サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
オクタヴィアの両足首の枷が、寝台の足側の隅から伸びる鎖から外された。
代わって繋がれたのは、天井から垂れ下がる二本の鎖だ。
金具が軋み、鎖がゆっくりと巻き上げられていく。
両脚が持ち上がり、やがて腰が寝台からわずかに浮いた。
「ああ……」
オクタヴィアは、その屈辱的な格好に、思わず声をあげてしまった。
「四肢の弛緩も解いてやるよ。動ければ多少はましになるだろうさ」
アルジェが笑った。
すると、四肢を封じていた魔道枷の効力が解かれたのか、指先が動くようになった。
腕にも、脚にも、感覚が戻ってくる。
だが、自由になったわけではない。
手首と足首は依然として鎖に繋がれ、身体を動かそうとするたび、金具が小さく鳴った。
「……お願いだから……」
かすれた声が漏れた。
それよりも、股間とアナルの痒みは、もう限界を越えている。堪らない掻痒感に、オクタヴィアは腰の痙攣のような震えをとめることができなかった。
気がつくと、顔を左右に振りながら呻き声を漏らしていた。
しかし、これに耐えなければこの痒みの地獄が収まらないのだ。
アルジェの指示を受けた女兵が、操作具を使って、オクタヴィアの腰に巻かれた貞操帯の留め具を外す。
かちり、と小さな金属音が腰の下で響いた。
女兵たちが革帯を引き抜き、取り外した貞操帯を傍らの台に置いた。
「あらあら、とんでもないことになっているじゃない。主任もただの女だったのねえ」
革帯を腰から抜いた女兵が笑った。
「蜜もすごいわ。泡がいらないくらい」
「ああ……それよりも早く……」
オクタヴィアは、思わず小さく声をあげた。
「これから陰毛を剃り上げるけど、腰を振って暴れられると作業の邪魔だ。張形を挿したままにしておくから、必死に締めつけて、それで我慢しな」
アルジェがお尻の横をぴしゃりと平手で叩く。
その恥辱に奥歯をぎゅっと噛みしめる。
だが、痒いのだ。腰が痙攣するように震えるのをとめられない。必死に顔を左右に振りたてながら、オクタヴィアは呻き声をあげた。
「すっかりと陰毛がなくなって、肉肌が剥き出しになったら、その情けない姿を、主任が世話をたくさんした一般囚に見せに行きましょうね」
「まあ、可哀想。これまで主任が厳しく当たっていた一般囚の女囚や、男衆の前にその格好を晒すのね、ご同情しますわ」
女兵たちが作業をしながら揶揄をする。
一瞬、血の気が引くが、すぐに痒みの苦悶が全身を身悶えさせる。苛酷な掻痒感で、もうまともに思考することもできない。
そして腰枕をお尻の下に挿入されて、腰を持ちあげられた。
「じゃあ、主任、お毛けを剃りますね。動かないでください」
女兵が左右から刷毛で股間に泡を塗りつけてきた。
「ひいいっ」
そのくすぐったい感触に、オクタヴィアは思わず二肢を吊られている裸身を反り返らせてしまった。
「動くなって、言ってんだろう──」
アルジェが大笑いした。
しかし、極限の痒みに襲われている股間を、繊細な刷毛で擦られ、撫であげられて、オクタヴィアはどうしても腰を激しく動かして悶えてしまう。
やがて、刷毛を剃刀に持ち替えた女兵が、左右からオクタヴィアの陰毛を剃っていく気配がした。
「ああ、無理よお──。痒いいいっ」
しかし、狂うような痒みに耐えてじっとしているなど不可能だった。
どうしても、宙吊りの両脚を跳ねあげるように暴れてしまう。
「うわっ、暴れるなよ。危ないだろうが──」
「ちょっと、主任──」
女兵たちが慌てたように剃刀を離した。
「こりゃあ、だめだね。もう一度、枷で弛緩させるか」
アルジェが言い、なにかをポケットからだして操作するのがちらりと見えた。
再び、四肢の感覚が消滅する。しかも、今度は腰も胴体も動かなくなった。動くのは首から上だけだ。
「じゃあ、再開だね」
「今度こそ、童女の股みたいにしてあげますよ、主任」
女兵たちが股間で剃刀を動かす冷たい感触が戻ってきた。
彼女たちは、剃刀で陰毛を剃っては、オクタヴィアの内腿に擦りつけていく。それを別の女兵が指ですくっては、手元の紙に移していく。
しばらく、そんな作業が続く。
「急くことはないさ、このオクのたっての希望だ。ゆっくりと剃ってやんな」
