サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
110 或る朝の出来事【第35日】
気怠い心地で眼が覚めた。
収容室の寝室の「窓」から、朝の光が差し込んでいた。
掛け布から出たアルトたちの顔を、淡い光が照らしている。
もっとも、「窓」とはいっても本物の窓ではない。
アルトたちのような特別囚を収容するためのこの一室には、もともと窓などひとつもなかった。外を見ることはもちろん、陽の光が差し込むことさえないのだ。
それが数日前、寝室の壁に大きな額縁が取り付けられた。
王都から、カイネウスたちが「元帥」と呼んでいる貴人がサロンを訪れている。その貴人がアルトとリネアが揃って肛姦される惨めな姿をたいそう気に入り、その褒美として与えられたものだった。
額縁の内側に嵌め込まれているのは絵ではなく、〈映録球〉と呼ばれる記録具で撮影した映像を映し出すための魔道板だった。いま映っているのは、サロンの屋上から眺めた実際の景色なのだという。
本物の窓ではない。
それでも、外の景色を見ることができる。空の明るさが変われば、朝なのか昼なのかもわかる。窓のない収容室で暮らすアルトたちにとっては、それだけでも十分に窓の代わりになっていた。
いま額縁の向こうでは、山裾に白い朝靄がたなびいている。朝の光がその上に淡く降り注ぎ、ひどく穏やかな景色を作っていた。
「う、うう……」
アルトは小さく呻いて、掛け布の中で身じろぎした。
両手を動かそうとして、すぐに手首に硬い感触が返ってくる。
両手首には手錠が嵌められ、首環の前側にある留め具へまとめて固定されていた。昨夜、眠る前にローランによって拘束されたものだ。
アルトとリネアが〈つがい隷奴〉にされてから、二人は同じ収容室で生活するようになった。
それ自体は、アルトにとってありがたいことだった。
ただし、ローランや女兵たちは、二人を自由に一緒にしておいてくれるわけではない。
つがいなら、もっと互いに心を通わせ、互いの面倒を見られるようになれ──というのが、いまの専属矯正官であるローランの言い分だった。
そのため、収容室に戻ると、アルトかリネアのどちらか、あるいは二人ともが拘束される。どちらをどのように拘束するかは、そのときのローランや女兵たちの気儘次第だった。
そして、どちらか一方だけが自由なら、自由な方が拘束されている方の日常の面倒を見る。
昨夜はアルトが拘束される番だった。
反対に、リネアには今朝はなんの拘束もない。
もっとも、アルトが眼を覚ました理由は、朝の光でも、手錠の窮屈さでもなかった。
下腹部に刻まれている〈蛇の淫紋〉が、朝を迎えて眠りから覚め、またもや暴れだしたのだ。
すでに、股間は痛いくらいに勃起している。
掛け布の下だが、皮膚の上に刻まれているだけのはずの蛇が、まるで本当にそこに棲みついているかのように、アルトの男根を巻き、ゆっくりと身をくねらせているのを感じる。
「……ああ……まただ……」
思わず呟いた。
アルトの下腹部には、いまは一本の陰毛もない。すべて剃りあげられて、魔道的処置で永久脱毛された。そこに刻まれたのが、鱗のある一匹の黒い蛇の刺青だった。
数日前、サロンの魔道技師であるエリナによって刻まれた「淫紋」である。
最初に見たときは、ただの一匹の蛇の絵にすぎなかった。それが、時間が経つにつれてアルトの身体に馴染んでくると、アルトの身体を動き回るようになってきたのだ。
もう刻まれて数日になるが、いまや完全に意思を持って生きているかのようにうごめくようになっていた。
男根にとぐろを巻き、舌先で舐め、這い回ってアナルに潜って律動するように暴れ回る。ときには、大きく口を開いてちくりとした小さな痛みとともに、媚薬の毒液を注入して強い肉欲の疼きで苛ませる。
しかし、相手は身体に刻まれている刺青だ。
手で払いのける手段は存在せず、「蛇」が暴れだしたら、アルトにはなすすべもない。
特に、朝になると決まって眼を覚まして、こうして挨拶のように下腹部を噛んで媚薬を注入してくる。おかげで、股間とアナルが灼けるように熱を持ってきた。
