サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
二階にあるこの部屋は、サロンにいくつも設けられている矯正室とは、かなり趣が違っている。
カイネウスの執務室である。
室内には書棚や飾り棚が並び、床には厚手の絨毯が敷かれている。中央には大きな執務机があり、その手前には来客を迎えるためのソファと低いテーブルまで置かれていた。
だが、この部屋にはひとつ、セリアにはまだ明かしていない秘密があった。
カイネウスは、この部屋を造らせるにあたり、王都の王宮にあった王太子妃用の執務室を、可能な限り再現させていたのだ。
壁紙の色も、絨毯の柄も、書棚や執務机の配置も似せてある。
もちろん、建物そのものが違うのだから、完全に同じにはできない。
それでも、かつてそこで日々を過ごしていたセリアならば、部屋へ入った途端に気づく程度には似せたつもりだった。
自分が王太子妃として使っていた執務室に戻ってきた──。
そんな錯覚を味わわせるためだった。
そして、そこでカイネウスに嗜虐されるのだ。
なかなか手間を掛けた趣向のつもりだった。
ところが──。
「あっ……ああっ……痒いいい──。もう痒いわ、カイン──」
いま、カイネウスはソファに腰をおろしたまま、目の前のセリアを見上げている。
天井のレールを伝って運ばれてきたセリアは、いまも宙に吊られたままだ。
そして、先ほどから彼女を襲い始めた異常な痒みは、ますます激しくなっているらしい。運搬前に塗った掻痒剤は、ここに到達するまでに怖ろしいほどの掻痒をセリアにもたらしたらしく、彼女は白い裸身を激しく悶え狂わせている。
セリアは周囲など見ていなかった。
壁紙にも気づかない。執務机にも、書棚にも、絨毯にも目を向けない。
それどころではないのだろう。
「……まいったなあ」
カイネウスは苦笑した。
せっかく、ここまで似せたというのに、どうやら自分は、趣向を凝らしすぎたらしい。
バルザック元帥にも見学してもらった先ほどの趣向において、セリアとレイシアは、カイネウスが課した課題を制限時間内に達成できなかった。
そのため、二人にはそれぞれ罰が与えられることになった。まあ、もともと、達成できないように細工をしてあったのだが……。
レイシアの罰は明日以降に持ち越すが、セリアには、気絶するまで痒み責めを受けるという罰を課すことにして、すでに二号掻痒剤を塗ってある。ここへ運んできたのは、その罰をゆっくりと堪能するためだった。
今回は、とことんセリアを苛め抜くつもりで、本来は薄めて運用することになっている二号掻痒剤を原液のまま使用している。
セリアは、堪らない掻痒感に、双臀を痙攣させ、大量の脂汗を流しながら宙吊りの裸身を振り乱していた。
「ああ、カイン、どうしたらいいの? ど、どうすれば許してくれるの──」
セリアは、床からわずかに浮いている足先をばたつかせながら、狂ったように身悶えをしている。
カイネウスはおもむろに立ちあがった。
セリアの後ろ側に回ると、両手を回して縄に締めあげられているセリアの乳房を抱き、じわじわと力を入れてやる。
「あ、ああっ、カイン、気持ちいい──。もっと、もっと激しくして──」
セリアはカイネウスの愛撫とも言えない愛撫に、さらに激しく身体を振り乱しだす。しかも、宙吊りの裸身を動かし、必死にカイネウスの手に乳房を押しつけるように動く。
カイネウスは、手を離してしまう。
「ああっ、どうして──。意地悪しないで──」
セリアは逆上したように叫んだ。
カイネウスは、噴き出してしまった。
「痒みを癒やしてどうするんだ。セリーは罰として、気絶するまで我慢しなければならないんだよ。途中で痒みを癒やしたら長引くだけじゃないか」
「そ、そんなことは、わかっているの……。で、でも、ちょっとでいいの。もう狂ってしまうわ」
「大丈夫だよ。君の首に埋められている魔核は、発狂することも許さない。心配せずに苦しむといい」
