたってるよおっ……おくぅっ❤️」
「お腹の中ずっとうねってるけどイキっぱなしになってる? シズクちゃんはホントに奥突かれるの好きだね❤️」
「うんっ……すき……っ❤️ すきっ……すきぃっ……❤️」
「俺もシズクちゃんが好きだよ❤️」
「イひっ……イひっ……❤️ あっ……❤️ あ゛~~――っ❤️」
そして俺たちはただ踊る。シズクという娘が織り成す陶酔の物語。俺はその筋書きに意味を与える脚本家であり、演出家であり、観客であり、熱狂的なファンでもある。
中央に据えられた一人の歌姫。純白のドレスもなければ、黄金のティアラも身に付けていない。代わりにあるのは――――涎と涙。何十回と交わされた接吻により生まれた水気を纏い、出来上がったプリマドンナだ。その歌声はいま、最高潮に達しようとしている。観客席にはただ一人、舞台の最前列中央を陣取る俺自身が、シズクの絶唱を見届けんとそこにいた。
腿を裏返し、シズクの脚は寝具から立ち上がる花弁の茎みたいに俺の身体を挟み込んでいる。そのワルツに、演目では決して魅せられない生の舞踏に、報いを与えてやるのは演出家として当然の務めと言えよう。
「それじゃあイクよ❤️ シズクちゃんの子宮口に亀頭ぴったりくっつけて、俺の精子全部出すから、受け止めてねっ❤️」
「はいいィィッ……❤️ キテッ、きてくださィィッッ❤️!」
再び腰を押し進める。ひと思いに突き刺すのではない。じわじわと、根元から先端へと力を移す。砲身に滑り込む一発の砲弾のように、深く、己を深く沈めていく作業。
俺は最後の砲弾を装填する兵士のように息を吸う。張り裂けそうな鉄塊を、彼女の砲身――――その最深部へ向かって猛然と突き進める。
やがて俺のすべては、彼女の最奥。逃れようのない『砲身』の奥底へと、一寸の狂いもなく填まり込む。何億もの子種を孕んだ砲撃を、彼女の胎内へお見舞いしてやるために。
「あっ、ああぁぁっ、ふえぇええッッ❤️ あぁ゛ァァアァアア〜〜〜〜〜〜ッッ❤️!」
びゅっ…………ぶびゅ〜〜っ! びゅるるるっ! びゅ〜〜!
「おっ……う……シズクちゃんの中……良すぎて精子めちゃくちゃ出るっ……止まんないっ……」
己を食い破らんばかりに膨張していた俺のサナギは、真っ白な蝶々となって舞い散って行った。両手で渾身の一音を奏でるピアニストのようにベッドへ這いつくばり、豚の腸を尻の穴から引き抜くような旋律を奏でる。
頭の中を支配していた灰色の雲が、一瞬にして掃討されるような解放感。清涼感。鬱屈した感情、根源的な渇き──それらが混ざり合い、物理的な波状を持って世界へ受肉した瞬間だ。
俺は腰ぐっとを押しつけたまま、最後の一滴を絞り出した。ありとあらゆる情欲が、祝福された天使たちが――――螺旋を描きながらシズクの子宮へと吸い込まれていく。
びゅるるるっ……びゅっ…………。
「~~~~っっ……❤️」
音は次第に小さくなり、やがて遠ざかる。先ほどまで咲き誇っていた花が萎れるように、シズクの全身からは力が抜けていく。眉間に寄った皺は解け、口角が上がり、まるで俺への恋慕に満ちた陶酔の姿を見せていた――――脳内の血管を流れる血液はチョコレートのように粘り、頭の中はハートマークの海と化している事だろう。
「はぁ……」「はぁ……」と、俺たちは互いの吐息にキスをさせる。二人の間にあるのは、沈みゆく舟の上で互いを見つめ合う恋人同士のような距離感。二重の呼気が織り成す温もりのカーテン越しに、俺たちは――――永遠に続く錯覚の中で寄り添いあった。
「シズクちゃん……❤️」
「ふぁい……❤️」
「……気持ちよかったかい?」
「きもちよかった……れひゅ……❤️」
