途中までは完全にR15バージョンと同じですが、そこから先は完全に男性向けなので、そういうのが嫌な人は回れ右。
平への恋心を自覚した東が自分の心の声の命じるまま、平といやらしいことをしまくる話。自分が淫語を喋りたいだけなんじゃないか?東。
■キャラ
東:心の声のなすがまま、平誘いまくり、淫語しゃべりまくりの誘い受け女
平:ベッドヤクザの絶倫童貞。俺を本気にさせたな、東
心の声:基本無責任なことしかしないエロ誘導マシン
★プロット/展開/詳細描写/台詞は作者が書き、校正にAIのべりすとを利用/調教して書いています。
★本作はハーメルン/Pixivで公開しています。
作者:eronosuke
ハーメルン:https://syosetu.org/user/514099/
Pixiv:https://www.pixiv.net/users/125632702/novels
# 第一章:私の中の変化
ベッドに沈み込む私の体が、天井に向かって伸びた両足に合わせて微かに揺れる。この部屋の空気はいつもと変わらないはずなのに、心の中だけがざわめいていた。
「……私って結局、どういう男が好きなんだろう」
布団を握りしめた指が白くなっているのに気づき、力を緩める。仰向けの姿勢で腕を額に乗せ、目を閉じると、脳裏に浮かぶのはこれまで付き合ってきた男たちの顔。
みんな「オラオラ系」だった。強引に迫ってくるような、自信満々な態度の。私はそういうタイプに弱かった……いや、「弱かった」なんて過去形で語れるほど単純じゃない。今だって、そんな男たちに魅力を感じるのは確かだ。
『本当に?』
心の中で別の私が問いかけてくる。その声は甘く、けれど鋭いナイフのように刺さる。
『繊細な男の子は嫌い?平みたいな?』
胸が疼く。その疼きが何なのか、もう否定できない。
「違うよ……平は……」口に出してみると、その名前が妙に喉を通っていく。唾液が乾くのを感じて、慌てて飲み込む。「ただの友達だし」
嘘だ。自分で言っておいて即座に認める。友達なんかじゃない。ただのクラスメイト以上の何か。それ以上踏み込むことさえ恐ろしく感じる存在。
---
目を開けると、天井の模様が歪んで見えた。視線を動かすと、壁に貼ってあるポスターが目に留まる。それは平が教えてくれたバンドのもの。
「なんでこんなところに貼ってるんだろう」
呟いてみる。答えは簡単。好きだから。このバンドも、そして教えくれた本人のことも。
『男と付き合うときに告白もされたことないし、したこともない』
頭の中の声が続ける。そうだ。これまでの恋愛は全部「なんとなく」始まって、「なんとなく」終わった。熱量もなく、ドラマもなく。
「それでいいんだよ」自分に言い聞かせるように呟く。でも、その声はどこか不安定で頼りない。「結局最後は離れちゃうんだから」
また嘘。
『そう思ってるだけで本当は何を求めているの?』
心の問いかけが痛いほど核心を突いてくる。本当は分かっている。でも認めたくない。なぜなら……
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目を閉じると瞼の裏に広がるのは暗闇ではなく、鮮明な光景だ。平の寝顔。授業中の横顔。教室でふとした瞬間に見せる微笑み――ひひっと笑うあの独特の笑い方。
あの笑顔を見るたびに心臓が跳ね上がる。それを誤魔化すために、ついつい拳を振り上げて『デュクシ』なんてふざけてみるけど……
「デュクシ……」
独り言を呟いてみる。右手を伸ばし空中で止めると、指先まで熱くなっていくのを感じた。あの距離感。あの感触。あれもこれも全部――全部平に対してだけ特別なんだと気がつく。
「私……平のことこんなに好きなんだ」
声に出すことで現実感が増す。怖いくらいの現実感。同時に身体中が熱くなり汗ばむほど恥ずかしさが募る。
それでも目を開けて天井を見据える私。ここで逃げてはいけない。認めなければならない真実から決して目を逸らさない。
『あなた今までセックスで感じたことってある?』
思考が突然深く突き刺さってくる。
「感じた……こと?」
言葉が出ないまま再び瞼を閉じると過去の記憶が蘇る――幾度となく重ねてきた肌。けれどそこには快楽も悦びもないただ表面的な接触だけ。喘ぎ声も作り物だったと今さら思い出す。
「一度も……感じなかったかも」
自覚したら怖くなった。震える息遣いで吐き出した言葉に答えるように心が静かに告げる。
『そうね……でもあの人にされたら?平にだったら?』
その仮定に身震いするほどの衝撃を受けた。想像するだけで身体中の神経細胞すべてが覚醒したみたいだった。耳鳴りとともに呼吸困難になりそうになるほどのリアルさを伴って脳内で再現される情景――平の掌で触れられる自分の肌――あの温もり
「平……」
唇から漏れた名前に合わせて全身鳥肌立つように痺れ渡る快楽予感
涙ぐんだ眼で虚空見つめながら呟いた言葉には確信滲み溢れ出てきて
「確かに……平としたときは感じることができると思う……いや絶対……」
理性放棄する寸前まで追い込まれるくらいの興奮状態に突入する。
平に抱かれ押し倒され弄ばれ奪われることを期待してしまう私。
自分自身、存在を否定できぬほど巨大な感情が膨れ上がる。
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# 第二章:私の中の変化
