サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
狂うておる……。
それが、カイネウスという男に対するバルザックの感想だった。
「あっ、レイシア、もっと舌を吸ってください」
「はいっ、それと、もっとおっぱいをこすり合わせましょう、セリア様」
バルザックの視線の先には、矯正室の中央で、濃厚な口づけをかわし合い、粘っこく乳房をこすり合い始めた王国の王太子妃と女護衛隊長の全裸姿が映っている。
二人とも両腕を後ろ手に縛られ、首環には天井から垂れた鎖が繋がれていた。鎖にはある程度の余裕があり、立つことも座ることもできる。しかし、床に寝そべるほどの長さは与えられていない。
その二人にカイネウスが命じたのは、互いの身体だけを使い、制限時間内に二人が揃って絶頂することだった。両手を使えないだけでなく、口で相手の股間を刺激することもできないのでは、お互いの身体をすりつけ合うくらいしかできないだろう。
なかなか難しいのではないかと思う。
矯正室の片隅には、この部屋にはいささか場違いな豪華なテーブルが持ち込まれていた。その上には酒瓶と二つの銀杯、それに肉やチーズなどの軽食を載せた皿が並んでいる。
バルザックは椅子に深く腰をおろし、杯を口に傾けた。
横にはカイネウスが座っている。
時間を計っているのは、バルザックたちのテーブルに置かれた大きな砂時計だ。
これを三度ひっくり返すまで──。それがカイネウスがふたりに示した制限時間だった。
カイネウスが微笑みながら命令を告げたとき、セリアとレイシアは戸惑ったように互いの顔を見合わせていた。
その間にも砂は落ち続ける。
二人がようやく動き始めた頃には、一回目の砂時計はすでに半分ほどになっていた。
きっかけになったのは、カイネウスの一言だった。
『達成できなければ、セリアには重い罰を受けてもらわないとね』
そう笑って告げられた途端、二人は顔色を変えた。
それまでの躊躇いが嘘のように消え、互いに身体を寄せ合い、必死になって課題を果たそうとし始めたのだ。
バルザックは酒を口に含みながら、その光景を眺めている。
狂うておる──。
やはり、そうとしか思えない。
カイネウスとセリアの間にある事情について、バルザックは知っていた。
共和国でも、それを知る者はほとんどいないはずだ。
二人が出遭ったのは、カイネウスがまだ王国に暮らしていた少年時代だという。
上級貴族の令嬢と、山で暮らしていた少年──。
本来ならば出遭うはずのない二人が出遭い、恋に落ちた。そして、身分の違いによって破局した。
それだけなら、どこにでもある悲恋で終わっただろう。
だが、カイネウスは終わらせなかった。
王国を追われるように共和国へ渡り、軍人となり、やがて軍を率いるまでに出世した。そして宗主国に対する叛乱を起こし、ついには王国そのものを滅ぼした。
もちろん、カイネウスに訊けば、別の答えを返すのだろう。
だが、バルザックはそうは考えていなかった。
この男は、初恋を成就させるために国をひとつ滅ぼしたのだ。
「か、閣下……。お注ぎいたします……」
震える手で、バルザックが手に持っている銀杯に、ブランディの瓶を傾けたのは、今日の付き人を命じたフローラだ。裸ではない。丈は短いが貴族令嬢が侍女を務めるのに違和感のないドレスを身につけさせている。だが、態度がぎこちないのは、バルザックが装束の下に仕掛けたものに理由がある。
また、今日の随行を命じたのは、カイネウスの好意により、バルザック滞在中の世話として付けられている五人の元令嬢のうちのふたりである。もうひとりはミレーヌだ。
その五人は健気にバルザックに尽くしてくれるだけでなく、このサロンで実に愉快な魔改造ともいえる肉体改造をしている。それを苛め抜くのが実に愉しいのだ。
バルザックは、フローラがブランディを注いだ銀杯をミレーヌに差し出す。
「まだ、昼間じゃ。ミルクを足してもらおうか。だが、早くやれよ。遅いと罰じゃぞ。ミレーヌではなく、フローラにだ」
バルザックはテーブルの上に置いている操作魔道具を手で引き寄せる。
このサロンに訪問をして、今日で五日目になる。本来は三日の予定だったが、愉しすぎてつい引き延ばしてしまった。おそらく、まだしばらくは居座ることになると思う。
さすがに、十日間までは無理だろうが、それ以内であればなんとかなる。
バルザックが予定を延ばしたために、サロン視察の随行員だった三人のうちユーリスだけは先に帰ることになったが、イレーヌ、ガレスについては、バルザックとともに、まだ残っている。
「ああ、すぐに……」
