サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
四人の女兵に囲まれながら、オクタヴィアはカリンにエスコートされて隣室へと向かった。
奇妙なエスコートだった。
女官らしいスーツ姿のカリンに腕を取られ、その隣を歩くオクタヴィアは、貞操帯だけを身につけた裸身なのだ。
隣室へ入ると、オクタヴィアは思わず室内を見回した。
先ほどまでいた主任室とは違い、こちらは小さな貴賓室のように整えられている。
ほんの数日前、オクタヴィアが主任矯正官だったころには、主任室からあふれた書類や備品を置く、書類庫同然の部屋だった。それがいまでは調度品まで入れ替えられ、以前の面影はほとんど残っていない。
その変わりように、オクタヴィアは驚いた。
部屋の中央には白い卓布を掛けたテーブルが置かれ、二人分の食事がすでに用意されている。
豪勢な晩餐というほどではない。だが、監禁されてからというもの、犬食いするための餌のような食事しか与えられてこなかったオクタヴィアにとっては、久しぶりの人らしい食事だった。
大きな一枚の皿には、香草を添えて焼いた鶏肉と、じゃが芋や人参などの温野菜、それにパンが盛りつけられている。その脇には葉野菜のサラダがあり、さらに陶器のスープ皿には、玉葱や豆を煮込んだ温かなスープが湯気を立てていた。
給仕が一皿ずつ運んでくるような正式な晩餐ではない。それでも、白い卓布の上には磨かれた銀器が整然と並び、二つの席にはナプキンまで用意されていた。
四人の女兵は、オクタヴィアたちがテーブルの前まで来ると、それぞれ左右へ分かれた。そのまま二人ずつ、部屋の左右の壁際に侍るように立つ。
アルジェの姿だけはなかった。
どうやら、この食事には同席しないらしい。
「どうぞ、お姉さま」
「……え、ええ」
カリンに促され、オクタヴィアは椅子に腰を下ろす。
続いて、カリンが向かい側の席につく。
そこで改めて、オクタヴィアは自分の格好を意識してしまった。
隙のない女官姿のカリンに対して、オクタヴィアが身につけているものといえば、腰まわりを覆う貞操帯だけだ。
裸でいること自体なら、この数日ですっかり珍しいことではなくなっている。
だが、いまは違った。
目の前には白い卓布の掛けられた食卓があり、温かな料理が並び、磨かれた銀器があり、ナプキンまで用意されている。そして、その向こうには、きちんと服を着たカリンが座っている。
どこにでもある、普通の食事の光景だった。
だからこそ、その中にいる自分だけがひどく異質に思えた。
オクタヴィアは思わず視線を落とした。
食卓につき、向かい合って食事をする。ただそれだけの当たり前のことなのに、まともな衣服すら身につけていない自分の姿が、急にひどく恥ずかしく感じられたのだ。
「くはっ」
いきなりだった。
股間に挿入されている張形が激しく動き出したのだ。
すっかり油断していたので、受けた衝撃は強烈だった。股間に両手を当てて、身体を押し曲げる。
「ふふ、ねえ、お姉さま、ところで、わたしの子猫になる決心はつきまして?」
「な、なにを……」
奥歯を噛みしめながら、顔をあげる。
カリンは、愉しそうに口元に笑みを浮かべている。
そうしているうちに、だんだんと振動と蠕動が激しくなっていく。確実にオクタヴィアの快感の場所を抉ってくる。
「気持ちよさそうですね……。とても、よいお顔ですわ。こうやって、意地悪されるのがお好きになったのでは?」
「そ、そんな……わけ……ないでしょ……う」
股間を押さえたまま、上半身を前に傾けた。
快感が突き抜けていく。
股間が律動されるように刺激され、張形の根元がクリトリスを揉み動かす。
「あう、んくううっ」
声をあげてのけぞり、がくんがくんと裸身を跳ねさせた。汗が飛び散る。
その途端、一気に張形が緩やかになる。
「ああ……」
やっぱりいけない。
馬鹿にしたように、張形がわずかに股間で震えるだけになる。クリトリスの刺激まで止まった。
まるで張形が意思を持っているかのように、責めを制御している。
「いきたかったら、わたしの子猫になるとお誓いください。すぐに、寸止めから解放してさしあげますわ」
「……そして、肉便器……?」
オクタヴィアは、カリンを睨んだまま言った。
もう屈してしまえという考えが、心によぎる。どうせ、このサロンにいる限り、性の玩弄から逃れられる方法はないのだ。
だが、あの肉便器になって、厠で小便を飲み続けろということだけは受け入れられない。
