サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
021 矜恃の罰【第7日】
「痒い──痒いですわ、ああ、カイネウス様──」
セリアは、柵のない寝台へ仰向けに拘束された裸身を狂おしく悶えさせた。全身が脂汗に濡れ、白い肌へ髪が張り付いている。
ただ寝かされているだけではない。
両腕は背中側で組まされ、麻縄で後手にきつく緊縛されていた。さらに両脚は、足首のあいだへ金属棒を挟み込まれ、その両端に備えられた革枷で固定されている。
その金属棒を、二本の鎖が天井から吊っているのだ。
セリアの脚は大きく左右へ開かれたまま高々と持ち上げられ、最も見られたくない羞恥の場所を無防備に晒しあげられた格好だった。
「ぁ、あっ……や、やめ……っ」
下腹部が震えた。
股間と尻の奥に塗り込まれた掻痒剤が熱を持ったように疼き続けている。
痒い──。
ただ痒いだけではない。
皮膚の表面ではなく、肉の内側を虫が這い回るような不快感だった。掻き毟りたいのに届かない。脚を閉じることもできないので腰を擦りつけることも許されない。
ただ、必死に脚を揺らすだけだ。
痒みから逃れようとするたび、吊り上げられた脚が鎖を鳴らし、さらに股間を晒してしまう。
「ふふ……。今日もよく啼くねえ、セリー」
穏やかな声が落ちた。
股間側の椅子に腰掛けていたカイネウスだ。彼が紅茶のカップを横の台に静かに置く。
裸身へガウンだけを羽織った姿だ。無造作に組まれた脚。くつろいだ仕草。まるで夜会でも愉しむかのような余裕がある。
その視線だけが、ずっとセリアの開かれた脚のあいだを眺めていた。
「っ……見ないで、くださいまし……」
「無理だな。君は見られるためにその格好をしている。女の穴だけじゃない。不浄の穴だって美しいよ。もっと毀してあげたいくらいね」
「ああっ──」
脚が震えた。
また痒みが強くなる。
セリアは嗚咽を漏らした。
このサロン・セルパンタンへ囚われて、五日だろうか──。恥辱と屈辱にまみれ、快楽の地獄で失神するまで責められて、覚醒してはまた淫らな調教を受ける日々は、セリアから時間の感覚を失わせていた。
そして、毎日のように、カイネウスはセリアを抱く。窓も時計もないこの館では、朝も夜も曖昧だった。
だが、普通に触れてくることはない。
羞恥に狂わせ──。
拘束して自由を奪い──。
痒みに悶え狂わせ──。
快感で押し潰す──。
その姿をサロンの兵や召使い──あるいは客人に公開する。そのたびに、王太子妃としての尊厳が剥がされていく気がした。
あらゆる辱めで理性を崩し、狂乱させ、その果てにセリアを犯すのだ。
それを、カイネウスは「矯正」と呼んでいた。
セリアが辱められる場には、アルジェをはじめとしたフィロス兵たちが立ち会う。男女を問わず、多くの視線がセリアの裸体と乱れる姿を見下ろすのだ。
だが、セリアへ触れることを許されているのは、カイネウスだけだった。
どういう意味があるかわからない。
しかし、サロンの者は、セリアがこのカイネウスの特別な囚人だからと口にしていた。
「うぅ、うぅぁ……っ」
痒い──。
頭がおかしくなりそうだった。
王太子妃としての矜持も、羞恥も、なにもかも掻き毟ってしまいたい。
だが、その願いすら叶わない。
拘束された身体は、ただ痒みに震え続けるだけだ。
「耐えるね、セリー……、いや、違うか、耐えているんじゃない。無理やりに耐えさせられているのか」
カイネウスが立ちあがる。
ゆっくりと寝台へ近づき、寝台に上がり込むと、吊られた脚の前に胡座をかいた。
セリアの喉がひくりと震えた。
「セリー、もっと悩ましくお尻を振ってごらん。君がもっとはしたなく淫らになれたら、楽にしてあげるよ」
カイネウスは寝台へ幾つかの道具を運び込んでいた。その中から一本の絵筆を取りあげると、セリアの陰毛を掬うように穂先を這わせる。
「あああっ──」
セリアは、脂汗の垂れるうなじを大きく反らせた。
堪らない焦れったさが下腹部を駆け巡る。
「も、もうだめですわ──。カイネウス様──お願いでございます──ひと思いに──」
もう、この狂おしい痒みが終わるなら、カイネウスの男根で奥まで貫いて欲しかった。
だが、それを口にすることだけはできない。
それは、何もかも失ったセリアに残された、最後の王太子妃としての矜持だった。
「ひと思いに、なんだい?」
カイネウスが笑う。
「君は、それをちゃんと口にしないといけない。そうしないと、いつまでもこのままだよ」
今度は、絵筆がお尻の穴へ触れた。
「ひいああっ──」
穂先が円を描くように穴を撫で回した瞬間、鋭い快感が背筋を貫いた。
セリアは腰を大きく跳ねあげる。
だが、柔らかな筆先だけでは、あとほんの少し刺激が足りない。
その足りなさが、かえって痒みと快感を狂おしいほど昂ぶらせる。
「ぁ、ぁあっ──や、やぁっ──」
カイネウスの操る絵筆がお尻の穴の入口を這い続ける。必死に避けようとするが、両脚を宙吊りにされた状態では逃げることは難しい。
セリアにできることは、ひたすらにはしたなく悶え啼くことだけだ。
