※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

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119 裸身試合【第36日】

 両手を首の後ろに拘束されたまま、レイシアは追いたてられるように、道場の中央に進み出た。

 身につけているのは、上下二枚の真紅の絹布だけだ。胸元と腰の前に垂れ下がる短い布は、身体を覆う衣服というにはあまりにも頼りない。服でもなく、下着すらなく、ただの小さな布だ。

 足元には履物さえなく、裸足の裏に磨かれた板張りの床の感触が伝わってくる。

 

 背中側に回された両手首は、首環の後ろに固定されていた。腕を前に出すことも、拳を握って構えることもできない。

 そんなレイシアの正面では、共和国軍の男が待ち構えていた。

 男は下帯一枚の姿で、肩を回しながらこちらを見ている。太い腕、厚い胸板、鍛えられた脚。先ほどまで訓練をしていたらしく、身体にはまだ汗が浮かんでいた。

 その周囲を、二十人ほどの男たちが取り囲んでいる。

 

「ちっ」

 

 レイシアは、奥歯を噛み締めた。

 なんだい、これは……。

 かつて戦場で剣を交えた相手と、もう一度戦えという。それだけでも馬鹿げた話なのに、こちらは両手を封じられ、全裸同然の格好だ。

 まともな勝負になるはずがなかった。

 レイシアは、中央の男から距離をとるように立ち止まって、半身に構える。

 

「そんなに離れちゃあ、稽古にならないでしょう、レイシア。堂々と戦って、脚だけで蹴散らしなさい」

 

 男たちに混じって見物しているイレーヌが、揶揄するように声を掛けた。

 正面の男がレイシアを見下すようにして、にやりと笑った。

 

「どうした、女騎士様。王都じゃあ、ずいぶん威勢がよかったじゃないか。今日は逃げ回るだけか?」

 

「……黙りな」

 

「おいおい、怖い顔をするなよ。せっかく稽古をつけてもらえるっていうんだ。あのときみたいに、俺を叩きのめしてみせろよ」

 

 男が両腕を広げて、ゆっくりと近づいてきた。

 レイシアは半身の構えを崩さず、相手の足運びを見つめた。

 次の瞬間、男が大きく踏み込んできた。

 

「くっ」

 

 レイシアは素早く横へ跳んだ。

 男の腕が空を切る。

 だが、その途端、どっと歓声があがった。

 

「おい、乳首が見えたぞ。思ったよりも小せえ乳輪だぜ」

 

「毛もあったな。まだ、剃られてなかったのかよ」

 

「ボビィ──。間違ってもぬかるんじゃねえぞ。一応は、王国一の女戦士なんだからな」

 

 男たちが囃し立てた。

 レイシアは、かっと頬を熱くした。

 身につけている短い絹布は、身体の動きに合わせて大きく揺れてしまう。いまの跳躍でも、布が跳ね上がってしまったらしい。

 さすがに、周囲の男たちの視線が気になり、レイシアは思わず身体を縮めた。

 そのときだった──。

 

「どうした、女騎士様。隙だらけだぜ」

 

「なっ──」

 

 男が一気に間合いを詰めてきた。

 レイシアは慌てて後ろへ退こうとしたが、もう遅かった。

 太い両腕が胴体に回され、がっしりと抱え込まれた。

 わっと、歓声があがる。

 

「くそおっ──」

 

 レイシアは身を捩った。

 しかし、背中側に固定された両手は使えない。相手の腕を掴むことも、押し返すこともできなかった。

 まずい──。

 レイシアは咄嗟に両脚を踏ん張ったが、そのまま呆気なく床に仰向けに押し倒されてしまった。

 周囲の男たちの興奮が最高潮になる。

 

「おお、やったぞ、ボビィ」

 

「なんだよ、もう終わりか。王国一の女戦士もたいしたことねえな」

 

「おい、まだ降参してねえぞ。油断するなよ」

 

 男たちが口々に囃し立てた。

 相手の男──ボビィはレイシアの上からのしかかり、逃げられないように膝で脚を押さえつける。

 

「どうした、女騎士様。王都じゃあ、俺を散々な目に遭わせてくれたじゃねえか。今度は俺の番だぜ」

 

「くっ……退けえっ……」

 

 レイシアは歯を食いしばった。

 ボビィは下卑た笑みを浮かべ、さらに威圧するように身体を寄せてきた。周囲の男たちの歓声がいっそう大きくなる。

 

「呆気ないねえ、レイシア。言っておくけど、一度で終わりじゃないからね。ここにいる全員と戦ってもらうよ。最初から体力を使い果たすんじゃないよ」

 

