サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「ほら、言え。すぐにな」
ヤンの声が落ちる。
「……こ、この卑怯者……」
吐き捨てた直後、内腿が震えた。踏ん張りが効かない。腹の奥が押し上げてくる。
「へえ、まだ不満を口にできる立場だと勘違いしているのか?」
ヤンが肩を竦める。
「……仕方ねえな。じゃあ、妹を連れてくるか……。ねえ、閣下。実の妹って話ですし、矯正対象にしても問題ないでしょう?」
ヤンがそのまま振り返る。
「よかろう。連れてこい。元帥閣下にしても、カイネウス将軍も不満はないだろう。平民としても特例処置だ。私が責任をもって、許可を受けてやる」
ヴェルデンがグラスを傾ける。
「承知いたしました。遅くとも明日の夕方には、ここに連れてきましょう」
ヤンが部屋を出ていくように一歩踏み出す。
「──待ってくれ」
レイシアは、慌てて声をあげた。
ヤンが振り返る。
「なんだ、レイシア?」
再び、距離を詰めてきた。
「ま、待ってくれ。妹だけは……」
「だったら言えよ。妹か、それともお前の自尊心か……。大切なのは、どっちだ?」
ヤンの意地の悪い視線が絡む。
レイシアは歯噛みした。
「……ひ、卑怯……」
「ああ、それはわかった……。だから、自分か妹か。どっちを取るんだと訊いているだろ」
ヤンが大口をあげて笑いだす。
レイシアは歯ぎしりをしてヤンを睨む。
尿意は切迫していた。腹が強く締まる。膝が揺れる。恥辱感を煽るように、乳首にぶら下げられている鈴が軽やかな音を鳴らす。
レイシアは覚悟を決めた。
「……わ、わかった。好きなようにしてくれ……」
掠れた声──。
激しい尿意に襲われているレイシアは、呻くように言った。
しかし、どうしても、自分から下着を脱がしてくれとは言えない。
「好きなようにだと──。そんなことは訊いてねえ──。いや。わかった。好きなようになら、妹をここに連れてきてやる。お前の前で兵たちを集めて輪姦してもらう。いい見世物になるぜ」
ヤンの眼がそっと細くなる。
レイシアははっとなった。
これは脅しじゃない。本当にやる──。長い付き合いというわけではないが、この半年は王都内の隠れ処を点々としながらずっと接していた。
だから、それがわかったのだ。
本当にリネアをここに連行されてしまう──。
レイシアは恐怖した。
「待ってくれ、言う──。言うから──」
レイシアは慌てて言った。
「ほう、なにをだ?」
「下着を……」
レイシアの唇が震える。
歯がきしむ。視線が歪む──。尿意の迫ったレイシアをただ嬲るのではなく、妹のことを持ち出して、さらに恥辱を煽ろうするとは……。
「下着をどうするんだ?」
「……脱がせてくれ……」
言い切った。
「それから?」
ヤンがさらに迫る。
「……ここで立小便をする……。……わ、わかった。好きに見ろ……」
口をわなわなと震わせるように言った。
その瞬間、胸の奥で、なにかが音を立てて崩れた。
息が浅くなる。視線が揺れる。自分の声が、まだ耳の奥に残っている。
口惜しさに歯を食いしばる。
熱が顔に上がる。逃げ場のない羞恥と、どうしようもない現実が、同時に押し寄せてくる。
妹を守るためだ──。
そう言い聞かせても、胸の奥に残るのは、鈍く沈む屈辱だけだった。
「よく言わせた──。レイシアの頼みだ。下着を剥ぎ取ってやれ──」
正面に座っているヴェルデンが大笑いした。
「じゃあ。いよいよ丸裸だね」
アルジェが後ろから近づき、小さな刃物で腰の下着の縁を切断した。
布切れになった下着が床に落ち、ついにレイシアの下腹部が露わになる。
