サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館 作:ドン・ドナシアン
首を出しかけた瞬間、セリアの後頭部にアルジェの軍靴が落ちてきた。
「んぎいっ──」
セリアの顔面が石床へ叩き潰される。
鉄格子の隙間から出かけていた頭部だけが、廊下側の石床へ押しつけられた。
一方で、首から下の裸身は、まだ鉄格子の内側に残っている。
後ろ手拘束された両腕──。
寝台から慌てて降りたままの無防備な裸身。
開口部を潜ろうとしていたため、腰は中途半端に折れ曲がり、両膝をついた格好になっていた。
その状態で頭を踏まれているので、尻だけが不格好に高く持ち上がっている。
脚はまだ鉄格子の内側。
頭だけが外へ引きずり出され、胴体は檻へ残されたまま──。
まるで、檻から無理矢理に引きずり出されかけている獣だった。
「遅いんだよ──愚図め──。懲罰だと言っているのが理解できないのかい──」
アルジェの軍靴が、後頭部を容赦なく踏みつける。
「ぁ……ぅ……」
セリアは呻いた。
額と頬が石床へ押し潰され、唇の端が床へ擦れている。
後ろ手拘束のせいで支えることもできず、ただ無様に踏まれるしかなかった。
「ひ……ぁ……」
屈辱に喉が震える。
すると、アルジェが軍靴で頭を踏む位置を少しだけずらして、セリアの銀髪を乱暴に掴んだ。
「ああっ──」
髪を引き上げられ、無理矢理に顔だけが持ち上がる。
涙に滲む視界の先で、アルジェの隻眼が冷たく細められていた。
「お前は、特別囚の中でも、お館様直々の矯正を受ける特別な立場なんだよ」
アルジェが低く言い放つ。
「い、いや……」
セリアは掠れた声を漏らした。
だが、アルジェは容赦なく銀髪を引き上げ続ける。
頭皮が焼けるように痛む。
頭だけを外へ引っ張り上げられているせいで、首筋と肩へ不自然な力がかかり続けていた。
「返事は──?」
アルジェの左手の中指と人差し指が強引にセリアの鼻の穴に突っ込まれた。鈎状に曲がって、無理矢理に顔をあげさせられる。
「んぎいいっ」
あまりもの激痛に悲鳴が迸った。
ぼろぼろと涙が零れる。
「聞いているのかい──返事は──」
さらに鼻の穴に突っ込まれている指が上にあげられる。
「んぎゃああ──ひゅうてましゅ──」
セリアは慌てて声をあげる。
「それなのに、今日はどうだった? 失神して矯正を途中で終わらせたそうじゃないかい」
「ち、もうひゅわけ……」
セリアは鼻の穴に指を入れられたまま鼻声で必死に言葉を返す。
「しかも、許可なく、よく失禁もするそうじゃないかい──?」
アルジェの声が鋭くなる。
失禁の記憶など曖昧だ。とりあえず、小さく返事を返す。
「お前の矯正が不十分だと、あたしが恥を搔くんだ。生半可な反省で済むと思うんじゃないよ」
「ひゃいいっ……」
アルジェが鼻の穴から指を引き抜いた。
「ひぐっ……」
セリアの喉から、おかしな声が漏れる。
鼻の奥がじんじんと痛んだ。
アルジェは懐から黒布を取り出すと、まるで汚れでも拭うように、自分の指へ付着したセリアの鼻汁を丁寧に拭き取っていく。
「お前の鼻汁を拭く者なんていないからね、そのままでいな」
アルジェが吐き捨てる。
「ぁ……ぅ……」
セリアは息を詰まらせた。
鼻の奥を掻き回されたせいで、温かな鼻汁が唇の上まで流れ落ちてきているのがわかる。
だが、自分では拭けない。
両腕は後ろ手拘束されたままだ。
どうすることもできない。
裸で尻を持ち上げたまま、鼻水を垂らして踏まれている──。
あまりにも惨めだった。
すると、アルジェが懐へ手を入れた。
取り出されたものを見た瞬間、セリアの身体は硬直した。
細い鎖のついた金属環だった。
表面には細かな刻印が刻まれている。
一目で魔道具だとわかる。
「……っ」
喉が震えた。
サロンに連れてこられた初日の屈辱と激痛を思い出す。
輪の大きさこそ違うが、目の前にかざされたのは、あのときに使われた“牽引環”に似ていた。
あの悪夢のような洗礼だった。
陰核の根元へ無理矢理に喰い込まされた牽引環と、そこから垂れる細い鎖により、セリアは引き回された。