女兵たちが日常の矯正で使用するような強いものではないが、このサロンで男娼奴隷にされ、すっかりと敏感な身体にされてしまったアルトには十分以上のものだった。
歯がゆいような感覚とともに、肉欲に疼き始めてきた。
もっとも、あのサロンの技術責任者のエリナによれば、まだ完成した紋ではないらしい。
──いまは、まずはアルトの身体に馴染ませているだけだからね、と言う。
そのとき、エリナはそんなことを言って笑っていた。意味はよくわからない。
「ん……アルト……?」
隣から眠たげな声がした。
リネアが眼を覚ましたらしい。
アルトはそちらへ顔を向けた。朝の光を受けながら、リネアが掛け布の中から顔を覗かせている。
そして、アルトの顔を見るなり、その眠たげな表情が少しだけ変わった。
「……また、蛇?」
「う、うん……」
それだけで通じた。
この数日、毎朝のように繰り返していることだったからだ。
リネアが上体を起こすと、まずアルトの胸元へ眼を向けた。
首環の前に留められた両手を見て、それからアルトに微笑みかけた。
アルトにはリネアが事情を察してくれたことがわかった。
「ああ、大丈夫よ……。蛇はどっちにいるの?」
「ま、前……。多分、餌を求めているんだと思う……」
「わかったわ」
リネアが裸身を起こすと、アルトから掛け布を取り去った。
下腹部に刻まれた黒い蛇の姿が露わになった。
いまや痛いほどに勃起しているアルトの股間にいる〈刺青の蛇〉はじっとしていない。黒い鱗を波打たせながら股間の周囲を這い、細長い胴を幾重にも曲げて、とぐろを巻くようにまとわりついている。
もちろん、本物の蛇ではない。
指で触れても鱗の感触などなく、そこにあるのはアルト自身の皮膚だけだ。
それなのに、眼で見れば黒い蛇は確かに動いている。しかも、動いているだけではなかった。
その〈蛇〉が頭をもたげた。
二股の舌をちろちろと覗かせ、餌でも探しているようにしばらく彷徨わせる。
「あうっ」
次の瞬間、蛇がアルトの肌を甘噛みした。
ちくり、と小さな痛みが走る。
「あら」
じっと見ているリネアも声をあげている。
直後、噛まれた場所から熱が一気に広がった。勃起している股間がさらに膨れあがる。皮膚が引っ張られるような痛みに、アルトは眉をひそめた。
これが、この蛇の厄介なところだった。
エリナの説明によれば、〈蛇の淫紋〉は宿主から生じる〈淫気〉を餌にしているらしい。淫気が足りなくなれば、蛇は自分で餌を作ろうとする。そのために牙から媚薬のような魔力を流し込み、宿主の身体を強制的に昂らせるのだ。
そして、そこから生まれた淫気を喰らう。
つまり、蛇が腹を空かせれば空かせるほど、苦しめられるのは宿主であるアルトだった。
眠っているあいだに腹を空かせるのか、朝の蛇はとりわけ貪欲だった。
「くうっ……」
アルトは首環の前に留められた両手を握り締めた。
蛇を引き剥がすことはできない。そもそも、たとえ両手が自由でも、皮膚そのものに刻まれた紋を掴めるはずがない。
黒い蛇だけが、そんなアルトには構わず、満足そうに身体をくねらせていた。
勃起しているだけでも淫気は出るらしい。蛇はそれを少しずつ喰らっているのだと思う。
「これは大変ねえ」
アルトの傍らに正座したリネアがくすくすと笑う。
「笑うな、それに……そんなにじっと見るなよ」
アルトは、どことなく愉しそうなリネアにちょっとむっとしてしまう。
「まあ、そんなこと言っていいの? 早く餌をあげて満足させないと、もっと苦しいことになるのに」
リネアが悪戯っぽく、いまはアルトの怒張の中間付近にある蛇の頭を軽くつんと指で突く仕草をした。
「ああ、なにをするんだ」
アルトは悲鳴をあげた。頭を突かれて怒った蛇が激しく暴れだしたのだ。ぐるぐると激しく男根の上を動き、付け根側から先端に向かって揉みあげるような刺激が襲う。だが、リネアもそうなのだが、アルトたちはどんなに快感が襲っても、外側からの刺激でなければ、性欲を発散できないように魔核で調整されている。