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目を開けると、部屋の闇が妙に濃く感じた。照明をつけたままなのに、視界の隅がぼやけている。手を伸ばしてスマホを探し当てると、画面に表示された時間は午前0時を過ぎていた。
「こんな時間まで何やってるんだろう……私」
溜息をつきながらベッドサイドテーブルにスマホを置き直すと、その動きで部屋の空気がわずかに揺れた。それに誘われるようにして、再び記憶の糸が紡ぎ始める。
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平のことを考えるようになったのはいつからだろう。最初はただの同級生だったはずなのに。中学時代は彼の存在すらほとんど気に留めていなかったのに。でも高校に入ってからの彼は——別人だった。痩せて、髪型を変えて、服装にも気を遣うようになった彼を見たとき、胸がざわついたのを覚えている。
「変わっていく人って……いいよね」
ベッドに横たわったまま呟く。天井に向かって伸びる右腕が宙に浮いたままだ。指先が微かに震えている。これは緊張なのか、それとも期待なのだろうか。
『過去の男たちと比べてみてよ』
心の中で自分の声が囁く。冷たく、しかし挑発的なその声に抗えない。
「そんなの……」
否定しようとするものの、脳裏に浮かぶのは元カレたちの顔。オラオラ系で自信満々で強引な彼ら。そしてそんな男たちに流されていた自分の姿。
『でも平は違うでしょ?』
その問いに目を閉じる。瞼の裏側で映像が再生される。コンビニで働く平の姿。休憩時間にコーヒーを飲む彼。時折見せるひひっという笑い方。
「平は……違う」
言葉が滑り出る。その違和感こそが、東を苦しめている正体だった。
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『じゃあどんな風に違うの?』
心の中の声がさらに掘り下げる。逃げられない。
東はゆっくりと足を開いた。パジャマのショートパンツが腰までずり上がり、太腿があらわになる。シーツが肌に触れる感覚が妙に刺激的で、小さく息を飲んだ。
『試しに考えてみたら?平となら……』
その提案に従い、手が股間に向かって伸びていく。指先が布越しに割れ目を探り当てると、既に湿り気を帯びているのが分かった。驚きと恥ずかしさが混じり合った感情が胸を締め付ける。
「でも……これは……」
言葉を探す途中で思考が止まる。自分でも信じられないスピードで反応していた。
『感じてるじゃん。今まで一度も感じたことないのに』
心の中の声が笑う。嘲笑ではなく、むしろ慈しむような響きを持って。
「違うよ。だって……これは」
指先が優しく円を描く。その動きはどこか探るように慎重で、それでいて決定的なものでもあった。小さな痺れが背骨を駆け上がり、肩甲骨のあたりで炸裂する。
「平なら……」
言葉の続きを心の中で紡ぐ。それは言語化できるほど具体的ではない曖昧なもの。けれども身体の反応は明白だった。
---
『今までの男とは何が違うの?』
問われるままに記憶を探る。過去の男たちとの行為。それはどれも似たようなものだった。荒々しく突き上げられる腰使い。自分の意志など関係ないかのような一方的な快感追求。そして東自身もそれを演じることに慣れていた。
「あの時は演技だった」
自分でも驚くほど冷静な声が出る。だが下半身からは湿った音が立ち始めている矛盾に苦笑するしかない。
『でも平なら違うよね?きっと』
その確信があるからこそ東はこの夜を迎えていた。手の動きが加速していく。すでにショーツ越しではなく、直接の指が割れ目に沈んでいた。
「平なら……もっと丁寧に……」
その言葉と共に思い出されるのは平の剣道部時代の姿。竹刀を持ち凛とした佇まい。そして現在の仕事中の真摯な態度。どちらも粗暴さとは無縁だ。
『優しくしてくれそうじゃない?』
心の中の声に頷きながら目を閉じる。イメージの中で平がそっと近づいてくる。両手を東の頬に添えて目を覗き込むように見つめられれば——
「んっ」
声が漏れた瞬間だった。それまでの緩慢な動きとは異なる鋭い感覚が全身を貫いた。反射的に腰が浮き上がる。シーツが擦れる音。湿った呼吸音。
「平……っ」
名前を呼ぶことで魔法が解けるかのように全身から力が抜け落ちる。波が引くように快感が収まっていった。
しばらくの間、東はただ呆然としていた。天井を見つめる視線は何も捉えていない。
「これが……感じるってこと?」
自問自答しながら起き上がると、自分の秘部が驚くほど濡れていることに気づく。ティッシュを取り出して拭いながら、奇妙な感覚に囚われていた。
今までの性経験ではなかった種類の充足感。満たされたというより解放された感覚。しかもそれは全て平という一人の人物によって引き起こされているという事実。
---
『まだ足りないんじゃない?』
心の中の声が再び囁く。まだ収まり切っていない欲望に気づいてしまった東は深く溜息をつく。
「馬鹿みたい」
苦笑いを浮かべながらも再び横になる。手が自然とまた股間に向かっていく。
『平ってどんなキスをするのかな?』
その質問に答えを求めるように唇を舐める。濡れた唇の感触。同時に中指が乳首に触れると、そこでも新たな快楽が生まれる。
「平なら……絶対舌入れてくるよね」