ほんの少し引かれただけで、気が遠くなるほどの激痛が股間を貫いた。
まともに歩くことなどできるわけがない。
だが、アルジェたちは容赦なく鎖を引いた。
『歩け──』
そう怒鳴られながら、セリアは涙を流し、股間を痙攣させ、石床を引きずられるように歩かされたのだ。
アルジェが鎖を引き上げるたび、陰核へ凄まじい激痛が走る。
『共和国……ばんざ……ぁっ──』
あの屈辱的な連行の前には、共和国万歳と──悲鳴混じりに叫ばされた。そのたびに、女兵たちが爆笑した。
あの激痛も──。
苦悶も──。
恥辱も──。
セリアの身体は、いまでも鮮明に覚えている。
あのときに使われた責め具と同じものを見せられて、恐怖が全身に走る。
「思い出したみたいだね」
アルジェが嗤う。
細い鎖のついた牽引環を、わざとセリアの目の前で揺らして見せた。
「……それって……もしかして、あのときの……?」
セリアの唇が震える。
「そうさ。だが、これはあのときのより、もっと愉快だ」
アルジェの隻眼が愉しげに細められた。
「……ゆ、愉快……?」
「ああ、前のは、ただ根元へ締めつけて喰い込ませただけだった。でも、こいつは違う」
アルジェが金属環を指先で弄る。
すると、輪の一部が小さく開いた。
「これは魔道で、その部位へ安全に穴を開ける。そこへ環を通して、身体そのものへ喰い込ませるんだ」
「ぁ……」
セリアの顔から血の気が引いた。
「もちろん、穴を開けるときの痛みはある。血は出ないし、外せば、傷跡が残る心配もない。でも、もしかしたら、本当に穴を開けるよりもずっと痛いかもね」
アルジェが酷薄に笑う。
「……それを、この前と同じ場所へつけてやるよ」
「いやああっ──」
セリアが絶叫した瞬間、アルジェは冷たく言い放った。
「引きずり出しな」
女兵たちが一斉に動いた。
鉄格子の内側に残っていたセリアの肩、脇腹、腰、脚へ手が伸びる。
「やめてください──やめてっ──」
セリアは必死に身体を捩った。
だが、後ろ手拘束された身体では抵抗にならない。
頭だけを外へ出したまま引っ掛かっていた裸身が、鉄格子の開口部から乱暴に引きずり出されていく。
「ああっ──」
肩が鉄格子へ擦れた。
腰が石床へ落ちる。
そのままセリアは、布の向こうの廊下側へ完全に引きずり出され、尻餅をつかされた。
左右の女兵が膝を押さえ込む。
さらに別の女兵が肩を掴み、逃げられないよう押さえつける。
「いや──いやあっ──」
両脚が強引に開かれた。
無防備な股間が廊下側へ完全に晒される。
その正面へ、アルジェがゆっくりとしゃがみ込んだ。
細い鎖のついた牽引環が、ゆっくりと股間へ近づいてくる。
「家畜みたいに啼きな」
アルジェが嗤った。
左右の女兵たちが、さらに強くセリアの身体を押さえ込んだ。
「いやっ──離して──」
開かされた脚が震える。
股間に、細い鎖のついた牽引環がゆっくりと近付けられていく。
「お許しを──そんな残酷なことだけは、お許しください──」
セリアは必死に叫ぶとともに、なんとか女兵たちから逃れようとする。
しかし、左右から押さえられている身体はほとんど動かない。
「今日は、反省房で粗相癖まで躾け直してやるよ」
次の瞬間、環が陰核にぐいと押しつけられた。
「ぎぃあああっ──」
凄まじい激痛が下腹の奥まで一気に突き抜ける。
セリアの身体が石床の上で跳ねた。
「あがああ──あぁ、ぁあっ──」
視界が白く弾ける。
呼吸が潰れた。
視線を送るとすでにアルジェは牽引環そのものからは手を離しているのに、小さな輪が股間にぶら下がっている。
さらに、アルジェが、その環に繋がっている鎖を容赦なく吊り上げた。
「ひゃがあああっ──」
股間を引き裂かれるような痛みに、セリアは絶叫した。
その瞬間だった。
しゅっと水音とともに、股間からおしっこが飛び出したのだ。
「この小便女が──躾のそばから失禁かい──」
アルジェが激怒した。
その剣幕に、セリアは竦みあがった。だが、一度始まった放尿はとまることなどない。
「あらら、呆れた王族だねえ」
「こんな廊下で小便して、誰が掃除すると思っているのよ」
左右から押さえつけている女兵たちも嘲笑する。
