サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
セリアは完全に意識を失っていた。
荒い呼吸だけが、静かな寝台の上に繰り返されている。
四肢を開かされ、吊りあげられていた身体は、もはや抵抗する力すら残っていない。
カイネウスは、細く張り詰めていた糸へ静かに指を伸ばした。
「……頑張ったね、セリー」
小さく呟きながら、慎重に力を緩めていく。
糸が外れた瞬間、吊りあげられていた急所がわずかに震えた。失神しているはずのセリアの眉がかすかに寄る。
「痛かったよね……」
カイネウスは苦笑するように吐息を漏らした。
続いて、金属棒の両端を固定していた革枷を外していく。
長時間、強く開かされ続けていた脚が、ようやく自由になった。
白い足首には、革帯の痕がくっきりと赤く残っている。
カイネウスは、その痕へそっと指先を這わせた。
汗で濡れ切った身体は熱を帯び、白い肌は薄紅に染まっている。
脂汗に濡れた髪が、頬や額へ張り付いていた。
そして、脚のあいだからは、どろりと濡れた液が絶え間なく垂れ落ち続けている。
カイネウスはしばらく、その姿を黙って見つめていた。
激痛に泣き叫びながら……。
羞恥に狂いそうになりながら……。
それでも、セリアは快感を覚え始めている。
責めを受けるほど、セリアの股間から濡れる量が増えていっている。
痛みから逃れるために、もっと強い刺激を求める。
苦しみの最中、一瞬だけ与えられる解放へ縋りつこうとしている。
セリアは、ちゃんと育っている──。
股を開かされることを……。
嬲られることを……。
惨めな姿を晒すことを……。
心が少しずつ受け入れ始めているのだ。
苦痛だけではない。
屈辱さえも、快感へ変わり始めている。
おそらく、あと少しだ。
セリアは、この恥辱なしでは生きていけなくなる。
間違いなく、この被虐を快感とする体質に育つ。いや、すでにそうなりかけている。
カイネウスは口元を緩めた。
「今日も綺麗だよ、セリー……」
自然に言葉が漏れる。
責めの最中とは違う。
こうして力を失い切った姿を見るたびに、胸の奥が奇妙に疼いた。
昔から変わらない。
泣き顔も……。
苦しそうに息をする顔も……。
熱に浮かされたように頬を赤く染めるところも。
少女だった頃と、なにも変わっていなかった。
山奥の猟師小屋。
濡れた髪……。
震える肩……。
あの日、川で溺れていた少女を拾った。
令嬢だとは知らなかった。
ただ、怯えて、寒さに震えている娘だった。
火を焚き……毛布を掛け……三日間、同じ小屋で過ごした。
短い時間だった。
だが、互いに恋をするには十分だった。
それでも、セリアは最後まで自分の素性を明かさなかった。
迎えが来た日のことを、カイネウスはいまでも覚えている。
山道を埋める騎馬。
甲冑の音。
侯爵家の紋章。
あの時、ようやく理解した。
自分が拾った少女が、決して手の届かない相手だったことを。
セリアは泣いていた。
感謝と……。
どうしようもない謝罪を残して、去っていった。
カイネウスは、そっと自分の顔に刻まれている古傷へ触れた。
その夜、刺客が来たのだ。これはそのときの刻印だ。
当時は理由がわからなかった。
しかし、いまならわかる。
侯爵は許せなかったのだ。
娘の心へ、カインのような男が残ることを……。
王太子妃になろうとしているセリアであるが故に、醜聞の可能性以上に、あの侯爵は娘が市井の少年に恋をした事実を消滅させなければならなかったのだ。
だが、まさか、こんな形で再びセリアを手に入れることになるとは思わなかった。
カイネウスは静かに息を吐いた。
セリアの口は荒い息を続け、口からは大量の涎に加えて泡まで吹きこぼれていた。そんな姿でさえ、セリアは貴族としての凜々しさを失っていない気がした。
涎を垂らし、泡まで吹いているというのに、それでも、顎の線だけは崩れていない。
睫毛を震わせる顔には、まだ王族の気高さが残っていた。
彼女は貴族だ──。あのときも、いまも……。
視線を落とす。
自分の下半身は、責めの最中からずっと熱を持ったままだった。
ガウンの紐を解く。
痛いくらいに勃起している自分の怒張が外気に触れる。
それでも、すぐにはセリアには触れなかった。
代わりに、汗で張り付いた髪をそっと払う。
額へ触れる。
呼吸を確かめる。
「……大丈夫だ。ちゃんと息をしてるね……」
かつてと同じ言葉が、自然に口をついていた。
もちろん、セリアは答えない。
ただ、苦しげな吐息だけを零し続けている。
そういえば、あのときもそうだったか……。
思い出したことで、自然に頬が綻んだ。
カイネウスは、セリアににじり寄り、脱力している両脚を抱え直して自分の膝の上に乗せる。
柔らかい体温が腕へ伝わってくる。
「君をこのサロンで新しくしてあげるね……」
自分の口からささやくような声が落ちる。
「……これから君は、もっとたくさんの辱めを受ける……。誇りを壊され、蔑まれ、羞恥に狂わされる……」
カイネウスは、眠るセリアの頬へ指先を滑らせる。
