サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
両手を首の後ろに拘束されたまま、レイシアは追いたてられるように、道場の中央に進み出た。
身につけているのは、上下二枚の真紅の絹布だけだ。胸元と腰の前に垂れ下がる短い布は、身体を覆う衣服というにはあまりにも頼りない。服でもなく、下着すらなく、ただの小さな布だ。
足元には履物さえなく、裸足の裏に磨かれた板張りの床の感触が伝わってくる。
背中側に回された両手首は、首環の後ろに固定されていた。腕を前に出すことも、拳を握って構えることもできない。
そんなレイシアの正面では、共和国軍の男が待ち構えていた。
男は下帯一枚の姿で、肩を回しながらこちらを見ている。太い腕、厚い胸板、鍛えられた脚。先ほどまで訓練をしていたらしく、身体にはまだ汗が浮かんでいた。
その周囲を、二十人ほどの男たちが取り囲んでいる。
「ちっ」
レイシアは、奥歯を噛み締めた。
なんだい、これは……。
かつて戦場で剣を交えた相手と、もう一度戦えという。それだけでも馬鹿げた話なのに、こちらは両手を封じられ、全裸同然の格好だ。
まともな勝負になるはずがなかった。
レイシアは、中央の男から距離をとるように立ち止まって、半身に構える。
「そんなに離れちゃあ、稽古にならないでしょう、レイシア。堂々と戦って、脚だけで蹴散らしなさい」
男たちに混じって見物しているイレーヌが、揶揄するように声を掛けた。
正面の男がレイシアを見下すようにして、にやりと笑った。
「どうした、女騎士様。王都じゃあ、ずいぶん威勢がよかったじゃないか。今日は逃げ回るだけか?」
「……黙りな」
「おいおい、怖い顔をするなよ。せっかく稽古をつけてもらえるっていうんだ。あのときみたいに、俺を叩きのめしてみせろよ」
男が両腕を広げて、ゆっくりと近づいてきた。
レイシアは半身の構えを崩さず、相手の足運びを見つめた。
次の瞬間、男が大きく踏み込んできた。
「くっ」
レイシアは素早く横へ跳んだ。
男の腕が空を切る。
だが、その途端、どっと歓声があがった。
「おい、乳首が見えたぞ。思ったよりも小せえ乳輪だぜ」
「毛もあったな。まだ、剃られてなかったのかよ」
「ボビィ──。間違ってもぬかるんじゃねえぞ。一応は、王国一の女戦士なんだからな」
男たちが囃し立てた。
レイシアは、かっと頬を熱くした。
身につけている短い絹布は、身体の動きに合わせて大きく揺れてしまう。いまの跳躍でも、布が跳ね上がってしまったらしい。
さすがに、周囲の男たちの視線が気になり、レイシアは思わず身体を縮めた。
そのときだった──。
「どうした、女騎士様。隙だらけだぜ」
「なっ──」
男が一気に間合いを詰めてきた。
レイシアは慌てて後ろへ退こうとしたが、もう遅かった。
太い両腕が胴体に回され、がっしりと抱え込まれた。
わっと、歓声があがる。
「くそおっ──」
レイシアは身を捩った。
しかし、背中側に固定された両手は使えない。相手の腕を掴むことも、押し返すこともできなかった。
まずい──。
レイシアは咄嗟に両脚を踏ん張ったが、そのまま呆気なく床に仰向けに押し倒されてしまった。
周囲の男たちの興奮が最高潮になる。
「おお、やったぞ、ボビィ」
「なんだよ、もう終わりか。王国一の女戦士もたいしたことねえな」
「おい、まだ降参してねえぞ。油断するなよ」
男たちが口々に囃し立てた。
相手の男──ボビィはレイシアの上からのしかかり、逃げられないように膝で脚を押さえつける。
「どうした、女騎士様。王都じゃあ、俺を散々な目に遭わせてくれたじゃねえか。今度は俺の番だぜ」
「くっ……退けえっ……」
レイシアは歯を食いしばった。
ボビィは下卑た笑みを浮かべ、さらに威圧するように身体を寄せてきた。周囲の男たちの歓声がいっそう大きくなる。
「呆気ないねえ、レイシア。言っておくけど、一度で終わりじゃないからね。ここにいる全員と戦ってもらうよ。最初から体力を使い果たすんじゃないよ」
見物の輪から、イレーヌの声が響いた。
全員だって……。
