サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「そ、そんなことできるわけないでしょう──」
オクタヴィアは金切り声で怒鳴りあげた。
しかし、その途端、張形が股間とアナルで暴れだした。
「んぐうっ」
髪を掴まれたまま、身体を硬直させた。
太腿から膝に掛けて、強いおののきが駆け巡る。身体ががくがくと震える。
「いいざまだね、主任。いつものように、もっと毅然としてなよ。たかが寸止めだろう。それとも、肉便器になるのを承諾するかい?」
アルジェが髪の毛を離して、オクタヴィアの横で立ちあがった。
肉便器──?
てっきり、男たちの玩具になれという意味なのかと思ったら、文字通りの意味だった。三日間、女囚たちや男兵たちの小便を飲み続けるのだという──。そんなことできるわけがない──。
しかし、股間の激しい疼きに耐えながらの抵抗は辛い……。
一昨日と昨日の果てしない連続絶頂責めは、オクタヴィアの身体に、女としての快感を極めることと、肉の悦びを植えつけてしまった。刺激の最後には、否応のない絶頂が来ると頭に刻み込まれてしまっている。
その身体にされてしまったオクタヴィアに、この連続の寸止め責めは堪らない。
これほどまでに、女の尊厳を打ち砕き続ける責めがあるのだろうか。
まさに、性の地獄だ。
「はあっ、はああ……」
絶頂寸前まで追いあげられ、やはり、二本の張形はぴたりと運動を静止する。
がくりと脱力してしまう。
「立ちな。命令だ……」
アルジェが顔から笑みを消して、腰から短い棒を抜いて、一瞬で長くする。
〈懲罰杖〉だ──。
女囚を躾けるための魔道具であり、尖端に肌を触れさせて作動すれば、苦痛そのものが魔核と連動して発生する仕組みになっている。脳に直接、その部位の苦痛の情報を送り込む仕組みであり、耐えるという概念を存在させない。
さすがに、恐怖が走り、オクタヴィアは立ちあがった。
繰り返される寸止めの責めで、まだ膝にうまく力が入らない。
「くああっ、またあ──」
すると、また張形が激しく動きだした。
オクタヴィアは、膝をがくんと落としてしまう。
だが、オクタヴィアの腹に、〈懲罰杖〉の尖端が突きつけられた。背にどっと冷たいものが流れる。作動はまだされていないが、この懲罰杖の恐ろしさは身に染みていた。
昨日と一昨日の責めでは、連続絶頂だけでなく、懲罰杖による躾けも体験させられていた。
必死に膝に力を入れ、身体を翻弄する刺激に耐える。
あっという間に達しそうになった。
すると、ぴたりと張形が振動を静止する。
「くう……」
満たされない苦悶に、思わず声が漏れる。
「情けないかい……? 惨めかい……? 是非とも感想を教えてほしいね……」
アルジェが懲罰杖の尖端を腹から顎の下に移動して、オクタヴィアの顔を前に向けさせる。
「つ、辛いに決まっているでしょう──」
オクタヴィアは怒りが込みあがって、思わず怒鳴る。
辛いなんてもんじゃない。絶頂を繰り返し寸止めされることが、これほどの苦痛とは思わなかった。頭はもう快楽を極めることしか考えられない。
しかし、肉便器など承諾できるわけがない。
ただ、それだけで懸命に抵抗している。
「なら、肉便器になると誓うことさ。それが開放の条件だ。さもないと、寸止め責めはいつまでも続くよ。あたしたちに面倒はない。ただお前の股ぐらと尻の穴に、その魔核入りの張形を挿入したままにして、放っておくだけだからね」
「ふざけないでよ──。あ、あんな条件、呑めるわけないでしょう──」
オクタヴィアは涙目でアルジェを睨む。
「うん、そうこなくっちゃ。じゃあ、我慢比べだね……。あんたがいつ堕ちるか……。本当に愉しみさ」
アルジェが笑いながら、懲罰杖を腰の横に戻して、代わりに取り出した紐をオクタヴィアに嵌められている革の首輪の前に繋いだ。
「来な──」
アルジェが紐を思い切り引っ張る。
体勢を取り損なって、オクタヴィアはたたらを踏む。なんとか姿勢を戻して、引き紐に従って歩く。
「どこに行くのよ?」
「散歩だよ」
アルジェはそれだけ答えると、オクタヴィアを連れて部屋を出た。
廊下へ出ても、引き紐が外されることはなかった。
アルジェが先を歩き、その後ろをオクタヴィアがついていく。
こんな格好で、いったいどこへ連れていくつもりなのか……。