息の根も止まるほどの羞恥に、レイシアは思わず顔を横に向けた。
「じゃあ、今度は立小便だ。手こずらせるんじゃねえぞ、レイシア──。さて、アルジェさん、容器を脚のあいだにおいてやってくねえか。床を汚されちゃたまらねえしな」
ヤンが愉しそうに言った。
「いや、それは待っておくれ。あたしたちの中には、このレイシアに恨みがある者もいるんだ。その溜飲を下げさせてもらわない限り、この女の世話なんてごめんなんだ」
そのとき、不意にアルジェがそんなことを言い始めた。
「恨みだと? 個人的な恨みか?」
ヴェルデンが言う。
「ああ、そうだよ。この女の名前が世間に出る切っ掛けとなったサンパネルラの百人切りはご存じか?」
サンパネルラ──。
その名が出た瞬間、レイシアの胸の奥が強張った。
もちろん覚えている。一介の国境守備軍の新米将校にすぎなかった自分の名が、一気に王都にまで知れ渡ることになった紛争だ。もう七年前になる。
当時、フィロス共和国はまだテレオロス王国の属国だった。
王都における訓練の終わったレイシアの初任地は、その国境沿いにあるサンパネルラ地方。乾いた風の吹く辺境で、警備任務とは名ばかりの小競り合いが続いていた。
そのときも、砦の前進陣地では大規模な叛乱と相対しており、戦線は一時的に膠着していた。
レイシアは小隊長として、少数の兵を率い、側面の警戒にあたっていた。
異常はないはずだった。
だが、森林帯を回り込むように進んできた一隊と、偶然に接触した。
叛乱兵だった。
数が多い。
一瞬で理解する。
このまま退けば、その一隊はそのまま守備隊主力の後方へ出る。
後背を突かれれば、前線は崩れる。
しかし、この地形なら──。
森林と起伏の入り組んだ錯雑地形。視界は制限されるが、同時に数の優位も活かしにくい。
時間を稼げる可能性があった。
判断は一瞬だった。
レイシアは砦に伝令を走らせると同時に、交戦を指示した。
下がるな。ここで止める──。
自分が前に出る。
崩れなければ、隊は持つ。隊が持てば、主力が対応できる。
それだけを考えた。
踏み込んでくる敵を、間合いで受ける。地形に引き込み、数を分断し、個別に崩す。
統制は甘い。勢いに任せて突っ込んでくる。
ならば崩せる。
斬る。避ける。押し返す。
繰り返す。
後ろへ通さない。
それだけを守り続ける。
やがて、後方から角笛が響いた。
主力の到着だった。
叛乱は退けられた。
結果として、後背への突破は防がれた。
その後、叛乱の首謀者は捕らえられた。関係者は洗い出され、家族を含めて連座で処刑された。
そしてレイシアの名は、サンパネルラの百人切りとして王国内に広まった。もちろん、あの状況で百人も斬れるはずはないが、軍部は士気高揚のために、平民出で、しかも女性将校という話題性を利用し、王都民の士気高揚施策として、大きく喧伝したのである。
レイシアは、平民でありながら騎士爵を与えられ、近衛隊に抜擢された。
そこでも功績を重ねて、最終的には王太子妃の護衛隊長にまで出世したのだ。
「レイシアを有名にしたあの戦いか。その関係者がいるのか?」
ヴェルデンが言う。
「ああ、ふたり。家族と恋人を失った者がね。その恨みを片付けさせたいのさ」
アルジェが応じる。
そのとき、控えていた女兵のうちふたりが前に出た。
もちろん、顔に見覚えはない。あの状況で、誰が誰だったかを把握している余裕などなかった。ましてや、関係者と言われてもわかるわけはない。
それでも、レイシアに恨みがあるという言葉の意味は理解できる。
いずれにしても、あの戦いの関係者がここにいるということだ。
「ま、待ってくれ。あれは戦いだ。お互いのことだ」
レイシアは言う。