甘く蕩けたその声が、俺の心に針を立てる。どうしてこんなにも心が騒ぐのだろう。彼女の返答ひとつで、この牢獄に囚われた全ての時間が報われるような錯覚を覚える。
――――カーテンコールは終わったはずなのに。気づけば俺は、もう一度彼女へ引き寄せられていた。
「よかった❤️」
乗ると言うよりは溶け込むように、重なると言うよりは呑み込むように、俺は再びシズクへと覆いかぶさる。時間は無限にあるわけではない。朝日が昇れば、ここはただの拷問部屋に戻る。だから今は、この薄皮一枚が隔てる二人だけの檻で――すべてを忘れてしまいたい。
ちゅく……ぬる……じゅ……。
「シズクちゃん、もっと……❤️」
呼吸や心拍ごと飲み込んでしまうような長い、長いキス。そこにも限界はある。酸素が乏しくなるにつれ、頭の隅がジリジリと焦げていく。
シズクの腕は俺の首に絡まる。彼女もまた、終わりたくないと思っているのだろうか。あと少し、あと少しだけと、舞台上で交わされる最後の口づけのように、カーテンの内側で交わされる密やかな約束のように、俺たちは付いて離れず、キスをし続ける。現実に戻るための梯子はとうに外され、深い暗闇で見る夢だけが灯り。
「ぷはっ……❤️ はっ……はっ……はっ……あっ……っ……❤️」
――――――その気になれば、俺は彼女を逃がす事もできるだろう。牢の鍵を開けるのも、警備の目を欺くのもそう難しい事ではない。
だが、それでどうなるというのか。彼女の運命は、箱庭の塀を超えた瞬間、暴風に見舞われる。嵐の夜に外へ出る馬鹿は居ない。加えて、そんなことをすれば俺は間違いなく殺されるだろう。命と引き換えにしてまで行う義侠心など、俺の中にありはしない。
牢屋の外に待っているのは、蹂躙と暴力、そして彼女が守りたかった世界の無残な終焉。そんな世界へ彼女を放り出すことが、果たして『幸福』と呼べるだろうか。
「シズクちゃん」
舞台袖では、着実に時計の針が進んでいる。だがそんな事はどうでもいい。どうでもいいのだ。俺にとって重要なのは、この行為がもたらす充足感だけ。
仮にシズクひとりが生き延びたところで、復活した魔王率いる大軍を前に何ができるというのだろう。本当に彼女を救いたいというのなら、俺のすべきことはこの牢屋から連れ出すことではない。
「はぁーっ……はーっ……はいぃ……❤️」
――――――こうして彼女と、何度でも踊り続けることだ。
「もうちょっとだけ、踊ろうか❤️」
生きるということは、死ぬまでの時間をどう浪費するかという、贅沢な暇つぶしに過ぎない。なら、その余白を「何で埋めるか」だ。泥を啜りながら絶望に堪えるか、失われた光の残滓を拾い集めて万華鏡を作るか。
俺は後者を選んだ。緑の髪をそっと撫で、再びその柔らかな身体へと身を沈める。それはシズクの頬を、胸を、そして何よりその心臓を甘やかな色彩で塗り潰すのだ。
俺は自らの快楽を満たすために、シズクという名の器を溢れんばかりの陶酔で満たす。それは一方的な陵辱などではない。互いの心を、カラダを使って埋め合わせる一つのエチュード――――――そこへ溺れていられるなら、崩落していく世界の断末魔ですら、これ以上なく甘美な愛撫へと形を変えるだろう。
「……❤️ ……❤️ ……❤️ ……❤️ ……❤️」
たとえ世界がどのように壊れても、俺という存在が、彼女にとっての救済となろう。その心臓が脈打つ理由が、俺の与える官能への期待で満たされているのなら、これほど素晴らしい愛の行きつく形が他にあるだろうか。
さあ――――もう一度だ。思考を、誇りを、すべてを俺の身体に委ねて。終わる世界に背を向けて、どこまでも深く。この愛という名の泥沼に、沈んでいこう。
――――――――誰もが等しく塵になる、その最後の一時まで。