妄想の中で平の顔が近づいてくる。鼻先が触れ合うほどの距離。吐息を感じる距離。そして互いの唇が重なる瞬間——
『舌が絡む感じとか想像してみてよ』
言われるままに舌を動かす。口腔内での運動が性的興奮と結びつく奇妙な感覚。唾液で濡れた下唇を噛みしめれば甘美な痛みと共に新たな快感が広がる。
「平……キス上手そうだよね……」
想像の中で平とのファーストキスが始まった。最初は躊躇いがちに触れ合う程度。徐々に深くなっていく口づけ。舌が入り込んできて絡み合う様子までも克明に思い描けば——
「んぅっ!」
突然押し寄せてきた快感波に耐え切れず東は大きく仰け反った。背中が弓なりになるほど強い快楽。指先は更なる刺激を求め続けている。
『すごいねぇ。今までこんな風になったことあった?』
自分自身に対する問いかけに頭を振るしかなかった。確かに経験はある。しかし今回のような種類の快感は初めてだったのだ。
---
時間は刻一刻と過ぎていく中でも東の自慰行為は続いていた。平という存在を思うだけで身体中が熱くなる。
『でもさぁ本当に付き合ったらどうなるんだろう?』
ふとした疑念が過る。果たして本当に平と恋人になれる日が来るのだろうか?そもそも彼自身は自分に対して特別な感情を持っているのかも不明瞭だ。
「それでもいい」
決意とも諦めともつかぬ言葉を呟いて目を閉じる。想像の中で二人が歩んでゆく未来図を思い描こうとする。
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『このままじゃ駄目だよね。本当の自分を見せる時なのかもしれない』
窓際で頬杖をつきながら、東はそんな想いを巡らせていた。もうすぐ夏休みが終わる。そしてそのあとには大学入試が待っている。時間がいくらあっても足りないはずなのに、平のことを考える余裕はある──いや、むしろ平のことで頭がいっぱいだからこそ、勉強にも集中できないのだ。
心の奥底から湧き上がる声が囁く。
『だったら行動すればいいじゃない? 今までの東じゃなくて、新しい東で。平のことだって真剣に向き合わないと』
「……新しい東、か」
その言葉を繰り返しながら、東は机上の参考書をパタンと閉じた。高校二年生の頃は確かに違った。あの時はまだ平を男友達以上には見ていなかったし、自分の過去も堂々と曝け出していた。でも今はどうだろう? 平の顔を見るたびに心臓が跳ね上がり、触れる指先が震える。過去の自分と今の自分──あまりにも大きな隔たりを感じて東は困惑していた。
「私は一体、どっちなんだろう……」
その問いへの答えを探すように、東はスマートフォンを開いた。LINEの画面には平とのやり取りが並んでいる。受験勉強に関する短いメッセージばかりだが、それでも東にとっては宝物だった。
『ねぇ平、明日ってファミレス行く?』
いつもの調子で送信した文字列を見て、東は我に返った。「またいつもの私だ」と嘆息しながらも返事を待つ。数分後、平からのシンプルな「うん」というスタンプが届いた瞬間、なぜか涙が出そうになった。
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翌日の放課後。いつものファミレスで向かい合って座る二人。夏の残暑で店内は冷房が効いていて涼しいが、東の体温は異常に高かった。
「ここ分からないんだけどさ」
平がノートを指差す。数学の問題集らしい。彼の筆跡を見ているだけで東の胸はざわついた。
「ああ……そこはね」教えようと身を乗り出した拍子に、腕と腕が触れ合った。紙のように薄い袖越しに伝わる体温に驚いて東は咄嗟に飛び退きそうになったが──
『今こそだよ! ここで逃げちゃダメ』
心の声が強く後押しする。東は恐る恐るもう一度距離を縮めた。肘同士がぴったりとくっついた状態で平を見上げる。
「それでね、この公式使うといいと思うんだ」ぎこちなく説明を続ける彼女に対し、平は特に気にも留めずにうなずいている。しかし東にとってこれは小さな革命だった。
今までならこういう接触を避けていたはずだ。けれど今日の自分は違う。心の中では怯えているのに、どこか解放的な気分さえある。
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帰り道。夕暮れ時のホームで電車を待つ二人。秋の気配を感じさせる涼しい風が吹き抜けた。駅前の改札機を通り抜ける際にも東はさりげなく平の隣へ寄り添った。肩がぶつかるほどの密着度に自分でも驚きつつも離れない。
「今日はありがとうな」
不意打ちのように投げかけられた感謝の言葉に、東の鼓動はさらに速まる。恥ずかしさと嬉しさで言葉にならない感情が渦巻く中、
『言えば? ずっと好きだったって』
頭の中で響く声に一瞬振り返ったが、現実はそれほど簡単ではない。唇を噛みしめながら小さく頷くことしかできなかった。
それでも確かな変化が生まれたことに東自身も気づいていた。これまでは距離を保つことに必死だったが、これからは──
「ねぇ平」
呼び止めると彼は訝しげに立ち止まる。緊張で喉が渇くのを感じながら、それでも東は微笑んで言った。
「秋になったらさ、また一緒に勉強しようよ。それと……」一呼吸置いて続けた。「たまには違う場所でもいいかもね。例えば……公園とか」
平は少し驚いた顔をしたものの、すぐに頷いてくれた。それだけで十分すぎるほど幸せだった。
