※この作品はR-18です。

サロン・セルパンタンの五百日の調教記録──亡国の花と蛇の館   作:ドン・ドナシアン

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028 淑女たちの狂宴─ 一般隷奴層【第7日】

「ほら、見な」

 

 階段を降ろされていたセリアは、不意に鎖を引かれて足を止めた。

 

「……っ」

 

「あれが、一般隷奴たちだ」

 

 顎で示される。

 特別囚区画から下へ続く大階段は、途中から吹き抜け構造になっていた。

 その手摺りの隙間から、下層の広間が見下ろせた。

 

「……っ」

 

 セリアの喉が震えた。

 広かった。

 巨大な石造りのホールだ。

 高い天井の途中のあちこちに横梁があり、そこから幾筋もの鉄鎖と滑車が渡されて、壁際には燭台が並んでいる。赤い火が揺れるたび、石壁へ女たちの影が無数に伸び縮みしていた。

 

 熱気が上がってくる。

 汗の臭い。

 酒の臭気。

 香油の甘ったるい匂い。

 そして、女たちの嬌声と泣き声。

 

 そこには、四十人……いや、もっと多い若い女たちがいた。

 だが、その姿はばらばらだった。

 

 全裸の娘もいる。

 下着姿のまま床へ座り込んでいる娘もいる。

 破れた夜着をまとった令嬢──。

 そして、中には、高級な室内ドレスを着せられている娘さえいた。

 

 淡い絹地のドレス。

 真珠飾りの残る胸元。

 乱れてはいるが、丁寧に結われた髪。

 しかし、その全員が裸足だった。

 

 また、首輪を嵌められ──。

 鎖で繋がれ──。

 あるいは、周囲の兵たちに囲まれている。

 

 そこでは、大勢の若い令嬢たちが、男たちと女兵たちに囲まれながら、狂気じみた宴へ組み込まれていた──。

 

「いやっ……やめ……」

 

 広間の一角で、深紅の室内ドレスを着せられた娘が長椅子へ押し倒されていた。

 ふたりの男兵が笑いながら、その裾をたくし上げている。

 娘は羞恥に耐えるように、必死に前手錠が掛けられた手で、必死にスカート部分を押さえていたが、通りがかった女兵がその手を掴み、無理やり引き剥がした。

 

「犯されるときも、淑女っぽくだ──」

 

「娼婦じゃないんだ。ちゃんと脚を閉じて耐えてみな。だが、抵抗をしすぎるな。客が興醒めする」

 

 周囲で笑い声が起きる。

 

 別の場所では、二人の令嬢が抱き合わされていた。

 どちらも薄い寝間着姿だった。

 首環はあるが、拘束はなく、女兵たちに囲まれている。

 

「ほら、拒むな。先に達した方が今夜の懲罰だよ」

 

「負けるんじゃないよ。こっちは賭けもしてるからね」

 

 女兵が髪を掴み、顔を近づけさせている。

 娘たちは泣きながら互いへ縋りついていた。

 

 さらに奥では、両手首を高く吊られた娘が狂ったように笑っていた。

 

「あはっ──あははははっ──や、やめっ──」

 

 下着だけを着せられた栗色の髪の娘だった。

 十人近い令嬢たちが、その脇腹や足裏へ一斉に指を這わせている。

 責めている側の女たちまで涙を流していた。

 背後には白い棒杖を持った女兵が数名立っている。

 

「止めるなよ」

 

「手を抜いたら、反省房だ──」

 

 吊られた娘は、涙と涎を流しながら壊れたように嗤い続けていた。

 ほかの場所では、四つん這いに並ばされた女たちの背後へ男兵たちが立ち、後ろから彼女たちを抱いている。だが、十回ほど腰を打ちつけると、兵はすぐに隣の娘へ移っていく。

 

 別の床では、拘束された全裸の娘が男の脚へ縋りつき、なにかを懇願している。

 その横では、やはり後ろ手錠の豪奢な刺繍入りのドレスを着せられた娘が、顔を真っ赤にして震えていた。

 娘の肩が大きく震えた。

 理由もわからぬまま、周囲から歓声と嘲笑が広がっている。

 

「いやあっ……」

 

「や、やめてえ……」

 

 泣き声が上がる。

 だが、そのすぐ横では別の女たちが笑っていた。

 

「背筋を伸ばせ」

 

「ほら、淑女らしくしな」

 

「次はお前だ」

 

 男兵と女兵の怒声が、広間のあちこちから飛んでいた。

 そのたびに、幾人もの女たちの肩が震えた。

 

 一方で、広間の隅には毛布が積まれ、水桶や洗濯籠まで置かれていた。

 そこで隠れるように眠っている娘もいる。

 セリアの牢に食事を運んできてくれたあの子爵令嬢のように、布一枚だけを股間に垂らした格好で、食器を運んでいる女もいる。

 ここでは、この狂気が日常なのだ。

 

「……ぁ……」

 

 セリアの喉から声が漏れた。

 かつて舞踏会で見かけた令嬢たちがいたのだ。

 絹を纏い、香油を使い、貴族として生きていた娘たちが、いまでは、首輪を嵌められ、この空間で笑われ、命令され、辱められ、そして犯されている。

 

「……さあ、行くよ」

 

 背後でアルジェが鎖を引いた。

 

「がぁっ、あがっ……」

 

