サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「オルガ? ふうん、新しい矯正官……ですか」
アグネスは、渡された資料に目を通しながら言った。
「ざっくばらんに言えば、小悪党というところかしらね」
アルジェが馬鹿にしたように笑った。
「どんな小悪党なんです?」
アグネスは資料から顔を上げた。
「女衒のようなこともしているし、認可を受けていない闇奴隷商売にも足を突っ込んでいる。酒にもだらしがないし、博打好きで借金もあるようね」
「そんな人物を、サロンの矯正官にするんですか?」
「調教師としての腕はいいのよ。性技を仕込むのもね。その点では熟達しているわ。元帥とは、その手の店で知り合ったらしいわね」
「なるほど……」
「まあ、お館様に害をなすような女じゃないわ。サロンに諜報員として乗り込むような根性もないでしょうしね」
アルジェは、そう言って肩をすくめた。
「まあ、わかりました。しばらくはサロンに常駐ですね。男兵たちに博打遊びに誘わせますわ。適当に借金を作らせたら、外にある借金と合わせて、たちの悪い高利貸しにまとめさせましょう。資料を見る限り、そこまでのことは必要なさそうですけど、念のためです」
アグネスは資料を返す。
「どんな女かは会ってみないとわからないけどね。下品で粗野な女に、高貴な王族や貴族たちを任せるってのも面白いじゃないか。サロンにはいい刺激になるさ。お館様の狙いもそこにあるんじゃないのかねえ」
アルジェが笑った。
そのときだった。
「うぐぐ……うぐっ」
苦しげな呻き声が部屋に響いた。
アグネスにとっては、心地よい音楽のようなものだ。
呻きは、アグネスとアルジェがいる応接室の奥にある隣室からだ。もともと、客室に附属する寝室だったが、いまは寝台もなにもかも取り去って、矯正室のような仕様にしていた。
内接の扉を開放しているので、その部屋からの声が聞こえるのだ。
アグネスはなんとなく、そっちに視線を向けた。
「んぐうっ、うむむ」
苦悶の声をあげている正体は、天井から吊られる鎖に手足を畳まれて、背中側で小さく丸められた格好で吊られていた。女性用の短いスカートを身につけさせてはいるが、スカートから覗く脚にはすね毛があり、れっきとした男だ。
「しばらく見ないうちに、面白いことになっているじゃないかい。ところで、随分と苦しそうだけど、いつから、あいつは、あの状態なんだい?」
アルジェが苦笑混じりに訊ねた。
アグネスは、首を傾げた。
隣室で宙吊りにしているのは、バルザックと一緒にやってきたガレスという男だ。カイネウスに敵対する派閥に属する男ということで、アルジェに頼まれて、アグネス自身が工作を担当することになった。
堅物そうだったが、食事に強い媚薬を混ぜて服用させてみると、簡単にアグネスの誘いに落ちてしまった。
最初の一日は、アグネスが奉仕するくらいで、比較的常識的な淫行を続けていたが、二日目に入ると嗜虐と被虐の遊びをそれに混ぜた。
三日目までは、アグネスが責められる役割を演じたが、四日目からは立場を逆転させた。
今日でもう七日目になるが、いまでは、アグネスがガレスを責めるのが完全に定着している。
昨日の夕方からも、ふたりで酒を飲みながら、たっぷりと「遊び」を愉しんだ。ガレスの酒には、いつものように強い媚薬を混ぜた。
遊びの途中で、アグネスは眠ってしまったのだが、考えてみれば、あれから一度もガレスをおろしていない。拘束も解いていなかったはずだ。
「……昨夜……。いえ、昨日の夕方からかも……」
アグネスは思い出しながら言った。
「夕方からだって? 大丈夫かい。死にかけてないだろうねえ」
アルジェが呆れたように笑う。