電車が到着し扉が開く音。乗り込む人々の波に逆らわず自然と二人並んで座席に着く。ふとした拍子に触れた膝と膝の感触に全身が熱くなる。
『大丈夫だよ。今の東ならきっと平に思いを伝えられる日が来る』
心の声に励まされながら、東は窓の外の夕焼け空を見つめた。自分の影と重なるように隣に座る平の姿が映っている。どんな未来が待ち受けていようとも、もう逃げないと決めた心強さがそこにあった。
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次の日曜日、ファミレスでの勉強時間はいつも以上に緊張感に満ちていた。窓際のテーブル席。平は数学の問題集を前に難しい顔をしていたが、東の視線に気づくと少し微笑んだ。
『今だよ! もっと積極的に!』
突然心の声が頭の中に響いた。それは東自身の理性とは明らかに違う存在感を持っていた。以前から時折浮かぶ閃きのようなものはあったが、今日は明確な命令口調で迫ってくる。
「この公式を使うと……」説明を始めた途端、不自然に言葉が詰まった。その沈黙を破るように、心の声が再び叫ぶ。
『もう遠慮なんかするな! 本気で勝負する時だよ!』
「うん……それで……」口ごもりながらも、東は思い切って平の方に身を寄せた。ノートを持つ彼女の指先が微かに震えているのを平は不思議そうに見つめ返した。
その夜。自宅のベッドに横たわり天井を見上げる東の耳元で、心の声は優しく語りかけてきた。
『大丈夫。平くんもきっと気づいてる。あなたが本当はどうしたいのか。』
「本当に……?」東の本音が零れる。
『もちろん。だってあなたが望むのはただ一つでしょ?』
翌朝。学校の教室で友人の鈴木が怪訝そうな表情で覗き込んできた。
「アズ、さっきからブツブツ言ってるけど何か悩み事?」
「えっ? あぁ……ごめんね」慌てて否定する東だが、確かに昨晩から心の声との対話が続いていたのだ。
昼休み。屋上で弁当を広げていると突然谷が現れた。鈴木の彼氏でもあるこの男は人を見る目に長けている。
「東さん、なんか変わった?」ストレートな問いかけに東は箸を取り落としそうになった。
「そ……そんなことないよ!」必死に取り繕う様子を見て、谷は静かに言った。「別に悪い意味じゃない。むしろすごく前向きな感じがする」
その言葉が東の中でゆっくりと反響する。そうだ。怖いけど……それでいいんだ。
週末の図書館。平が珍しく難しい顔で参考書と格闘していた。
「ここ分かんないんだよなぁ」ため息混じりの呟きが漏れる。
『チャンスだよ! 教えてあげて!』心の声が背中を押す。
東は深呼吸をして平の隣に座った。「貸してみて。たぶん基礎が足りてないんだと思うけど……」
その時の平の表情を一生忘れないだろう。困惑と期待が入り混じった複雑な眼差し。そして次第に安堵の色が広がっていく様子。
数ヶ月後の卒業式前日。昇降口の隅で平が一人立っていた。
「お待たせ」小走りで追いついた東に、平は珍しく緊張した面持ちを見せた。
「あのさ……」
言いかけて止まる平。東の中で心の声が笑った。
『ほら見なさい。もう分かるよね?』
東はそっと平の袖を引いた。「大丈夫。私も同じ気持ちだから」
驚愕の表情を浮かべる平の瞳の奥で何かが弾けた。
『これでようやくスタートラインだね』
心の声は満足げに微笑みかけてくる。これまで散々助言してくれたこの幻聴が、これからは一緒に歩んでいけるという確信があった。
東は平の手を取りながら思った。自分を変えたのは紛れもなく心の声だけど、それに応えようと踏み出した勇気が本当の成長なのだと。
春の陽光が差し込む廊下で二人は立ち尽くしていた。新しい季節と共に始まる物語。それを案内するのはもう誰でもない、東自身の確かな意志だった。
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春の陽光が差し込むカフェテラスで東は紅茶を前にぼんやりしていた。隣の大学に通う平と待ち合わせしている。卒業式から二か月。恋人関係になったものの、デートはいつもこんなふうに「会う約束」から始まり、「バイバイ」で終わる。
「最近の平って……なんかよそよそしいのよね」
スマホ画面に映るメッセージ履歴を見つめる。週末の予定確認。短いスタンプ。それだけ。高校時代の距離感に比べれば大きな進歩だが、いま求めているのはもっと深い接触。それでも平はキスすらほとんどせず、手を繋ぐだけで頬を赤くする。
『ねぇ、私から攻めてみればいいんじゃない?』
懐かしい声が頭に響いた。高校最後の一年間を支えてくれた心の声だ。卒業とともに聞こえなくなったのに――
「やっぱり私の中にずっといたんだ」独りごちる東の肩が震えた。
カフェに入ってきた平が小さく手を挙げた。私服姿は洗練され、細身のジーンズが似合っている。席に着くなり彼はメニューも開かず口を開いた。「今日はどこ行きたい?」その問いに答える前に心の声が囁いた。
『家に誘っちゃえ! 平くん疲れてるみたいだし』
「私のマンション……来てみない? 近くにおいしいケーキ屋さん見つけたの」
平の目が泳いだ。「でも……家族とか……」「一人暮らしって前言ったでしょ」即答してから気まずい沈黙。退屈させたくなくて早口で続ける。「ほら、料理も上手くなったし……泊まってもいいよっ、てわけじゃなくて!」
心の声が苦笑した。