しかも、歩いているあいだにも、身体を苛む責めは断続的に繰り返された。
「あっ……」
不意に襲ってくる刺激に、思わず足が止まりそうになる。
「止まるんじゃないよ」
前を歩くアルジェが、振り返りもせずに引き紐を引いた。
「わ、わかってるわよ……」
歯を食いしばって歩き続ける。
しかし、ようやく身体が求めているところまで届きそうになると、決まって刺激は消えてしまう。
「くう……」
まただ。
オクタヴィアは唇を噛んだ。
もう身体の感覚がおかしくなっている。
満たされない状態があまりにも長く続き、疼きそのものが飢餓のようになっていた。
それでも歩かなければならない。
やがてオクタヴィアは、同じサロンの二階でも、特別囚の収容室が並ぶ一角ではなく、勤務員たちの部屋が並ぶ区画へ連れてこられたことに気づいた。
「……ちょっと」
足取りが鈍る。
ここは……。
見間違えるはずがない。
ほんの数日前まで、毎日のように自分が歩いていた廊下だ。
そして、アルジェが立ち止まったのは、オクタヴィアが最もよく知っている部屋の前だった。
「どうして……ここなのよ?」
オクタヴィアが呟く。
〈主任矯正官室〉──。
つい数日前まで、オクタヴィア自身の執務室だった部屋だ。
アルジェが扉を叩いた。
「主任、六番特別囚を連れてきたよ」
すると、扉の向こうから「はーい」という明るい女の声が返ってきた。
ほどなく、扉が室内側から開かれた。
開けたのは、ひとりの女兵だった。
その向こう──。
正面に据えられた主任矯正官用の大きな机に、ひとりの若い女が座っている。
その傍らには三人の女兵が立っていた。扉を開けた女兵を含めれば四人。いずれも、なぜかオクタヴィアを待っていたかのようにこちらを見ている。
そして、机の向こうに座る官吏姿の若い女が、満面の笑みを浮かべていた。
「オクタヴィアお姉さま、お久しぶりですわ」
「……カリン? どうして、あなたがここに?」
オクタヴィアは眼を見開いた。
それ以上、言葉が続かなかった。
カリン=アルノー ──。
オクタヴィアが王都の暫定政府機関で官吏として勤務していたときの部下のひとりだ。年齢は二十二歳。オクタヴィアより八歳も年下だ。
しかし、若いが女官としての能力は高い。仕事の覚えも早く、判断力もある。才能のある後輩を鍛えるつもりで、オクタヴィアもかなり厳しく指導した。
ただし、仕事以外では少々困ったところがある女だった。
何度注意しても、オクタヴィアのことを「お姉さま」と呼び、やたらにオクタヴィアに身体を寄せてくるのだ。
職場なのだから、公私混同はやめなさいと叱っても、しばらくすると、また「お姉さま」に戻って、親密そうにオクタヴィアに抱き付いてきた。
人懐こい笑顔でまとわりついてくるカリンを、何度たしなめたかわからない。
そのカリンが──なぜ、ここにいる?
しかも、どうして主任矯正官の机に座っているのだ。
「ふふ、お姉さま、素敵な格好ですね。着痩せするタイプとは知りませんでしたわ。お胸も大きいんですね」
呼びかけられて、オクタヴィアは我に返った。
そして次の瞬間、自分がいまどんな姿でこの部屋に立っているのかを思い出した。
首環を嵌められ両手を背中側で拘束されているほぼ全裸──。
羞恥が襲う。
「……っ」
顔が熱くなる。
よりによってカリンに──かつて自分の部下だった女に、こんな姿を見られている。
オクタヴィアは反射的に身体を横へ向けて、少しでも自分の姿を隠そうとする。
だが、すぐに首環から伸びる引き紐が張った。
「おっと。なに隠そうとしてるんだい」
アルジェだった。
しかも、尻たぶを平手で思い切り叩かれた。
「つっ」
オクタヴィアは思わず顔をしかめた。
「まあ、お姉さまの躾は、まだまだ進んでないようですのね。もう今日で四日目になるのでしょう?」
カリンは口元に笑みを浮かべたまま、アルジェに視線を向けた。だが、目元には険しいものがある。
それはともかく、オクタヴィアは、カリンの物言いに唖然となる。
まだ理解が追いつかない。
「ふふ、いま追い込みを掛けているところですよ。仕上げは、新主任にお願いしようかと思いましてね」
アルジェがそう言いながら、いつの間にか天井から降ろしてきた鎖に、後手に掛けてある手錠を繋いだ。首輪の引き紐は外される。
オクタヴィアには言葉も出ない。
新主任──?