原理はわからないが、刺青の蛇の刺激は、内側からの刺激とみなされるらしい。だから、蛇が暴れ出すと、快感はあるのに射精だけができない状態が続く。その焦れったさの辛さは堪らない。
両手が自由でも自慰をしてもだめなのだ。
そのためアルトはこのところ、蛇を満足させるため、毎朝のようにリネアに刺激してもらい、精を放つことになっていた。
もちろん、最初のころは、そんなことをリネアに頼むだけでもひどく恥ずかしかった。
けれど、このところはそれさえ朝の日課になりつつある。
それがローランたちの狙いなのだとわかっていても、両手を封じられたアルトに頼れる相手はリネアしかいなかった。
「アルト、起きあがって跪いて」
リネアに促され、アルトは身体を起こした。両手を首環の前に留められたまま、寝台の中央で膝立ちになる。
すぐに、背後からリネアが抱きついてきた。
「じっとしててね」
耳元でそう囁かれる。
背中にリネアの乳房の膨らみと温もりを感じた。続いて、背後から回された手がアルトの乳首に触れ、そのままゆっくりと這い始める。
「あっ、ああっ」
アルトは思わず、喘いでしまう。
「ふふ、いつものように敏感ね」
乳首を指で軽く弾くように刺激されながら、リネアが耳に息を吹きかける。それだけで、呆気なくアルトの自制心は崩れ去った。
リネアに後ろから顎を持たれて、顔だけ後ろを向かされる。唇を吸われ、舌を絡められる。
淫紋の蛇が動いていることもあり、それだけで男根は射精しそうになる。精液が込みあがり、出口を求めるように先端へ集まってくる。しかし、内側からの刺激ではだめなのだ。外から刺激して門を開くのはリネアの指でなければならない──。
「も、もう出る──。リネア、擦って……」
アルトは哀願の声をあげていた。
「まだ、だめよ……。うんと、気持ちよくしてあげるから……」
リネアは情欲に酔っているかのように、さらに身体を絡ませてくる。そして、その手をアルトの身体のあちこちに這わせてきた。
「お、おおっ」
アルトは、あまりの気持ちよさに呆けたような声をあげてしまった。
身体の奥は、もう火がついたように熱かった。
すると、リネアはもう我慢できなくなったかのように、背後からさらに身体を密着させ、片脚までアルトに絡ませてきた。リネアの股間がアルトの太腿に当たり、ぬるりとした体液が脚につく。
リネアもまた、興奮状態にあるのがわかった。
それに気づいた途端、アルトの身体も思わず跳ねた。首環の前に留められた手錠が、がちゃんと金属音を鳴らす。
アルトにしても、リネアにしても、こんなにも簡単に理性を失ってしまうのは、魔核によって鋭敏にされている身体のせいかもしれない。あるいは、毎日の食事に混ぜられているらしい媚薬のせいなのかもしれない。
けれど、それだけではないような気もしていた。
アルトもリネアも、〈矯正〉という名目のもと、毎日のように自分の意思とは関係なく、それぞれほかの相手に身体を弄ばれる日々を送っている。
だからこそだ──。
一日の始まりと終わりだけは、こうして二人だけで過ごす。
昼間に何をされても、どれほど身体を変えられても、その前と後だけは互いの温もりで上書きする。
そうすることで、まだ自分たちは自分たちなのだと思える。
そうでなければ、とっくに心までおかしくなっていたのかもしれない。
けれど、それだけではなかった。
二人きりになると、まるで箍が外れてしまうのだ。
昼間は必死になって押さえ込んでいる肉欲も、羞恥も、アルトとリネアしかいないこの部屋では、もう我慢する必要がなくなる。
むしろ、溜め込んだものを吐き出すように、互いを求めずにはいられなかった。
八日前、このサロンで再会したばかりのリネアからは、いまの姿など想像もできなかった。
二人きりになると驚くほど積極的になり、ときにはアルトの方が戸惑ってしまうほど大胆になる。
けれど、それはアルトも同じなのだろう。
毎日の〈矯正〉で、二人とも身体は日に日に淫らに変えられている。
そのことは、もう嫌というほど自覚していた。