『正直すぎるわね。でも平くんならちゃんと理解してくれるはず』
30分後。マンションの一室に足を踏み入れた平は壁の写真に目を留めた。高校の文化祭で撮った集合写真。東が平の肩を抱き寄せている一枚だ。「ここ……飾ってくれてたんだ」掠れた声。「平こそ棚の奥に隠してるこの写真見せてくれないの?」
唐突な暴露に平はパニックを起こし、壁際まで後ずさった。そこから勢いよく頭を下げる。「ごめん!」
「謝ることなんて何もないよ」東は思わず近寄った。「私たちもう恋人だもん。秘密くらいあって当然だし」
平は俯いたまま。「俺……東を傷つけるのが怖くて。前に告白断ったのも……結局俺なんかじゃ釣り合わないって思って……」
『釣り合わない?』心の声が冷たく呟いた。『あの告白で救われたのはあなたじゃないの?』
その一言が背中を押した。「ねえ平。私はあなたといると安心する。高校の時から変わらないよね?」
平の視線がゆっくり上がり、揺らいだ瞳で東を見つめた。「本当に……いいのか?」震える手が伸びてくる。
唇が触れ合う寸前で停まり、浅く息を吐く。「怖い?」東が囁いた。返事はない。代わりに温かい掌が東の背中に回される。強く引き寄せられると同時に、平の鼓動が耳朶を打った。
『よかった。あなたにも勇気が芽生えて』
心の声は今度こそ完全に溶け込んだ。
---
翌朝。キッチンでコーヒーを淹れながら平がぽつりと言う。「俺さ。親父の会社が去年倒産して……奨学金でなんとかやってる。だから将来のこととか考えると不安で……」
東はカップを受け取りながら笑った。「じゃあ私が稼ぐしかないね。看護師めざしてんのはそのためだし」
「東には向いてると思う」穏やかな顔に戻った平を見て、心の声の励ましが必要ないほど強くなれたことを知る。
テーブルに座り朝食のパンを齧るとテレビのニュースが始まった。遠くの街で桜の開花宣言が出ている。平が呟いた。「来週末、天気良ければ花見に行こうか」
「うん!」大きく頷く東の中で心の声がかすかに響いた。
『これで最後のお節介かもね。二人の未来は二人で描いていけばいい』
窓辺に残る甘い余韻のように、その囁きは静かに消えていった。
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濡れた髪を拭うタオルが肌から滑り落ちる音さえ、今の東には挑発的に聞こえた。薄いバスローブの下で鼓動が暴れている。シャワールームの蒸気越しに聞こえる平の息遣い──早く、彼に触れたい。
寝室の扉を開けると、すでにベッドサイドに腰掛ける平が振り返った。彼の眼差しは驚くほど真摯で、心臓が跳ねる。つい最近まで“キス止まり”だった青年とは別人のようだ。
『いいタイミング。もっと大胆に動いたら?』
懐かしい声。消えたはずの“心の声”。東は唇を噛んで自問する。(まさか再燃?)
「どうしたの?」
平が怪訝そうに首を傾げる。
「……なんでもない」
ベッドへ歩み寄ると、自然と膝がベッドフレームにぶつかった。意図せずシーツの縁を蹴飛ばし、裾がはだける。むき出しの太腿。平の喉仏が上下する。
『ほら。簡単でしょう?』
心の声が囁く。東はそれを無視しようとするが──視界の端で、平の腰布地が不自然に膨らんでいるのを見つけてしまった。
(あれ……私、興奮させてる?)
羞恥より嬉しさが勝った。膝を折り、彼の正面へと座り込む。そして自分の手を──あえて見せつけるように──平の股間に押し当てた。
「っ……!?」
反射的に引こうとする腰を制する。握り込まずただ乗せるだけ。けれど確実に“芯”を感じる。硬く脈打つそれの熱が手のひらを通して全身へ伝わる。
『そのまま握ってみて』
心の声は命令ではない。むしろ「試してみなさい」と促す教師の声色。
東は息を殺して指を滑らせた。ベルトを外し、チャックを下げ──
「待っ……!」
制止する声に構わず引き下ろす。反り返ったものが弾けるように飛び出した。
(……すごい)
これまで想像以上の大きさと熱量。先端から滲む透明な露が照明を弾く。
『舐めてあげて。彼が望んでるのはそういうこと』
ためらいよりも好奇心が勝った。舌を伸ばし──表面のぬめりを掬うように這わせる。塩っぽい汗と若い匂い。平が仰け反り呻いた。
「ちょっ……東…!」
構わず口に含む。亀頭が舌上で跳ね、苦味と共に微かな鉄臭が広がる。それでも歯を立てずに丁寧に啜る。唾液が溢れ、音を立てて漏れた。彼の指が髪に絡みつく。
『上手い。次は喉奥まで使ってみて』
言われるまま深く呑み込む。咽頭に突き当たる感触に涙が滲む。引き抜くと糸を引く液体。東の喉を焼く官能が眩暈を誘った。
平が堪らず東の腕を掴み、「もう無理……っ」とベッドへ引き倒した。
覆いかぶさる重み。息荒く見下ろす顔には初めて見る獣性。ローブの紐が解かれ、乳房が露わになる。既に硬く尖った頂点に彼の唇が吸いついた。
「んぅっ!」
背筋が弓なりに反る。舌で捏ね回される快楽に脳裏が白く霞む。ふと──心の声が微笑むのを感じた。
『欲しい? そろそろ奥まで届けてもらいましょうか』
無意識のうちに足が開き、内腿を晒していた。濡れて光る割れ目に彼の指が潜り込む。掻き混ぜられただけで蜜が溢れた。
「熱っ……」
平が喘ぎながら探るように挿入し直す。次の瞬間──
『来るわよ』
宣告とともに一気に穿たれた。圧倒的な質量。痛みよりも衝撃が脊髄を走り抜けた。
「やぁあっ!」
叫びと同時に頭の中の声が爆ぜる。