「ああ、カイン、お願い──。こんな痒み、死んじゃう──」
「ああ、それも大丈夫だ。死ぬことも魔核が封じている。息が止まっても、簡単に蘇生できるよ」
カイネウスはソファに戻るために、踵を返した。
「……カイン、行かないで。お願い、そばにいて──」
セリアが、縋るようにカイネウスを見つめていた。
苦痛を和らげてほしいのか。それとも、ただ傍にいてほしいのか……。
カイネウスには、その両方のように思えた。
その態度に愛おしいものを感じてしまい、思わず立ち止まってセリアを眺めてしまう。
「ね、ねえ、カイン。もっと、もっとなの……」
すると、セリアが懸命に重ね合わせていた太腿を自ら開いて、股間を曝け出してきた。これには、カイネウスも驚いた。
しかし、同時に顔を綻ばせてしまう。
セリアはまったく知らなかっただろうが、カイネウスは王太子妃時代の彼女を何度も目にしていた。
まだ共和国が王国の属国だった頃のことだ。
共和国から派遣された訪問団の一員として王都を訪れ、王宮で催された式典や夜宴の末席に連なったことがある。そのたびに、カイネウスは人々の輪の向こうにいるセリアを探していた。
美しい衣装をまとい、王太子妃として微笑むセリア。
誰からも敬われ、貞淑な王族の女性として振る舞う彼女は、あまりにも遠い存在だった。
その傍らには、いつも王太子がいた。
あの光景を目にするたびに、胸の奥を焼くような嫉妬に襲われたものだ。かつて自分に微笑んでくれた少女が、いまは別の男の妻として、誰もが羨む場所に立っている。
それでも、声を掛けることさえできなかった。
ところが、いまはどうだろう。
あれほど気高く、貞淑な王太子妃として振る舞っていたセリアが、いまは自分をカインと呼び、ああやって、自ら足を開いて、触れてほしいと懇願までしているのだ。
あのとき、遠くから眺めることしかできなかった女を、自分の手でここまで堕としてやったのだ。
そう思うと、胸の奥から奇妙な満足感が湧きあがってきた。
嫉妬に狂いそうになりながら、王太子の隣で微笑むセリアを見つめていた、あの頃の自分──。
その自分が、ようやく救われたような気がした。
「仕方ないね……。でも、その代わり、君への責め苦は長引くよ。もしかしたら、今日は気絶したところを許してあげられないかもしれない。それでもいいかい?」
カイネウスはセリアの前まで戻る。
そして、物欲しそうに開いている彼女の太腿に手を置き、内腿をつっと指で触れてやる。まだ残っている薄い陰毛の生え際のぎりぎりまでだ。
「あひいっ、ああ、もっと──。もっとなのっ──」
セリアが短い声をあげながら、汗にまみれた裸身をびくっびくっと跳ね踊らせる。しかも、腰を動かして、懸命にカイネウスの指に自分の秘部を当てようとまでしてくる。
しかし、カイネウスは巧みに指を動かして、セリアが欲しいものを与えてやらない。
焦らすだけだ。
「あああっ、カイン、そんなのない──。お願い──。お願いなの──。あんまりだわ──。もう犯して──。どうか、セリアを犯してください」
セリアが総身を揺すりたてて啼き悶える。
「それが、サロンの掟だ。欲しいものは口にしないと与えられない。しかし、望みはことごとく打ち砕かれる。セリアはその先にある快感を見つけなければならないんだよ」
「ああ、だったら欲しいの──。あなたが欲しいわ、カイン──、もっと苦しめて──。もっと、わたしに罰を与えて──」
セリアが泣き叫んだ。
カイネウスは、指でべっとりと濡れているセリアの花弁の縁をこすり、クリトリスを軽く揉み動かしてやった。
「あひいっ、いいいいっ──、あああっ、あひいいいっ」
痒みで狂っている股間への刺激に、セリアの反応は凄まじかった。
髪を振り乱し、乳房をぶるぶると振って裸身を踊らせた。
しかし、カイネウスはすぐに指を離す。
「だめええっ──。やめないで──もっとしてっ。痒いのおお──もう痒いいい──」
