サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
「うああっ、ああっ、カイネウス様──やめてぇ──」
カイネウスが、糸で引きあげられている陰核へ、掻痒剤の粘液を含ませた絵筆をゆっくりと這わせた。
「ほら、あんまり動かない方がいいよ。動けば自分を苦しめるだけだ」
カイネウスが絵筆で股間をくすぐりながら言う。
口調だけは優しい。しかし、やることは辛辣だ。
セリアが身を捩ったことで吊られた糸が強く張り、下腹部へ鋭い激痛が突き抜けた。
「あがああっ──」
火を押し当てられたような刺激が、痒みに狂い切った股間を貫いてきた。
「ひぃっ──あっ、ああっ──」
だが、同時に狂ったように疼いていた痒みが一瞬だけ消える。
痛みなのに──。苦しいはずなのに──。
その一瞬の痒みからの解放を、身体が快感として受け入れるのがわかる。
セリアは脂汗に濡れた顔を震わせた。
もう、自分が苦しんでいるのか、快楽に乱れているのか、それすらわからない。
名状し難い痺れが股間から背筋を駆けあがり、頭の奥まで白く焼いていく。
身体の芯が蕩けていくようだった。
「そこを吊り上げられるのは、痛いだろう……? だから、この苦しみを受け入れるんだ……。そうすると楽になる」
カイネウスの穏やかな声が落ちた。
まるで恋人へ囁きかけるような優しい声音だった。
絵筆が糸で引きあげられている陰核を優しく弄ぶ。
「ひいいっ、ひっ、ひいっ──」
セリアは悲鳴を漏らして悶えることしかできない。
「セリーが生き延びるには、このサロンで惨めさを受け入れるしかない……。そうしなければ、君は殺されるかもしれない」
カイネウスが絵筆を脇へ置いた気配がした。その代わりに、小瓶へ指先を浸している。粘度の高い液がぬらりと絡みついたのがわずかに視界に入る。
「……やっぱり、僕は筆より指の方が好きかな。淫らなセリーをより深く味わえるからね」
カイネウスの指が優しく陰核を揉み始める。
「うああっ、ああ──」
セリアは、狂おしさに呻き声を漏らす。
「最初より、随分と敏感になったね.心持ち大きくなった。これからの矯正も、痒み責めと併用がいいのかな。もっとセリーを意地悪に責める方法を考えておくね」
カイネウスが指先で陰核への刺激を繰り返す。
セリアは激しく首を振った。
「や、やめ……っ」
「可愛いよ、セリー……。君が昂奮しているのを感じるね。じゃあ、ご褒美だ」
カイネウスが指をお尻の穴にも挿入してきた。しかも、粘液の媚薬が指先に塗られていたのがわかる。挿入された場所がいきなりかっと熱くなった。
「ひあああっ、もう許して──許してください」
セリアは身体を突っ張らせた。糸が揺り動き激痛が走る。
「んぐうっ」
「はは、セリーは面白いね。お尻がこんなに敏感なのはサロンの雌奴隷として見込みがある」
カイネウスが指をお尻の中で曲げて、奥を搔くように動かした.
「あああっ」
息も止まるような快感の槍が貫き、セリアはがくがくと全身を震わせる。
「ひあああっ──もう許して──許してください──」
セリアは身体を突っ張らせた。
吊られた糸が揺れ、またもや激痛が下腹部を貫く。もうなにがなんだかわからない。
「んぐうっ──」
視界が白く弾けた。
痒い──。
苦しい──。
なのに。
次に糸が引かれる瞬間を、身体のどこかが待っていた。
激痛が走れば、一瞬だけ痒みが消える。
その瞬間だけ、救われる。
「いや……いやぁ……」
セリアは涙を零した。
痛みを望み始めている。
そんな自分が恐ろしかった。
「そんなに乱れるなんて、やっぱり可愛いね……。大丈夫だよ。ちゃんと息をして……」
カイネウスの声が耳元で優しく響く。
その声音に、セリアは一瞬だけ目を見開いた。
昔──。
まだ少女だった頃。
侯爵家の別荘に近い川で溺れて、偶然に助けられた山の猟師小屋で熱を出したセリアへ、あの少年は同じような声で囁いた……。
『大丈夫だ。ちゃんと息をしろ』……と。
土の匂い。
獣毛の敷物。
火の爆ぜる音。
熱に浮かされた意識の中、優しく背を撫でてくれた温もりだけは、いまでも忘れられない。
「ああっ……」
その面影が、一瞬だけ目の前の男へ重なった。
だが次の瞬間──。
吊られた急所へ鋭い刺激が走る。
「あがああっ──」
幻想は粉々に砕け散った。
息も止まるような刺激に、セリアは全身を痙攣させる。
「糸吊りにも慣れてきたかな。じゃあ、もう少しだけ頑張ろうか」
すると、カイネウスの手が、張り詰めた糸へ触れた。
「あ……っ、や、やめ──」
ぐい、と──さらに引かれる。
「あがああっ──」
骨まで砕けたかと思うほどの衝撃だった。
激痛と快感が一気に頭の芯まで突き抜ける。
「いぎやああっ──お許しを──お許しをおおっ──」
セリアは絶叫した。
「駄目だよ、セリー。これは、素直になれない君への罰なんだ」
カイネウスは優しく言った。
「ひぎいいいっ」
「ごめんね。もう少しだけ頑張ろう」
さらに糸が引かれる。
「ひがあああっ──」
セリアは宙吊りにされた脚を激しく震わせた。
だが動くたびに、吊りあげられた急所へ痛みが返ってくる。
「素直になります──っ、素直になりますからあっ──」
涙と涎を零しながら、セリアは懸命に叫んだ。
「お願い──もう、楽にしてください──.犯して──わたくしを犯して──」
違う──。
本当は、そんなことを言いたいわけではない。
犯してほしいなどと。
楽にしてほしいなどと。
自分から求めるなど、あってはならない。
王太子妃としての矜持が、まだ胸の奥で悲鳴をあげていた。
だが、もう耐えられない。
痒い。
苦しい。
痛い。
この責めから逃れられるなら、もうなんでもよかった。
「ああっ……ぅ、ぅうっ……」
涙がぼろぼろと零れ落ちる。
セリアは、自分が壊されていくのを感じていた。
「うん、いい子だ。少しだけ素直になれたね……。だったら、この罰にも意味がある」
カイネウスが微笑む。
そして、限界まで引かれた糸が固定された。
セリアは荒い呼吸を繰り返した。
喉が潰れ、肺が焼けるように熱い。
全身が痙攣し続けている。
もうこれ以上はない──。
そう思った瞬間だった。
カイネウスの指先が、張り切った糸を軽く弾いた。
「あぎいいいいっ──」
声にならない絶叫が迸った。
視界が真っ白に染まる。
背筋が跳ねあがり、全身が硬直した。
「セリー、もっと苦しんで……。そして、その苦しみを快感に変えるんだ……。それが堕ちるということだ」
カイネウスが乱暴に糸を繰り返し弾く。
「んぎいいっ」
セリアは悶絶した。
そして、次の瞬間、セリアの意識は一気に暗闇へ沈んでいった。