 見物の輪から、イレーヌの声が響いた。

 全員だって……。

 レイシアは愕然とした。

 二十人もの男たちを相手に、両手を拘束されたまま戦い続けろというのか。

 一方で、ボビィは勝ち誇ったように、レイシアの脚を膝で押さえたまま、下帯を解き始めた。あっという間に、剥き出しの男根が露わになる。

 完全に勃起していた。

 

「畜生──」

 

 レイシアは咄嗟に腰を捻った。

 仰向けのまま上体を傾け、片方の肩を床から浮かせる。身体を半身にして、ボビィの重心をずらそうとしたのだ。

 

「おっ、おっ?」

 

 ボビィの膝がわずかに滑った。片脚が抜ける──。

 いまだ──。

 レイシアは床を蹴り、押さえ込まれた身体をさらに横へ捻った。抜けた脚をボビィの首の後ろに回す。太腿で挟むようにして、さらに身体を回転させた。

 残った脚も抜けたので、同じように男の首に引っ掛けてやる。ボビィの顔をレイシアの股間に引きずり込んだような体勢だ。

 

「こなくそっ」

 

 声をあげながら、もう一度レイシアの身体ごと、男の首を一回転させた。レイシアの身体が床で回転し、首を挟んでいるボビィの身体が遅れて回転してくる。

 男の首にごんと衝撃が走り、それが内腿に伝わってきた。

 仰向けに戻ったときには、すでに男がそのまま動かなくなっていた。

 

 死んではいないだろう……。

 抵抗の消えた男の首を、太腿の力で締めあげてやった。このまま死んでも構うものか──。

 ただ、首に埋められている魔核が、いまでもレイシア本来の力をかなり抑制していることがわかる。首の骨を折るつもりで、脚に本気で力を入れているのだが、しかし、思うほどの力が加わっている感触がない。

 

「なにやってんだい、ボビィ──。レイシアの股ぐらの匂いにやられちまったのかよ」

 

「さっさと犯せよ。順番詰まってんだよ──」

 

 だが、周囲の男たちは、レイシアの股間に顔を付けたままのボビィが、遊びでそうしているとでも思っているのだろう。掛け声には笑いが混じっている。

 しかし、だんだんと、不自然であることに気がついてきたのだろう。

 ざわめきが次第に拡がり始めた。

 

「だらしないねえ。その男を誰か救護室に連れていきな。次の男は誰だい?」

 

 イレーヌが声をかけた。

 それで、すでにボビィに意識がないことに気がついたのだろう。男たちが騒然となった。

 

「……次は誰だい……。ただで済むと思ってんじゃないよ」

 

 身体の上から意識のないボビィがどかされると、レイシアは素早く立ちあがって、介抱の男たちからも距離を取る。

 ボビィは口から泡を吹いて、やはり完全に意識を喪失していた。

 

「俺が出るぜ」

 

「おや、俺だ」

 

 ボビィの身体が道場の外に運び出されて行くと、男たちの中からふたりがほぼ同時に進み出てきた。

 やはり、どちらも下帯一枚の姿であり、鍛えられた身体をしている。ひとりは背が高く、もうひとりは肩幅の広い、ずんぐりとした男だった。

 

「どっちからでもいいよ。かかってきな」

 

 レイシアは忌々しげに言った。

 だが、イレーヌが愉しそうに笑った。

 

「あら、いいじゃないの。ふたりとも、そんなにレイシアと戦いたいのなら、遠慮することはないわ。いいわよね、レイシア?」

 

「……いい……って、なにがだい?」

 

 レイシアは意味がわからず、イレーヌを横目で見た。

 

「だって、両腕を拘束したくらいじゃあ、レイシアは男ひとりくらい簡単にあしらえるのがわかったもの。ふたり同時くらいで丁度いいわよね。さあ、あんたたち、今度はふたり同時に相手をしてくれるそうよ」

 

 イレーヌが、いかにも当然のことのように言った。

 

「か、勝手にしな──」

 

 レイシアは啖呵を切った。

 だが、さすがに内心は動揺していた。

 今度はふたりがかりだって──。

 冗談じゃないよ──。

 たったひとりを相手にするだけでも、あれほど苦労したのだ。ボビィを倒せたのは、あいつが勝ったつもりになって、油断してくれたからにすぎない。

 しかも、首環に埋め込まれた魔核によって、本来の力は封じられたままだ。

 

 それなのに、今度はふたりを同時に相手にしろという。

 とことん意地の悪い女だね、イレーヌって奴は……。

 レイシアは奥歯を噛み締めた。

 

 しかし、文句を言ったところで、イレーヌが聞き入れるはずもない。

 ふたりの男は、すでに左右へ分かれ始めていた。

 どうやら、こちらを挟み撃ちにするつもりらしい。

 