だが、その声は先ほどまでの強さは残っていなかった。
「ああ、わかっているよ……。だから首を寄越せとも言わない。だが、その代わりは払ってもらう」
アルジェがあっさりと返す。淡々とした口調だった。
そのまま、ふたりの女兵に視線を向ける。
「それでいいんだね?」
アルジェがそのふたりに声を掛けた。
「ああ、それでいいです。あたいは、この女の恥が見たい」
「それで構いません。それで気が済むと思います」
短い応答が重なる。
「……それで、どうするのだ? 首の代わりに、なにを所望だ?」
ヴェルデンがわずかに眉を動かす。
問われて、ひとりが一歩前に出た。
「この場で、陰毛を剃らせてもらう。それで十分です」
静かな声だった。
「それでいい」
もうひとりも頷く。
あまりにあっさりとした答えだった。
「は、はああ?」
レイシアは言葉を失う。
胸の奥で、なにかがずしりと沈む。
だが、なんとなく理解した。
この女たちは、恨みだとかなんとか口にしながら、つまりは、死ぬよりも耐えがたい屈辱に追い込まれているレイシアをさらに追い詰めようとしていうだけだろう。
「な、なんということを……。茶番だ──。そんな恥辱を受けるくらいなら死ぬ──。あたしの首を切れ──。それでいいだろう」
レイシアは声をあげた。
「いや、陰毛だ。あたしたちは、それが欲しいのさ」
そのとき、そのふたりのうちのひとりが突然にしゃがみ込んだ。かちゃんと台座の下部分の留め具を外す音がした。
さらにもうひとりが側面の留め具を操作して、床についていた足の裏がわずかに浮く。
四肢を拡げて固定されたまま、枠ごと軸を中心にゆっくりと反転していく。
「わっ、なにをする──」
レイシアは動揺して叫んだ。
しかし、そのときには、レイシアの身体は完全に上下が反転して逆さ吊り状態となってしまった。開脚した両脚を上にし、頭を下にした格好だ。
再び金具が鳴り、その状態で固定される。
「剃刀と刷毛を準備しな」
アルジェが声をかけた。
ほかの女兵たちが部屋の隅に準備してあった道具を車輪付きの台車にのせて運んでくる。
逆さになった視界に、台車に水刷毛と剃刀があるのが見えた。
あれを、あそこに使うつもりなのか──。
さっきのふたりが、刷毛と剃刀をそれぞれに手に取る。
「や、やめてくれ──馬鹿な真似はやめてくれ──。頼む──」
レイシアは真っ赤になった顔を左右に揺さぶり、激しく身体をうねらせた。
「剃っているあいだは粗相をしないでよ、騎士さん。そんなことしたら、おしっこがどうなるかわかるでしょ?」
「自分の小便を被りたくなかったら、必死に耐えてね」
右手に剃刀を持つふたりが左右から、左手で水刷毛を股間に触れさせ始めた。
「ああっ──や、やめないか──あ、あんまりだ──」
レイシアは絶叫した。
だが、たっぷりと水を含んだ刷毛が女の部分を微妙に刷毛でなぜくすぐると、さすがに力が抜けてしまう。
「ほら、動かないの。大事なところが傷だらけになるわよ」
「ちょっとくらい我慢しなさいよ」
ふたりが水刷毛で陰毛の上を掃く。
クリトリスを毛先でくすぐられた。
「ひいいっ」
狂うような疼きが襲いかかり、尿意はレイシアの意思とは無関係に、ついに堰を切ってしまった。
だが、止まらない。
「ああっ、そんなああ──」
眩暈のような恥辱感とともに、レイシアは逆さ開脚の裸身をのけ反らせた。そのレイシアの全身に、噴水のように噴き上がった尿が、逆さの身体へとそのまま降りかかる。
「あっ、始めちゃったわ──」
「やったわね」
女たちが出鼻をくじかれたように、慌てて身体を退ける。
そのあいだも、凄まじいほどの噴流となったレイシアのおしっこは、逆さ吊りのレイシアに注ぎ続けた。