サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「やれ──」
アルジェの命令が飛ぶ。
女兵たちの手が、一斉に伸びた。
「やめよ──。仮にも、わたくしは王族です──ああっ」
セリアは悲鳴をあげた。
数は、瞬時に把握できなかった。
左右から──、背後から──、同時に身体を押さえ込まれる。
肩口、肘、腰。支点が分散され、力の向きを定めることができない。
「離しなさい──」
大声を発する。
だが、制止は意味を持たない。
腕を引かれる。
拘束具が嵌められた手首では、掴み返すことも、振り払うこともできない。
引かれるままに重心が崩れ、踏みとどまるための足場も与えられない。
押さえられている位置を数える。
右肩にひとり──左腕にふたり──。背後にも──。前からもひとり──。
最低でも五人。
それぞれが別方向に力をかけているため、単純な反発では均衡が取れない。
衣の襟元に手が入る。
引き上げる動きではない。左右に引き裂く方向だ。
布地の張力が一瞬だけ保たれ、次の瞬間、縫い目が音を立てて弾けた。
「あっ、いや──」
裂けた。
布が身体から離れる。
肩口から胸元にかけての肌に、冷たい空気が触れる。
まだ覆われている部分はある。
だが、それも時間の問題だと理解する。
そして、はっとした。
視線の数が増えているのだ。さっきまでは女兵しかいなかったが、騒ぎに寄ってきたのか、建物側から少しずつフィロス軍の男兵の姿も現れ始めていたのだ。
それがどんどんと遠巻きだが増えていく。
視線の層が増えていた。
女兵だけではない。外縁に男の視線が混ざりだしている。
「やめなさい──」
声は低く抑えたまま出る。
だが、女兵たちの手は止まらない。
別の手が裾に入る。
持ち上げるのではなく、横へ引く。
布が身体に沿って引き伸ばされ、抵抗が消えたところで、再び裂ける。
腰の結びに手が入る。
細い紐が引かれ、あっという間に解かれた。
拘束された腕では、それを押さえることができない。
布が落ちる。
身体の前面が完全に露出する。
同時に、背後から別の手が肩口にかかり、残っていた布地を引き裂いた。
さらに履物まで奪われて素足にされる。
いつの間にか、セリアに群がる女兵の数も増えている。
ついに、着衣は完全に剥ぎ取られた。
上半身は、コルセット状の胸当てだけ──。
それも長くは持たない。
指がかかる──。いや、刃物か──?
固定具を外す動き。
背に回されたなにかが、結び目を引き裂き、あっという間に引いた。
「待ちなさい──それは……っ」
言葉の途中で、支えが外れる。
乳房に当たっていたものが消える。
胸が風に晒される。
ケイの声が聞こえた。
崩れた声でなにかを叫んでいる。
だが、内容までは拾えない。
「いやっ」
セリアは、最後に残った腰布に手を伸ばす。
唯一残された覆いだ。
幅の狭い、簡素な下着──。
それを、手枷の嵌まった両手で掴む。
拘束具のために指の可動は制限されているが、それでも布を押さえることはできる。
力を入れる。
引き剥がそうとする手に対して、逆方向へ引く。
だが、力の総量が違う。
ふたり──いや、四人──さらに、布に手がかかる──。押さえているセリアの手にも──。
複数の手が重なる。
布にかかる力が増し、ついに、腕を下着から離させられた。
「……やめな──」
アルジェの声で、集まっていた女兵たちが一斉に手を引く。
セリアは、庭のなかで下着一枚の格好で立たされた。
露わになったふたつの乳房をセリアは両手で必死に隠し、身体を折るように身を縮込ませる。
「指輪と髪留めを剥ぎ取れ」
アルジェが命令する。
収攬のあいだも奪われなかった王族の証である紋章付きの指輪は抜き取られた。髪留めもだ。
支えるものがなくなった長い金髪が背中に落ちた。
「最後の一枚は、自分で脱いでもらうか。手錠を外してやれ」
アルジェが言った。
女兵がひとり寄ってきて、手元の楕円球のものを手錠にかざした。小さな金属音が鳴り、手錠が外れる。
「あ、あなたたちは、それでも女ですか──」
「ああ、昔は女だったね」
「なにを言っているのです.こ、こんなことをさせるなど、恥を知りなさい」
セリアは自由になった両手で胸を隠しながら、アルジェたちを睨む。
「これが恥だって──? そんなものは恥ずかしさのうちにも入らないよ。あたしたちフィロス人の女が、あなたたちからどんな風に扱われていたか知らないのかい」
すると、アルジェが顔を歪めて怒鳴った。
「そ、それは、わたくしのせいでは……」
セリアは思わず言った。
確かに、テレオロス人たちは占領地で属国に圧政を敷いていたらしい。駐留していたテレオロス軍による属国の婦女子たちへの暴行、陵辱行為も日常茶飯事であり、かなり手酷いものだったとは聞いた。
だが、知らなかった。
知ったのは、王宮が占領軍に支配されてしまってからだ。
遠い占領地のことだ。王都からほとんど出たことがないセリアにわかるわけがない。
「はあ、仮にも王族じゃねえのかい──。知らないで済ませられるわけねえだろ──」
アルジェの激昂が襲う。
セリアは身体をびくつかせた。
さすがに、自分の発した言葉があまりにも無責任なものだということはわかる。
「い、いまのは……失言でした……。お、王族のひとりとして……お詫びを……。しかし、この仕打ちは……」
セリアは両手で身体を隠しながら言う。
すると、アルジェが舌打ちした。
「はっ、じゃあ、王族が責任を取るつもりがないなら、王族以外の者に責任を取ってもらうか──。代わりに、その侍女を素っ裸にしちまいな。そして、別棟の男囚牢にでも放り込んでしまえ」
アルジェが怒鳴る。
すると、セリアを囲んでいた女兵たちが今度は一斉に、ケイに向かった。
「あっ──いやああ」
ケイが恐怖の悲鳴をあげた。