『もっと深く』
『乱れなさい』
理性の枷が砕け散る。抽送が始まると同時に東は腰を揺らし始めた。突き上げられる度に声帯が悲鳴にも似た嬌声を放つ。
「待っ……! 激し……ぃ!」
平も限界に近い。肌と肌が打ち合う乾いた音。結合部からは泡立つ水音が混じる。彼の指が東の太腿を鷲掴みにし、より深い角度で叩き込む。
『イキたい? イかせてあげる』
東は自分で乳房を揉み潰しながら訴えた。
「平……っ! お願い……一緒に……!」
切羽詰まった願いに、彼の律動が加速する。襞を擦り上げるペニスがさらに肥大し──
「出る……ッ!!」
胎内で火柱が噴き上がる錯覚。熱い奔流を浴びせられ、東の脳内も白濁の波に飲み込まれた。
*
荒い呼吸だけが室内に響く。繋がったまま互いに脱力した肢体を投げ出す。平の体重がずっしりと重い。それでも離れる気になれなかった。
どれくらい経ったか、東は喉の渇きを覚え体を起こしかけた──すると再び体内で存在感を取り戻す感触。
「え……嘘…」
平が申し訳なさそうに眉を垂らす。
「ごめん……まだ……収まんなくて」
『足りないみたいね。続けてもいいけど体力持つかしら?』
心の声は揶揄う調子だ。しかし東自身も──火種を灯されたばかりの子宮が疼き始めている。
「いいよ……」
潤んだ瞳で応えれば、平が再び動き出した。
心の声は東に囁く。男は昼は淑女、夜は娼婦な女を求めてるのよ。娼婦になりきるのよ東。平専用の娼婦にね。と。
「平……専用の娼婦に……?」
東は呟くと、自らの唇を舌でなぞった。昼間の東紫乃――陽気で奔放だがどこか一線を引く「私」――とは異なる何かが覚醒するのを感じる。
**『そう。男なんて単純なものよ。夜の君が幻滅させれたら最後……昼の君がどんなに優れていようが関係なくなる』**
平が不安げに首をかしげた。突然沈黙した東を案じているらしい。
「東?」
その優しい呼びかけこそが罠だと心の声は嘲笑う。
**『騙しなさい。彼の幻想を守りなさい。そして壊しなさい。昼の仮面と夜の本性の落差に溺れさせるの』**
次の瞬間、東は自ら四つん這いになった。しなやかに腰を浮かせ、平に臀部を差し出す格好となる。
「ねえ……平。ここからが本番だから」
振り返ると妖艶な笑みを浮かべていた。目尻が赤く染まり、睫毛が濡れている。
**『言いなさい。“今夜だけ娼婦にならせて”と。ただし彼の眼を見てはいけない。俯いたまま言うの』**
「今夜だけ……平専用の娼婦にしてくれない?」
平が息を飲む音が聞こえた。戸惑いと欲望が入り混じる気配。
「……どういうこと?」
問い返す声は掠れている。
**『拒否はさせない。貴女が主導権を握るの。彼の背中をそっと押して、“こういうのが好きなんでしょ?”と言うのよ』**
東は躊躇なく平の肩に手を添えた。指先が食い込むほど力を込めると、彼の体が震える。
「こういうのが……好きでしょ? 昼間の私じゃなくて……」
言葉を切って彼の耳元へ囁く。
「こういう……乱れた私が」
*ズプ……*
背後から伸びてきた右手が秘裂に触れ、ゆっくりと侵入した。既に潤滑油のように湿った内部を探られると東の背筋が粟立つ。
「あっ……」
小さな声が漏れた。羞恥ではなく期待によるものだった。
**『まだよ。もっと淫らな言葉を使わなければ』**
心の声が冷酷に命令する。
**『“奥まで来て” “壊れるまで犯して”……試してみなさい』**
東は目を閉じたまま、ゆっくりと腰を振り始めた。内部を掻き回す指の動きに合わせて上下左右へ誘導する。
「ねぇ……奥まで来て?」
そう言って尻肉を平の大腿へ押し当てると、背後から熱い吐息が聞こえた。
「壊れるまで……犯して?」
確認のような問いかけ。東は小さく頷きながら振り返る。
「平が思うままに……私の全部を使って」
その言葉に火をつけられたように、平が猛然と突き上げてきた。
*ズチュッ! ズブッ!*
勢いのあるピストン運動に東の膝が崩れかけるも、背中を支えられ再び持ち上げられる。
「あぁんっ! 激し……っ!」
**『叫びなさい。もっと。彼の理性を溶かしなさい』**
東は顎を天井に向けて叫んだ。
「もっと! きて! 平ぁ!」
その瞬間――。
*ドクンッ!*
膣壁全体が強く痙攣し、東の視界が白く飛んだ。しかしそれでもなお止まない抽挿に神経が焼き切れそうになる。
「まだ……出るのかよ……」
朦朧とした意識の中で聞く平の独白。東は反射的に答えた。
「もっと……ちょうだい……」
自身でも驚くほどの甘ったるい声
心の声が嘲笑う。「まだ終わりじゃないわよ? 彼が欲しいのは結局――」
東の体が硬直した。理解できてしまった核心に、背筋に冷たい汗が流れる。
**『孕ませることよ。雌犬をね』**
平が腰を止め、怪訝そうに東の顔を覗き込んだ。涙ぐむ瞳と目が合う。
「東……?」
その呼び声は優しさと疑念が混ざり合っていた。まるで迷子になった子供のような声色。
**『その目を見るのよ。逃げちゃだめ』**
東は必死で呼吸を整えながら上半身を起こし、平と正面から向かい合った。彼の鎖骨に額を預けると囁く。
「お願い……平」
喉が震える。心臓が耳元で爆発しそうだ。
「私の……」
唇が乾く。唾を飲み込もうとして失敗する。
**『早く! 言いなさい!』**
「私の……子宮に……」
平が息を詰めたのが伝わった。
**『最後の一言を』**
「種付けして……ください……」