「……そして、苦しみから逃れるために、その羞恥を求めるようになる……。痛みを欲しがるようになる……。そうしないと、生きていけなくなる……」
その声は穏やかだった。
まるで愛を語るように静かだった。
「……でも、それでいい……。そうすれば、君は生き残れる……」
王国はもうない。
王太子妃セリア・テレオロスもまた、もう存在しない。あるのは、カイネウスの管理下となった、滅んだ王国の元王族であるサロンの終身隷奴。
本来であれば、彼女は処刑されるはずだった。
長年にわたり属国を支配し、蹂躙し続けた王族の最後の生き残りとして……。
共和国には、いまなおセリアの処刑を望む声が根強く残っている。
それでも……この女だけは、死なせるわけにはいかなかった。
だからカイネウスは、属国連合軍をまとめあげ、王国を滅ぼした功績のすべてを差し出した。
最後に残った王族セリアを、共和国の管理下へ置き、処刑の代わりに、旧王国支配層の象徴として矯正することを提案した。
その屈辱を民衆へ示し続けることは、処刑するよりも効果的に王国が完全に滅んだことを民心に植え付けることができると説得した。
共和国はそれを受け入れた。
処刑ではなく、屈辱によって、王国の終焉を示し続けることを。
「……だから、君は壊れなきゃいけない……。僕は、そのためにこのサロンを作ったんだよ……」
カイネウスは、失神したままのセリアを静かに抱き寄せた。
これは救済だけではない。
誇り高かった王太子妃が──羞恥に泣き、苦痛へ縋り、惨めに嬲られることを求める女へ変わっていく。
その過程を、自分の手で刻み込みたい。
股を開かせ。
辱めを教え。
貴族としての矜持を崩しながら、それでもなお美しく喘ぐ姿を見たい。
心の奥底に、黒く熱い欲望が渦巻いている。
セリアを変えたい。
誰よりも高貴だった女を……誰よりも淫らな女へ堕としてみたい。
「……君の命は、僕が守る。だから、心配しなくていい……」
挿入前に、男根へ専用の油剤を塗る。
掻痒剤への対策と、避妊を兼ねたサロン専用の調合薬だ。
王族の血を残さないためでもある。
滅んだ王国に、新たな旗印を生ませないためだ。
サロンで遊ぶ男には、このオイルを使うとともに、避妊薬を服用することが義務づけられている。
カイネウスは、ゆっくりと腰を押し込み、セリアの中へ怒張を貫かせた。
意識のないはずのセリアの裸身が一瞬だけ、弓なりに反り、涎とともに小さな声を絞り出す。
律動をする。
何度味わっても、セリアの胎内は最高だった。込みあがる歓喜とともに、カイネウスは精を放つ。
カイネウスは深く息を吐いた。
張り詰めていた熱が、ゆっくりとほどけていく。
腕の中には、まだ温かなセリアの身体があった。
逃げていない。
失われてもいない。
ここにいる。
そのことに、カイネウスは奇妙な安堵を覚えていた。
しかし、いつまでも余韻に浸ってはいられない。
ここはサロン・セルパンタンであり、ここにいる女は、共和国の管理下に置かれた矯正対象なのだ。
カイネウスは静かに身体を起こした。
まず、セリアの両腕を拘束していた縄へ手を伸ばす。
きつく食い込んでいた縄を丁寧に緩めると、白い手首へ赤黒い痕が浮かびあがっていた。
「……痣ができてるね。可哀想に……」
小さく呟きながら、指先でそっと撫でる。
そのまま濡らした布を取り、セリアの身体をゆっくりと拭き始めた。
汗に濡れた首筋──。
痙攣の余韻が残る下腹部……。
震えの抜け切っていない内腿……。
乱れ切った身体を、一つ一つ確かめるように布を滑らせる。
脚のあいだに溢れていた体液も丁寧に拭い取った。
汗も涎もすべてを丁寧に拭き取り、彼女の身体を清めていく。
さらに、吊り責めの痕が残る急所へ視線を落とし、カイネウスは小瓶の蓋を開く。
透明な薬液を指へ取り、赤く腫れた部分へ慎重に塗り込んでいった。
炎症を抑える薬であり、そして同時に、次の刺激へ身体を馴染ませるための調整薬でもある。
さらに別の薬液を掌へ広げる。
甘く、どこか痺れるような香りが立ちのぼった。
それを、セリアの白い肌へゆっくりと擦り込んでいく。
肩へ……。
脇腹へ……。
内腿へ……。
皮膚の感覚を鋭敏にするための調合薬だ。
矯正を重ねるほど、羞恥も苦痛も、より深く身体へ刻み込まれていくように。
それでも、セリアは目を覚まさなかった。
ときおり眉を寄せ、小さく喉を震わせるだけだ。
長い睫毛は閉じられたまま、荒い吐息だけが繰り返されている。
「……次は、どんなことをしようかな……。君が失神をするほど辛かった場所……。そこにリングを付けるというのはどうかな? サロンを移動するときには、常にそれを引っ張られて歩くんだ。とても愉快だね」
カイネウスは微笑む。
それから、ぐったりとしている身体を静かに抱え起こした。
うつ伏せへ寝かせ、両腕を背中側で組ませる。
革帯を使い、両腕を丁寧に固定していく。サロンの特別囚の日常的な拘束だ。
腰の括れの位置であり、仰向けになっても、痛みが出すぎず、だが絶対に自力では決して外せない魔道具である。
最後に、乱れていた銀髪を整える。
その時だった。
こんこん──。
静かなノックの音が響いた。