レイシアは愕然とした。
二十人もの男たちを相手に、両手を拘束されたまま戦い続けろというのか。
一方で、ボビィは勝ち誇ったように、レイシアの脚を膝で押さえたまま、下帯を解き始めた。あっという間に、剥き出しの男根が露わになる。
完全に勃起していた。
「畜生──」
レイシアは咄嗟に腰を捻った。
仰向けのまま上体を傾け、片方の肩を床から浮かせる。身体を半身にして、ボビィの重心をずらそうとしたのだ。
「おっ、おっ?」
ボビィの膝がわずかに滑った。片脚が抜ける──。
いまだ──。
レイシアは床を蹴り、押さえ込まれた身体をさらに横へ捻った。抜けた脚をボビィの首の後ろに回す。太腿で挟むようにして、さらに身体を回転させた。
残った脚も抜けたので、同じように男の首に引っ掛けてやる。ボビィの顔をレイシアの股間に引きずり込んだような体勢だ。
「こなくそっ」
声をあげながら、もう一度レイシアの身体ごと、男の首を一回転させた。レイシアの身体が床で回転し、首を挟んでいるボビィの身体が遅れて回転してくる。
男の首にごんと衝撃が走り、それが内腿に伝わってきた。
仰向けに戻ったときには、すでに男がそのまま動かなくなっていた。
死んではいないだろう……。
抵抗の消えた男の首を、太腿の力で締めあげてやった。このまま死んでも構うものか──。
ただ、首に埋められている魔核が、いまでもレイシア本来の力をかなり抑制していることがわかる。首の骨を折るつもりで、脚に本気で力を入れているのだが、しかし、思うほどの力が加わっている感触がない。
「なにやってんだい、ボビィ──。レイシアの股ぐらの匂いにやられちまったのかよ」
「さっさと犯せよ。順番詰まってんだよ──」
だが、周囲の男たちは、レイシアの股間に顔を付けたままのボビィが、遊びでそうしているとでも思っているのだろう。掛け声には笑いが混じっている。
しかし、だんだんと、不自然であることに気がついてきたのだろう。
ざわめきが次第に拡がり始めた。
「だらしないねえ。その男を誰か救護室に連れていきな。次の男は誰だい?」
イレーヌが声をかけた。
それで、すでにボビィに意識がないことに気がついたのだろう。男たちが騒然となった。
「……次は誰だい……。ただで済むと思ってんじゃないよ」
身体の上から意識のないボビィがどかされると、レイシアは素早く立ちあがって、介抱の男たちからも距離を取る。
ボビィは口から泡を吹いて、やはり完全に意識を喪失していた。
「俺が出るぜ」
「おや、俺だ」
ボビィの身体が道場の外に運び出されて行くと、男たちの中からふたりがほぼ同時に進み出てきた。
やはり、どちらも下帯一枚の姿であり、鍛えられた身体をしている。ひとりは背が高く、もうひとりは肩幅の広い、ずんぐりとした男だった。
「どっちからでもいいよ。かかってきな」
レイシアは忌々しげに言った。
だが、イレーヌが愉しそうに笑った。
「あら、いいじゃないの。ふたりとも、そんなにレイシアと戦いたいのなら、遠慮することはないわ。いいわよね、レイシア?」
「……いい……って、なにがだい?」
レイシアは意味がわからず、イレーヌを横目で見た。
「だって、両腕を拘束したくらいじゃあ、レイシアは男ひとりくらい簡単にあしらえるのがわかったもの。ふたり同時くらいで丁度いいわよね。さあ、あんたたち、今度はふたり同時に相手をしてくれるそうよ」
イレーヌが、いかにも当然のことのように言った。
「か、勝手にしな──」
レイシアは啖呵を切った。
だが、さすがに内心は動揺していた。
今度はふたりがかりだって──。
冗談じゃないよ──。
たったひとりを相手にするだけでも、あれほど苦労したのだ。ボビィを倒せたのは、あいつが勝ったつもりになって、油断してくれたからにすぎない。
しかも、首環に埋め込まれた魔核によって、本来の力は封じられたままだ。
それなのに、今度はふたりを同時に相手にしろという。
とことん意地の悪い女だね、イレーヌって奴は……。
レイシアは奥歯を噛み締めた。
しかし、文句を言ったところで、イレーヌが聞き入れるはずもない。
ふたりの男は、すでに左右へ分かれ始めていた。