言った瞬間、全身の血が逆流する感覚。羞恥と恐怖と――ほんの僅かな達成感。
平が深く長い溜息をつく。そして東の腰を両手でがっちり掴み直した。
「後悔すんなよ?」
低い囁きには獣性が滲んでいた。東は頷くしかできない。喉がカラカラに乾いて言葉が出ない。
*グジュッ!*
角度を変えた一撃で子宮口まで届く衝撃が走る。東の脊椎を電流が駆け上がった。
「あぁあっ!」
反射的に逃れようとする下半身を力強く抑えつけられる。
「逃げるな」
平の命令は淡々としていた。しかしその奥底には確かに情欲の炎が燃え盛っていた。
*パァン! パァン!*
肌を打つ音と共に繰り返される激しい抽送。東は枕に顔を埋め呻きながら耐えるしかなかった。それでも――心の奥底で何かが悦んでいる。
**『いい子ね。これで彼は貴女から離れられない』**
嘲るように響く声も今では遠い。東はただ目の前の熱量を受け止め続ける。何度も何度も叩き込まれる欲望の塊に思考が霧散していく。
「東……出すぞ……」
最後通告とも言うべき宣言。東は朦朧としながら首肯した。
次の瞬間――
*ドクンッ! ドクドクッ!!*
熱い波濤が胎内に迸った。それまでの抽送とは比べ物にならない質量と温度。東の内部で跳ね回るそれに合わせて体が弓なりに反る。
「あぁぁぁっ!!」
悲鳴にも似た嬌声が喉から溢れた。意識が遠退きかけるも尚続く放出。
*トプ……トプ……*
ようやく収まった頃には東の身体は脱力し切っていた。荒い息遣いだけが室内に響く。
平がゆっくりと身体を離す。結合部から零れ落ちた白濁液がシーツを汚す光景さえ遠い世界のように見えた。
**『ホラこれで満足したでしょ?』**
心の声が勝ち誇ったように囁く。しかし東は何も答えられなかった。ただ虚ろな瞳で宙を見つめるだけ。
「ごめん……俺…」
我に返ったらしい平が慌ててティッシュを取りに行く背中。その姿を眺めながら東は思う。
(終わった)
深い喪失感と同時に奇妙な安堵感。どちらが本心なのかも判然としないまま瞼を閉じた。 朝が来たら全て夢だったらいいのに――そんな都合の良い願望すら馬鹿らしく感じながら。
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**『夢だったら良かったって? 冗談でしょ?』**
心の声は嘲笑と共に東の脳内で踊る。その嘲笑は鋭利な刃となって東の胸に突き刺さった。シーツに沈む肢体。まだ火照った皮膚が昨夜の記憶を否応なく想起させる。
『忘れられるわけないじゃない。あの平の顔――』
瞼の裏に焼き付いている情景が甦った。獣のように唸る喉仏。食い縛った歯列。汗で張り付いた前髪の隙間から覗く瞳は普段の彼とは別人のようだった。欲望に塗れ爛々と輝き、その視線だけで東の理性を焼き尽くそうとしていた。
「たいらぁ……」
声に出した途端、体内に残る鈍痛が鮮烈な記憶を呼び覚ます。押し付けられる掌の感触。無防備な背中を這う舌の熱さ。何度も何度も穿たれた肉棒の逞しさ――
「違う……そんなつもりじゃ……」
震える指先で自身の腹部を押さえる。薄い布越しにもわかる膨らみ。この下で蠢く生命の痕跡。平の精子が潜伏する領域。それを思うと胃液が逆流しかけた。
『何が違うのかしら?』
嘲弄めいた声音が脳内で反響する。
『あの時貴女は何を考えた? 彼の荒い息遣いに合わせて腰を振った時――』
「やめて……お願いだから……」
両耳を塞いでも止まらない囁き。まるで寄生虫のように脳内を這いずり回る。
『彼の熱を感じて喜んでたじゃない。子宮まで突き上げられて喘いでたじゃない』
東は嗚咽を噛み殺しながら窓際へ歩み寄った。カーテンの隙間から差し込む陽光が眩しい。昨日までの自分がここに存在した証拠を探すかのように床板を睨みつけるが何も見つからない。
「戻れない……」
ぽつりと漏らした独り言。返事はない。ただ虚無だけが広がっていく。
*コンコンッ*
不意にノックの音。驚愕して振り返るとドア越しに声が聞こえた。
「東?」
平の声だ。優しくもありどこか不安げな抑揚。
『ほぉら来たわよ王子様』
心の声が揶揄する。その囁きは毒蛇の鱗粉のように甘美で危険だった。
「入ってもいい?」
ドアノブが回る音。制止する暇もなく扉が開かれた瞬間、東は咄嗟に布団で身体を覆い隠す。
「具合悪い? 昨日――その」
言い淀む平の表情は昨日とは別人のように曇っていた。まるで叱責を待つ子犬のような瞳。そんな顔をさせてしまった後悔が胸を抉る。
(違う……責めたいんじゃない)
本当は抱き締めて欲しいのに。そうしたら昨晩の痛みも辛さも全部溶けてなくなる気がしたから。
「あの……本当にごめん」
深々と頭を下げる平。綺麗に刈り込んだ襟足が露わになる。その首筋には微かな紅い印――自分自身が刻んだ所有印。それを認識した途端全身の血液が沸騰したような錯覚に襲われる。
「謝らないで!」
叫んだ拍子に涙腺が崩壊した。ぼろぼろと零れ落ちる雫が枕カバーを濡らす。
「だって……私が……私が誘ったんだから……」
自分で言っていて恥ずかしくなる。けれど嘘ではない。確かにあの時自分から手を伸ばしたのだ。彼の熱を求めたのも彼の匂いに酔ったのも全部自分からだった。
「そんなわけ……」
反論しようとする平の言葉を遮るように言葉を紡ぐ。
「平に抱かれたくて仕方なかったの! あの声が聞こえ始めた時からずっと……」