局部の痒みに、セリアは腰を右に左にと揺すりたてて、哀訴の声を噴きこぼし始める。
カイネウスは知っている。痒みに狂う刺激は凄まじいほどの快感を生む。しかし、それだけではなく、一瞬だけでも痒みが癒える快感を味わうと、それが失われたときの焦燥感と掻痒感は、次元の違う苦しみをぶり返してくるのだ。
いまセリアが襲われているのは、それだろう。
「……そこまで頼むなら、セリー。その前に、ひとつ試してみようか」
「……な、なによ、カイン……?」
「この部屋を見て、なにか気づくことはないかい?」
「……部屋……?」
セリアは戸惑ったように顔をあげた。
初めて、周囲に目を向ける。
壁紙の色。書棚の配置。大きな執務机。そして、床に敷かれた絨毯。
その眼が、はっと見開かれた。
「……ここって、わたしの……」
「そうだね。王宮にあった君の執務室を再現してみたんだ。なかなかよくできているだろう?」
「……どうして、こんなことを……」
「君には懐かしい場所だろう? 王太子妃だった頃、毎日のように過ごしていた部屋だからね」
セリアは、もう一度、執務机に目を向けた。
ほんの束の間、彼女の表情が変わった。
そこにあるはずのないものを見つけたような、呆然とした顔だった。
だが、すぐに苦しげに顔を歪めてしまう。
「……カイン、お願い……」
「昔を思い出したかい、セリー?」
「……ええ……でも、お願いよ……」
カイネウスは意地悪く微笑んだ。
「ここは、かつて君が王太子妃として過ごしていた場所なんだよ。そんな場所で陵辱されることは、昔の自分を思い出して辛くなるんじゃないのかい?」
セリアは答えなかった。
いや、答えられなかったのかもしれない。
それでも、やがて小さく首を振った。
「……ああ、お願い、カイン。もう、意地悪しないで……。わたしは、もう王太子妃なんかじゃないわ──。あのときと同じよ──、あなたと最初に会ったセリーよ──。もう、おかしくなる──。ここでもいい……。いえ、ここで犯して──お願いっ」
セリアは再び宙吊りの身体を暴れさせながら取り乱す。
「それなら、もっとはっきり言ってごらん。できるだけ下品な言葉で哀願するんだ。王太子妃セリアと名乗るのを忘れては駄目だよ」
セリアは困惑したようにカイネウスを見つめた。
「えっ?」
「僕は、王太子妃のセリアが、ただのセリーになるところを見たい。王太子妃が使わないような下品で粗野な言葉で哀願できたら、君の願いを叶えられるかもしれない」
「……ああ、そんな……。下品で……粗野って……」
セリアが必死に言葉を探し始めるような表情になる。
そして、口を開いた。
「王太子妃セリアの、下品で粗野な、おまんこを、犯してください、カイン。お願いよお──」
カイネウスは苦笑するしかなかった。
なるほど。これが、彼女の思いつく精一杯の下品で粗野な言葉なのだろう。
王太子妃として身につけたものは、そう簡単には抜けないらしい。
そう思うと、なぜだか少しだけ、昔のセリーに再会したような気がした。
「まあ、いいだろう……。じゃあ、罰の途中で慈悲を強請った分は、償ってもらわないとね。まずは、二号掻痒剤の塗り足しだ」
カイネウスは言った。
セリアが呆然となる。
「そ、そんな……。いま、言ったわ。下品で、粗野に──。ねえ、犯してくれるんじゃないの──?」
セリアが泣き喚く。
「さっき言ったはずだよ。サロンでは女囚の望みは打ち砕かれるためにある……。それよりも、今日はセリアのために準備しているものがある。それに乗ってもらおう。そして、君が痒みで気絶できたら、そのあと犯してあげられるかもしれない」
カイネウスは、準備していた二号掻痒剤の容器を取りに部屋の奥へ向かった。
「ああ、行かないで、カイン──。わたしを犯して──。お願い。犯して──」
遠ざかるカイネウスの背中を、セリアの必死の哀願が追いかけてきた。
やはり、セリアは苦しむ姿が一番可愛いな……。
カイネウスは、口元を綻ばせながら、奥の扉を開いた。