ミレーヌが身につけていたドレスの片腕だけを抜いて、左側の乳房を露出した。
彼女については、このサロンの魔改造で、絶頂とともに母乳を噴き出すように肉体改造されている。バルザックがミルクを足せと命じたのは、母乳を足せという意味だ。それはふたりともわかっている。
ミレーヌが自分の胸を揉み始める。
しかし、すぐに反対の手をスカートの中に潜らせて、股間を刺激する自慰も始めた。
「まだか? やはり、フローラに罰を与えねばならんかのう」
バルザックは笑う。
「あっ、いえ、すぐに……。それと……ど、どうか、罰はわたしにお与え……ください。フローラ様には……」
懸命に自慰を続けるミレーヌが悲痛な表情で訴える。
バルザックはほくそ笑んだ。
罰を本人ではなく、大事な仲間に与えると脅す。これもまた、カイネウスがこのサロンで多用しているやり方だ。目の前のセリアとレイシアも、そう言い渡されて必死になる姿を幾度も見物した。
面白いやり口だと感心している。
いまも、時間内に揃って絶頂できなければ、レイシアではなく、セリアに罰だとカイネウスは言い渡している。レイシアも積極的に励むしかないということだ。
「一回目の砂時計が終わったよ。二回目だ……。さて、セリアには、罰として、なにをしてもらおうかな。うんと苦しんで欲しいから、二号掻痒剤がいいね。気絶するまで放置というのはどうかな。気に入ってくれるといいね」
カイネウスがくすくすと笑いながら、いつの間にか砂が落ち切っていたテーブルの砂時計をひっくり返す。
この男が狂っているのは、セリアという王国の元王太子妃に執着をしていながら、本気でセリアを苦しめることだ。宗主国として周辺諸国を属国としたほどの大国を滅ぼしてまで手に入れた女を慈しむことと、その女をとことん嗜虐することが、この男の中では両立するのだ。
バルザックが、カイネウスを狂っていると評するのは、これが所以だ。
もっとも、嗜虐に狂うという点では、バルザックも変わらないかもしれないが……。
バルザックもまた、カイネウスに付けられた五人の侍女を気に入っている。だからこそ、苛め抜きたくなるのだ。我ながら困った性癖だと自覚はしている。
「は、はいっ。ね、ねえ、レイシア、もっと激しく胸をこすって……」
「そ、そうですね……。わたしの胸もお願いします」
「あ、ああ……。ね、ねえ、カイン、道具を使ってはいけない……かしら……? できれば、あの双頭のお道具が……」
セリアがレイシアと肌をこすり合いながら、憂いに充ちた顔をちらりとカイネウスに向けた。
凄まじいほどの色香と美貌だとバルザックは思った。
王国が健在のときにも、王太子妃セリアの美貌は有名だったが、このサロンに監禁されて、カイネウスに嗜虐される日々を送るようになり、彼女の被虐美は怖ろしいほどに色づいている。
しかし、カイネウスはこうやって、セリアの醜態を他人に見せるくせに、手を出すことだけは許さない。
セリアに手を出せるのは、同じ特別囚の女たちか、カイネウスの個人的な傭兵である女兵隊の要員だけだ。バルザックにも許さない。
もちろん、バルザックもセリアには手を出すつもりはない。
カイネウスの狂気を、バルザックは十分に理解しているつもりだ。
そして、バルザックが少し驚いているのは、セリアがカイネウスを愛称で呼ぶことをカイネウス自身が許していることだ。いや、そうするように命じてもいる気配だ。
このことで、カイネウスがセリアに特別な感情を抱いていることを悟っている者がこのサロンにも多くいる。もっとも、それすらも、カイネウスは愉しんでいる気配だが。
「あの道具がお気に入りかい? だけど、いまは許可しない。僕はセリアがもっと苦しむ姿を見たいからね。もちろん、ちゃんと言いつけを守れれば罰は与えない。さて、そろそろ、二回目が終わりそうだよ。どっちにしても、新しい淫具を準備している余裕はないね」
カイネウスが笑う。
「まあ、そうだね。まあ、使えるものは使わないと。股ぐらに届くのは、お互いの膝くらいだろう。そこに股ぐらを押しつけなよ」
二人のそばで三人の部下とともに、見守っているアルジェが冷笑する。
彼女もまた、実にいい味を出す。
隻眼で顔に酷い火傷の痣の残る彼女だが、もともとかなりの美貌を持っていたらしい。しかし、まだ王国が共和国の宗主国だった頃に、王国軍に捕らわれて顔を焼かれ、さらに女としても壊されたという話だ。
それがどういうことなのかは知らない。だが、このアルジェもまた、王国に強い恨みを抱く者のひとりであることは間違いない。
「カ、カイネウス──。ば、罰なら、わたしに与えればいいだろう──。どうして、いつも、そんな意地悪を言うのだ」