アルジェが横から声をかけた。
「はーい」
「じゃあ、泡をもっと塗り足してあげるね、主任」
剃毛を続けていた女兵たちが顔をあげて、刷毛に持ち替えた。
再び、刷毛で股間をすっすっすと掃くように動かしだす。
「ひいいいっ──許して、もう──」
今度は身体を跳ね動かしたいのに、ぴくりとも身体が動かない。それなのに、刷毛で股間を刺激されるくすぐったさと、焦燥感と、強い快感だけが襲うのだ。
しかも、刷毛のような繊細なものでは、掻痒感が癒えることなどなく、強い刺激への渇望だけが膨れあがる。
オクタヴィアは、泣き叫び続けた。
しばらくのあいだ、ゆっくりゆっくりと陰毛が剃られていき、さらに合間に刷毛でくすぐられるという悪戯を繰り返された。
絶頂こそしなかったが、その寸前まで、幾度も感覚をせり上げられていく。
オクタヴィアは、命令を与える立場だった女たちの手で剃毛されるという、言語に絶する辱めを受けながら、いつしか羞恥も屈辱も薄れていき、被虐に恍惚とした悦びのようなものに包まれていく気がしてきた。
痒みの苦悶さえも、心を酔わせるような快感に繋がる気がした。
やがて、左右の女たちの剃刀が股間側からアナル側に移動する。
オクタヴィアは、もう観念してされるがままになる。
しばらくすると、女兵ふたりが顔をあげて、剃刀を横に戻した。
「はい、仕上がりましたよ、主任」
「可愛くなりましたよ。見てください、隊長──」
作業を終えたらしいふたりが得意そうにアルジェを振り返るのがわかった。
「ほう、本当に可愛らしいじゃないかい。それにしても、三十にしては綺麗な桃色の股間だ。使ってないというのは本当そうだね」
アルジェが笑う。
オクタヴィアは、唇を噛みしめた。
「……それよりも、痒い……。約束よ……。なんとかして……」
オクタヴィアは、切なげな声をあげて首を左右に振る。
肉体の動きを完全に封じられたことで、刺激への渇望感がさらに際立ち、まるで無数の虫に這い回られている感覚が襲っていた。
痛みにも似た股間とアナルの痒みと、クリトリスの疼きがオクタヴィアを狂おしく責め立てている。
「ああ、そうだったね。一応、オクの股間を剃っているあいだに準備はできてる。あとは、その膨れあがっているクリトリスに堅糸を結びつけるだけだ」
オクタヴィアは、ふと天井を見上げた。
いつの間に準備したのだろう。両脚を吊り上げている滑車とは別に、もうひとつの滑車が取り付けられていた。そこから細い鎖が垂れ下がり、その先に繋がれた糸が、寝台の方へ伸びている。
いったい、なにをするつもりなのか……。
オクタヴィアには、アルジェたちの意図がまったくわからなかった。
「なあに、たいしたことじゃないさ。女囚への掟だから掻痒剤放置は変えられないけど、その代わりに、クリトリスの根元に糸を繋いで引きあげてやろうということさ。弛緩を解いてやるから、痒ければ腰を振ればいい。激痛で少しは痒みもましになるさ」
アルジェがさらに、女の花芯を糸で抉り上げるという凄惨な仕打ちについて説明する。
オクタヴィアは黙って聞いていたが、やがて、その意味するところが理解できてくると顔を引きつらせた。
「い、いやよ──。そんなこと冗談じゃないわよ──。やめなさい──」
オクタヴィアは、唯一自由に動かせる首を激しく左右に振る。
「なんだい。せっかく、可哀想だから、この夜中にやってきてやったのに。そんなに嫌かい、オク?」
アルジェがせせら笑った。
ほかの女兵たちも、どっと笑い声をあげる。
「約束が違うわ。あんまりよ──」
「ああ、そんなに嫌なら、なおさら覚悟してもらわないとね。これはサロンの正式な矯正項目には入っていないが、あたしたち女兵隊名物の豆吊り
「そうです、主任。あたしたち、敬愛していた主任に受けてもらいたくて」
「これまで受けた者は、誰も彼も一度で大人しくなりましたけどね。主任がどう変わるか、愉しみです」
女兵たちが口々に言った。
オクタヴィアは、もう一度、天井から垂れ下がる鎖を見上げた。
「本当にいや──。それだけはやめて──」
オクタヴィアは、狂ったように首を横に振る。
「いや、問題ないですよ。それだけ、クリトリスが膨らんでいれば、簡単に終わります」
剃毛をしていた女兵たちとは別の女兵たちが前に出てきた。