アグネスは首を傾げた。
「確認してみるわ」
アグネスが隣室に向かった。
アルジェもついてくる。
隣室に入ると、ガレスは昨夜のまま、天井から伸びる一本の鎖に吊られていた。
両腕と両脚は背中側で窮屈に折り畳まれ、身体を小さく丸めた格好になっている。床からの高さは、ちょうどアグネスたちの胸のあたりだった。
身体の真下には、大量の汗が滴り落ちた痕が残っていた。しかし、その痕はすでに乾いており、いまは汗が落ちている様子もない。
おそらくだが、汗を絞りきったのだろう。
女の服を着たガレスの両眼は革製の目隠しで覆われ、耳にはサロンの〈遮断栓〉が装着されている。外部の音は完全に遮断されていた。
さらに、口には布が詰め込まれているため、ときおり漏れてくるのは、くぐもった呻き声だけだ。
アグネスとアルジェが左右に立っても、ガレスは二人の存在に気づいた様子を見せなかった。
「とりあえず、息もしているし、元気そうだわ……」
アグネスは呟いた。
ガレスには、スカートだけでなく、女用の小さな下着を身につけさせていた。側面を紐で留める小さなものだ。その下着の中で、興奮で勃起しているために、布の上側から完全にはみ出している怒張がしっかりと存在を主張している。
「確かにね……」
アルジェは呆れたような顔で、宙吊りになったガレスを眺めていた。
そして、気がついたように、ガレスの口の中に視線を向ける。
「もしかして、靴下で猿轡をしてるのかい?」
「そういうのが悦ぶんです。口にははいていた下着を突っ込んで、その上から一日身につけていた長靴下で巻きつけたんです。こいつ、それだけで、射精したんですから」
「お前も愉しんでいるじゃないかい」
アルジェがげらげらと笑う。
「カイネウス様のためだと思うから、相手をしているんです。まあ、それなりに愉しんでるのは間違いないですけど」
アグネスは、膨らんでいて、下着からはみ出しているガレスの怒張の先端を軽く指で突いた。
「うっ、うぐうっ──」
ガレスが吠えるような大声を出しながら、目隠しをされている顔で必死にアグネスを探すように首を動かす。
しかし、アグネスはすぐに指を離してしまう。
ガレスの吠え声が、なにかを期待するような哀願の響きに変わる。
「こりゃすげえな。完全に出来上がってるじゃないかい。それにしても、こいつずっと勃起してるけど、こうやって吊られるのが嬉しいのかねえ」
アルジェが手を伸ばして、指で思い切り、ガレスの怒張の先を弾いた。
「んごおっ」
その瞬間だった──。
ガレスの身体が弾かれたように動き、いきなり尖端から白濁液を放出してしまった。
「おっと。なんだよ、これ」
アルジェが慌てたように手を引っ込める。白濁液が勢いよく跳んで、一射、二射と床を汚してしまった。
「気をつけてくださいね。朝昼晩の食事と、すべての飲み物に媚薬を混ぜて服用させてますから。ちょっと刺激しただけで、玩具みたいに射精しますよ」
アグネスは、横の台から魔道紋の刻んであるリングを手に取った。
そして、下着を取り去ってしまうと、男根の根元にリングを嵌めてやる。これで、射精感はあっても射精することはない。
「んぐううっ、んごおおっ」
男根の根元を締めつけられる痛みを感じたのか、ガレスが泣くような声をあげた。
「それにしても、あの堅物そうな男がねえ。こんなになっちまうのかい。媚薬を飲まされていることに、こいつ気がついてないのかい? 仮にも軍人だろうに」
アルジェが呆れたように言う。
「無色無臭の薬剤ですしね。でも、四日目に気がつきましたわ。それで拒絶しようとしたので、拘束したまま放置しました。媚薬には中毒性のある魔道薬を混ぜてましたので、すぐに禁断症状が出ました。その状態で可愛がってあげて終わりです。いまでは、中毒症状を生む媚薬とわかっていながら、薬を強請ってきます」