レイシアが必死にセリアと胸をこすらせながら言う。
彼女も必死だ。セリアもそうだが、すでに全身は汗にまみれ、真っ赤に肌が火照っている。
「心配しなくても、君に罰はありそうだよ。イレーヌ殿が準備をしているようだ。もっとも、君たちが成功すれば無駄になるんだろうけど」
カイネウスが応じる。
それは知らなかった。イレーヌは、サロン全体には興味は薄そうではあるが、レイシアにだけ執着しているのは間違いない。このレイシアの矯正には必ず顔を見せる。
しかし、珍しくも、今日はいないなと思っていた。
「レ、レイシア──膝をお願い──。時間がないわ。あなたも……」
セリアが焦ったように、レイシアに訴えた。
レイシアが、セリアの身体にのしかかるような膝立ちの状態から腰をおろし、正座状態の脚のあいだに、片膝を思い切り差し入れた。
セリアがその膝に股間を載せるように動く。思い切り腰を動かし始める。
レイシアも同じように、セリアの膝を使って、自慰をするように動き出した。
「あっ、ああ、い、いいっ、いきそう。これでいきそうよ、レイシア」
「わ、わたしもです──。あ、ああ……」
セリアとレイシアが揃って悲鳴のような声をあげて、緊縛されている裸身を大きくのけ反らせる。
「二回目が終わりだ。あと一回分だね」
カイネウスが再び砂時計をひっくり返した。
バルザックは、横のミレーヌとフローラに視線を向け直す。
フローラはブランディの銀杯を構え、ミレーヌは必死に自分の乳房と股間に手をやって、自慰で絶頂時の母乳を噴き出させようと頑張っている。
だが、ふたりは知らないが、ふたりだけでなく、バルザックにあてがわれている五人の全員について、自慰ではいきにくくするように、魔核の調整をさせていた。
五人に教えてないのは、自慰では絶頂が難しいのに、命じられた自慰で極めようとする姿が可愛いからだ。
だが、ふと思った。
もともと、それはサロンの技術だ。
もしかして、目の前のセリアとレイシアにも、似たような細工をしているのではないだろうか?
砂時計が三回砂を落とすあいだに、セリアとレイシアが一回絶頂する──。考えてみれば、拘束に多少の制限があるとはいえ、カイネウスの与える課題としては簡単な気がした。
なにしろ、やはり魔核の影響により、セリアにしてもレイシアにしても、常人とは比べものにならないほどに、全身の淫乱化処置を終わっているのだ。
バルザックの前で、たびたび百合遊びをさせられるふたりが、実に驚くほどに簡単に達してしまう姿を、もう幾度も見ている。
「……カイネウス……。もしかして、あのふたりの魔核に、なにか細工をしておるか?」
バルザックは、カイネウスに身を乗り出して、耳元でささやいた。
「ええ、もちろん……。セリアとレイシアの絶頂は、いまだけ一時的に、魔核で止めてます。いくら二人が頑張っても、到達するのは絶頂寸前までです。絶対に達することはありません」
カイネウスが微笑んだまま言った。
「呆れたのう」
バルザックは苦笑してしまった。
「あ、ああ、もう少し──もう少しなの──。レイシア、お願い、もっと強く膝を押して──」
セリアが懸命に股間をレイシアの膝に押しつけ、胸をこすりながら悲鳴のような声をあげる。
「は、はいっ──。わ、わたしもです──。もう少しだけ激しくしましょう──」
レイシアも汗みどろになって、セリアに裸身を押しつけている。
「はしたないねえ……。いくら、命令されたとはいえ、お前らに恥はないのかい。仮にも主従だろうが」
アルジェがわざとらしく煽る。
一種、顔を屈辱に崩したのはレイシアだ。しかし、セリアはアルジェの罵倒さえも、欲情の材料とするように喘ぎ声を大きくする。
必死になって、レイシアと身体をこすり合い続ける。
「……ところで、さっきの話だが、イレーヌがレイシアの罰を準備しておるというのは本当か?」
何気なくバルザックは訊ねた。
一生懸命なセリアとレイシアだが、カイネウスに細工があるなら、ふたりが時間内に達することはあり得ない。ならば、二人の罰は既定のことだ。イレーヌがどんなことをレイシアにさせる予定なのだろうと興味が湧いた。
「“21P”と言ってましたね」
カイネウスが視線をセリアたちに向けたまま返した。
「にじゅういちぴぃ? なんじゃ、それは?」
“ぴぃ”という責めは耳にしたことはない。なにをさせるのだろうか? 純粋に疑問を抱いた。
「隠語です。二十一人で乱交することをそう言うんです。今回の王都防衛戦における王都城壁の戦いのときに、レイシアと実際に切り結んだ将兵の二十人を連れてくるそうです。その相手をレイシア一人にさせると言っていましたね。身体の自由を奪ったまま。感度はさらにあげるらしいですよ」