ひとりの指先が股間に触れ、もうひとりは天井の滑車に繋がっている堅糸をたぐり寄せ始める。
オクタヴィアは、悲鳴をあげた。
「たかが、女兵隊名物の豆吊りです。氷の女の異名を持つ主任なら大丈夫ですって」
「仮にも主任矯正官だったオクタヴィア様が、このくらいの私刑で狼狽えるなんてみっともないですよ」
股間が柔らかく指でほぐされだす。
痒みに襲われている股間に受ける指の愛撫は、途方もなく気持ちよかった。
それだけで、オクタヴィアはもう抵抗する気力を失っていき、魂をもぎ取られたようになり、熱っぽく喘ぐだけになる。
やがて、股間で淫らな水音が鳴るようになってきた。
「あ、ああ……」
ついには、喰いしばった口からむせ返るような声が漏れる。
しかし、首から下は魔道の枷と、おそらく魔核により完全に弛緩されている。オクタヴィアには抵抗の手段もない。ただ感覚だけが鋭く襲っていた。
女兵の指が股間で動き続ける。
「ああっ、あっ、ああ──」
あっという間に、オクタヴィアは快感を押しあげられて、激しく身悶えた。
眼がくらみ、全身に汗が噴き出す。下半身が火のついたように熱くなり、弛緩されている身体が強く硬直したように感じた。
「いまよ」
しかし、そのまさに肉体が絶頂しようとした瞬間に、激痛が股間に走った。
いつの間にか股間に、糸がしっかりと結びついており、鎖があがっていくとともに糸がせり上がっていたのだ。
吊り上げられている両脚のあいだで、すでにぴんと糸が真っ直ぐになっていて、それで股間に激痛が走ったようだ。愛撫に気を取られていて、クリトリスの根元に糸が結びつけられたことさえわからなかったようだ。
「ひぎいいっ」
オクタヴィアは戦慄めいた声をあげてしまった。
「じゃあ、約束だ。弛緩は解いてやるよ。痒ければ好きなように腰を振りな。痛みで痒みがましになるさ」
アルジェがせせら笑った。
股間を糸で繋がれて、抉り上げられている──。
その信じられないような屈辱、いや、屈辱なんてものではない。凄惨な仕打ちに、頭の芯まで痺れきり、意識が朦朧とさえなるみたいだった。
しかし、その苦悶の中にも、名状のできない甘美感もある。
オクタヴィアは、揉み抜かれるような甘く切ない疼きに身体が熱くなっていくのを感じていた。
「も、もう許して──」
オクタヴィアは、自分を見下ろしているアルジェに哀願をした。
「馬鹿言うなよ。その苦痛があるから痒みに耐えられるんだろうが、もう弛緩は解除してやったよ。思う存分腰を振りな」
アルジェが無造作に、滑車に繋がっている糸を手に引っかけてたぐり寄せた。
「んぎいいっ、やめてええ──」
クリトリスが糸で引っ張られる激痛に、オクタヴィアは狂気したように首を振る。
しかし、同時に一瞬にして痒みが消える快感に、身体が蕩けそうなくらいの気持ちよさも覚えた。
「ははは、こうなってしまえば、さすがの主任矯正官も形無しだな。ついでに張形も振動させておいてやるよ。好きなだけ絶頂しな。その代わりに、小便は洩らすんじゃないよ。それは明日の朝だけだからね」
アルジェの言葉が終わると同時に、股間とアナルに挿入されたままだった張形が淫らな振動と蠕動運動を開始した。
「うあああっ」
次の瞬間、オクタヴィアは眼がくらむような戦慄とともに絶頂感を極めていた。昼間からの責めで、快感を膨らされるだけ膨らまされて、絶頂だけが与えられていなかったのだ。
それもあり、オクタヴィアの身体は、張形の振動に耐えられずに、一気に飛翔してしまった。
「んぐううっ」
オクタヴィアはがくがくと身体を震わせて昇天した。
その身悶えで股間に激痛が走ったが、それさえも快感だった。
しかし、すぐに愕然となる。
振動は終わらず、掻痒感も消失しない。股間の激痛も続き、オクタヴィアはまたもや快感を引きあげられていく。
「ああ、もういやああ──」
さすがにオクタヴィアは泣き叫んだ。
「いい感じだねえ。じゃあ、オク、しばらく愉しんでな。夜中に起こされた分、あたしたちの起床は遅れる。それまで、オクも好きにしていい」
アルジェたちが部屋から出て行く。
オクタヴィアは、早くも二度目の快感を極めそうになりながらも、懸命にアルジェたちの名を呼んだ。
しかし、彼女たちは部屋の向こうに消えて、再びひとりにされる。
部屋が消灯し、闇の中で、オクタヴィアの悲鳴混じりの悶え泣きだけが響いた。