だから二人きりになったときくらい、抑え込むのをやめる。
互いを求め、溜まりきった肉欲をぶつけ合って、満たされるまで箍を外してしまう。
そして朝になれば、またサロンでの一日を始める。
夜になれば、また二人のところへ戻ってくる。
それを繰り返すうちに、いつしか一日の始まりと終わりに二人きりで箍を外すことが、アルトたちにとって当たり前になっていた。
「いくわよ、アルト。でも、まだ出してはだめよ」
リネアが前に回り込んできた。
アルトはもう、だらしないほど腰を前へ突き出し、声を抑えることさえできなくなっていた。
なにをされても気持ちよかった。
もっと欲しい。
その一心で、アルトは必死に腰を前へ押し出す。けれど、リネアはそれを見透かしているかのように、するりと身体をかわしてしまう。
「ああっ……リネア……」
完全に翻弄されていた。
リネアはアルトをぎりぎりまで追い込みながら、もう少しというところで、ふっと手を止めてしまう。
それを何度も繰り返された。
「……ああ、まただ──。お願いだよ、リネア──。もう最後までさせてくれ──ああっ」
気がつけば、アルトは何度もリネアに哀願していた。
「……ふふ。じゃあ、今度は後ろね。前には蛇がいるし……怒らせたら大変だもの」
やがて、リネアが再び背後へ回った。
背中を押され、アルトの上体が寝台へ沈む。
両手を首環の前に留められたまま、アルトは促されるままに姿勢を変え、寝台に膝をついて背後のリネアへ尻を向けた格好になる。
「ああっ」
次になにをされるのか……。
そう思っただけで、ぞくぞくとした疼きが全身を駆け抜けた。
アルトはまた、堪えきれずに声をあげていた。
そして、首だけを後ろに向ける。
リネアは、夜の練習用にとローランに渡されている張形を手に取ると、潤滑油を塗り始めていた。
すぐに、その尖端がアルトのお尻の中心にあてがわれる。
「力を抜いてね……」
リネアが尻の肉を掴む。力が加わり、ずぶずぶと割れるような感覚が襲う。
抗いようのない甘美な衝撃が、脳の中心を貫いた。
「おっ、おおおっ」
アルトはだらしなく声を張りあげていた。
リネアが張形を操って律動を送り込んでくる。
アルトは上体をのけ反らせて、女のような声をあげていた。
「我慢しないでね。気持ちよくなって……」
リネアは張形をアルトのお尻に抽送しながら、片手を前に回して、アルトの怒張の先を指でさすり動かしてきた。
「おわああっ、あああっ──」
あっという間に、凄まじいほどの快美感が四肢を駆け抜ける。
股間を巻いていた〈蛇〉が男根全体を激しく暴れ擦ってきた。
大きな絶頂感がアルトを席巻する。しかも、一瞬で終わらない。すぐに消滅するはずの射精の快感が、終わらない痙攣とともにしばらく骨と肉を染め抜いてきた。
〈蛇〉の動きが緩やかになる。やがて、股間から離れたのがわかった。
視線をさげて自分の股間を垣間見る。満足したのか、〈刺青の蛇〉は、アルトの男根を解放している。そして、下腹部のやや上まで移動すると、円を描くようにとぐろを巻き、そのまま動かなくなった。
股間の下には、アルトが放出した精液が落ちている。その量は、アルトの快感の深さと凄まじさを物語っている。
やっと、アルトの身体の震えが止まる。
すると、リネアがゆっくりとアルトのお尻から張形を抜いた。
「う、うう……気、気持ちよかった……。あ、ありがとう……、リネア」
しばらく脱力していたアルトは、肩で息をしながら言った。
「ううん……。じゃあ、次はあたしね……。仰向けに寝て」
リネアに腰を押されて、うつ伏せで尻を高くあげた格好から、仰向けにされた。
そのアルトの顔の上にリネアが跨がり、股間をアルトの鼻と口に押しつけてきた。
「んんっ」
息苦しさで思わず声をあげる。
「ああ、頑張って、アルト──。さもないと、息が止まって死んじゃうわよ──」
リネアが感極まったように、アルトの顔に座ったまま腰をくねらせる。
彼女の股間はびしょ濡れだった。アルトは舌を持ちあげると、必死にリネアの股間を舐め回した。