「二十人か? しかも因縁のある相手となあ」
それは、さすがに、あのレイシアでも泣き狂うに違いない。
「それだけでなく、レイシアの醜態を魔道で記録して、王都で上映会をすると言っておりましたよ。すでに、その二十人がサロンにやってくるのは報告を受けています。明日には到着するはずです」
カイネウスが小さな声で言った。
「はてはて……。女というものは、男の及びも付かない冷酷なことを思いつくのう」
バルザックは呆れてしまった。
まあ、だが、イレーヌはイレーヌで、このサロン訪問を充実させているのだと思った。
三人の随行者のうち、ユーリスについては、サロンを愉しみ尽くして、心から満足して戻っていったが、イレーヌとガレスはまだ残っている。
イレーヌは、バルザックの護衛を兼ねており、バルザックが残っている限り帰れないのだが、それなりに愉しんでいるようだと安心した。
また、もうひとりのガレスは、カイネウスに反感を抱く派閥の代表のような男だ。だが、カイネウスの罠により、すっかりと腑抜けていると報告を受けている。もっとも、実際のところ、初日以来、あてがわれた部屋に閉じこもっているので、バルザックもどうなっているのかよくわからない。
「あ、ああっ──。い、いくうっ、フローラ様──」
そのときだった。
真横でミレーヌの感極まった声が響いた。
顔を向ける。さっきまで自慰だったミレーヌだが、いつの間にか、ミレーヌのスカートの中にフローラが手を差し込んで愛撫をしていた。
それで、やっと達することができたようだ。
「あっ、待って、まだ出さないで──」
フローラが慌てて、ミレーヌのスカートから手を引っ込めて、銀杯をミレーヌの乳首にあてがえようとした。
しかし、そのときはすでに遅く、噴流のような母乳がミレーヌの乳首から飛び出してしまっている。フローラが懸命に向けた銀杯だが、ほとんど中には入らずに、母乳は床に飛び散ってしまっている。
「馬鹿者が。なんという醜態じゃ」
バルザックは大笑いした。
そして、テーブルの上にある操作具に指を触れさせる。
「んぎいいいいっ」
絶叫して膝をその場に崩したのは、フローラだ。
フローラの肉体改造は、性的興奮に陥ると股間に生える男根だ。バルザックはその根元に発情リングを嵌めて勃起が収まらないようにするだけでなく、男根の尿道口に細い魔道棒を挿して封印をしていた。
いまは、その魔道棒に瞬間的に電撃を流したのである。
だが、フローラは全身を崩しながらも、持っていたブランディだけはこぼさなかった。両手で必死に持って、こぼさないように頑張ったようだ。
「こぼさんかったのはよくやった。だが、失敗じゃな。もう一度、やるがよい。今度こそ失敗するでないぞ」
バルザックは笑い続けながら、二人に言い放つ。
「も、申し訳……ございません。ああ、ごめんなさい、フローラ様……。うまく制御できなくて……」
ミレーヌがフローラから銀杯を受け取り、彼女を助け起こしながら言う。
フローラも立ちあがりながら、ミレーヌに首を横に振っている。
「い、いえ……。次のときの愛撫は……わたしにお任せ下さいな……。ミレーヌ様はミルクを受け取る側を……」
「そうですね……。では、もう一度……」
ふたりがさっきの体勢に戻る。
ただし、今度は乳房を出しているミレーヌが銀杯を持って待ち構え、フローラはミレーヌへの愛撫に徹するようだ。
バルザックはほくそ笑むと、テーブルの上にあったブランディの瓶を手に取り、ミレーヌが構えている銀杯にブランディをぎりぎりまで足してしまう。
「こぼさんようにするんじゃぞ。ミルクは表面にうっすらと足せばよい」
バルザックの言葉に、ふたりとも呆然としている。
ブランディは、縁のすれすれまで注がれている。これを持ったまま、杯を揺らさないように愛撫を受けて絶頂するのは、かなり難しいに違いない。
だが、始めないわけにはいかない。
すぐに、慎重そうにフローラによるミレーヌへの愛撫が再開された。
「ああ、だめえっ、もう少しなのに──。どうして──どうして──」
そのとき、セリアの悲鳴のような泣き声が部屋に響いた。
レイシアの膝に股間を押し当てて、セリアは最後の力を振り絞るように、腰を動かしている。だが、絶頂ができないのだろう。
「ああ、セリア様──もうしわけありません──。わ、わたしも……もうちょっとなのですが……。あ、ああ……。も、もっと動かします……。どうか、お早く──」
レイシアも焦っている。
だが、三回目の砂時計がついに終わってしまった。
「残念だったね。時間切れだ。罰決定だよ」
カイネウスが愉しそうに、そう宣告した。