打ち明けることで心が軽くなるどころか益々重くなった。言葉にすることで逃げ場を失っていく。まさに自縄自縛の状態だ。
『言ったわねぇ。全部曝け出したわね?』
心の声が嗜虐的な口調で囁く。
『彼はどう思ったかしら? 最低な女だと思ったんじゃないかしら?』
脳内の言葉に釣られるように平を見る。困惑と哀愁と何よりも深い愛情が混ざり合った表情。それは東が想像していたどの感情とも違った。
「東」
優しい声色で名を呼ばれるだけで全身に甘い震えが走る。
「そんな風に自分を傷付けないで」
そっと伸ばされた指先。昨晩と同じ掌なのに今は恐ろしく暖かい。その温もりを逃したくなくて無意識のうちに握り返してしまう。
「俺の方が悪かったんだ。東があんなになってるの知ってて止められなくて」
「違う! 私が望んだの!」
再び叫んだ瞬間、心の奥底で何かが弾ける音がした。堰き止めていた感情が決壊し濁流となって溢れ出す。
「平の事が好きなの!」
唐突な告白。自分でも信じられない言葉だった。これまで幾度となく蓋をしてきた気持ち。しかし今ここで言わない限り一生後悔するだろうと確信した。
平は呆然と立ち竦んでいる。当然だろう。つい数時間前まで彼女は怯え震えていたのに突然愛の告白をしてきたのだから。
『バカねぇ。今さらそんな事言ったって遅いわよ』
心の声が勝ち誇ったように嗤う。
『どうせ昨日の出来事は変えられないんだし』
「それでもいい」
東は微笑む。涙に濡れた頬に笑みを刻む。そこに宿るのは諦念ではなく静かな決意だった。
「どんな結果になっても私は平の側に居たい」
その宣言に平の瞳孔が収縮する。喉仏が上下に動き唾を飲み込む音すら聞こえるような距離。互いの呼吸が混ざり合う空間。
「俺も東が好きだ」
絞り出すような声。しかしそこには一点の曇りもない真摯さがあった。
「これからちゃんと責任取るよ。どんな形であれ必ず」
責任という言葉に東の心臓が跳ね上がる。そうだ責任だ。もし万が一妊娠していれば堕胎か産むか選択を迫られる。その重大さを考えれば恐怖で膝が震えた。
『あらまぁ大変ねぇ』
心の声が愉快そうに囁く。
『堕ろすなら早めに決めないと面倒な事になるわよ』
(わかってる……)
内心で返事をする。すでに月経周期から考えて危険日だったことは承知している。しかも避妊具なしでの性交渉。そのリスクを考慮すれば選択肢は限られる。
「検査薬買ってみる?」
平の提案に小さく首肯する。できれば早く結果を知りたい。可能性があるならば猶予期間は短いほうがいい。
『結局産むか産まないかよねぇ』
心の声が核心をつく。
『母親になる準備なんてできてないでしょう?』
(うん……できないと思う)
正直に認めるしかない。まだ学生で経済的な自立もできていない状況で子育てなどできるはずもない。ましてや望まぬ妊娠となれば尚更だ。
「もし……もしもそういう事になったら」
口籠る東を優しく見つめながら平が言葉を紡ぐ。
「一緒に考えるから。一人で抱え込まないでくれ」
その一言に救われる思いがした。孤独に戦う必要はない。共に戦ってくれる人がいるという事実だけで心強くなれる。
『ふぅん。殊勝な態度ね』
心の声が皮肉混じりに評する。
『でも所詮は口だけかもしれないわよ?』
(大丈夫)
確信があったわけではないが不思議と平を信じられた。これまで見てきた彼の誠実さと優しさは嘘偽りのないものだと感じていたから。
「ありがとう」
礼を言うと同時に涙腺がまた緩みそうになる。慌てて顔を背けるが肩越しに感じるのは確かな温もり。平の大きな掌が労るように背中を擦っていた。
「今日はゆっくり休んで」
囁きと共に扉が閉まる音。一人きりになった部屋で東は静かに目を瞑る。
(もし赤ちゃんができてたらどうする?)
自問しながら腹部を撫でる。まだ何も感じないそこにある生命の存在。喜ばしいはずなのに不安の方が大きいのは何故だろう。
(やっぱり産めないかも……)
正直に認めざるを得なかった。今の自分には無理だ。経済的にも精神的にも荷が重すぎる。それに大学進学の夢もある。中退して子育てに専念する覚悟もない。
『ほらみなさい。最初から期待なんかしない方が良かったのよ』
心の声が嘲るように囁く。東は唇を噛む。だが反論することはできなかった。現実問題として不可能なのだから。
翌朝、薬局で購入した検査キットを持ってバスルームへ向かう。緊張で手が震えたが深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「……よし」
意を決して操作すると数秒で判定が出た。
「陰性……」
安堵の溜息が漏れる。良かった、少なくとも今回は大丈夫だった。とはいえ安心するにはまだ早い。次回の生理が来るまでは油断できないし、今後も十分注意が必要だ。
部屋に戻ると既に起床していた平と目が合う。
「どっちだった?」
平静を装いつつ尋ねてくる姿に少し笑ってしまう。あれだけ必死になっていた割には照れ臭そうな表情がかわいいと思ってしまった。
「大丈夫だったみたい」
そう告げるとほっとしたような表情を見せる平。その反応に心が痛む。本当は自分以上に彼の方が悩んでいたのだろうから。
『あらつまんない、残念だけど、これで一件落着ね』
心の声が不満足げに呟く。
『じゃあ次は何を始めましょうか?』
(え?)
思わず聞き返したくなる問いかけだった。確かに一つの問題は解決したけれどそれは新たな展開への幕開けでもあったのだ。