「そうですね。だって、お姉さまには、わたし専用の便器になってもらうつもりですもの。そのためには、修行をしてもらわないといけませんわ。だって、お姉さま、これまで他人の股間やお尻を舐めて掃除するなんて、やったことはありませんよね?」
「あ、当たり前でしょう──」
かっとして声をあげる。
「だったら、練習しないと、わたしの肉便器にはさせられませんわ。お姉さまには、わたしの便器として、毎日、わたしのおしっこを飲んでもらいますから」
「ふざけるんじゃないわよ、カリン──」
テーブルを叩いて怒鳴った。
その途端だった。弱まっていた張形が、また強くなる。しかも、休んでいたアナルの張形までごりごりと奥の粘膜を揉み擦りだした。
「あ、ああ……だめええっ」
股間を強く押し当てて、顔を苦悶にしかめる。
今度こそ、いく──。
一瞬、そう確信した。
しかし、またしても、ぎりぎりで前後の張形がぴたりと止まってしまう。
「ああ……」
オクタヴィアはがくりと脱力した。
やっぱりいけない。
くやしい……。
どうしようもないもどかしさと情けなさに、自尊心まで少しずつ崩されていく。
視界が滲んだ。どうやら、涙まで浮かんできたらしい。
「なら、結構ですわ。お姉さまの恥ずかしいお姿を眺めながら、食事を愉しむことにします。お姉さまもお食べくださいな」
カリンがテーブルのフォークを手に取り、優雅に食べ始める。
このまま食べろということか……。
オクタヴィアは肩で息をしながら、テーブル越しにカリンを睨む。
「あ、あなたねえ……」
「食べるんです……。お姉さまのおまんこは、わたしの管理下にありますのよ。お忘れですか? 電撃を流しますわよ」
カリンがフォークを置いて、テーブルの上に手を伸ばす。
はっとなる。
カリンが手を置いたのは、張形の操作具盤だ。さっき電撃を流されたときの苦痛が頭によぎる。
「た、食べるわよ──」
慌ててフォークを手に取った。
カリンは満足そうに頷き、伸ばした手を戻す。
「よろしいですわ。でも、お姉さま、本当はいきたいのではないですか? いきたいのなら、肉便器の修行をして、わたしの子猫になるとお誓いくださいな」
「い、嫌だと言っているでしょう──」
「そうですか? でもお姉さまを見ていると、いきたくて仕方がないという雌の顔をしてますのよ」
「し、してないわよ」
「……ふふふ、でしたら、平然としたお顔をしてください。期待しておりますわ。お姉さまができるだけ、抵抗なさることを……。さあ、食事をしてくださいな」
オクタヴィアはフォークを手に取り、目の前の料理へ伸ばした。
その途端だった。
「くうっ……」
またもや、股間の張形が動き始めた。
思わずフォークを取り落としそうになり、慌てて強く握り直す。
それでも、オクタヴィアは食べるのをやめなかった。
刺激に耐えながら、一心不乱に目の前の料理を口へ運んでいく。
味など、ほとんどわからない。
作法など、もう知ったことではなかった。
鶏肉を口へ放り込み、野菜を頬張り、パンを押し込む。
とにかく食べる。
まるで早食い競争でもしているかのように、がつがつと目の前のものを口へ運び続けた。
「まあ、お姉さま……」
テーブルの向こうから、カリンの呆れたような声が聞こえた。
無視した。
その間にも張形は何度も動きを強め、そのたびにオクタヴィアの手が止まりそうになる。
それでも、フォークを離さなかった。
肉も、野菜も、パンも、サラダも、すべて食べ尽くす。
最後はスープまで一気に音をたてて飲み干した。
口の中に残ったものをグラスの水で無理やり流し込む。
「はあ……はあ……」
オクタヴィアは荒い息を吐いた。
目の前には、きれいに空になった皿とスープ皿だけが残っている。
その間も張形は何度となくオクタヴィアを翻弄していたが、いまはちょうど動きを止めていた。
オクタヴィアは顔を上げた。
カリンが唖然としてこちらを眺めている。
対するカリンの食事は、ほとんど進んでいなかった。まだ、ほんの少し口にしただけだ。
オクタヴィアは、そんなカリンに向かって口角を上げてやった。
「カリン、わたしは誰のものにもならないわ……。やれるものなら、やってみなさい……」
少しの間、カリンは黙っていた。
やがて、噴き出した。
「よろしいですわ、お姉さま。お姉さまがどれだけ寸止め責めにお耐えになるのか、本当に愉しみです」
カリンは何事もなかったかのように、食事を再開した。
「くううっ……」
同時に、張形が激しく動き始めた。
オクタヴィアは自分の身体を抱きしめるようにして、必死にそれに耐える。
その向こうでは、カリンが涼しい顔で料理を口へ運んでいた。