いまそう言った?
「ほら、身体をお見せしな」
アルジェに腕を掴まれて、正面を向かされる。
「あっ、いやっ」
その瞬間だった。
またもや、股間の張形が激しく動きだして、オクタヴィアは身体を反応させてしまった。
「まあ、可愛らしいですわ、お姉さま」
すると、カリンが手を叩いて歓声をあげた。
だが、股間で張形が淫らに暴れ続けている。強烈な快感が全身に走る。
顔を上げられない。
「あ、ああ……んくうっ」
必死に噤んだ口から淫らな声が迸ってしまう。
ほんの数日前まで自分が使っていた執務室──。自分が座っていた主任矯正官の席に、当たり前のように座っているかつての部下──。
そして自分は、その机の前に立たされて、玩具に喘がされている──。
快感がせり上がる──。膝が崩れそうになり、背中の手錠に繋がれた鎖が張って、それを阻まれる。なんとか脚を踏ん張る。
「ふふっ、いつもかっこよかったお姉さまがなんて無様なんでしょう。素敵ですわ」
カリンの楽しそうな笑い声が聞こえた。
しかし、張形の振動が強烈になる。思念を奪われる。
「あ、ああ、だめええ──」
叫んだ。
声を出さないと、とてもではないが我慢できないのだ。
その途端、張形がぴたりと振動を静止する。
「ああっ……」
思わず叫んで、またもや膝を崩しそうになり、必死に踏ん張る。
締めつけているはずの革帯の隙間から、ねっとりとした蜜が内腿に漏れ流れ、いつのまにか足の指まで濡らしていた。
「でも、いつまで意地をお張りになりますの、お姉さま? だって、肉便器におなりになることを承諾しませんと、永遠に絶頂できませんのよ。それがお姉さまがお受けになっている寸止めを解放する条件なのですもの」
すると、カリンがそう言った。
オクタヴィアは、自分の耳を疑った。
そのとき、カリンの視線が何気なく横の壁へ流れたような気がした。
つられるように、オクタヴィアもそちらを見る。
「あっ」
オクタヴィアは、そこにあったものに思わず声をあげてしまった。
壁に並んでいたのは、八個の〈映録球〉だった。
そのひとつひとつに、別々の場所の光景が映し出されている。
見間違えるはずがない。
すべて、つい先ほどまでオクタヴィアが収容されていた特別囚用の区画だ。
寝室──。
矯正室──。
浴室──。
それらを繋ぐ室内廊下──。
ほかにも、オクタヴィアが生活する区画の各所が、それぞれ異なる角度から映し出されている。
いまは本人がここに連れてこられているため、どの映像にも人影はない。
そして、そのうちのひとつを見て、オクタヴィアは顔を引きつらせた。
排便具だ。
しかも、内側の底部から上方を見上げるような角度だ。どの場所でも、映録球の存在には気がつかなかった。おそらく、監視する側の映録球は巧妙に隠されているのだろう。
このサロンでは、収容されている女囚を監視するため、施設の各所に〈映録球〉が設置されていることは知っている。
主任矯正官だったオクタヴィア自身、それを使って女囚たちの様子を確認する側だったのだ。
だから、監視されていることそのものに驚いたわけではない。
問題は──。
「……全部、わたしなの?」
八つだ。
壁に並ぶ八つの映像、そのすべてがオクタヴィアひとりを監視するために使われている。
寝ているときも。
浴室にいるときも。
廊下を歩いているときも。
矯正を受けているときも。
そして、いずれ使わされることになる排便具まで。
もしかして、全部、ここで見られていた?
しかも、これからも見られ続けるのか──?
自分があの区画にいるかぎり、ほとんど一瞬たりとも監視の目から外れることはできない……?
「……なによ、これ……?」
オクタヴィアは、ゆっくりと主任矯正官の机へ顔を戻した。
カリンは相変わらず、満面の笑みを浮かべている。
「もちろん、お姉さまを観察していましたの。これからも、ずっと見させていただきますわ。だって、そのために、わたしは主任矯正官になったんですもの。もう根回しが大変でしたわ。おじさまって、予定を変更して、急にお姉さまを女囚に落とすんですもの」
カリンがころころと笑った。
オクタヴィアは眼を見張った。
「ああっ、いや──」
しかし、またしても股間の淫具が予告なく激しく動きだす。
オクタヴィアは、全身を突っ張らせた。
「お姉さま、いいお顔ですわ。被虐の段階が進んできている証拠ですね」
満足そうにオクタヴィアを見つめるカリンが、すっと机上に手を伸ばすのが見えた。