そのあいだも、股間からはおしっこが流れ続ける。
「反省してるのかい──」
アルジェがさらに鎖が引く。
「ぎゃあああっ──」
セリアは涙と涎を零しながら絶叫した。
羞恥で頭がおかしくなりそうだった。
押さえ込まれて──。
股を開かされて──。
失禁まで晒されている。
なのに、身体の奥では、説明し難い熱まで広がっていた。
「ぁ……や……いやぁ……」
苦痛と屈辱の中で、身体が勝手に震えてしまう。
そんな自分が、たまらなく恐ろしかった。
やがて、やっとおしっこが止まった。
「まったく──。特別囚ともあろうものが、情けない姿だね」
石床へ滴る液体を見下ろしながら、アルジェは鼻で嗤った。
「ぁ……ぅ……」
セリアは肩を震わせた。
開かされた脚。
股間から垂れる鎖。
石床へ押さえ込まれた裸身。
そのうえ、自分の粗相まで晒している。
羞恥で頭がおかしくなりそうだった。
すると、アルジェがもうひとつの金属環を持ち上げた。
今度は鎖のついていない、小さな輪だった。
「……っ」
セリアの喉が震える。
アルジェは、その輪を今度は、セリアの顔に近付けてくる。
「な、なにをなさるのです──?」
掠れた声が漏れる。
「なにをじゃないよ。家畜と言えば、鼻輪だろう?」
「っ──」
だが、アルジェは嗤うだけだった。
セリアの顔から血の気が引いた。
次の瞬間、アルジェの左手が顎を掴む。
「や、やめ──」
さらに別の女兵が後ろから髪を掴み、無理矢理に顔を上へ反らせた。
「嫌です──っ、おやめください──」
セリアは必死に首を振ろうとした。
だが、やはり、左右から頭を押さえ込まれて動けない。
冷たい金属が鼻先へ触れる。
「これに懲りたら、お館様の矯正中に勝手に寝るんじゃないよ──。排泄壺も回収だ。小便は許可制だ。我慢することを覚えな」
アルジェが嗤った。
輪の開いた部分が、鼻のあいだへ押し当てられる。
「んぎゅうううっ──」
セリアの身体が跳ねる。
視界が白く弾け、涙が一気に溢れ出した。
逃げようとしても、左右から頭を押さえ込まれている。
髪を掴まれたまま、無理矢理に顔を上へ向けさせられていた。
鼻の奥に穴が開いていく熱い痛みが脈打つ。
「ぁ……あ……」
口から涎が零れた。
次の瞬間、かちゃり、と小さな金属音が鳴る。
輪が閉じたのだ。
鼻の下へ、冷たい重みがぶら下がる。
「ほら、立派な家畜鼻だ」
アルジェが嗤った。
セリアは涙に濡れた視界で、自分の鼻先から小さな金属輪が垂れているのを見た。
王太子妃だった自分が──鼻輪をつけられている。
その事実だけで、羞恥に身体が震えた。
「立たせな」
アルジェが命じた。
女兵たちがセリアの両腕を掴み、無理矢理に立ち上がらせた。
「ぁ……ぅ……」
鼻の奥が脈打つ。
股間へ装着された牽引環も、わずかに動くだけで激痛を返してくる。
その前へ、アルジェが寄ってきた。
股間から垂れている細い鎖を掴み、そのままセリアの鼻輪へ通していく。
「や、やめええっ……」
セリアの顔が引き攣った。
だが、アルジェは止まらない。
鎖は短く調整され、鼻輪と股間が無理矢理に繋がれる。
「ぁあっ──」
セリアの身体が折れ曲がった。
顔を上げようとすると股間へ激痛が走る。
逆に、少しでも腰を伸ばそうとすると鼻輪が引き攣られる。
その結果、セリアは前屈したままの窮屈な姿勢へ固定されてしまった。
アルジェはさらに、鼻輪の外側へ金属製の円盤を取り付けてぶら下げた。
共和国の紋章が刻まれた、こぶし大の留め具だった。
「これで戻らないね」
アルジェが満足そうに嗤う
「ほら、反省房に行くよ」
「ぁ……ぁ……」
セリアは涙を零した。
「反省房は一般囚層にある。その無様な姿を、一般囚人どもにたっぷり見せておやり」
次の瞬間、アルジェが鎖を引いた。
「ひぁああっ──」
鼻輪と股間へ同時に激痛が走る。
セリアは悲鳴をあげながら、よろめくように一歩を踏み出した。
前屈した姿勢のまま──。
涙だけでなく、鼻輪のせいで鼻水まで流しながら──。
鎖へ引かれるたび、身体を震わせて──。
セリアは必死によろめく足を前に出し続ける。
まるで、家畜のように……。