どうやら、こちらを挟み撃ちにするつもりらしい。
まずいね……。
両手を使えない以上、左右から同時に攻められれば、どちらか一方を防ぐことさえ難しい。
せめて、ふたりを同時に正面へ捉えておかなければ──。
レイシアは裸足の足裏で床を探りながら、じりじりと後退した。
「さすがのテレオロスの戦乙女殿も、拘束されたままじゃあ、どうにもなるまいさ」
「そうだな。ボビィの馬鹿がやられたのは、あれが先走ったからだな」
「一物の先がだろ? あいつレイシアと向かい合ったままで、布の下で勃起してやがったしな」
「まあ、こうやって、実際に向かい合ってみたら、無理もねえことも理解できるけどな」
男ふたりは揶揄うような言葉をかけながら、少しずつ間合いを詰めてくる。
だが、しっかりと注意深く用心もしている。この状況で、油断なく構えられては、レイシアにもどうしようもない。さらに後退する。
「レイシア、どこまで退がるつもりなの? 前に出ないと、これよ──」
イレーヌの声が響いた。
次の瞬間、股間を締めつけられたままだった〈クリリング〉が突然に振動をしたのだ。
「うあっ」
なにが起きたのかわからず、レイシアはその場で膝を崩していた。
糸は外されたが、今朝、サロンの館を出るときに施されていたクリトリスの根元を締める〈クリリング〉の淫具は装着されたままだったのだ。
思いもよらない衝撃が全身を襲ってきて、甘い感覚がレイシアを駆け抜ける。崩れている太腿が小さな赤布の下でぶるぶると震えている。
ただ、そのときには、イレーヌが操作具で遠隔操作をしたのだと悟っていた。
あの女──。
「どうかしたのかよ、レイシア?」
はっとした。
右側の男に、腰の前に掛かっている布を掴まれたのだ。
腿を握られて、布を思い切りめくられてしまった。
しかし、そのときには、クリリングの振動は止まっていた。瞬時に体勢を整える。
「どこ、見てんだよ──」
かっと血が昇り、レイシアは鋭い声を張り上げて、腰を素早く捩って片膝を跳ねあげた。
「ほごっ」
急所に膝が当たり、男が悶絶して床に転倒する。
「こいつ、よくも──」
ひとりが股間を蹴りあげられたのを見て、逆上したように、もうひとりも飛び掛かってくる。
レイシアはさっと身体をかわすと、その男の膝近くを蹴り跳ねる。
「くあっ」
男が膝を床に突く。
そのときには、レイシアの身体が宙に飛んでいた。
跪いた男の延髄に、体重と跳躍の勢いを載せた脚を叩き落とす。
「ぐほっ」
そのまま、その男も床に突っ伏した。
道場が騒然となる。
「次はどいつだい──。かかってきな──」
レイシアは立ちあがると、倒れている男たちとは距離を取る。
男たちが静まりかえっている。
「大したものね、レイシア。ご褒美よ」
そのとき、イレーヌがレイシアに向かって、手を伸ばしているのが見えた。
その手には、やはり、魔道具の遠隔操作具が握られている。
「やめえっ──」
最後まで叫びきることはできなかった。
強い振動が股間に走る。
今度は刺激がすぐに終わらない。
鋭い衝撃が脳天に向かって突き抜ける。
「ああ、やめてえっ」
レイシアはしゃがみ込んでしまった。
「次だよ、今度は三人だ。すぐに出な──」
イレーヌの指示が跳ぶ。
だが、振動は止まらない。
立ちあがろうとするが、どうしても腰に力が入らなかった。
「もらったあ──」
あっという間に床に引き倒された。
背後からひとりの男にしがみつかれて、太い腕で首を締めつけられた。
さらに両脚にひとりずつの男がしがみつく。
「こうなったら、さすがに抵抗できねえだろう」
首にひとり──。両脚にひとりずつ──。しかも、股間は振動を続ける淫具──。レイシアには、もうなにもできない。
「よし、じゃあ、もうひとり追加しなさい。レイシアに稽古をつけてもらいな」
イレーヌが笑いながら怒鳴る。
すぐに、男が跳びだしてきた。
走りながら下帯を解いている。
「うわっ、狡いな、お前──」
レイシアを掴んでいる三人のうちのひとりが言った。
「すぐに交代してやるよ」
下帯を外したその男が怒張を剥き出しにして、レイシアの腰の前掛けを跳ねあげた。