吊られた脚が激しく震えた。
「セリーの弱点はお尻の穴だね。ここは、たっぷり時間をかけて開発してあげよう。きっと誰よりも淫らになれる」
筆が執拗に穴をくすぐり続ける。
セリアははっと顔を横へ向けた。
自分の性感帯が、前よりも後ろにあるのではないか──。
そんなことを思った時期があった。
だが、夫だった王太子は性に淡泊な人だった。
セリアも、それが普通なのだと思っていた。不満を抱いたこともない。
しかし、いまは違う。
このカイネウスに、女の悦びというものを徹底的に教え込まれている。
いや──。
淫らな身体へ確実に作り変えられている。
それが、恐ろしかった。
「ほら、欲しいものを口にしてごらんよ、セリー……。昔のようにね……。君はもっと自由奔放で、自分の感情に素直だったはずだ」
カイネウスが再び絵筆を股間へ滑らせる。
穂先が亀裂をゆっくりと這いあがり、今度は鋭敏になり切った陰核を撫でた。
「いひいいっ──」
セリアは腰を激しく跳ねあげた。
「さあ、僕の一物が欲しいと言ってごらん。昔みたいに無邪気にね」
筆先が陰核を執拗に擦り続ける。
「んふううっ──そんな──そんなことは──」
もう、ひと思いに犯して欲しい。
それが、いまのセリアの切実な願いだった。
この痒みに耐え続ける気力など、もう残っていない。
だが、強引に犯されるならともかく、自分から求めることだけは、どうしてもできなかった。
それは、最後に残された王太子妃としての矜持だった。
それに──まただ。
このカイネウスを見ていると、時折、胸が痛むほど懐かしい少年の面影が重なる。
かつて恋をした少年──。
まだ少女時代のセリアが、三日間だけすごした山の猟師の少年──。
許されなかった初恋……。
しかし、彼は死んだ。
セリアの父王によって殺されたのだ。
すでに、セリアには王太子妃となる政略がもちあがっており、娘の醜聞の可能性となるような、市井の少年との関係を父は許さなかったのだ。
セリアに知らされたのは、彼は死んだという父の言葉だけだった。
哀しみが深かったが、セリアはそれを受け入れざるを得なかった。貴族とはそういうものだ。恋をした自分が愚かだったのだ。その罪を背負う決心をして、セリアはあの哀しみを乗る超えた。
だが──。
もしかしたら、このカイネウスは、あのときのカインなのではないか──。
そう思うことが度々ある。
「困ったねえ……。じゃあ、セリーはもっと残酷な罰を受けるしかない。可哀想だけど君が選んだことだよ」
カイネウスが絵筆を脇へ置いた。
今度は指先が、敏感になり切った陰核へ触れる。
「んんんっ──」
セリアは脂汗を滲ませた顔を歪めて、歯をかちかちと噛み鳴らした。
息も止まるような恥辱感とともに、わずかに顔をあげて、カイネウスの指先を見る。
はっとした。
カイネウスがセリアの股間の愛撫をしながら持っているのが堅糸だったのだ。その先端が丸く編まれていて、微妙な急所を摘まみ上げるようにしながら、根元を糸で結ぼうとしていることに気がついたのだ。
「い、いやあっ、おやめください──。なにをなさろうとしているのですか──」
セリアは逆上して悲鳴をあげた。
「そんなに暴れたらいけないよ、セリア……。これは素直じゃない君への罰だ。従順でない心がほんの少しでも残っていれば、僕たちは、それを消してしまうように君を責める。これがこのサロンの矯正だよ」
カイネウスが優しげな笑みとともに告げる。
しかし、やろうとしていることは残酷だ。巧みに糸を操り、指で陰核を剥き、根元に糸を器用に巻く。そして、ぎゅっと引き締められた、
「ああ、いやあ、だめえっ」
五体がばらばらになったかと思うような衝撃だった。
セリアは二肢を宙吊りにされた仰向けの裸身を極限まで反り返らせた。
カイネウスが陰核を巻きつけた糸を持ちあげたのだ。
太腿が硬直して震え、緊縛されている乳房がセリアの悶えにより、右に左にと大きく揺れる。
「そんなに暴れちゃだけだよ、さらに辛くなるだけだ」
カイネウスが持ちあげた糸を二肢を吊っている金属棒の上に通して、ぎゅっと下に引く。陰核が引きあがり、糸がぴんと張った。
「うああっ、ああっ」
セリアは悲鳴とも呻きとも言えない声を張り上げて、凄まじく悶える。
しかし、動いたことで両脚を吊っている棒が揺れ、激痛が股間を貫いた。
「んぎいいっ」
衝撃にセリアはうなじをのけ反らせて、歯を噛み鳴らす。
「これで、暴れることもできないね。じゃあ、痒み液を塗り足してあげるね。重ね塗りをするほど、痒みが大きくなるからね」
カイネウスが横に置いた絵筆を手に取り、それをあの茶色い粘液の入った小瓶に差し込んでくるくると搔き回すのが見えた。
「ああっ、もう殺して──いっそ殺してください──」
セリアは、少しでも糸を緩めようと、必死に腰を引きあげながら絶叫した。
「心配ないよ、セリア…….君の命だけは僕が守る。僕は君が死なないために頑張っている。だから、君はなにも考えずに、このサロンで毀れてくれたらいい」
カイネウスの筆が吊り上げられている陰核を這う。
セリアは言葉にならない悲鳴を迸らせた。