「怖い女だねえ。さすがは、ネムリアの悪魔と呼ばれるだけはあるね。元帥府所属の主席副官を薬物中毒にしちまったかい」
アルジェが大笑いした。
「その二つ名は、あなたが言いふらしているのでしょう。とにかく、もう、どこかに助けを求めるような性根は残ってませんよ。すっかりと快楽のとりこです。サロンの命令にどんなことでも従う性奴隷です」
「ふうん……それで、こいつはサロンを出たあとも、お前の言うことを聞くのかい?」
アルジェがアグネスを見る。
「聞くでしょうね。こいつの痴態を記録した魔道映像もありますし。逆らえば、破滅すると言い聞かせてます」
「映像だけかい? そもそも、我に返ったこいつが垂れ込んだらどうするんだい。逆に、その映像が証拠になっちまうぞ」
「その懸念はなくはないですけど、実際には告発は無理でしょう。あの禁断症状を一度味わえば、二度味わいたい者はいませんよ。肉体に害はありませんけど、中毒症状が凄まじいですから」
「中毒症状だけでも、立派な害だよ」
アルジェが呆れたように言った。
「ただ、今回実験的に使いましたけど、汎用的に使うのは問題がありますね」
アグネスは言った。
「どんな問題だい?」
「思考力の低下です。ガレスには、自分が陥った状況から抜け出そうという意思を持つことはできません。その代わり、判断力の低下は、通常業務にも影響するでしょう。日常生活にまで及ぶわけじゃないので、周りがすぐに気がつくとは限りませんが……」
「だったら、王都に戻せば、変化に気がつく者もいるかもしれねえな」
アルジェが眉間に皺を寄せる。
「まあ、今回はカイネウス様を目の敵にする急先鋒の敵を排除することが狙いだったので、これでよしとしましょう。王都に戻ったら、すぐに大病にかかってもらいますわ。回復したときの変化は、病気のせいだと思われるでしょう。閑職に回ったとしても、政府内にいさせておけば、使い道もあるでしょう」
「仕方ないな。だが、できれば、誰にも気付かれないで、思考力を削がないまま、人形のように命令に従う隷属薬みたいなのがあればいいけどな。そうしたら、お館様の敵に片っ端から飲ませるのに」
「都合のいい薬ですわね」
アグネスは思わず笑ってしまった。
そして、目の前で視覚と聴覚を遮断されて宙吊りにしてあるガレスに向き直った。
そのガレスの耳から認識遮断の耳栓を外す。
さらに、床に放り捨てたままだった乗馬鞭を拾う。
「ガレス、しばらく放っておいて悪かったわね。どうかしら、また鞭で打たれたい? 返事くらいできるわね」
「んごっ、ごっ、ごっ」
ガレスが呻きながら、何度も首を上下に動かす。
「そうなのね。すっかりと素直になって、いい子ね。ご褒美よ」
アグネスは、横の台車から魔道操作具を手に取ると、ガレスのアナルに挿入しっぱなしの小型淫具を強く振動させた。
「んおおっ」
久しぶりの刺激に見舞われて、ガレスの身体はまたもや、ぶるぶると震えて、射精をしそうな仕草を示した。
しかし、今度は、股間のリングが射精を阻止するだけじゃなく、射精感を覚えると陰茎に電撃の痛みを及ぼす仕掛けになっている。
ガレスが呻き声をあげる。
「ほらほら、ガレス。射精がしたいの? でも、勝手に射精をすると罰だと教えたでしょう。いつになったら、覚えるのかしらね。しばらく、そのリングをして反省しなさい」
アグネスは指で、ガレスの怒張を柔らかく握ってこすってやった。
ガレスは恍惚とした顔になり、だらしない表情で嬌声をあげる。
しかし、またしても、射精をしそうになったのだろう。身体を跳ねさせて、苦悶の声をあげた。
「また、射精をしようとしたのね。しょうがない男ねえ」