 鼻輪と股間の金具が引かれて、激痛にセリアの身体が震える。

 一瞬忘れていた、お尻の痒さが蘇る。

 狂ったような掻痒感に、セリアはすぐに腰を激しく振っていた。

 

 階段を降り終わって広間に足をつけた。

 その瞬間だった──。

 下層にいた数人の女たちがこちらを見た。

 

「あれ……?」

 

「新入りさん?」

 

「綺麗……。だけど……。あの格好……」

 

 ひそひそと声が広がる。

 セリアの背筋にぞわりと悪寒が走った。

 

「なんだ、新入りかぁ?」

 

 不意に、下卑た声が近くから響いた。

 近くにいた男兵のひとりが、酒瓶を片手にこちらへ歩いてくる。

 明らかに酔っていた。

 上半身は裸で、汗に濡れた肌が燭火にぎらついている。下半身だけ乱暴にズボンを穿いていた。

 

「こりゃ、まだ頂いてねえ顔だなぁ──」

 

 男がにやつく。

 その視線が、鼻輪と股間の鎖で繋がれたセリアの姿を舐め回した。

 

「がぁっ、がっ……」

 

 アルジェが鎖を軽く引いた。

 

「勝手に触るなよ。そいつは特別囚だ」

 

「へえぇ?」

 

 男兵が面白そうに目を細める。

 

「だが、面白い飾りをつけてるじゃねえか」

 

 男が笑いながら、セリアの尻へ突き出された小旗へ手を伸ばす。

 次の瞬間だった。

 鈍い破裂音のような衝撃が響く。

 男兵の身体が横へ吹き飛んだ。

 

「──っ?」

 

 セリアは目を見開く。

 なにが起きたのか理解するより先に、吹き飛ばされた男兵の身体が広間脇の鉄格子へ激突した。

 脳天を強く打ったらしく、そのままずるりと崩れ落ちる。

 アルジェが足を下ろした。

 凄まじい回し蹴りだったのだと、そこでようやく理解する。

 

「くそが──。お館様のお気に入りの特別囚だよ」

 

 アルジェが吐き捨てる。

 

「……と言いたいけど、伸びてるかい」

 

 苦笑のような声だった。

 いつの間にか、ホールは静まりかえっていた。

 

「おいおい、いきなり騒ぎを起こさんでくれや、アルジェ」

 

 ざわついた人垣をかき分けるようにして、今度は別の男が近づいてきた。

 大柄な男だった。

 先ほどの酔っぱらいとは違って、今度は上半身へ軍装を羽織っている。だが、逆に下半身には何も身につけていなかった。

 股間では、体液に濡れた男根が露骨に勃起している。

 

「ちっ、ダン──。話しかけるなら、せめて股ぐらを隠しな」

 

 アルジェが舌打ちする。

 

「そう言うな。どうせ、すぐに脱ぐんだ。今夜は集団性宴の演練でな。実演矯正中だ」

 

 ダンと呼ばれた男が肩を竦めた。

 

「よく言うよ。お前らが愉しみたいだけだろ」

 

 アルジェが鼻を鳴らす。

 

「ところで、その鼻汁と愛汁を垂れ流した女は? お前らが連れてくるってことは……まさか、例の特別囚なのか?」

 

 ダンの視線がセリアへ向いた。覗き込むように顔を寄せる。

 

「あぁがっ……」

 

 セリアの喉から潰れた声が漏れた。

 前屈みの姿勢──。

 鼻輪──。

 股間の鎖──。

 そして、尻へ突き出された小旗。

 その姿を間近から眺められ、血が沸騰するような羞恥が全身を駆け巡り、思わず顔を背けようとしたことで、アルジェの握る鎖が引かれたのだ。

 

「がぁっ……」

 

 鼻と股間へ激痛が走る。

 同時に、尻の奥の掻痒感がまたぶり返した。

 

「ひっ、ぁ……」

 

 アルジェとダンが話し込んでいるせいで、セリアはその場へ止まるしかない。

 だが、痒みは耐えられない。

 セリアはいつの間にか、その場で小刻みに足踏みするように脚を動かしていた。

 その様子を見て、周囲からくすくすと笑い声が広がった。

 

「もしかして、王国の王太子妃殿下か? 初めましてだな。一般囚の管理責任者のダン少尉であります。以後、お見知りおきを」

 

 すると、ダンがわざとらしく姿勢を正すと、前屈の体勢のセリアに敬礼をした。

 

「ばーか──。一物をしまえって、言ってんだろ」

 

 アルジェが呆れたような口調で言った。

 

「ところで、特別囚のセリア妃を、どうしてこっちに連れて来たんだ?」

 

 姿勢を崩したダンがアルジェに訊ねた。

 

「反省房を使おうと思ってな。空いてるかい?」

 

「空いてはいないな。いつもいっぱいでな。しかし、必要なら開けるぞ」

 

「なら、開けな。明日まで使う」

 

「わかった」

 

 ダンが連れてきていた部下らしき男に指示を出す。

 すぐに、その男が掛け去って行く。

 

 一方で、アルジェとダンが、“王太子妃”だと口にしたことで、ざわめきが広間に一斉に広まっていく。

 あちこちで、ささやき声が響き始める。

 セリアにかっと羞恥が襲う。

 

「そういうわけだから、準備ができるまで、練り歩くかい」

 

 アルジェが鎖を握ったまま無造作に歩き出す。

 

「あがあっ──」

 

 鼻輪と陰核が思い切り引っ張られて、セリアは泣き声とともに、慌てて脚を前に出した。

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