 まずいね……。

 両手を使えない以上、左右から同時に攻められれば、どちらか一方を防ぐことさえ難しい。

 せめて、ふたりを同時に正面へ捉えておかなければ──。

 レイシアは裸足の足裏で床を探りながら、じりじりと後退した。

 

「さすがのテレオロスの戦乙女殿も、拘束されたままじゃあ、どうにもなるまいさ」

 

「そうだな。ボビィの馬鹿がやられたのは、あれが先走ったからだな」

 

「一物の先がだろ? あいつレイシアと向かい合ったままで、布の下で勃起してやがったしな」

 

「まあ、こうやって、実際に向かい合ってみたら、無理もねえことも理解できるけどな」

 

 男ふたりは揶揄うような言葉をかけながら、少しずつ間合いを詰めてくる。

 だが、しっかりと注意深く用心もしている。この状況で、油断なく構えられては、レイシアにもどうしようもない。さらに後退する。

 

「レイシア、どこまで退がるつもりなの? 前に出ないと、これよ──」

 

 イレーヌの声が響いた。

 次の瞬間、股間を締めつけられたままだった〈クリリング〉が突然に振動をしたのだ。

 

「うあっ」

 

 なにが起きたのかわからず、レイシアはその場で膝を崩していた。

 糸は外されたが、今朝、サロンの館を出るときに施されていたクリトリスの根元を締める〈クリリング〉の淫具は装着されたままだったのだ。

 思いもよらない衝撃が全身を襲ってきて、甘い感覚がレイシアを駆け抜ける。崩れている太腿が小さな赤布の下でぶるぶると震えている。

 ただ、そのときには、イレーヌが操作具で遠隔操作をしたのだと悟っていた。

 あの女──。

 

「どうかしたのかよ、レイシア?」

 

 はっとした。

 右側の男に、腰の前に掛かっている布を掴まれたのだ。

 腿を握られて、布を思い切りめくられてしまった。

 しかし、そのときには、クリリングの振動は止まっていた。瞬時に体勢を整える。

 

「どこ、見てんだよ──」

 

 かっと血が昇り、レイシアは鋭い声を張り上げて、腰を素早く捩って片膝を跳ねあげた。

 

「ほごっ」

 

 急所に膝が当たり、男が悶絶して床に転倒する。

 

「こいつ、よくも──」

 

 ひとりが股間を蹴りあげられたのを見て、逆上したように、もうひとりも飛び掛かってくる。

 レイシアはさっと身体をかわすと、その男の膝近くを蹴り跳ねる。

 

「くあっ」

 

 男が膝を床に突く。

 そのときには、レイシアの身体が宙に飛んでいた。

 跪いた男の延髄に、体重と跳躍の勢いを載せた脚を叩き落とす。

 

「ぐほっ」

 

 そのまま、その男も床に突っ伏した。

 道場が騒然となる。

 

「次はどいつだい──。かかってきな──」

 

 レイシアは立ちあがると、倒れている男たちとは距離を取る。

 男たちが静まりかえっている。

 

「大したものね、レイシア。ご褒美よ」

 

 そのとき、イレーヌがレイシアに向かって、手を伸ばしているのが見えた。

 その手には、やはり、魔道具の遠隔操作具が握られている。

 

「やめえっ──」

 

 最後まで叫びきることはできなかった。

 強い振動が股間に走る。

 今度は刺激がすぐに終わらない。

 鋭い衝撃が脳天に向かって突き抜ける。

 

「ああ、やめてえっ」

 

 レイシアはしゃがみ込んでしまった。

 

「次だよ、今度は三人だ。すぐに出な──」

 

 イレーヌの指示が跳ぶ。

 だが、振動は止まらない。

 立ちあがろうとするが、どうしても腰に力が入らなかった。

 

「もらったあ──」

 

 あっという間に床に引き倒された。

 背後からひとりの男にしがみつかれて、太い腕で首を締めつけられた。

 さらに両脚にひとりずつの男がしがみつく。

 

「こうなったら、さすがに抵抗できねえだろう」

 

 首にひとり──。両脚にひとりずつ──。しかも、股間は振動を続ける淫具──。レイシアには、もうなにもできない。

 

「よし、じゃあ、もうひとり追加しなさい。レイシアに稽古をつけてもらいな」

 

 イレーヌが笑いながら怒鳴る。

 すぐに、男が跳びだしてきた。

 走りながら下帯を解いている。

 

「うわっ、狡いな、お前──」

 

 レイシアを掴んでいる三人のうちのひとりが言った。

 

「すぐに交代してやるよ」

 

 下帯を外したその男が怒張を剥き出しにして、レイシアの腰の前掛けを跳ねあげた。

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