アグネスは手を離して、持っていた乗馬鞭でガレスの背中を思い切り打ってやった。
「あうおっ」
ガレスが悲鳴をあげる。
しかし、すぐさま、アグネスはガレスの股間を握ると、優しく刺激をしてやる。
だが、いまのガレスには些細な刺激でも十分に射精を導く快感だ。すぐに射精感が襲って、リングの電撃が陰茎に襲いかかる。
「んごおおっ」
ガレスの泣き声がまた響いた。
「……あたしは、もういくよ。オルガの件は頼むな、ネムリアの悪魔」
アルジェが出ていった。
アグネスは軽く、手を振って応じる。〈遮断栓〉は外したので、アルジェの声は聞こえたはずなのだが、ガレスにそれに対する反応はない。
それよりも、アグネスの与える喜悦と苦悶の繰り返しに、終わることのないような快感に酔いしれている。
おそらく、いまのガレスには、羞恥も理性もないのかもしれない。思考力は弱まり、人格も消え、全身を揉み抜くような官能だけが支配しているに違いない。
しばらくのあいだ、アグネスは、鞭を打っては股間を刺激し、射精感に襲わせて、電撃を股間に帯びさせるということを繰り返した。そのあいだも、ガレスの股間では淫具が踊り狂っている。
だが、射精だけができないのだ。
やがて、ガレスがすすり泣きを始めた。
もういいだろう。
アグネスは、陰茎の根元の〈リング〉を外すと、アナルの玩具の振動も停止させた。
その代わりに、乗馬鞭を軽く睾丸に向かって打ち据えた。
「んごおおっ、ほごおおっ」
ガレスが全身を引きつらせて吠えた。
怒張からは大量の精が続けざまに放出される。ガレスはがくがくと身体を宙で踊らせ続けた。
やがて、やっと脱力したガレスから、アグネスは口の中の布を外す。
「あ、ああ……き、君は……あ、悪魔だ……」
ガレスは、まだ目隠しの残っている顔を恍惚とさせて、アグネスに向けてきた。
その口はヘラヘラと笑っており、口端からはだらしのない涎が垂れている。
「気に入ってもらってよかったわ。さあ、ガレス。奉仕しなさい。そうすれば、また媚薬をあげるわ。ほしいでしょう、あの薬が?」
アグネスは手を伸ばすと、ガレスを吊っている鎖の留め金を外した。
手足の使えないガレスが、身体の前面を床に向けた状態で落下する。
「んぐうっ、があっ」
顎と股間を床に打ち据えたガレスが悶絶するような声を出した。
アグネスは、その身体を蹴って仰向けにする。
「さあ、ガレス、また言いなさい。このサロンはお前にとってなに? カイネウス様についてどう思うの?」
アグネスは、ガレスの横にしゃがみ込んで、ガレスの男根の亀頭をゆっくりと指で刺激する。さっき射精をして、少しばかり小さくなっていたガレスの股間がむくむくと頭をもたげる。
「あっ、ああ……こ、このサロンは最高の場所だ──。俺にとって、ここ以上に素晴らしい場所はない──。カイネウス様は偉大なお方だ──。俺は間違っていた──。あのお方に逆らおうとした俺が愚かだったんだ──。これからはカイネウス様に忠誠を尽くす──。なんでも命令してくれ──俺は、俺はもう、逆らうことなど絶対にしない──」
「よくできました。ご褒美よ」
アグネスは足首まであるスカートを太腿までめくり上げると、ガレスの顔の上に跨がって座る。
そのとき、アグネスは、昨夜、下着を猿轡代わりにガレスの口に突っ込んでそのままだったことを思い出した。剥き出しだった股間がガレスの顔に密着する。
「んぐっ、んがっ」
また、鼻と口をアグネスの股間に押し潰されて、息のできない苦悶に苛まれながらも、ガレスは悦びの声をあげて、狂ったようにアグネスの股間に舌を這わせ始める。
「ああ、気持ちがいいわ、ガレス」
アグネスは、しゃくり上げるような声をあげて、ガレスの顔の上に乗っている上体を反り返らせた。